序章Ⅱ
ヴァオレイン王国は魔法界でも、豊かな国だと言われている。
村や都市の格差は多少あるものの、貧困に悩む民衆は少ない。スラム街と呼ばれる地域はあるが、国や組合等の慈善団体の活動が行われているためか、他国と比べて治安が良い。
そんなヴァオレイン王国だが、唯一、汚点とされる時代がある。
ヘイゼル五世の時代に起きた、西部ベルスタン王国との戦争だ。通常モニカ戦争。
戦名の由来は、ヴァオレインとベルスタンの国境に位置する旧モニカ村からきている。そこが戦場となった。
ベルスタンは、今から百二十五年前、ルベルト一世により建国された。西部の中では最も新しい、つまり歴史が浅い新興国だ。建国当時は国力も無く、領土拡大のチャンスを目論んでいた列強の餌食となった。当然ヴァオレインも目をつけ、ヘイゼルは早速、兵士を送った。ベルスタンはヴァオレインの植民地にされる、誰もがそう思っていた。
しかし、ベルスタンは世界最大国家と恐れられてきた隣国との戦争に勝利し、ヴァオレインの領地だったモニカ村を奪った。モニカ村は王都へ輸出する小麦を大栽培する農村だったので、大打撃を受けた。
この戦争により、ベルスタンの地位は上昇。
それまでヴァオレイン側だった東部ゴートルーナ帝国と北部ポルバトス国がベルスタンに乗り換えるという事態も起きた。
数十年と時が流れた現在――
かつて戦争をした二国は貿易という手段で繋がっている。
だが、野心・欲望・憎しみを糧としてきた王族。プライドの高い、傲慢な貴族達。そして彼等に身をささげる騎士や衛兵、王室魔術師は。
汚点の時代の原因となった存在をどんな思いで見ているのだろうか。
ヘイゼル五世が逝去し、前国王が即位して。数年前に現国王が元首となって―――
王家に、その魔法族が誕生した。