不思議な夜と旅のはじまり
この小説を覗いてくださりありがとうございます!!旅はここよりはじまります。長い旅ですがどうかお付き合いくださいませ。
私は何故ここにいるのだろうか。
最後の記憶は暗い夜道。
点滅する街灯が等間隔で並んでいる。
誰もいない。遠くでなにかの音がする。車の音。何処かの誰かの生活音。
なんの変哲も無いベッドタウンの夜道。
(違う……ここはボクの街じゃない)
少し変わった世界。何が違うか説明がつかないけど何かが違う。
私はそんな何かがおかしい夜道を歩いていた。
そして、気づいたらここにいた。
不思議な場所だ。
虚空という言葉がしっくりくる。何もないが力に満たされている。
ここは、私のいた世界じゃない。
じゃあどこだろう。
それにしても冷静だった。
不思議と落ち着いている。
私の感情が押さえ込まれているというよりは、これはあるべきところに収まったような感じだった。
今まで忘れていただけでこの場所を心の奥の奥で知っていたかのようなそんな感じ。
「お主はまだここに来るような人間じゃないな」
ふと声がして私は辺りを見回した。
私の右側に老人が立っていた。
先まで人はいなかったはずだが。
それでも私は驚かなかった。彼のこともずっとずっと前から知っている。そんな気がした。
「迷ってきたのか。稀によくあることじゃ。極々稀にの」
「ここは?」
私は初めて口を開いた。
自分でも自分の冷静さに驚く。
そのぐらい普通に声を発することができた。
「ふむ、ここは何処でもない。お主のいた世界とは何もかも違う世界じゃよ」
何処でもない世界?
「ボクはどうなってしまってるのですか?家には帰れるんですか?」
私の心にこの時初めて不安が押し寄せた。
この何処でもない場所から戻れるのか。
目の前の老人はどう答えてくれるのか。
不安と恐怖をここに来て初めて感じた。
「戻れないこともない。じゃがここから元の世界に戻ってもお主はもう前のお主ではないかも知れぬぞ」
「前のボクではない?」
私は首を傾げた。
それはどういうことだろうか。
私はここにこうしているのに。
老人は私の疑問を見抜いたのか話を続けた。
「まぁ、わからんのも無理はない。理解できる方が無理な話じゃ。つまるところ、わしも万能ではないんじゃ」
そう言うと老人は歩き出した。
立ち尽くす私を置いて老人は空間の奥へ奥へと進んでいく。
「ついてきなさい」
老人が手招きをし、私はようやく彼を追って歩き始めた。
しばらく歩くと地平線に……とは言っても地があやふやで説明しにくいのだが……扉のようなものが見えてきた。
最初は身の丈ほどの扉かと思った。壁にあるわけでもなく空間に扉のみがある。異質さは理解できたが疑問は感じなかった。
その扉の異質さは近づくにつれ明らかになった。
異常なのはその大きさだ。私の身の丈を遙かに越える扉。数十メートルはあるだろう。
「お主は選択できる」
老人は扉の前で私に語りかけた。
「この先の世界からならお主の元の世界へそのまま帰れる道があるはずじゃ。じゃが、それはわしが今ここでお主を元の世界に戻すより困難な道じゃ」
老人の目が訴えかける。
選択ーーー
「ボクは……ボクはこのままでいたい」
私がそう答えると老人は少し微笑んだ。もっとも口元が髭に隠れて本当に微笑んでいたのかはわからないが……
「そうか。それならば、お主にこれをやろう」
老人は私の前に手を突き出した。
私が困惑しているともう一方の手で私の手を掴み突き出した手の下に導いた。
「ほれ」
「これは?なんですか?」
私は手のひらに落とされた小さなものを覗き込んだ。
これは指輪?
「これはお主の行くべき場所を指し示してくれる……はずじゃ」
「はず……」
「フォフォフォ、わしも万能ではないのでのぉ」
老人は朗らかに笑う。
私は手のひらの指輪をそっと取り上げた。青い宝石のはめられた指輪。リングには読めないが文字のような装飾が彫られている。
「さぁ、扉を開けなさい。そこから先はお主が決め、お主で行くのじゃ」
老人はにこりと微笑んだ。
私も自然と微笑み返していた。
「ふぅー」
私は扉の前で深呼吸する。
指輪を握りしめてから、もう一度扉を見上げた。
そして、私はそっと扉に触れた。
ゆっくりと開いた。
光が扉の隙間から漏れて私は目を細める。
一歩進む。
進めた足が光の中に消えた。
体を光が包み込み、何もかもがわからなくなった。私は思わず目をギュッと瞑る。
風の音。冷たい空気が頬を撫でる。というより叩く。痛いくらいだ。
だが、それもしばらく続くとなれる。体感的には時間がかなり経ったように感じたがどうだろうか……?
不思議な浮遊感の中、私は目をゆっくり開けた。そして、驚愕して声にならない声をあげた。
眼下に広がるそこはまさに「異世界」だった。
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