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しろくろにっき  作者: 猫艾電介
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鬼の色と昔のお話(2)

「言ったはずよ、激しいことはしないって」

「だって……」


 乱入者により収められた追いかけっこは、いつしかお説教の場に変わっていた。林の中で座る3人。汚れないようにハンカチを下に敷き、翠は話のタイミングを伺っていた。


「だっても何もありません。色の力を使って同じ力を持つ『色子』を苦しめるなんて言語道断、真畔ちゃんのお母様にも伝えないと」

「止めて! それだけは絶対やめて!」


 よほど母親が怖いのか、涙目になり出す真畔。その額には青い色で点が打たれ、真畔の戦意を失わせていた。


「あの」

「いいえ、今回ばかりは――はい?」

「あの、その……中学生だよね」


 翠の言葉に『あっ』と口を押さえる紫亜。

「ごめんなさい、名乗るのを忘れてました。私は布津之ふつの紫亜しあ。青の色子、つまり、あなたと同じ色の力を持ってるの」


「六宮・翠です。色淵が丘小学校の生徒です」

「そんなにかしこまらなくても。私の友達がひどいことをしたみたいで」


 ちらちらと真畔を見る紫亜。真畔は逃げずに正座したまま縮こまっている。


「まずは『ごめんなさい』よ」

「……」

「色をケンカに使うことが、どれだけ悪いことかは教えたよね?」

「……ごめんなさい」

「私からも謝るわね、ごめんなさい。この子、あなたのことを前から気に掛けてたの」


 共に謝る紫亜。2人の関係は翠からしてみても姉妹か、あるいは保護者と言ったところか。


「それにしても、何で場所が分かったの?」


 険しい顔でしかる紫亜を尻目に、翠がおそるおそる問う。


「私と真畔は縁の糸でつながってるの。だから――」

「私の防犯スマホに何かしたんでしょ」

「えぇ、うん、その通り」


 声が小さくなっていく紫亜。まるでネタをばらされた手品師のようだ。


「まぁそれは置いておき、さすがに今回は耳に入れておかないとダメね。それともう一人、色子がいるよね?」

「きらりちゃん? 今呼んでみる」


 スマホを操作し、呼び出しメールをきらりに送る。こちらからめったに送らないせいもあってか、すぐに返信が帰ってきた。


『大丈夫!? まくろちゃんすっごいおこってたけどケガとかない!? いまむかうよ!』

 そのメールを見てしばらくし、遠くからきらりが呼ぶ声が聞こえてくる。


「おーい! すーちゃーん!真畔ちゃーん!!」


 思わず立ち上がって手を振ると、きらりははっとした顔で集まっている場所へと向かってくる。


「うぇ!? なんで巫女さんがいるの?」


 突拍子もない声を上げるきらり


「みこさん?」

「私のことです、もう一人の色子は七瀬さんでしたのね。ではまとめて一つ、お話しをしましょう」


 そう告げ、鞄から持っていた本を取り出しページをめくる。


「……聞かなきゃダメ?」

「ダメ、だよね」

「はい。色淵の子もいるから、ちょっと張り切っちゃいますね」


 翠は聞くべきか迷ったが、話の内容にも興味がある。今は何も言わずにただ、聞き入る姿勢を保っていた。


…………

……


 昔々、この一帯は一つの村だった頃、村には鬼が現れ、人間に悪さをしていていました。ある日、鬼がキラキラとした石を見つけた子供に話しかけました。


「そのキラキラしたものが欲しい」


 子供はすごく驚き、逃げようとしましたが先に回り込まれてしまいます。


「キラキラしたものがダメなら、おまえの色が欲しい」


 そう言うと、鬼は子供から色を抜き取って、真っ白にしてしまいました。


 色を抜かれた子供は動かなくなってしまい、鬼はその子供をほらあなの中に隠しました。元気になってたくさん悪さをした鬼に村人は困り果て、神社でお願いをします。



「神さま、鬼を何とかこらしめてください」


 すると、神社の中から神様があらわれ、こう答えました。


「七人の子供に虹の色をそれぞれ与えた。その力をまとめて鬼を倒しなさい」


 そしてもう一つ「鬼をこらしめるよりひどいことをしてはなりません」といい、消えていきました。さっそく村人は虹の色を出すことが出来る七人の子供を集め、鬼に色をぶつけて洞窟にに追い詰めました。


「もうゆるさない、ここでやっつけてやる!」


 これまで鬼のせいで大変な目にあってきた大人を見てきた子供は、七つの色を鬼に吹き付けます。


「ひーっ、いたい、いたい」


 鬼は苦しみますが、子供はとめません。そしてついに行き止まりまでやってきます。その奥には、真っ白になった子どもが転がっていました。


「やい鬼、村のこどもを返せ!」


 そう言いながら色を吹き付けます。


「ひーっ、いたい、いたい」


 鬼はさらに苦しみ、なみだをながします。すると、真っ白になったこどもがひくひくと動き、立ち上がったではありませんか。


「鬼をいじめないで!」


 真っ白なこどもは叫びます。こども達はびっくり、鬼もびっくりしました。そして、子供が叫ぶと同時に、パッと光がどうくつにあふれ出しました。


「まっしろなこどもよ、それで良いのです。やり過ぎてはいけないのです」


 神様の声です。しかし、その声はどこか悲しい声でした。


「真っ白なこどもよ、あなたは、おにをどうしますか?」


 こどもは少し考えました。そして『仲良くなりたい』と答えます。


「仲良くなって、一緒に遊びたい。そうして悪さをしないようになればいい」


 神様は、鬼と真っ白なこどもの頭に手をかざしました。


「あなたたちにも色を与えましょう。この力を悪いことに使わず、大切に使うのです」


 こうして村には9つの色を持つこどもと鬼は、色を使わずに村を大きくしていきました。そのなかでも鬼は真っ白なこどもと一緒に、村のためにたくさん良いことをしましたとさ。


…………

……


 一息つき、紫亜が本を閉じる。


「と、こんな感じだけど、どうかな?分かった?」

「長い」

「この話ってすごく退屈だし、何度も聞かされてるの」

「くぅ、くぅ」


 3人ともぐったりとした表情で紫亜を見つめていた。


 げんなりしている翠、やつれ顔の真畔、そしてきらりは寝息を立てている有様だ。


「真畔ちゃんはきらりちゃんを起こしてね。ここからが本題――」

「「短くおねがいします」」

「……じゃぁ手短に」


 紫亜はすごく残念そうな顔を見せ、話を続ける。


「実はこの話、こどもにもわかりやすいように書き換えられたものなの。その証拠に最後も結構濁されてるでしょ?」

「本当は怖い昔話みたいなもの?」

「うーん、そんな感じかもね。ともあれこっちを見てみて」


 3人がのぞき込むと、そこには難しい漢字でびっしりと書かれた『何か』。その正体はこの街の前身である『布士野ふしの村』に伝わる物語をまとめた本である。


「その後、鬼は村の人に許されて沢山の子供を作り、そしてこの町の発展につながった。と言うことなの。そして色使いの子孫には功績として、苗字に数字が入っているの」


「数字……まさか」


 動揺する真畔。


「ようやく分かったわね。六宮の6、七隈の7、そして五木の5。あと私だと布津之で2。みんな色子――色を使う子供たちなのよ」

「そんな、でも、何かの間違いじゃ」

「間違いじゃないのはあなたがよく知ってるでしょ。私もあなたも、この街で生まれて育ったのだから」


 始めて知った翠はもちろん、真畔も呆然としている。翠もこの街で生まれ、育った子供だ。恐らく遙か遠い祖先もそうだったのだろう。


「仲間同士で傷つけあうなんて、土地神様がみたら悲しむわ」


 紫亜が戒めるように真畔に伝える。全ては真畔の独断を許した紫亜にも責任がある。それだけに彼女も心を鬼にするしかなかった。


 黙り込み、震える真畔。


「……私、言われたの。怖い子だって。だからきらりちゃん見てると、うらやましかった」



 真畔がぽつぽつと話を始める。翠の横できらりがうとうととしているが、度々真畔の方に顔を向ける。


 彼女、真畔がこうして力を行使するのは珍しいことではない。彼女は色の力を度々使っては人の目を驚かし、尊敬されることで自慢の種にしていた。


 無論、その力は時として恐れも呼び、真畔は次第に恐れられていった。それを知っていても、簡単に止められるものではなかった。紫亜が戒めてくれなければ色の力を使い、人々を友人として『服従させる』ことも出来た。


「そんな時に、翠ちゃんの話されて、本当に取られると思ったの、きらりちゃんを。やだったの、そんなの!」


 ボロボロと泣き出し、堰を切るかのように告白する真畔。それは単なる伝承の続きなどではなく、秘めていたきらりに対する独占欲の発露でもあった。


「私、きらりちゃんと友達だけど、取ったりなんてしないのに」

「それでもこわかった。だから本とか見て、鬼の子だってわかったらすごく『倒さなきゃ』って思えたの」


 話に黙り込む紫亜と翠。辺りに沈黙が覆う。


「だから、もう私は、もう……」

「良いんじゃないかなぁ? 色々あっても同じ力を持つ友達なんだから」


 沈黙の中、口火を切ったのはきらりだった


「友達?」

「そう、友達。だよね、真畔ちゃん、すーちゃん。あと……巫女さん?」

「紫亜でいいわよ」

「紫亜さんも! だってその方がおもしろいこと一杯出来るじゃない」

「……本当に?」

「本当」


 笑顔を見せるきらり。


「……うん」


 その笑顔に、泣き腫らした真畔の表情に笑みが戻る。これまでのような苦しげで思い詰めたものが取れたような、そんな顔だった。


「だったら仲直りの握手、しようか」

「しよっか、すーちゃん」


 きらりに、そして紫亜に手を取られながらも、真畔と手を握る翠。少し照れくさそうに笑う彼女もまた、新しい友人が出来たことに安堵と、喜びの表情を浮かべるのであった。



 公園の大型遊具に戻る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


「今日も色々楽しかったよね。真畔ちゃんの知らなかったことも分かっちゃったし」

「うぐ……本当に心配してたんだから!」

「へっへぇ、毎日会ってるのに見捨てたりしないよ」

「仲良いんだね、2人とも」

「そりゃぁ同じクラスメイトだしね!」


 2人を見て良いなと、翠は心の中で思う。自分も誰か仲間を作りたいと心のどこかで願い、思う気持ちがふくらんでいった。


「せっかく何か別のあだ名でも考える? まーちゃんとか!」

「まぐろちゃん?」

「まっ、真畔で良いわよ。まーちゃんでもまぁ、良いけど。それにまぐろじゃなくて、ま・く・ろ!」

「じゃぁまーちゃんで! すーちゃんに、まーちゃん! 今日は暗くなっちゃったけど今度の土曜とか遊ばない?」


 そんなことを余所に、笑顔で仕切るきらり。彼女を見てると、何故か笑顔になっていく気がした



「うん、呼んでくれれば来るよ」

「えー?呼ばなくても来て欲しいな」

「それじゃぁ待ち合わせ時間が分からないわよ」



 和気藹々と談笑する3人を見て、紫亜は遠くから一安心する。


「3人の色子、私を含めてあと3人。早めに目星を付けておかないと」


 それにしても何かを忘れているような。そんな気がしたが、うまくは思い出せない。彼女はこのまま3人に同伴し、それぞれ見送るのであった。




「あーあ、真畔ちゃんもダメだったかぁ。じゃぁもう一人出しちゃお。今度は大丈夫、今度はね、うふふ、ふふふフフ!」


 白髪をした三つ編みの少女が笑い、高みから少女達を見下ろす。すぐに姿を消したが、その雰囲気は人間とは一線を画す邪悪さを振りまいていた。

◆今回のおさらい

布津之・紫亜(ふつの・しあ)

 筆咲中学校1年

 ダウナーゴシック最年長、中二病

 色の力に精通する布津之神社の巫女でもあるが、少し羽目を外してみたい性分でもある。

 懇切丁寧な説明に定評があるが、大抵長くてくどい話になるので受けが悪い。

 青に染め、相手を鎮めることができる。

『ブルー・エクストレイション』の他にも技が色々あるらしい。


五木・真畔(いつき・まくろ)

 筆咲小学校の4年生

 考えるよりも行動に移す実践派、黙っていれば凜々しい委員長タイプ。

 今回は翠を敵視していたが、鬼の子としてよりもきらりを取られたくない独占欲が主な原因だった。

 紫亜とは付き合いがあり、昔は姉のように慕っていた。

 紫に染める力を持っている


・色子/色使い

色の力を使いこなすことができる子供。

紫亜が命名したものでは無く、古くから伝わる名称である。


・四谷さん

 翠のクラスメイトで取り巻きが多い。

 イントネーションが独特。

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