指輪と鍵
眠い。
「お、あったぞ」
美女が私の前に指輪を掲げる。
金色の指輪だ。
「それじゃないです」
私の指輪はもっと綺麗だった。見た目が華やかというよりは神秘的というか、そんな感じだ。
「そうか。うーん、ではこれか?」
今度の指輪は赤い宝石のはめ込まれたものだ。私のは青い宝石のはめられた指輪だったので違う。
「それでもないです」
「困ったな……指輪は小さいし無くしやすい。戦闘でどこかに転がっていってしまったか?」
「それもあり得そうです」
私は盗賊の方を見る。
血を流してピクリとも動かない。
死んでいる。
そう意識した瞬間、急に怖くなった。
「あまり見ないほうがいい」
私の顔を見て美女が言う。
そんなに私の顔は恐怖で青ざめていたのだろうか。
忠告には従うことにする。
私は死体をなるべく見ないように隅の方に固められている盗賊の荷物のなかを漁り始めた。
もしかしたらこっちに入っているかもしれない。
私もいっしょになって探しているがなかなか見つからない。そもそも指輪が見つからない。
やはり盗賊の衣服や日用品ばかりで盗品はここにはないのだろうか。
美女の方はいろいろとお金になりそうなものがあるようだ。
「これか?」
「ボクのは青い宝石のはめられた指輪です。その紫色のやつじゃないです」
「そうか。青いやつだな」
僕たちは暫く指輪を探す。
うーん、見つからない。
「あれがないと困るのか?」
美女は指輪探しに飽きてきたのか盗賊の収集物を適当にあたりに撒き散らしている。
「あれは、その、大切なもので……たぶん」
流石に本当のことは言えない。いっても信じてもらえるかわからないし。
だから有耶無耶な回答をした。
「たぶんってなんだ。大切なのか、大切じゃないのか。そんなのお前次第だろ?」
まぁ、そうなんだけど……
ただ考えてみると、あの指輪、本当に大切なものなんだろうか…
その時、盗賊の荷物を漁っていた私の手が止まった。
不思議な魅力を放つもの。
私はゆっくりとそれを取り上げた。
金色の鍵だ。小さな鍵。
それがなんなものかはわからないが不思議と心を揺さぶられる。目が離せない魔力を持っているかのようだ。
そして、その鍵の横に青い宝石のはめられた指輪があった。
「お!これじゃないか!これだろ?」
その時、美女が振り向いた。
私は慌てて鍵と指輪をポケットにしまう。まるで隠しているようだが、よくよく考えれば別にやましいことはない……だろう。
「違います。それじゃないです」
私は落ち着いた感じを装って答える。
どうやら鍵を隠したことはバレていないようだ。
「そっかぁ…」
美女がまた捜索に入ると私は指輪だけポケットから出して盗賊の持ち物に忍び込ませた。
「あぁ、ありました!これこれ、ボクの指輪」
「うん?そっちにあったか」
私は鍵のことは最後まで隠してしまった。
少し後ろめたい気持ちもある。だが、まぁ、いつか聞ければいい。この時はそう思っていた。
おやすみ。