雨の中
最近雨続きで部屋の湿度が大変まずいです。
さて、どうしたものだろうか。
私は途方に暮れていた。
(ここで初めて会ったのが盗賊団かぁ……)
泣きたくなってくる。
何もかも取られた。それに身体中泥まみれの傷だらけ。血の味が口の中に広がっている。
老人から貰った大切そうな指輪まで取られてしまった。
「……」
私は草に座り込んだ。
広い草原にたった1人……
そんな私の肩を雨粒が叩く。
雨に紛れて私の頬を筋が伝う。
私はしばらくただただ雨に打たれていたがハッとして顔を上げた。
「水だ!三日ぶりの!」
気づけば異世界に来てから三日間、何も食べていない。飲んですらいなかった。
私は雨を飲もうと口を開けて空を見つめた。
口の中に溜まる水は僅かだが私には命の水だ。
綺麗とか汚いとか考える余裕もなく私は雨を飲んだ。
喉が潤うとこの現状のまずさがわかってくる。
食料と水の問題。そして体力の問題。
今後定期的に雨が降るかもわからない。川や湖があったとしても携帯しておく水筒のような容器もない。
体力も雨に打たれて服と肌寒い今の気温では確実に減っていく。
ただ希望もある。
この世界に人型の、知性を持った種族がいるということだ。
「こんなところに盗賊が出るってことはそれだけ人通りがあるってことかも」
私は盗賊の馬車が通った道のところまで戻った。轍には水が溜まり幾つもの波紋が浮かんでは消える。
「まずは盗賊の後をついていこう、きっとこの道の先だ。それに指輪だけは返してもらわないと……」
私は自分の現状を口に出すことで落ち着こうと努めた。改めて考えるとあの話の通じなさそうな盗賊のところに行くなど無謀だ。
しかし同時にこの唯一の道標を外れて目印もない草原を適当に行くのもまた無謀だった。
それならば確率としてもっとも生き残れそうなのは盗賊のところへいくこと。
いざとなれば仲間にしてくれと頭を下げれば食べ物にありつけるかもしれない。
あんな奴らの仲間なんてゴメンだけど。
私は轍に沿って歩く。
盗賊の馬車の向かった先を目指し歩く。
しばらくすると雨は止んだ。
青空に点々と雲が浮かんでいる。風が吹くと草原に波が立った。謎の青い
過ごしやすい気候。雨に濡れていなければ気温もちょうどよく過ごしやすいだろう。
ただ上着に染み込んだ雨は水分補給という面では役に立った。
今のところ、意外とうまく事が運んでいる。
ただ一番気になるのはこの高原でちらほら見かける青い粘性の物体だ。
こいつらは鹿のような草食動物じみた未知の生物に追いかけられていた。だから過小評価していたが、この世界で私が草食動物以下の可能性も捨てきれない。
「ひぃぃ……」
すぐ近くの草むらで青いこいつらを見つけゆっくり刺激しないように通り過ぎる。
感覚器官も見当たらないし害はないのかもしれない。粘菌の仲間なのかも。
その辺の詳しいことは街に着いた時誰かに聞けたらいいな……
青い粘性の物体を避けつつ道を進む。
気づけばあたりは暗くなっていた。明かりになるものもないので道を目で辿るのがだんだん厳しくなったいく。そして暗くなるのは思っていたより早い。
「うぅ、真っ暗になっちゃったし、思ったより遠いなぁ…あっ!!」
私の目線の先、そこに明かりがある!
3、4個の光がゆらゆらと揺れていた。
それに耳をすませば声も聞こえてくる。盗賊たちかはわからないけど人であることは確かだ。
私は安堵した。取り敢えず目的地には着いた。
だが、よく考えれば全然よくはない。
盗賊のキャンプ地に来てしまったのだ。むしろ危機的状況だ。下手したら今度こそ殺されるかも。
暗闇に紛れて指輪と食料を盗んでいくか?
それとも真正面から「仲間にしてください!」と乗り込むか?
どちらもリスクがある……
その時、音もなく何者かの手が後ろから伸びて私の口を押さえた。
「静かにしろ」
静かな、しかし締め付けるような威圧感のある声。
私はただ従うしかなかった。
異世界観光案内 スバレーナ高原
緑豊かな高原。標高が高い為避暑地としても人気がある。春には紫色の花が一斉に咲き非常に美しい。冬は雪に閉ざされる為、春から秋に訪れることをお勧めする。穏やかな生物が多いがここら一帯を縄張りとしているハイランダードラゴン類には気をつけよう。最近は盗賊の目撃情報も多い。