たたかう色と2人の迷い(1)
「てことは、チーム分けかーな?」
「そうね、こんなこともあろうかと最適なチームを……」
散らばる古書と空っぽの食器がお手伝いさんの手によって片付けられる。話が一段落済み、いよいよ本題である色鬼退治をどう進めるべきか、城奈と紫亜は考えていた。
だがその時、轟音とともに天井が抜け、何者かが降ってきた。着地とともに紫亜が積んでいた本が崩れ、畳が大きくたわみ、沈み込む。
「敵襲!?」
「早い、イロクイ!?」
「違うのね! これは……」
「……」
「何か変な感じ。ええと、サンちゃんでいい? 何かわかる」
「ノー、だけど……」
"色使い"。そうであることはここにいた6人全員が彼を見た瞬間に悟った。赤髪にラフな格好をした少年は、サンと同じぐらいだろうか。
「あ、あれって……六宮さん」
「あーうん。これは間違いない」
そのサンは、ひどく怯えた様子で、乱入してきた少年と翠の顔を見合わす。
「橙乱鬼様の言付けだ。当代の色使い、指をくわえて下がっていろ」
「冗談じゃないわ! 色禍を引き起こせば多くの人が被害に遭う。そんなことはこの神社にかけてもさせない」
少女らしからぬ声色で語る相手に激昂する紫亜。その口調からは、強襲に対する動揺の色が見られる。
「なら良し。諦めても諦めなくても、"コト"は進むのだからな」
そんな怒りをも受け流し、少年が1度足を踏む。その瞬間、広げられた巻物に様々な色をした無数の渦ーー"イロクイ"の居場所が浮かび上がった。
「気をつけて。この子……操られてる」
紫亜が少年の額についた印を見る。人を操り、意のままに操る邪法の印があることは知っていたが、実際に見たのは始めてだ。
「まさかエロケンとここでバッタリとはね」
「エロケン?」
紫亜が訪ねる。
「うん、クラスメイト。健児っていうけど、エロなことばっかするからエロケン」
「エロケン……違うな。私は『朱音』、橙乱鬼様の忠実なる肉人形だ!」
その言葉とともに朱音の手から緑の"色"がいくつも放たれ、翠を狙う。
「すーちゃん!?」
「させない、『蒼の身映し!』」
紫亜の手から蒼色が鏡面状に広がり、翠を守るように朱音の色を捉えて打ち消した。
「この姿じゃ柄に合わないけど、きらりちゃん」
「はいっ」
「このままエロケン君が"色"を使い続けるのは危険よ。だから、止めるのにあなたの"色"が必要なの。一緒に戦ってくれる?」
「良いよ。でも、すーちゃんや真畔ちゃん達は?」
「城奈達はイロクイをとめるーよ!」
いつの間にか巻物を奪取し、抱える城奈。付いている箇所は大きく分けて2カ所、十分に対処できる。
「サンと真畔ちゃんは中央公園、城奈と翠ちゃんは一緒に市街地についてくるーの」
城奈の迅速な指揮にサンと真畔が急いで外に飛び出す。
「逃がすか、色使い!」
「行っちゃダメ!」
背後から色を撃つ朱音に白色を背中に引っかけるきらり。イロクイと違って服が汚れるだけだが、忌々しそうに少年が振り向く。
「グ……胸がキリキリする。だがお前達を倒せば治るはずだ!」
「女の子を放るとモテないわよ、エロケン君! 今のうちに翠ちゃん達も」
挟み込むように取り囲み、朱音の色を放出するのを食い止めるべく動きを合わせる。
「ここは任せたのーね!」
ぐいと腕を引っ張られる翠。痛みを感じるも、城奈は見えていない。
「きらり、ケガとかなしだから!」
城奈に引っ張られるように翠もその場を後にする。荒れた部屋を抜けると、緑色に染まった人たちが苦しそうにうめいている様子が見える。だが、それ以上に紫亜とともに戦うきらりの後ろ姿が、ひどく不安だった。
布津之神社から中央公園に向かっていたサンと真畔。彼らの道行きはひどいものだった。道端には色を吸われて真っ白になった人々が倒れ、でっぷりとしたまだら色のイロクイが鈍重な身体をくゆらせていた。
「すでに暴れ回ってるデス!」
「見たことがないイロクイも居るわね。サン、"白化"について知ってるわよね」
「は、はい。応急手当ぐらいなら頑張れますデス」
「OK、できるだけ早くケリを付ける!」
真畔は神社から持ち出した長平な棒を構え、イロクイに飛びかかる。イロクイの反応は――遅い!
「まず一発!」
横凪ぎに振り抜き、イロクイの腹に棒を当てる。しかし効いていないのか、全く動じない。ならばと2発目、軸足を使って踏ん張り、さらに下段から回るように振り上げる。
「色つきの一撃、受けてみなさい!」
その軌跡は紫を引き、真畔の色に染まった棒はイロクイの腹を打ち上げた。
「!!!」
もんどり打ち、黄色の液体を吐き出す巨大イロクイ。吐いた"色"はすぐに霧となり、白化した本来の持ち主へと戻っていく。真っ白だった身体や服は元の色を見る間に取り戻し、色を奪われていた学生は意識を取り戻した。
「う、ううん……あ、あわわ。怪物!?」
「すぐ山の方に逃げてくださいデス。そっちなら安全です!」
少なくとも神社や市街地に当てはまらない方向であれば安心だろう。サンはもんどり打つように逃げる青年を一目見送り、他の人たちにオレンジ色を少量ずつ注ぎ込んでいく。多量に注いでは色が合わなくなり、戻ったときに具合を悪くしてしまうからだ。
「(この色は、僕の色。やることをやるまでデス!)」




