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オープン価格女と太鼓持ち女

どうやらミハルは合コンというものをまるで分かっていないらしい。

とりあえず辞書引けよ。つーかググれよ。オタクなんだからそれ位できんだろ? インターネットはリヴァイ兵長のえっちな絵を見るためにあるんじゃねーんだよ。

と、思ったけどそれを全部飲み込んだ。飲み込んだ上で「大人なあきなさん」の仮面をかぶる。


「恋頃は誘わない方がいいんじゃない? 3人なら私と知子さんのがいいと思うよ」


そう。恋頃。

山崎恋頃はいわゆる美女という奴だ。並のハーレム系ライトノベルなら一番人気兼本命ヒロインを張れる程の美貌を備えている。

それ、どれだけ凄いかわかる? あの美女が大安売りしてるモブすら美女の世界観の中で頂点を張れるんだよ? おかしいよ、それ。科学の技術じゃ生み出せない美貌だよ、あれは。

ただし、口を開いてわけわからん単語を並べるのと、湯切りをやめさせればという条件付きだが。

このままじゃハーレムラノベの世界に行ったところでせいぜい電波ポジションだ。本命ヒロインにはなれそうにない。本命ヒロインは健気なのが重要だと思う。恋頃と健気は一生相容れない位置にある単語だ。


『でも……セッティングしてくれるし、誘わないと悪いよ……』


ミハルは本当にいい子だなぁ。でもね、女の世界はいい子が泣きを見るんだよ。ただのいい子は地味ってレッテル貼られて売れ残ってしまうんだよ。怖いねー。ああ、怖いよ。ちなみに私もいい子だと思うよ。職は無いけど。


「本っっっ当に分かってないなぁ。恋頃は女子会は好きだけど男嫌いだよ。合コンとか好きじゃないよ」


と言った瞬間、見知った顔とすれ違った。


恋頃だった。

しかもただの恋頃じゃない。右側に男を連れた恋頃だった。彼女は、私に見向きもせずに男と喋っている。え、喋れるの? 単語以外にも言えるの?

二人は、人込みに紛れ、ドン・キホーテへと続く靖国通りの人混みにかき消されていった。私は思わず携帯電話を顔から離してポカンと口を開いた。


「……驚きペヤング」

『は?』


ミハルの不満気な声。冗談なんて聞きたくないようだが、それはこっちも一緒だ。この電話、一秒でも早く切りたい。


「あ、いや、何でもない。それで、やっぱ責めて知子さん入れない? 私パスするからさ」


知子さんは「仕切り屋」だ。これは最強のスキルだと思う。どんなに女性として魅力的でも、合コンのような場ではたちまち「幹事」という記号扱いにされてしまう。女性陣には心強い存在だ。本人の気持ちは知らないけど。


『でも……知子さん紹介とか好きかな?』

「大丈夫だよ、ミハルの頼みなら喜んで受けるから」


そしてできれば私は誘わないで欲しい。マジで。


恋愛なんてしたくない。

恋愛はめんどくさい。

恋愛は悪だ。


アラタに告白されてから一層思うようになった。


恋愛なんて、私の人生には必要ない。


 *


その夜。自室。指に生えた毛の手入れをしながら。

親友が生まれ変わるために、私はすがり付いていた。


「知子さん、合コン来てよ」

『嫌よ。何で私がそんなの行かなきゃいけないの?』


電話口の声はまんざらでもなさそうなのが腹が立つ。頼られて嬉しいなら素直に言えばいいじゃんか、もー。


「ミハルのためなんだよ。ミハル、今恋がしたい盛りだからさ」

『それとこれと何が関係あるの。私が絡んだところで何が変わるのよ』


いや、大アリだ。記号扱いされる知子さんが居ればミハルの序列がひとつ上がるんだから。


「いや、知子さんは幹事能力高いからさ。いい会になるんじゃないかな? って」


そんな事言ったらまた説教コース一直線だから、ここは太鼓を持つ事に徹しようと思う。丘崎あきなの魔法のでんでん太鼓にの不可能なんてない。あ、就職関連は除くね。不可能あったわ。メンゴメンゴ。あっぶねー。アメリカなら訴訟騒ぎになるとこだったわ。


『私、紹介とかチャラついたの嫌いなのよね』


出たよ。安くない女アピール

。齢29が何オープン価格名乗ってんだよ。お前なんてセールの再値引きだかんな。アウトレットどころか100円均に売られてても売れるかどうかのレベルなんだかんな。危機感をもっと抱けよ。そんなプライド抱いてないでさ、とっくに型落てるのに気づきなさいよ。


「知子さん頼むよぉ~私だって恋愛したくないんだよ。なのに合コン誘われてんだから協力してよぉー」


あ、やば。知子さん、アラタとの顛末知ってるかもしれないのに何口滑らしちゃってんだよ。ここは氷上じゃないんだよ。何ソチ五輪何一人で先に開幕しちゃってんだよ。


『……アンタ』


来たよ来た来た、説教コース一直線だ。マジでオワタ。

一応パソコンの時計を見て時間を確認する。あー、23時か。これは徹夜覚悟かも。

ま、明日の予定なんて無いんだけどね! 無職だもんね! ほんと良かった! 全然良くないけどね!


『セックスしたいって言う癖に恋愛はしたくないの?』


ってあれ? そういう反応?

そっか、アラタ、話してないんだ。あー、ってなると本気なのか。あ、いや。やっぱイタズラだったのかも。取るに足らないやつ。

って、あーもうっ! いい! アラタの話はもううんざりだ!!!

それにしても知子さんの呆れてものも言えないという感情が詰まりに詰まった口ぶりだ。

ものも言えない癖に説教は長いんだから、この女の存在は本当に罪深い。


『それ、ハンバーガーのパン抜きってがいい言ってるようなモンよ』

「ハンバーグじゃん」


知子さんはほんと馬鹿だなぁ。そっか、仕事終わりで疲れてるのか。しょうがないね。


『肉食って言いたいのよ。察しなさいよ』

「なんでもかんでも比喩して文字数稼いだところで言葉に何の価値もないじゃん、ふぁああ、ねむ」

『こっちが折角アドバイスしてあげてんのにアンタ、どんだけ図々しいの? どういう教育受けた訳?』


教育とか。29にもなってオープン価格してる型落ち女に言われたくないわ……。

っていうか知子さんに限らず、女の口から出る「こっちが折角」からのサムシングは往々にして聞き流すのが得策だ。そんなワケで心の耳栓でシャットアウト。聞こえなーい。


「だって恋愛とか面倒じゃん。自分が好かれるとかマジ有り得ないし」


例えばアラタとか。あんな不発弾、存在しているだけで恐ろしい。どうしてくれる。


『ひねくれてるわねぇ……。ま、どうせアンタを欲しがる物好きなんて心配しなくても居ないわ、大丈夫よ』


居たんだけどな、物好き。しかも言ってるお前と二親等だかんな。

あー、まああれは冗談かもしれないけどさ。わかんねー。


「ねえ、知子さん。ミハル、合コンしたいとか絶対どうかしちゃってるよね?」

『私から見ればアンタの方がどうかしちゃってるわよ。お祭り好きの癖に何尻込みしちゃってんの?』


そうだ。


私は今、誰かから好かれる事を異常に恐れている。

だから自分らしさを捩曲げようともしている。


発端は何だろう?

やっぱりアラタ?

ううん、違う。


樹さんだ。

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