出会いとは新たな世界を知ること
ロ「初代は……そうかそんなことがあったのか……」
タ「あぁ、あの影の手で私の父、初代タオルケットマンは消えた……私はあれからずっとタオルケットマンを名乗り父を探していた」
ロ「それじゃあ私はアイツに借りを返せないじゃないか」
タ「借り?」
ロ「ふっ……なに、20年前のちょっとした借りよ……」
「はぁ!?何も覚えてないってのかよ!」
私の前に座るマンリキーは唾を撒き散らしながら怒鳴った。
隣に座るフルートがなだめる。
「無理もないさ。あの惨状……こんな子供じゃとても耐えられたものじゃない。寧ろ正気を保てるだけ凄いと思うよ」
フルートはキザな笑みを私に向ける。
少しは場を和ませようとしてくれているのだとはわかる。だが、今はもうどうしようもなく無気力だった。
「ったく骨抜きにされちまって。どうやってアイツのことを聞けばいいんだ?あぁ?」
「顔を近づけるな。むさ苦しいだろ……だがそこは確かに問題だ。アレは我々が長年探求してきた存在……もしくはその手がかり……」
フルートが顎に手を当てて難しい顔をする。マンリキーはめんどそうな顔をするが内容が理解できていない訳ではないようだ。バカじゃないのか。見た目は筋肉バカっぽいのに。
「どうするんだ?手荒く行くか?」
「やめろ。今度こそ再起不能になるぞ。今1人だけでも形があるのは奇跡だ」
フルートがかなり厳しい口調で制する。だが、マンリキーは慣れた感じで意にも介さずといった風だ。
「そうかい。じゃあ俺の出番はないな。今日は寝るぞ。コイツも休ませろ。再起不能にしたくないんだろ?」
そう言うとマンリキーは立ち上がる。
フルートも少し考えてから私の方に向き直った。
「そうだな。そうしよう。今日はもう休もうか。お金のことや安全のことは心配しなくていい。ボクがいるからね」
その言葉通り、フルートは私が寝るときも同じ部屋にいた。
監視している……というのが正しいのだろう。先の話を考えるに彼らにとって私は重要な人物らしい。逃げられでもしたら困るだろう。
もっともフルートは私のことなど気にせず机でずっと何かを書き続けているのだが。
静かな夜にペンの音だけが響く。
私は朝までその音を聞き続けた。
* * *
「少しは昨日のことについて話す気になったかな?」
フルートはティーカップに紅茶を注いでいる。甘い香りがここまで香ってくる。
私は黙って椅子に座っていた。
フルートが差し出したティーカップから沸き立つ湯気をただ眺めている。
「無理にとは言わない。ゆっくりでいいさ……」
「話したくはないです」
「そうか……」
フルートは残念そうな顔をして、しかし勤めて明るく振舞ってくれた。
「紅茶を飲み給え。サルッタの高級品さ。ここらじゃ簡単には手に入らないものだよ?」
「貴方はぼくのことを何も知らないんですね」
私はぼんやりと湯気を見つめる。
私は紅茶が嫌いだ。この世界の紅茶のことは知らないが、多分似たようなものだろう。
発した言葉にも別段深い意味もない。ただ思ったことをそのまま言葉にしただけ。
だが、フルートには何か思うことがあったようだ。
「そうだな……知ることが大事だ。ボクは自分のことしか考えていなかったな」
ぼんやりしていた私の目の前に手が差し出される。
「ボクの名はフルート。君が出会ったアレを追っている」
私は顔を上げた。
彼はにこやかな顔をして私に語りかけた。
「情報交換しよう。ボクの知っていることを話す」
しごと