第三話 事の顛末
「あれから色々とあったよ」
中庭のベンチに場所を移し、そこでセルンとゼノは二人で話をしていた。
「お前がローリエ様に施設のことを話してくれたお陰で、あの施設は上に目をつけられてお取り潰しになった。俺たちは解放され、こうして太陽の下を歩けるようになったんだ。ありがとな、セルン」
「いや、俺はなにもしてないよ。全部ローリエのお陰だ」
施設が潰れたことはセルンも知っていた。なにせローリエが施設の運営をしていたフランキシス男爵のところに乗り込んで彼をボコボコにし、土下座させてあげく頭を思い切り踏みつけていたところを横で見ていたのだ。
ただ、セルンが助けて欲しいと彼女に頼んだわけではない。
私を暗殺しようと企むとはいい度胸ねぶっ潰してやる、と当時苛立っていた彼女が勝手に切れただけである。セルンは連れて行かれただけだ。
だが結果的に、あれがあったからセルンはローリエと行動を共にすることになった。今となっては、彼女との大事な最初の思い出である。
「けど、ゼノ。なんでお前がフランキシスの家を継いでるんだ?」
「あー、それな」
ゼノは昔を思い出して、しかめっ面になる。
「実は前男爵の野郎、色々と大貴族にコネを持ってたみたいで、処刑される前に逃げ出したんだ。そうなると、色々と秘密を知ってる俺や他の子供たちの身が危険だろ? 外に出られたはいいが、結局は誰かしらの庇護が必要だったんだ」
「あの施設にいたのは孤児ばかりだったし、行く宛てもなかっただろうしな」
「それもある。で、それを知った誰かが、俺たちが生きていけるようにフランキシスの家の資産を引き継げるようにしてくれたんだ。そうなると、適当な人間にフランキシスの家も継いでもらった方が都合がいいってことで、俺は最年長だったし、ガキ共を守るために仕方なくな」
「ゼノらしい選択だな」
その気になれば、ゼノ一人なら自分の力だけで生きていけただろう。けれど彼は、施設の仲間たちを見捨てられなかったのだ。
そういう性格なのである。なにせ普通とは違うセルンですら、なんとか仲間の輪に入れようとするくらい面倒見のいい奴だったのだから。
「当然、俺に貴族としての知識なんてないし、他の貴族たちもいい顔はしない。色々と大変だった。最初の方に、その謎の足長おじさんが手助けしてくれなかったら、一年と経たずにフランキシス家は潰れてただろうな」
「謎の足長おじさんねぇ」
「ああ。セルンやローリエ様と同じくらい感謝してるよ。最後まで誰なのかはわからなかったが、いずれ恩返しをしないといけないと思ってる」
なんとなく、セルンはその足長おじさんが誰か予想がついた。
当時のローリエが貴族絡みの後始末を任せられるような相手など一人しかいない。レナスロッテなら、影からこっそりとゼノを手助けするくらいは鼻唄交じりにやれただろう。
ただ憶測の域を出なかったので、セルンは言わなかった。
「とまあ、そんな感じで俺は今貴族なんぞをやってるよ。他の子供たちも立派に育って、うちで色々と動いてくれてる」
「そっか。よかったな」
もう顔も名前も覚えていないが、関わりのあった相手たちだ。セルンは素直に祝福した。
するとゼノは突然立ち上がり、セルンに向かって頭を下げた。
「悪かった」
「どうしたんだよ? 突然。悪いってなにがだ?」
「決まってるだろ。追放されてたお前を助けてやれなかったことだ」
「……そのことか」
貴族になったのなら、セルンがその後どうなったかは耳に入ってくるだろう。彼の性格上、助けようと動いたのは想像に容易い。
それでも無理だった。セルンの流刑を決めたのはレムルス王家だ。家を継いだばかりの子供がどうこうなる問題ではない。
「気にするな。俺はたしかに監獄島に送られたが、そこでの生活もそう悪いものじゃなかった」
「けどよ」
「それに謝るのなら俺の方だ。俺はみんなのことなんて欠片も考えずに、自分勝手に動いてた。それに比べて、ゼノは立派だよ。みんなを守っただけじゃなく、新しい居場所まで作ったんじゃないか」
「セルン……」
「それに、なんだかんだで今は俺もここに戻ってこられたんだしな」
謝ったりするのはこれで終わりだと、セルンはそんな気持ちをこめて言った。
「……そうか。そうだな」
ゼノもそれを察し、頭を上げて隣に座り直す。
「こうして再会できて俺は嬉しい。本当に、お前を連れ戻してくれたレナスロッテ様には感謝しないといけねぇよ。俺は王様も貴族連中もほとんどが大嫌いだが、あの人のために動くんなら悪くはねえ」
「あ、うん。そうだな」
これはレナスロッテが足長おじさんだとは言わない方がよさそうだった。第二のクリフが生まれかねない。セルンのことをよく知る彼が向こうに回ると、色々と面倒くさそうだ。
(悪いお姫様じゃないんだがなぁ)
端的に言って、セルンはレナスロッテのことが苦手なのである。
特にこの前、彼女と魔王候補の襲撃の件で話したあとは、できるかぎり関わり合いになりたくないと思っていた。
それは一週間前、魔王候補による襲撃があってから五日後の夕刻のことだった。
前回と同じ学校の会議室でレナスロッテと密会していたセルンは、そこで襲撃事件の顛末について教えてもらっていた。
「魔王候補の襲撃ですが、レイリアという魔王候補が虐殺で周りの注目を集めている間、別の人間が裏である場所を襲撃していたことが調査で判明しました」
「ある場所?」
「薬品倉庫です。彼らは、そこからある大量の薬を奪い去っています」
「一体なんの薬だ? 毒薬? それとも麻薬かなにかか?」
「いいえ。とある病の特効薬です」
「……そうか」
セルンは彼女たちが求めた物を聞いて、なんとも言えない気持ちになった。
毒薬や麻薬ならわかる。聖戦で敵対する勇者候補への攻撃に使えなくもない。
だが普通の薬となれば、用途は当然、その流行病に患っている相手を治すためだろう。
「その病は主に幼い子供がかかる病です。かつては大流行し、重傷化すれば命の危険もありましたが、今は普通に近所の医院で特効薬を処方してもらえます。ここ百年で、その病で亡くなったという報告は聞いていません」
だがそれは白の世界の話だ。医療が発達し、薬の大量生産も可能な繁栄世界の話なのだ。
「恐らく、黒の世界でそれが大流行したのでしょう。盗られた薬の量からして、百や二百ではきかない子供が倒れたものと推測されます。向こうの医療技術では、特効薬の精製は難しいはずです。そこへテオドールより、こちらでは特効薬が開発されていることを聞いて動いた、というところでしょうか」
「つまりあいつらは、病気の子供たちを助けるためにこっちの世界への襲撃を敢行したと?」
「もちろん、それだけではありません。勇者をなかなか選出しないこちらに発破をかける目的もあったでしょう。いえ、聖戦の今、こちらが本命と言っていいでしょうね」
レイリアは虐殺をもって勇者候補たちに危機感を促し、彼女が暴れている隙をついてあの隻腕の男が必要な薬を奪取した。ゼスティは両方を成功させるため、勇者候補たちを封じにかかった。
それが先の襲撃の全貌だった。
そしてそれが意味しているところは……。
「朗報ですよ、セルン様。黒の世界は、相当追い詰められているようです」
同じ結論にすでに達していたレナスロッテが、手を叩いて喜びを露わにする。
「相手が勇者を誕生させるのに遅れている。これは向こう側にとって、本来であれば喜ばしいことのはずです。その時間を使って、自分たちを強化することができるのですから。魔王だけではなく、その仲間も全員神器の覚醒位階にまで上り詰められれば、聖戦において大きく有利に立つことができます」
聖戦の勝利だけを考えるのならば、むしろ相手が勇者を選出しないよう足を引っ張る行為をするはずだ。
けれど、魔王候補たちはそうしなかった。
逆に発破をかけるなんていう、勇者の誕生を促すような真似をした。
「異世界へ渡る門の鍵を手に入れて、まず行ったのが対戦相手の手助けなんて、相当に余裕がない証拠です。向こうの世界は、一刻も早く聖戦を始めたくてしょうがないのですよ。そうしなければ、もうあの世界は持たないのです」
白の世界は繁栄を謳歌している。
三百年前、二百年前、百年前と、立て続けに聖戦に勝利したからだ。
それはつまり、黒の世界は三百年前、二百年前、百年前と、立て続けに聖戦に敗北したということ。敗者の世界に降りかかる滅びの規模は今、どれだけのものになっているのか。
セルンは黒の世界で赴いたとき、自分が見たあの光景を思い出す。
青空を覆い隠す闇。大地を埋め尽くすモンスターの群れ。あれが黒の世界の極々一般的な光景であるのなら、それは人間が生きていける世界ではない。
「子供の治療薬を求めたのも追い詰められている証拠ですね。聖戦での勝利を考えれば、百や二百の子供の命は切り捨ててしかるべきでしょう。なにせ、聖戦には世界中の人間の命がかかっているのですから」
けれど、魔王候補たちは全力で助けようとした。
「百や二百の子供たちの命すら見捨てられないほどに、生き残っている人間の数が限られている。果たして今、向こうの世界の総人口はいくつなのでしょうか? 聖戦に三度連続で負けるなど、こちらの世界では経験したことがありませんので、予想するのが難しいです」
聖戦の勝敗は、基本的には交互に勝者と敗者が入れ替わることが多かった。二度続けて、ということも長い歴史の中では何度かあったか、三回連続は記録が残っているかぎりでは初めてだ。
「いえ、三度ではなく前回の引き分けも、向こうにとっては滅びが続いたという意味では敗北も同じですか。つまりは四度分の滅び。国の半分は間違いなく滅んだでしょう。大陸のひとつやふたつは不毛の荒野となったはずです。生き残りは一万人? それとももしかして、千人ほどだったりするのでしょうか?」
「……なんだか楽しそうだな? こっちの人も何百人と死んでるっていうのに」
「いえ、それは大変悲しく思っています。死んでいった方々の痛みと苦しみを思えば、胸が張り裂けそうです」
レナスロッテは顔をうつむけると、ぽたりぽたりと涙を零した。
自国の民が虐殺され、涙するお姫様。そこだけ見れば美しい光景だった。そしてその涙も彼女が感じている悲しみも、正真正銘の本物だろう。嘘泣きではない。
「死んでいった者たちに報いるためにも、我らは聖戦に勝たなければなりません。この世界を恒久的に救わなければならないのです」
「恒久的に、救う?」
「そうです。セルン様は先程嬉しそうだと言いましたが、黒の世界の窮状を喜ぶことは当然のことなのです」
レナスロッテは涙を目尻に浮かべたまま、夢見るような顔で微笑んだ。
「だって、次に我々が聖戦に勝利すれば、間違いなく黒の世界を滅ぼせる。この永遠の聖戦に、終止符を打つことができるのですから」
そのためならば、たとえ黒の世界の住人が何万と死のうと興味はない。それらの犠牲でこの先の未来が滅びなき世になるのなれば、それは嬉しいことだろう。
それは白の世界の王族としては正しく、一人の人間としてはあまりにも正しすぎる答えだった。
なんとなく、セルンは目の前のお姫様を心から信頼できないのか、それがわかった気がした。
「……聖戦の勝利を目指すのはいい。そのために勇者の聖別を優先するのも」
セルンは深くは突っ込まず、話を先に進めた。
「けど、このまま魔王候補たちを放置もできないだろ? 門の鍵を破壊できなかった。またいつどこから奴らが襲いかかってくるのかわからないんだから」
「それなら大丈夫です。勇者候補が神器をもって『門』を開けられるのは二回が限度ですから」
「限度? そんなものがあるのか?」
「はい。テオドールが黒の世界に渡るために一回。そして今回こちらの世界に来るために一回。これで二回。もう彼の神器に、『門』を開ける力は残っていません」
「そうだったら嬉しいが、そんな話は聞いたことがないぞ?」
そもそも、勇者候補が『門』が開いたという事例事態が少ないのだ。回数制限があるだなんて、どうやってわかったのだろうか?
「過去のいくつかの事例で、恐らくは二度が限界だろうということは予想がついていたのですが、確信に至ったのは最近の話です。セルン様、テオドールやクラウドよりも前に、異界への『門』が開かれたというお話しは覚えていますか?」
「ああ。誰がやったのかわからかったっていうあれだろ?」
「その調査の過程でわかったことです。結果、一度『門』を開くことで、その神器を使って覚醒に至れなくなるほど損傷を受け、二度目で神器として機能そのものが停止することがわかりました」
「そうなのか」
『門』を開くと勇者になれない、というのは、その神器では覚醒に至れなくなるという意味だったのか。
「本物の勇者の神器ならば『門』を自由に開けるというのは、恐らく使ったとしても神器が損傷しないということなのでしょう。神器は魂より生まれるもの。覚醒に至った神器は、解放の神器よりも色々な意味で高次元の存在に昇華されているのです。『門』を開くたびに滅びを招かないのも、神器がそれらをはねのけているいるからと考えればいいでしょう」
「なら勇者じゃなくても、覚醒神器なら『門』を開ける?」
「可能性はあります。もっとも、試すことはできませんが。向こう側も同じ知識を持っていたとしても、滅びをさらに招いたら世界を滅ぼしかねない現状では試したりはできないでしょう。こちらから新しい勇者候補を拉致しなかったあたり、その辺りの知識もないとは思いますが」
たしかに、二度で神器が壊れると知っていれば、襲撃の目標に勇者候補の拉致も含めていただろう。
余裕がなかっただけかも知れないが、どちらにせよ。
「向こう側から『門』を開いて襲撃される可能性は低い、ってことだな。いや、けど向こうにもう魔王がいるなら、魔王が直接乗り込んでくる可能性はあるんじゃないか?」
「それはどうでしょうか。魔王に『門』を開く意志があるのなら、テオドールを待たずに『門』を開いていたでしょう。理由はわかりませんが、魔王には『門』を開けない理由があるのです」
魔王候補によるこれ以上の襲撃はない。そう結論づけてもいいようだ。
「なので、セルン様はどうぞ勇者になることを優先して動いてくださいませ」
「……わかったよ。情報ありがとよ」
「いえいえ、お役に立てれば幸いです」
情報共有を終え、セルンは立ち上がって部屋の扉に手をかける。
「……ひとつ気になったんだが」
だがその前に顔だけ振り返ると、見送りのために立ち上がったレナスロッテに尋ねる。
「その『門』を開いたっていう勇者候補、目的は一体なんだったんだろうな?」
「そうですね。恐らくは敵情視察が最大の目的だったと思います。敵対する世界がどういうものなのか、滅びはどれくらい進んでいるのか、はたまた戦うべき魔王候補たちの実力はいかほどなのか、その辺りを調べておきたかったのかと」
戦争をする上では当たり前の情報収集だ。ただし、この聖戦では災厄がふりかかるという影響もあって踏み切るのが難しかった。
それを聖戦の勝利のために、その勇者候補は躊躇なく踏み切ったのだろう。
「そうか。ならその勇者候補はモンスターを蘇らせたという意味では罰せられるべきだけど、聖戦の勝利に貢献はしたってことだな」
「そうですね。きっとその勇者候補は、復活したモンスターによって数百人の人が死んでしまうことよりも、聖戦の勝利で人類と世界が救われることを優先したのでしょう」
淡々と、微笑みを浮かべてレナスロッテは語る。
その目をまっすぐ見て、セルンは言った。
「そういえば、姫さん。あんたの神器、見せてもらったことないよな? なんでも、姫さんは序列戦でも神器を使わず、魔法だけで今の五十位の地位になったとかで、誰も知らないって話だが?」
「そうですね。わたくしの神器『人間数学』は使い物にならないので」
かつて自分は勇者になれないと語ったお姫様は、その本当の理由を、一切の悪びれた様子もなく、にこやかに微笑み返しながら教えてくれた。
「だってもう壊れてますから。ですが、書類が風で飛ばないようにする重しとしては、あれでなかなか役に立っているんですよ?」
「……色々な意味で規格外すぎるだろ、あの姫さん」
あのときの会話を思い出し、セルンはかすかに恐怖を覚える。
レナスロッテは考え方が普通の人間とは違いすぎる。しかもあれで正義とか道徳とか愛とかを本気で尊いと思っているのだから、心の底から嫌いになることもできず、余計に始末が悪い。
とにかくできるだけお付き合いは遠慮しようと改めて思いつつ、セルンはゼノを見た。
「そう言えば、ゼノ。このタイミングで俺に会いに来たのはなんか理由があるのか?」
「ああ、それな。察しはついてるとは思うが、一週間後の新しい序列戦のことだ」
「ユーゴの話だと、序列一位と戦うのは」
「俺だ」
「……大丈夫なのか?」
「もちろんだ。なにせ俺からユーゴの奴に頼み込んだんだからな。男なら目指すべきは頂点だろ?」
「本音は?」
「いや別に、今のが嘘ってわけじゃないが」
ゼノは髭を触る。顎を触るのは、彼が悩み事をしているときの癖だった。
「あー、その、なんだ。どうも序列一位に関して、聞き捨てならない噂を聞いてな」
「噂?」
「ああ。なんでも序列一位は、先代のフランキシス男爵が逃げた先で作った、新しいフランキシスの子供だって話なんだ」
フランキシスの子供というのは、セルンやゼノのように施設で育てられた暗殺技能を持つ子供に与えられた異名だ。
憐憫の名であり、貴族たちにとっては畏怖の名でもある。
「その噂、信憑性は?」
「ほぼないに等しい。だが、実際今の序列一位はどの国にも属していない。出生もわからなければ、どうしてそこまで強いのかもわかっていないんだ」
「ゼノは直接会ったことがあるのか?」
「一度、少しの間だけだがな。ユーゴと話していたところを見かけたことがある」
「どんな奴だったんだ?」
「えらい別嬪さんだった」
「……それだけか?」
「それだけだ」
なんの役にも立たない情報だった。
「とにかく、そんな噂を聞いたもんで、俺はたしかめたくなってな。もし本当にそうなら、俺にできることがあるかも知れないしよ」
「また余計な荷物を背負おうとしてるんだな」
「性分だ。仕方ない」
豪快に笑い飛ばすと、ゼノはセルンを見た。
「けど、俺が序列戦に出ようと思った本当の理由はそれでもない。本当はセルン、お前ともう一度戦ってみたかったからだ」
「俺と?」
「ああ。お前はユーゴに勝つ。俺は彼女に勝つ。で、二人でみんなの前で大勝負よ。しかも勝った方が本物の勇者になんかになったら、おい、勝っても負けても子供たちに自慢できるってもんだろ?」
「なんだそれ? 本当に、ゼノは変わってないな」
「セルンは結構変わったようだがな」
自然と微笑みを浮かべていたセルンに、ゼノもまた安心した様子を見せる。
「昔のお前は滅多なことでは笑わなかったが、今はそうして些細なことで笑えるようになった。会ったことはないが、ローリエ様はきっと、お前にとって本当に最高の勇者様だったんだな」
「ああ。本当に」
だからこそ、証明しないといけない。ユーゴに勝って、セルンは証明しないといけないのだ。
「ユーゴ。暇なら、戦いまで俺の練習相手になってくれないか?」
「おう。俺もそうお願いしようと思ってたところだ」
二人は立ち上がると、並んで歩き出す。
その後ろ姿はまるで、本当の兄弟のようであった。




