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第三話

6/27 シジェーロ教授の論文に関する文に「コンスタントに」の一言を追加。

(19.02.11 改稿)

「…悪い、もう一度言ってくれ。」

「はぁ?だからぁ、あの平民ファルミーナ・マジカが、ガキが出来たからマジカの名を返上したって、笑えるよねぇって言ったの!」

「その話、本当なのか?」



 ゼリーヴァ王国において、『マジカ』の名は大きな意味を持つ。簡潔に言えば、魔術師を現す名乗りとなる。しかし、実情としては王国立ゼリーヴァ魔術学園をトップクラスで卒業して、狭き門である王国魔術師団に入った者に栄誉として与えられる名前だ。したがって、ファルミーナ・マジカは男ばかりの世界で女だてらにトップの成績をとり魔術師団に所属していたのが、つい先日までの話である。

 マジカの名を返上する、というのは王国魔術師団を退職するということだが、機密保持のために様々な制約が設けられており、また名誉職であることからもファルミーナのように辞退するということは珍しい。たまに女団員が寿退団することはあるが,嫁ぎ先が貴族家で身元が確かな場合には制約は緩くマジカの名はそのままであるため,退団するのであればその寿退団か任務中の負傷による栄誉ある退団が主流だ。したがって,ファルミーナのようにマジカの名を返上することは,規約上明記していたが使用する事の滅多に無かった珍しい例となる。


 そういえばあのロッソィーノ嬢の取り巻きである平凡な女が一身上の都合で退職すると挨拶があったと思うが、まさか身篭ったから退職するのだとは思ってもみなかった、というのが友人リュエから話を聞かされているベルナルトの感想であった。



「ホントだってば。師団長が治癒士隊長と話してんのオレってば聞いちゃったもんねぇ!やっぱりアバズレちゃんって噂もホントかもよぉ」



 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに頭を軽く振ると,リュエの言葉を無視して鍛錬を再開した。

 ベルナルトが認識するファルミーナ・マジカとは,気難しいルミナス・ロッソィーノ侯爵令嬢の学生時代の取り巻きであり,マジカの名を得る事の出来た幸運な平民である。見た目は良くある明るい栗色の髪色に,平民にしては珍しい透き通るような蒼い瞳。ただあの底の見えない深い海にも例えられる様なあの瞳には,吸い込まれそうな恐ろしさがあると誰かが言っていた気がするが,残念ながらそこまであの平民に視線をくれてやる道理はなかったのでベルナルト自身では確認していない。それよりも,あのルミナス・ロッソィーノ侯爵令嬢の相手をする方が遥かに面倒臭く,ベルナルトとしてはそちらの対応で十二分でありそれ以上は興味がわかなかったのだ。そういえば,取り巻きの癖に王国魔術師団でも入団したのか名前を聞く様になったと思ったし,なぜ自分に退団の挨拶をするのかと不思議に思ったことはあるが,それだけである。


 どちらかというと真面目でお堅い性格だと認識していたが,やはり平民は平民であるのだろうか。領主である父の領地査察に同行した事もあるが,平民はどんどん増えたり減ったり繰り返す。あの女も,つまりはそういうことなのだろう。

 そう考えるとどこか不愉快である。なぜと問われても不愉快であるとしか言えないが,ただマジカの名を得た者が浅はか過ぎやしないだろうかとは思う。



「ベルが無視するぅ!オレってば泣いちゃう…。」

「勝手にしろ」



 深く思考にふけっていたせいか,リュエが大騒ぎし始めるが一刀両断する。しかし,いたずら好きの友人はにんまりと含み顔をわざとらしく作って見せた。



「そんなこと言っていいのぉ?せっかく,シジェーロ教授の新しい論文について情報手に入れたのにぃ。」

「…早くないか?」



 シジェーロ教授とは,精霊と魔術の関連について研究しており魔学術院の上位機関であるアカデミーの会員でもあるとともに,ゼリーヴァ王国魔学術院の教授である。魔学術院における研究室といえば,攻撃魔術,防御魔術・補助魔術といった武闘魔術の研究に目が行きがちであるが,シジェーロ教授は根本となる精霊様についての研究が盛んに行っている。ベルナルト自身は攻撃魔術の研究課題に取り組んでいたため,シジェーロ教授の授業は初級しか受けていない。しかし,将来の自身の家を継ぐ上で重要な研究であると認識していた。したがって,教授の新しい論文はチェックするよう心掛けている。

 しかしながら,シジェーロ教授は几帳面であるのか,半年に一度かそれよりも時間をかけており,途中経過を含めて論文発表をコンスタントにしていたはずである。前回の論文発表は,3ヶ月前ほどにあったと思うのだが,思い違いであっただろうか。



「リュエ,論文は手に入れているな?」

「もっちろーん,オレ様ってば優秀だからね!ベルの机に置いてあるよん。」

「そうか。」



 疑問に思った事も,論文を読めば分かることである。そう頭を切り替えると,鍛錬を終わらせることにして布で汗をぬぐった。そして食事をとるためにリュエと共に宿舎へと向う。

 ただ,夜が来ると思いだすのはあの夜のことで,思わず身を震わせた。

沢山の方に閲覧・感想・評価・ブックマークしていただき、本当にありがとうございます。

決してキラキラした内容ではない、というか昼ドラ系の話ではありますが、続きを楽しみにして頂けると嬉しいです。

また、感想欄は閉じますので、感想や誤字脱字はメールで頂けると嬉しいです。

(感想欄開きました)

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