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イカれた小鳥と壊れた世界  作者: 左高例
30/35

29話『スカイキャプテン・ワールドオブトゥモロー』




 治るまで休むという選択肢もあった。実際に軽く捻った程度であり、10分もすれば歩けるようにはなるだろうと本人も言った。

 負傷した仲間を担いでも前進することを決めたのは敵を警戒してのことだった。

 爆発でレーダーの性能も低下しており透明化した敵が襲いかかって来た場合に、足を負傷した仲間を置いての戦闘は避けたかった。

 あまり接触のしたくないエロ兎ではあったが、背負ってさっさと適当な方向へ足を進めたアサギである。

 どこかに離れた──死んだという考えは無い。爆発に近い自分ですら生き残ったのだから──小鳥と召喚士を探さなくてはならない。近くに居た自分とパルが同じ場所に飛ばされたのだから、一緒に飛んでいた小鳥とイカレさんもどこか一緒に居るはずだ。

 進む。

 背負っているパルが話しかけた。


「そういえば、アサギさん」

「──なんだ」

「アサギさんは故郷へ帰る為にダンジョンに潜っているウサよね?」

「──そうだな」


 言葉短に答える。

 金を儲けるためでも貴重なアイテムを手に入れるためでもなく、ただ日本に帰る為に彼は潜っている。冒険者の噂では、大金持ちでありながら質素な暮らしをして、レアアイテムもあっさり売り払うアサギのストイックなダンジョン潜行は事情を知らない為に様々な憶測が立っているが。

 曰く、彼だけが知ったことだがダンジョンの最奥に願いを叶えるドラゴンが居るとか。曰く、ダンジョン管理者が雇っているピンチ救済用の人員だとか。

 後者は些かゲーム脳の冒険者の戯言であるようだが。  

 まったくの他人にはともかく、一応仲間であるパルには事情をある程度まで話している小鳥とアサギだった。。説明が二度手間で面倒なので、未だにアイスは二人と東国出身の忍者と侍だと思っているが。アイスはハブにされているのである。

 パルは「うーん」と考えながら、日頃抱いていた疑問を問いかける。


「故郷っていうのは行き来が難しい場所ウサよね?」

「──普通は行き来など不可能だからな」

「じゃあ、アサギさんとコトリさんは行ったらもうこっちには来ないウサ?」

「──そうなるだろう」


 頷く。

 なるべくこの世界に未練を残さずに生きてきたのもその為だ。

 今は──少しあるかもしれないが、振り切れる。十年以上こじらせてきたホームシックは伊達ではない。

 

「そうなるとちょっと寂しいウサ。折角コトリさんやアサギさんとただならぬ関係に成れそうだったのに……立てたフラグがパーウサ」

「貴様とフラグなど欠片も立っていない上に未練にはまったくならん──」

「でも、家族と帰る家があるっていうならそれが一番ウサ」


 残念ぶっているが朗らかに言うパルにアサギはふと疑問を浮かべた。

 他人に興味を持たないように生活してきたためどうでもいいことだとは思っていたが、家族だとか故郷だとかいう話の流れから気になった為に尋ねた。


「そういえばパルの家族などは──?」

「ボクは居ないウサ。物心ついた時からまー今思えば非合法で嫌なお仕事させられてて、ちょっと前に足を洗って今いる教会の神父さんから手ほどきを受けてシスターになったウサ。家族らしい家族といえばその神父さんぐらいだったウサけど、やっぱりもう亡くなってるウサ」

「──そ、そうか」


 意外に重たい事情に言葉を詰まらせるアサギ。 

 しかし問いかけたのは自分のほうからでもあるので話をぶつ切りにするのもはばかれたため、言葉を繋いだ。


「──いい神父さんだったのか?」

「はいウサ。歌とダンスが大好きな陽気で優しい神父さんでしたウサ。まあ、ケモでホモな変態だったウサけど。なんでボクがシスター服かって」

「いや、言わんでいい」


 遮った。

 パルは「まあエロ系は別に嫌いじゃないからいいんウサけど」と言わんでもいいことを結局告げて、続ける。


「とにかくその神父さんがいまわの際に言ってたウサ。『つらいことも悲しいことも寂しいことも、無理に忘れる必要は無いよブラザー。どんな嫌なことでも涙を歌に変えて口ずさめばジーザスハッピーさブラザー』って。

 だからアサギさんとコトリさんが居なくなったら寂しいけど、ボクは大丈夫ウサ。だから、応援してるウサ」

「──そうか」


 アサギは肩越しに僅かに振り返り、いつも通りのニコニコした笑顔のパルを一瞥した。

 意外とさっぱりした性格のパルに感心したと言ってもいい。おおよそ、あまりしあわせとは言えない過去がありそうなパルであったが暢気なエロ兎として面白おかしく人生を生きているのは、羨ましいような気もした。

 無邪気に続けるパルの言葉はアサギの心に空隙を作る。


「でもはぐれてるあの二人を早く探さないと、コトリさんだけ一人でさっさと帰ってしまうかもしれないウサ」

「──」


 一瞬考えて、ぎこちない言葉を返す。


「──い、いや、それはないだろさすがに。一緒に帰ろうって小鳥ちゃんも行ってたし──」

「でもでも、ふと目の前に帰るためのゲートを見つけたら特に何も考えずに『試してみましょうか、とうっ』って感じで未練なく一人で去ったりしそうウサ」

「──」


 ありそう。

 否定しようにも脳裏に浮かんだその光景は中々消えなかった。

 一緒に帰ろうとか約束したのも覚えているかどうか怪しい娘である。短絡的で楽観的なその場のノリで生きているような少女だ。

 アサギは背負ったパルが落ちないようにしながら小走りになってダンジョンを進みだした。


「……あ、遠くの方で何か爆音が。嫌な予感がするウサね」


 ダッシュになった。




 *******




 一方、小鳥とイカレさんは道の途中にて、とある光を発見した。

 夜光鳥のように電球の明かり程度ではない、その発光体がいるだけで不思議な薄く白い光が、道の前後数十メートルほどを包んでいた。

 光っているのは鳥である。

 見た目は鴉のようだった。大きさは大型の猛禽──羽を広げたら2メートルを超えるほど──で、全身を白い羽が覆いそれが更に発光している。

 ダンジョンの道の真中で、床に落ちている人間の頭蓋骨のらきしものを足で掴んだままの姿勢で眠っているようだ。

 小鳥が双眼鏡を覗きながらまだかなり遠くにあるそれに指を向けてイカレさんに尋ねた。


「イカレさんあれは……」

「あァ、間違いねェ」

「やはりですか。あれこそがネオナチが探していた水晶ドクロ。ヒトラークローンが持つとビームとか出たりするやつですね」

「ちっげェよアホ! どこに注目してんだウスラバカ! 別に水晶じゃねェだろ明らかに! つーかあの白い鴉が絶光鳥だっつゥ話だボケ!」

「イカレさん……ダンジョン内ではお静かに」

「うーがー!」


 地団駄を踏みつつ一発小鳥の尻に蹴りを入れるイカレさん。「痛っ」と言いながら小鳥は顔面から倒れる。

 荒げた息を整えつつ、彼は凶悪につり上がった眼で絶光鳥を睨む。


「よォやく見つけたぜェ……あれを取っ捕まえて契約すれば目的達成だ」

「ううむ、今回こそはと思ってこのイベントフラッグを用意していた甲斐がありましたね。


 呟くイカレさんの隣ににゅっと起き上がった小鳥が旅の神の加護が付いたアイテムを軽く振りながら言った。

 そして続けて何か機械的な口調で言う。


「霊鳥 ヴェルヴィムティルインが いる!

 どうしますか?

 ・FIGHT

 ・ESCAPE

 ・TALK

 ・AUTO                 」


 彼は速攻で選択する。


「当然ッ! 戦って半殺しにすんだよ!」

「えー」


 契約を迫るというのに、それも彼の口ぶりからすると会ったことのある鳥だろうに即座に戦闘を選択する好戦的なチンピラであった。

 低い気合の声を漏らしながら集中して魔力を貯める。彼は指の骨を軽く鳴らして片手を上げた。

 引きつったような笑み。かなりの量の魔力をイカレさんは注ぎ込む。魔力が無限にあるように思われる召喚士だが、実際は自動で魔力を回復しているから無限に思えるだけで最大値はあるし、一気に多量に消費したら回復まで時間がかかる。

 空間に投影された召喚陣から鳥が出てくる。

 赤紫色の不定形に揺らぐオーラを持つ、3メートルほどの巨大な鳥だ。その鳥が空間にいるだけで大気が電離し強烈な電磁場が生み出され、焔のように揺らぐ尾羽根が撫でた壁が融解した。小鳥はソッコーで10メートルぐらい後ろに下がった。

 

「超密度のプラズマで体が構成された地獄の太陽とも呼ばれる魔鳥……皇帝鳳凰のお出ましだ」

「今のはメラではないってやつですか」

「意味わかんねェこと言うな。ケケケ、寝てるところをコイツぶち込んでやんよ。行けェ!」


 彼の合図と同時に山にすら穴を開ける、炎とも呼べない超高温の魔鳥は飛行を開始する。軌跡に体を構成するエーテル体がキラキラと輝き、一瞬後に小規模な爆発を起こし加速した。

 物質としての限界を超えた皇帝鳳凰の速度は100メートル足らない距離で容易く音を突破する。不定形な体を巨大な円錐状の砲弾に変えたように直進して自分より遥かに小さい鴉に向かって破壊の鉄槌を浴びせようとした。

 意志があるのか無いのかすら長らく不明とされていた皇帝鳳凰の水銀のような瞳は見る。

 自分が目標の鴉に触れる2つ手前で鴉は両翼を広げた。 

 一瞬前で翼が動いた。音ではなく、波動としての響きで目の前の鴉から「呼ッ!」と叫びが発せられる。

 触れた瞬間、運動エネルギーを強制的に歪曲させられたように突撃を逸らされ鴉の斜め背後へ吹き飛ばされ──そして、皇帝鳳凰は自分が攻撃を受けたのだと知り体を構成する魔力が消滅し始めたことに気づいた。

 そのまま壁に激突して──壁の一部を強烈な爆発で蒸発させて凄まじい爆風と磁気嵐を巻き起こして、消滅した。

 唖然と小鳥はそれを見ていた。イカレさんは唾を吐き捨て、翼で特殊な構えをしているヴェルヴィムティルインを警戒した。

 声が響いた。少し鼻にかかったような、それでいてよく通る男の声だ。


「鳥類空手三戦法……『回し受け』……!」


 絶光鳥は羽ばたきすら無くふわりと浮かんで、召喚士を見下ろすように見た。

 そして大声で笑い出す。馬鹿にしたように。傲慢に。


「フヘヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハヒャハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハァァァ……!!」


 大音量でわざとらしいまでに笑い、光の粒子をまき散らす絶光鳥にイカレさんは顔を歪めて舌打ちをする。 


「ちっ、分解吸収しやがったか!? 俺の魔力を!」

「イカレさん、あれは」

「あいつは魔力食いの能力があるんだよ! 忘れてたぜクソ、物理系を使うべきだったぜ……!」

「いえあの皇帝鳳凰の」

「まだ距離はありやがるから……行けェ『死呼椋鳥』100羽編成ッ!」


 続けて召喚するのは通路を埋め尽くすほどの黒い影だ。百の召喚陣から百の魔鳥が生み出される。複数で近くを飛ぶことで関数的に破壊力を増大させる衝撃波を通路いっぱいに叩きこむ算段であった。

 相変わらず双眼鏡を眺めている小鳥が意見をするが、

  

「ですから突っ込んで壊した先にあった小部屋にですね怪しげな虹色の召喚陣が合って」

「あン!? 今忙しいンだよ!」

「だからあんまり大規模破壊されたらあの異世界送還用臭い陣が破壊されるのではないかと」

「もォ遅ェ!!」

「あちゃー」

 

 破壊振動を伴った黒い濁流は通路の床、壁、天井を毟り剥がすように砕きながら光の鳥へと殺到する。

 絶光鳥は迫る新たな攻撃を見て、確かにその鴉に似た顔を余裕の表情でにやけさせた。一瞬見えたその顔はイカレさんを酷く苛つかせる。


「甘ぁい!」


 どこか尊大な声音で喋った言葉と同時に、絶光鳥の周囲から光の筋が伸びた。虚空から突然発生した光線はくねるような軌道を見せながらおおよそ50本、襲来する死呼椋鳥100羽を一発あたりきっちり二羽の数だけ撃ちぬいて全て消滅させた。

 光線が弾けて高熱が空間を蹂躙しつつ幾らかの数の光線が魔鳥の群れを貫通してイカレさんに迫る。

 

「クソボケがッ!」


 彼は咄嗟に背後に居た小鳥を掴んで彼女を庇うように──いや、誤りだ。小鳥を盾にしながら──飛んできた光線を見きって回避した。

 当たってたらまず彼女は爆死していただろうが。

 盾にされるがままの小鳥がのんびりと言う。

 

「イカレさんの容赦無い鬼畜っぷりにはトキメキすら感じます。危機なときに本性出ますよね」

「避けたんだからいいだろ別に。っていうか何だあの光線。レーザーとかいうのか?」

「いえ、今度は弾速と効果からしてSFっぽいビームですね。さすがにビームの種別は判断できませんけど、爆発するぐらい高熱を持った水鉄砲をすごい勢いで飛ばしてるような感じ」

「対策は?」

「レーザーよりは遅いですよ?」


 小鳥の言葉と共に爆煙晴れない通路の向こうから、再び「フヘハハハハ」という笑い声と盲撃ちに連射されるビームが多数飛来してきた。

 イカレさんは悪態をつきながら自分も多数の鳥を召喚して突撃させつつ、小鳥を盾に逃げ回る。時速にして300キロメートル程度の速度で上下左右に放物線を描きながら飛んでくるビームだが、彼の動体視力からすれば何とか避けるのは苦ではない。

 それが単発ならばだ。

 突然前方の通路より豪風が発生した。足を取られまいとイカレさんは動きを止め、耐える。小鳥を担いでいるのも重しとして役に立った。

 爆煙は全て流れ霧散する。通路の先では翼を一払いした絶光鳥の姿があった。片翼1メートルほどしかない羽根を扇ぐだけで凄まじい強風を発生させたのだ。

 かつての神話で出てきた絶光鳥と見られる霊鳥が扇ぐ羽根が世界中の風を生み出すと言われていたが──イカレさん目元を抑えながら虹色の眼差しを凝らした。

 絶光鳥は叫ぶ。


「そこかああ!」


 同時にビームが放たれた。十本ほどのビーム光が別々の方向から彼に向かってに放たれ、収束する。

 風に耐えるために踏ん張っていた彼は避けるのが遅れた。彼が思うのは、こりゃあ盾を貫通されちまうという事である。

 冷静にビームを見ていたのはイカレさんだけではない。

 小鳥は小さく指示を出した。


「ダイジョブです。動かないで」

「よっしゃ分かった!」


 イカレさんは迷わず盾を見捨てて身軽になった体で、フォロウ・エフェクトを発動させながら転げるように避けた。

 着弾点に残された小鳥は無言でポーチから幅広の斧を取り出し、盾のように構える。

 第二黙示の剣斧『ロートレイターアクスト』である。

 ちょうど斧の側面に収まるように収束したビームが──全て反射された。うち、一本はやや外れて彼女を見捨てて避けたイカレさんに掠って「うわッ熱ィ!?」と悲鳴を上げさせた。

 小鳥は振り返って転げたままの彼を半目で見る。


「……イカレさん、動かないでって言ったのに」


 あっさりと彼女を置いて逃げまくった彼は気まずさの欠片も見せず、立ち上がったあと図太い態度で言った。


「ふゥ……手前ならやれると信じてたぜ」

「この人の最悪さはツンデレどころの話じゃない気がしてきました」


 嫌いじゃないが。小鳥が溜息混じりにしていると、絶光鳥の声が再び上がった。


「ほう、面白いものを持っているじゃないか貴様」


 小鳥は動揺したようにポーチから小さな道具を取り出して見せる。


「なっ……わたしがこのお尻の形をした面白いケシゴムを持っていることを見ぬくとは」

「本当に面白いもの持っててどうすんだアホ! っていうかそれ面白いものなのか!?」

「ケシカスが妙にリアルだって小学生にはバカウケですよ」

「知るかああああ!」


 イカレさんが全力でツッコミを入れるが、聞いているのか聞いていないのか絶光鳥は言う。


「ふん、気に入ったぞ小娘」

「え。この尻ケシがそんなに気に入ったのですか」

「それもあるが!」

「あンのかよッ!」


 イカレさんも疲れてきたようであるが、同時に事態を打開するための魔力回復を待っている。

 絶光鳥と契約するにはあれを心底打ちのめして弱らせて、自分の魔力で服従させ無くてはならない。契約術の魔力判定は今のままでは失敗に終わるだろう。

 下手な属性攻撃の効かない上に全身をフォロウ・エフェクトで守っていて物理攻撃の威力も半減する絶光鳥を弱らせるのは骨だ。常に大物量で攻め続けるか高威力の鳥を召喚するか……このような狭い空間では前者は選べず、後者を選ばざるをえないのだが如何せん反撃が痛い。

 あまり自身の魔力を使い続けたら防御用のフォロウ・エフェクトも使用不可能になるし逃げまわるにも限界が出てくるだろう。

 唯一絶光鳥の弱点である闇属性に身を固めたアサギが居れば楽だったのだが──はぐれてしまっている。三流程度の魔法使いな小鳥の闇魔法ではたかが知れている。

 

(──そもそも、俺が誰を当てにするって?)


 皮肉げな思いが頭に浮かんで笑いを噛み殺した。随分ヌルくなった気がしたのだ。

 やや遠く離れているため、小鳥はメガホンを使って何やら尻がどうとか絶光鳥とTALKしていた。


(つーかなんで尻?)


 遥か遠い記憶にある、自身の父親が使役していた絶光鳥はあんなんだったかと小さく首を傾げる。

 ともかく。

 尻トークがいつの間にか終わっていて戦闘は再開へと向かう。

 変化は顕著だった。100メートル離れている絶光鳥の周囲の光が妙な円状の立体模様を描き出したのだ。

 それはまるで柱のような──砲のような。

 

「さて、次は避けられるかぁああ!? 我がビッグキャノンをおおお!」

「ちょっ、おいマジかよ」


 創りだされた魔力水晶[カイラス]に生まれた2つの光のリングの中で、荷重光粒子が急速に加速をしだす。

 加速した粒子は圧縮、縮退を繰り返し密度を上げて重力崩壊寸前までエネルギーを昇華させていった。

 

(おいおい、マズイだろ)


 イカレさんは思う。

 神域召喚術は異界の魔物を使役する術で、異界からこっちの世界へ引っ張り込まれた魔物は世界の修正を喰らい存在級位が落ちているために本来の能力は発揮できない。召喚士から魔力供給を受けてのみ驚異的な必殺技を使えるのだ。

 だから絶光鳥の使う幾つかの強力極まりない攻撃は軒並み使用不能になっていると思っていたのだが──


「フヘハハハ! 貴様の召喚術の魔力は全て頂いている! 召喚士から供給されたようになああああ!!」

「クソがっ! 皇帝鳳凰なんて出すんじゃなかったぞオイ!」

「『カイラスの一撃』コントロール掌握。エネルギー充填開始……フハハハッハハハハハヒャハハ!!!」


 絶光鳥が広げた羽根から青と虹色を混ぜたような光が広がり、羽ばたく光翼が正面の通路を埋め尽くした。それが光の加速器へどんどんエネルギーを送り込んでいく。彼の練り上げた皇帝鳳凰の魔力を吸収してエネルギーは充分にあった。

 小鳥は狂ったように笑う絶光鳥にロートレイターアクストを向けながら訪ねた。


「イカレさん次は何が来るんですか?」

「主砲だ! 小惑星程度ならぶっ壊せるぶっとくてやべえ攻撃で……この通路じゃ逃げ場がねェ!」


 彼は通路の幅と高さを見ながら怒鳴る。

 物質化寸前まで高純度になったエネルギーの奔流は触れただけで消滅を免れない。地表に向けて撃ったら地殻まで突き抜けるほどの威力がありあまり大気圏内で使うなど狂気の沙汰な粒子加速砲である。

 防御は不可能。回避するには広さが足りない。イカレさんは歯噛みする。いかに攻撃を跳ね返す斧とはいえ、それだけで体全てを守れるわけではないし出力自体が斧にかけられた魔法を凌駕するかもしれない。

 小鳥はいい考えがあるとばかりに告げた。


「①愛されガールの小鳥は突如反撃のアイデアが閃く。

 ②仲間が来て助けてくれる。

 ③かわせない。現実は非情である」

「いいから反撃のアイデア出せよオラァァァァ!!」

「腹パンなう」


 容赦なく小鳥の腹を殴るイカレさん。彼も焦っているので下手なボケに付き合いきれないのである。

 そうこうしているうちに、


「発射照準合わせ。目標、前方の召喚士ほか一名。エネルギー充填100%……発射準備完了」


 光によって創りだされた仮想砲塔から溢れ出さんばかりのエネルギーが膨張するように朱色に輝き出している。

 もはや止めることもできない状況だ。小鳥は慌てずに対抗策を云う。


「貴方は何か道具を使用してもいいし、神に祈ってもいい。

 必要な道具がある場合は→49へ

 神に祈る場合は信仰度と振ったダイス目の合計の数値が15以上なら→40へ 以下なら→41へ

 何もしない場合は→33へ進め」


「進めじゃねェだろ!?」

「いえ、なんかこの『イベントフラッグ』を持ってると妙な選択肢が」


 二人でドタバタと対応に迫られていても制限時間は迫り、やがて時間切れになる。

 抑え切れない哄笑と共に無慈悲な宣言がされた。



「ビィィッグキャノンである!」



 致死の光は放たれた。轟音とともに直進する膨大なエネルギーの帯。

 ダンジョンの通路をまっすぐと融解・消滅させながら直進し突き当たった壁に爆発すら溶かし尽くす穴を開け、地面を抉り削り水蒸気爆発を起こしながら進んだ。

 絶光鳥ヴェルヴィムティルインの視界には黒い破壊痕が遥か彼方見えなくなるまで続いている光景しか見えなかった。

 一瞬遅れて生ぬるい風が大気ごと消し去った[カイラスの一撃]の攻撃後に嵐のようになだれ込む。

 直撃に耐える物体は存在しない最強の矛。

 荒れ狂った行き場のないエネルギーはここが空間の隔絶されたダンジョン内でなければ地上に大きな被害を齎していたであろうことは被害を見ても知れた。




 *******




 小鳥は──その光景を、発射した絶光鳥の数十メートル後ろから見ていた。

 

「ぐ──駄目だ──意識が」


 か細い声とともに、彼女の手を掴んでいたアサギは地面に倒れて意識を失った。

 彼の背中にはパルが乗っており、そして唖然としている小鳥の背中には彼女を盾にしようとしたイカレさんが居る。

 カイラスの一撃が直撃する瞬間。パルの聴力でイカレさんと小鳥の声から座標を把握したアサギが空間転移で現れて、二人を掴んで再び転移で逃げたのだ。光よりも早く移動する『無限光路』ならば間に障害物があっても問題は無い。

 だが。

 一人で短距離に使用してもアサギに激しい頭痛が襲ってくる副作用がある。それは複数人数であっても、その人数分アサギの負担が増えてしかも連続で長距離を転移したのだ。

 脳と神経が焼き切れるような痛みも一瞬。すぐにアサギは意識を失った。脳が破裂して死んでしまうと言われても信じたくなるような反動であったのだ。そうまでしなければ助けられなかったのではあるが。

 土壇場で仲間が助けに来て窮地は脱したものの、アサギは戦闘不能になってしまった。小鳥は「王大人死亡確認」などと言いながら脈を測っているが、死んでない。生存フラグのためにわざわざイベントフラッグを持たせながらやっているだけだ。


「コトリさん、大丈夫ウサか?」

「とりあえずは大丈夫ですけれど……マズイですね」

「あァ。さっきのやつァ魔力の問題からもう撃てねえだろォが……アサギが死んでるのが痛ェ」

「いや死んでないウサけど」


 倒れているアサギを残して逃げるわけにもいかない──というか折角見つけた絶光鳥から逃げるのは勿体ない──むしろあの鳥ムカツクからぶっ殺したい──イカレさんはそういった複雑な思いで、命の恩人であるはずの魔剣士を一瞥する。

 今は勝利の余韻に馬鹿笑いをしているヴェルヴィムティルインだが、すぐにこちらに気づくだろう。そうなれば戦闘再開である。実質戦力にパルが追加されたとはいえ、決定打を入れるには難しい。

 イカレさんはガリガリと神経質そうに頭を掻いて愚痴をこぼす。


「クソが……ここが狭ェ場所じゃなけりゃやりようは幾らでもあるんだが」

「狭い場所……ウサウサ」


 パルがその言葉に反応したように繰り返し、少し目を瞑った何度か頷いた。

 そして溜息に似た──躊躇を吐き出し腹を据えるような息を吐き出して、珍しく真剣な声で言う。


「ボクにとっておきの方法があるウサ。その為に協力が必要ウサ」


 彼は真剣な顔で小鳥に顔を向けて、自分が思いついた重要な事を頼む。


「コトリさん……」

「はい?」





「今すぐボクのタマタマを握り潰してくださいウサ。キリッ」





 コイツから死ねばいいのに。

 小鳥とイカレさんはスカートをたくし上げる馬鹿を見ながら凄く真面目にそう思った。 

 

 

 

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