『私』は鳥
恐る恐る、といった動きで抜かれた鋭い何か。
その抜かれた後はぽっかり穴が空いており、眩しい光が私を照らす。
暗闇ばかりだった私には少し眩しくて目を細めた。
あぁ、光とはこんなにも眩いものだったのか…。
うん、ただの現実逃避だ。
分かってる。
「…貴方、いつかはやらかすとは思っていましたが…」
「ま、待て、確かにやらかしちまったが、お前にだけは言われたくねぇ!引くな!まだ分かんねぇだろ!?感触だって…な、なかったと思いたい…」
「あーあ、可哀想に」
「だからお前が言うなぁー!!」
良く分からないけど私はやらかされたらしい。
ふと思ったんだけど、私ってそればっかりじゃない?
車に撥ねられて、神様に強制的に転生させられ、何かしらやらかされて危うく死に掛けて…。
…私の周りはおっちょこちょいさんばかりかな?(一部某神様は故意的なので除く)
「…だ、大丈夫だよな?」
そんな声と共に、ギョロリとした目と目が合った。
私は知っている。
これは、この目は…
爬虫類の目だ。
だ、ダメだー!!
完全食われるやつじゃないですかー!!
「んんー?良く見えねーなぁ」
「狩った獲物をそんなに見たいのですか?…そんな小さな獲物に対してだなんて情けない」
「狩った獲物言うな。無事かどうか見てんだよ」
「完全に息の根を止める為に?」
「なんでお前はそう物騒なんだよ?それともお前の中のオレはそんな奴なのか?」
「そんなの貴方の反応が楽しいからに決まってるじゃないですか」
「お前がそんな奴だって知ってたわ、ちくしょー!!」
「だったら聞かないで下さいよ、面倒臭い爬虫類ですね」
「爬虫類言うな!!」
…さっきから思ってたんだけど、漫才かな?
会話からしてやらかしたらしき爬虫類さんが揶揄われてるだけってのは分かるけど。
というか、私はどうすれば良いんだろう?
穴空いたし、出るならそこから殻を割って出れそうだけど…。
外には私を食べようとしている毒舌さんと、私が必死になっても罅すら入らなかった卵に簡単に穴空けた爬虫類さんがいるんだよな…。
うぅ、でもこのままでも毒舌さんに何されるか分かんないし…。
ええい!
どうせ食べられるなら出ても出なくても一緒だ!
パキッ、パキパキッ
音を立てて殻を破る。
思った通り、爬虫類さんが空けた穴から殻を破るのは容易かった。
と、言っても私が全力で突けば破れるかなって程度だけど。
…爬虫類さん、どんだけ強いんだ?
それとも私が弱過ぎるだけとか?
殻が完全に破れ、身体全身で陽の光を浴びる。
そして、大きな蜥蜴人間と、めっちゃくちゃ美人な浮かんでる人と目が合った。
2人とも、何やら私を見て驚いているみたいだけど、私が驚いたわ。
…でっかい。
良く考えなくても、今の私は鳥だ。
しかも生まれたてホヤホヤの雛だ。
小さいよ、私。
蜥蜴人間さんの手の平に楽勝に収まるほどに小さいよ!!
そりゃあ、周りがでかいに決まってる!!
あぁ、もうすでに泣きたい…。