アレが如く
24時。
シンデレラならば魔法が解ける時間だが、私たちは飲み会の解散の時間である。
魔法は解けないが、財布から金が出て行く。
山の手線の知子さんと、夜勤を控えた恋頃ちゃんと別れ、ミハルと一緒に西武新宿線に飛び乗る。
つり革にしがみつき、二人で今期のアニメの外れは何かとか、これの作画がクソだとか、監督のオナニーがどうだとか、オタク特有の愚痴をこぼし合いながら、辛子色の電車にゆらゆらと揺られる。
勢いでかなり飲んで酔っていた私は、終始テンションが高く、甲高い声で萌えーと仰け反った。
その度にミハルは顔を背けていたが、あまり気にはならなかった。なんてことない、いつもの事だ。
そして気づけば田無駅。
利用者人数が隣の花小金井(各停)に抜かれても尚、快速停車駅として王様を気取る残念な駅。
電車に留まるミハルと別れ、覚束ないあしどりで大歩道橋を歩く。
途中、歩道橋の真ん中で立ち止まり、ケータイを開く。白のガラケー。ストラップは付けていない。何を隠そう、私はガラケー信者なのだ。
知子さんには「縄文人」扱い。ミハルには「日本の曙に間に合わない」とか散々バカにされているが、ガラケーなしでは生きていけない。ガラケーで、文字を打ち込むのが私の生きがいだ。
ガコガコとボタンを押し、メール受信履歴を眺めた。
そこには、1人の男の名前がずらりと並んでいる。
言っておくが、私だって友達は居る。ミハルじゃあるまいし、メールだって頻繁に来る。
要するに、この男から猛烈なメール攻撃を受けているのだ。
その内容は――
『ケンカが強い』
ふーん、すごいね。
『No.1ホストとダチ』
ふーん、お友達多いの。
『歌舞伎町は庭』
地理強いのかー。うらやましいなー。
『熊を倒した』
あらまぁ、お強いんですねぇ。
つーか何だよこれ!!!!
そんなヤツ、龍が如くでしか見たことねぇよ!!!!!
もしかしてあんた……背中に龍がどかーんと泳いでるあのお方ですか!!!!!
いろんなもの極めちゃってるあの人ですか!?!?
ねえ、ブログ教えてよ!
天啓のブログ教えて!!!
と、まあ、誰が見たって嘘だとわかるような余りにファンタジーすぎて逆に笑えてくる自慢がずらーっと並んでる。
こやつ。先日、バイト先で出会った男。
アドレスを交換した途端これだ。何なんだよ、一体。
顔は某お笑いコンビの角野卓三じゃない方ではない方にそっくり。もはやどっちだよ!
どっちでも変わんねぇよ! 韓国と北朝鮮ぐらい変わんねぇよ!!!
まぁーそいつが私の事、ちっとも知らない癖に執拗に勝手な事ばかり言ってくる訳だ。
見た目なんてどうでもいいけどさ。
私の事を理解して、私を幸せにしてくれる人ならば、それでいいんだけどさ。
こいつはアリ・ナシの問題じゃねぇだろ。
とか思ったていたら、またメールが来た。
出たよ自撮り写メ。
お前じゃなくて早くメールの中の人出せよ。堂島の龍出せよ。そんで秋山さん紹介して貰うんだ。ぐふふ。
つーかさ、そもそもだよ。
どうしてコイツは私を選んだんだ?
バカそうだから?
ロリータだから?
すぐヤれそうだから?
……あーあ、ひっでぇ話。