闇に嵌められた異世界人 聖女
気になる方のみどうぞ。
ちょっと暗め話から入りますが、最後は一応Happyendですかね?
『聖なる光よ、暗黒へと落ちし魂を導け』
聖女ライラに御魂送りをされ、莉那はこの世界で構成されていた全て物が、還っていくのがわかった。
黒い靄も一緒に溶けていく。
消えゆく意識の中で、ここに来る前地球でのことを思い出していた。
男を虜にすれば何でも思い通りになると思っていた。
実際に狙った男たちは、何でも買ってくれたしお金で解決できることはしてくれた。
なんてちょろい世界。
そう思っていた。
だけど一人だけお遊びで粉を掛けたが、靡かない男がいた。
始めはお金持ちでもないし、イケメンでもないからふーん。で終わっていた。だけどある日を境にそれが変わった。
愛桜という女性をとても大事にしていたからだ。
確かに名前負けすることなく一般的に見ても可愛い人ではあったが、それだけだった。
華があるわけでもなく、お金持ちでもなく、特別仕事が出来るとか、何かに特化したものがあるとは思えなかった。
だからこそ、イラっと来た。
こんな女に負けたのか、と。
それから意地になってしまい、引き際がわからなかった。そしてある日気づいてしまった。
その男勇二を愛してしまっていたことに。
初めてのことで正直どうしていいのか、わからなくなっていた。
だから嫌がらせを始めてしまった。
そして段々とそれにも懲りない愛桜に、あんたが居なければ!そう思うようになった。
消えゆくだけの存在になってやっと、それがどれだけ無駄で滑稽なことだったのか分かる。
脅す為だけに押した愛桜が階段から転げ落ちて、そのまま車に轢かれて死ぬとか、訳が分からなかった。
その場に座り込み、ただ流れていく血を見ることしか出来なかった。
その後は転落の人生でしかない。
人殺しと指を刺され、勇二に憎まれ恨まれ呪いのような言葉を言われた。
私は捕まり「懲役3年・執行猶予5年」の判決を言い渡された。
その後は会社も追われるように去り、チンピラのような男と一緒に住むことになり薬物づけにされ、ライラが言った年齢34歳で気が付けば死んでいた。
死の世界に向かう途中、声を掛けられた。
違う世界でやり直せると。
しかもやり直したかった年齢から出来ると聞いた私は、20歳から希望してその声について行った。
この時に何も疑わなかったのが、間違いだった。
行った先は異世界。魔法があるし出てくる人たちが、乙女ゲームに出てくるようないで立ちで、本当に驚いた。
「聖女は居るのだが、この世界に一人では難しい。一緒に手伝ってくれないか」
そう請われて、嬉しかった。
ずっと後ろ指しか差されていなかったから、余計に張り切った。
始めは神官にやり方を習って一生懸命覚えた。一日がかりで覚えた後、実践を行うことになった。
一回目は成功した。
みんなが跪いて泣いて喜んでくれた。
「聖女莉那様」
そう言われて有頂天になった。二回目、三回目になるとその効果は薄れていった。
なんで!言われたとおりにしているのに!
「あの村はお布施を払わないからこれでいいのです」
この世界のことはこの世界のルールで行うべきだと思っていたので、それに頷いた。
「金の亡者め」
村人から向けらえた言葉は、心を抉った。
なんで呼ばれて来たのに、そんなことを言われなければならない?
その後は記憶が時々飛ぶことが増えた。
気が付けば昔の自分と変わらない自分がいて、声がするままに力を奮っていた。
消えゆく中、愛桜?の声が聞こえた。
今度こそ、頑張って。
同情・憐みであっても、励まされた声は素直に嬉しかった。
消えていく意識の中で、何者かと目が合った。
折角目をかけてやったのに。
こいつが私を狂わせた!だけど消えゆくだけの私に出来ることなどない。それに…今更恨むなんてばからしい。
闇と呼ばれる者も口では悪態をついているが、スッキリしているように見えた。
それだけ聖なる光の祈りが強かったのかもしれない。
後は同じように闇に踊らされていた王太子や側近のみんなも、元の優しい人たちになればいい。
あの教皇は違う意味で腐っていたけど。
王太子は間違いなくライラを愛していて、手助けがしたくて私を呼び出したのだから。
幸せになって。
私の最後の願い。
…好きでした。
部屋で謹慎を言い渡れたダニエルは、いるはずのない莉那の声を聴いた。
『幸せになって
…好きでした』
自分の中から何かが抜けていった後から、そして気怠さがずっと付き纏っている。それでも頭はすっきりしているので、自分が今置かれている状況は分かっている。
ライラとは婚約者としてでしか会って来なかったが、初恋だった。彼女が辛い思いをしているのを聞く度にどうにかしたいと思ったが、王太子である自分ではどうにもできなかった。それが出来るのは国の治癒・浄化機関である教会の教皇を任命できる国王だけ。
その父である国王が原因不明の病に倒れ、実質宰相が国を動かしている現在、教会のやり方に口出しできるものが居なかった。
悶々とした日々を送っていたある日、教皇が訪ねてきた。
ライラ嬢の手助けをしたくはありませんか?
向こうから言い出してきたことに疑問を持つこともなく、その方法を教えてほしいと強張った。
「異世界の聖女を呼び出すのです」
「それは違法ではないのか?」
「法ではそれが禁忌だとは述べていません。それを今までしなかったのは、そこまで瘴気が酷くなかったからです」
その説明に納得した俺は、教皇の指示に従って自分の血を流し呼びかけた。その血に反応するようにゆらりと黒い靄が出てきて、そこから莉那が現れた。
そこから異世界に慣れない莉那と共に行動することが多くなった。自然に惹かれていったように思う。だけど莉那が力を使う度に、時々頭痛と共に記憶が曖昧になり始めた。その結果がライラの魔女審判だ。
莉那には申し訳ないことをしたと思っている。俺が呼び出さなければ、辛い思いをすることはなかったはずだ。それでも最後の願いが俺の幸せ。
ありがとう。莉那。
俺は王位継承権を剥奪され、その後は臣下としてこの国を支えることになると思う。
でも莉那がそう願ってくれるなら、修道院で君の来世を祈るのもいいかもしれない。
――いつか、どこかで会おう。莉那
ダニエルが修道院に行くことを決めると、周りの側近たちもそれに倣い修道院でボランティアに励むことになった。
ダニエルを始めその側近達が施したボランティアは、後のこの国の孤児院の礎になった。
またダニエルは罪は充分に償われたと、周りに修道院を出て所帯を持つことを勧められたが、それを断り一生涯独身で過ごした。その傍らにはいつも黒い猫がいて「リナ」と呼び、とても可愛いがっていたという。
ダニエルは修道院で大勢の者に見守られながら、静に息を引き取った。
それを確認したかのようにいつも傍らにいた黒い猫は、ダニエルの頬に愛しそうに擦り寄った後、枕もとで蹲るとそのまま猫も眠るように後を追った。
『…ダニエルありがとう。幸せだった』
『リナ、これからもずっと一緒だ』
二つの光り輝く魂は仲良く寄り添って、天へと昇って行った。
それを見送った人々は、二人がずっと一緒でありますようにと祈りを捧げた。
その後ダニエルの功績をたたえ、ダニエルと黒猫がこの国の孤児院のシンボルマークとなった。
書きかけで放置していたものを気分が上がったので書きました。
書いてスッキリはしたけど、なくても良かったかも?と思ってみたり、書いてよかったと思ってみたり。
不思議な気分です。
※気が弱いのでざまあじゃないのかと、否定的な言葉はご遠慮下さい。