天界は急展開
時空の違うらしい、天界を見渡す。
地面には、ヴァイオレットの色をした花と緑のグラデーションが雅やかな草原が広がり、藍色に染まった天は、内に秘める不安感や虚無感を引き出させる不気味さがあった。
その光景は、俺が元の世界で暮らしていた頃に見た「それ」とは明らかに違うものだった。
突然こんな訳の分からない所にいる理由は、こうとしか考えられない。
「(俺が歩くであろう方向)ってさっきあんた言ったけど、その言い方だとまるで俺が、これからどこに向かうのか知ってるような言い方だよな。」
姿こそ見えないが、明らかに焦っているのが手にとるように分かった。
弛緩した空気が引き締まる異様な雰囲気は、人間が後ろめたい何かがあるときに感じる不快感にそっくりだった。
俺は見えないそいつに向かって、前を向き続けて疑問符を投げ掛ける。
「お前は俺が太陽に向かって歩くことを知っていた。つまり最初から俺のそばにいて監視していたんだろ。」
「…」
「で、お前が俺に声を届けてきたのはきっと向かっていた方角にお前が知られたくない何かがあるわけだ。今太陽が無いのもお前が消したってのが考えるのが自然だ。」
「…」
突然、饒舌に喋り出す俺に圧倒され言葉の詰まる、実体の無いこいつに苛立ちを隠せなかった。
「俺が違う時空に迷い混んだわけではない。お前が俺をここへ誘導したんだ。そうだろ!」
時空の違う天界に迷い混んだ事への考察を自信満々に話した俺。
しかし…
「あの…本当に助けてあげたかっただけなんですが…」
弱々しい声がどこからともなく聞こえて来る。
「え?」
「突然異世界に現れた貴方に興味があって、姿を隠して端から見守っていたのですけど、あなたが突然、時空の違う天界に迷い混んだので助けてあげようと…」
俺の頭に今までの言動がフラッシュバックしてきた。
(まるで俺がこれからどこに向かうのか知ってるような言い方だな。)
(俺の向かっていた方角にお前の知られたくない何かがあるわけだ。)
(前がここへ誘導したんだろ!)
俺はこいつを勝手に疑い、悪者に仕立て上げていた。
「すみませんでした!ここから出たいです。はい出たいです。出してください。はい。」
今までの言動の全てを反省し、俺は深々と頭を下げた。
五体投地の体勢で、全身を用い反省の意を示した。
その後、その子の助けにより、元の時空へ帰った俺は再び終わりの無い旅を続ける。
いや旅というよりは放浪に近いのかも知れない…
「危ない、危ない…今度からは知ったような口を叩くものではないな。」
冷や汗が頬を伝った。
「どうやら俺は自分の考察力を過信し過ぎていたようだ。」
助けてくれた人が優しい人で良かったと心から思った。
まあ、人かどうかすら見えてないので分からないが…
そして俺は、次なる出会いに多大の期待を寄せ再び足を前に進めた。