お局、腐女子、謎の美女
「実在? 君、面白い事を言うね」
「ははぁ。すいません」
反射的に謝っていた。
なんか、存在してすいません。私が実在してすいません。
「あ、そうだ。キミの服はあそこにあるよ」
イケメンが指さした先には、見覚えのある衣服の山。
私のクローゼットの中でも一軍スター選手にあたるイノセントワールドの2万円近くするスカートが綺麗に折り畳んであった。
まあ楽天で中古で買ったやつだけど。すごいね楽天! 何でもあるよ!! 楽しい駅! 滅多に電車は来ないけど!
って服?
じゃあ私は今、何を着ているんだ。
「ああ、服はこっちで用意したんだ」
私が纏っていたのは見知らぬオシャレTシャツだった。
バンドマンとかがよく似合うやつ。
私にはあんまに合わないやつ。
え?
どゆこと?
え?
あれ?
え?
ちょっと待って、考える時間くれ! 3分間待ってやろう。
「えーと……その……」
「きのうは凄かったね」
バルス!!!!!!!!!!!!!!!!!!
それバルス!!!!!!!!!!!
バルスあざまーーーーーーーーーーーーーーーーっす!!
シャシャッシャシャーシタァ!!!!!
とととととととととと……という事は……。
この人と……
この御仁と……
この現物神・風早様(しかも絶対高年収)と…………
着替えを必要とする行為を致したああああああああああ!!!!?
にっこりと、コーヒー片手に微笑むイケメン。
そして私。
部屋と私とTシャツとそしてイケメン。
そしてベット!!!!
つまり見たのか。
イケメンは私の全てを見たのか。
そいつはつまり、私の(アーン)の奥にイケメンの(アーン)が君に届けしてしまったというのか!!!!
「いぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!!」
落ち着け。落ち着け丘崎あきな24歳!!
昨日何があったかよーーーーく思い出すんだ。
さすればおのずと何か見えてくる!!!!
レッツダイブ、記憶の海!!!
それじゃあ回想、いってみよー!
―*―
魔都・新宿の21時。
人通りも少なくなってきた西口の片隅。とある居酒屋、角の席。
そこで月に4回、4人の女が会合を開く。
私達は恋愛を「悪」だと仰ぐ、生粋の現代女性。
それと、ここだけの話、ユニコーンに乗れてしまったり、攻め込まれる事のない、優秀な城だったりする。
――要するに、処女なのである。
まずはメンバーを紹介しよう。
「あーあ、セックスしたいなぁー」
丘崎あきな、24歳。皆さんお馴染みのこの物語の主人公・つまり私だ。
あきなは「商」と書いて「あきな」と読む。いわゆるキラキラネームというやつである。
余談だが、父は「士」、母は「工」、妹は「農」と、家族全員がキラキラと眩い煌きを放っている。
まあまずこれ、社会的ハンデだよね。なので基本的に名前は平仮名で書く事にしている。
ちなみにロリータをしている。系統はクラシック。
今日もマルイの店頭で新作購入すれば累計7万は下るであろうコーディネートでガチガチにフリル武装している。
これをドラクエ的に例えれば、メタルキングシリーズを全身に身にまとってると思って頂ければいいと思う。
「バカな事言ってんじゃないわよ。歌舞伎町にでも立ってなさい」
そんな私をバカ扱いしたのは南波知子。29歳。29歳のクセに処女。
仕切りたがりのキャリアウーマン。ファッション雑誌を出している出版社勤務。
派遣社員にして神よりも偉いとされるお局様として君臨中。
派遣のみならず、社員やバイト、役員、清掃員すら。会社中の女という女を従え、今日も崇め奉られている。
そんな彼女達も、まさか、彼女が実は処女だ、なんて夢にも思うまい。
容姿に関してだが、「絵画から飛び出したような」なんて表現はよく言ったものだと思う。
本当に絵画から飛び出たような、自己主張しなすぎて逆に目立つ控え目なお胸を持たれていらっしゃる。
やーい貧乳!
「私なら……相手は選びたいですよ……」
弱気に言って肩をすくめるのは坂入ミハル。
福祉系NPO勤務。ついでにオタクの25歳。
街を歩いているとよーく見かける、どう見てもユニコーン乗れちゃう系の女の子。処女の鑑。THE処女。
平日はいつも黒のタートルネックに豊満なバストをぶち込み、細い脚を白いズボンに納めている。アクセサリーは銀の時計のみ。
しかもこれ、この前さ、島忠でおんなじの見かけたんだけど。
「バナナ。おかわり」
この店にバナナなんて物は無い。
なのにバナナをむきむきしてモグモグする謎の女は山崎恋頃。20歳。職業、住所不明。
美人、なのに処女……らしい。
この子はよくわからん、よくわからんけどかわいいからモテる。だけど処女、らしい。自称なんてどこまでも自称だ。だけどなんか知らないけど一緒に遊んでる。
そんな訳で、20歳を越えても売れ残ってしまった私たちは、冴えないネタを肴に今日もダラダラグダグダと中身の無い話を垂れ流す。