表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しろくろにっき  作者: 猫艾電介
8/25

たばねる色と色鬼のささやき(2)

「さ、りんごを飲み込んで胸を見せて」

 橙乱鬼が言葉をかけると、朱音はりんごを咀嚼し、飲み込む。そして、言われるがままにスポーツをやっていたかのような、若干筋肉のついた胸を恥ずかしげもなく見せる。


「これで暴れるイロクイを制御できる。抵抗しようが、いずれは私のモノになる」


 朱音の胸に橙色で印を刻んでいく鬼。イロクイを強制的に目覚めさせるだけではなく、指揮する能力。これまではイロクイの好き放題にさせてきたが、これからは計画的に動かして追い込む作戦に切り替えられる。言い換えれば、ここまで藍の体を制御できるようになったということだ。


「古ぼけた色鬼の二の舞は踏みたくないからね。それにまだ、完全じゃない。後一押し欲しい」


 三つ編みを手繰る藍の姿をした鬼だが、もっとも状態が落ち着けば出してもらえるし、ある程度の自由は効く。それに何より、この病室はもう一人の色使い『朱音』に指示を出すのにちょうど良い隠れ蓑になっている。


「完全体になって、イロクイで全部の色を奪い取ったら私の勝ち。その時は色鬼が人間を虐げる時代が来る」


 朱音の髪をあげると、胸とは異なる印。これが朱音から思考を奪い、鬼の意のままに動かす"肉人形"に仕立て上げている。"色禍"が起これば朱音のような肉人形が鬼を崇める世界となってしまう。

 そんな世界を思い描き、鬼は告げる。


「行け! そして人間から色を奪ってこい!! このクズ色使いでも、私がカスになるまで使ってやる!」


 橙乱鬼の言葉に朱音は一度うなづき、部屋から飛び出した。


…………

……


「はれれ~、六宮ちゃんもサンちゃんも呼ばれたんだ」

「……紫亜さん、これは」

「あの、僕から説明したほうが」

「いや、そうじゃなく、こう……もっとツッコむべきところがあるような」


 色淵ヶ丘と筆咲の間にある中央公園。ここに集まったのはサンと城奈と翠、そして呼び寄せた張本人である紫亜の4人。



 紫亜の姿は以前見た姿とは大きく異なり、二つ結びに巫女装束。何より眼の色が全く違う。


「あー、前にあった時は変装姿でしたからねぇ」

「変装って」

「コスプレー、ですか」

「紫亜ちゃんまーだそれやってたのね」

「だって、こうしてると『正義の味方』って感じで、気分が乗りますから」


 どんな感性だ、と心のなかでツッコミを入れたかったが、飲み込む。


「あーの、あのね、六宮ちゃん」

「何?」


 翠の背中を引っ張り、城菜が呼ぶ。そのまま2人は少し後ろに下がり、内緒話でもするかのように話を進めていく。


「そーのな、この前の件だけど……ごめん、あぁな風に思われてるって知らなかった」

「……いつものことだし」

「それでもあー、なんというかその、ごめんとしか言い切れないというかなんというか……」



 先日の騒動の後、城菜はサンを捕まえ、事情を聞いた。翠が恨まれていることも、城菜が想像以上に慕われていることも、サンは全て話した。すべてを知り、城菜はひどく悩んだ。だが、言うしか無いと決めた。そのきっかけこそ、今回の集まりなのだから。


「…………」


 なのに、思うように次が切り出せない

「あの、六宮サンに、城奈サン?」


 心配になって声をかけたサンに『何』と同時に切り返す2人。


「もっと、六宮さんは人に構ってしても、いいんですよ」

「構ってって、難しくない?」

「難しくないです、なんなら――」

「翠ちゃん。あたしね、翠ちゃんみたいな子がほっとけない性格なのーね」


 サンが考える中を押し切り、黙りこんでいた城菜が口を開く。


「だからこう、取っ掛かりが欲しかった。その取っ掛かりが、翠ちゃんにはダメだったのね」

「その取っ掛かりって、ノブリス何とかっての?」


 首を縦に振る城奈。


「そういうのって、あまり好きじゃないから。普通の友達がほしい、話とか聞いてくれる、きらりみたいなのがいい」

「そうかー、きらりって、筆咲の子だよね。どこで知り合ったの?」

「それ、言わなきゃダメ?」


 少しだけ、翠の口調に怒りが纏う


「あたしは聞きたいなぁ、それでねー、少しでも仲良くなる方法を」

「あ、あのっ」

「って、どしたの青葉ちゃん」

「紫亜サン、ものすごく遠くなってる、です!」

「……え?」


 2人が顔をあげると、紫亜の巫女装束が遠くに見える。そして『早く来い』とばかりに紫亜は手を振って

いた。


「とりあえず、急ごうか」

「そうねー、そうしようか」



 話を切り上げて走る3人だが、肝心のことは互いに聞けないまま過ぎていく。

 どうして、翠はきらりに執着するのだろうか。

 どうして、城菜は色使いだったのに我関せずだったのか。

 互いに何も知らぬまま、2人は紫亜の元へと走っていった。

◆今回のおさらい

三隅・藍(みくま・らん)

オレンジの色使いだが、色鬼によって色を奪われたあげく、身体まで乗っ取られてしまう。

中学生だが真畔とは近所付き合いもあって友人でもある。色んな本を読み、創造を深めていくのが趣味のメガネっ子。


橙乱鬼(とうらんき)

『色鬼』と呼ばれる"色"が意思を宿した存在が、藍の肉体を乗っ取り自ら命名した。

力は未知数。しかし自分の色を使って一般人を洗脳したり、イロクイを呼び起こすことができる術を身につけている。

色鬼はイロクイと異なり、自分の色を拡大することはない。しかし、色を食うことで自分のエネルギーを得る。


朱音(あかね)

橙乱鬼によって洗脳された少年。

活発そうな容姿だが、額と両手には洗脳とイロクイを目覚めさせる印が彩られている。

色使いかどうかは不明。


白化(はくか)

人間から生命力の体現である”色”が吸われきった姿。

肉体はおろか身につけている物もふくめ真っ白になり、半死半生の状態となる。

吸い取った色が戻れば元通りになるが、時間が経ちすぎると周囲の色と同化して元に戻れなくなってしまう。

さらに藍のように異なる色を注ぎ込むことで身体を乗っ取り、性格を改変することもできる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ