ミハル、理想の出会い
問 あなたは今の自分に満足していますか?
――南波知子(29)の場合
「ええ、満足よ。仕事が好きだし、相応の収入もある。プライベートも充実しているわ」
問 嘘つけ
「ま、満足よ!!」
問 ぼっちでカフェで充実するなんて随分安い価値観だなぁ
「うるさい!」
問 っていうかもしかして孤独が好きなの? 心の内では「俺に関わるな」とか思ってるの?
「ちちちち違うわよ!!」
――山崎恋頃(20)の場合
「……ペヤング」
問 そうですか
「……毎日……6食……いきたい」
問 マジで!?!?!?
――坂入ミハル(25)の場合
「私、ずっと自分が嫌いでしょうがなかった……」
問 あ、これ面倒なやつかも……。
「オタクで暗くて友達少なくて……腐女子の仲間もジャンルが変わったら自然と離れて行って……もちろん男の人にも相手になんてされない……そんな自分は嫌いだけど、諦めてた」
問 あのー、別にいいんだけど、原稿の字数に収まる程度にしてね?
「だけど! この間失敗して、すごく反省して……変わりたいって思ったの!」
問 あーあ、この間のツインテールね。ふーん。そっかそっか。それより知子さん、終電の時間調べて貰ってもいい? 電池切れちゃった
「違うよ! コンビニだよ!!」
問 は!? なにそれ、知らないんだけど!!!!
―*―
私がアラタと電話をしていたその頃――
お菓子と頼まれた黒ウーロンを買いに、ミハルはコンビニへ向かっていた。
化粧をすれば変われるんだと、どこかで期待していた。
だが、結果はサッパリ。
化粧の力を借りてすら変わることのできない自分の醜さに心底落胆した。
しょんぼりとしたままコンビニに入り、あきなに頼まれた黒ウーロンを取って菓子売り場に向かう。
悲しい時は甘いものに限る。
「あっ」
菓子を選んでいたら、黒ウーロンを間違えて落としてしまった。
それを拾い上げる前に、誰かの手が伸びる。
すらりと伸びた、骨ばった男の指だ。
ミハルは顔を上げる。黒髪で目鼻立ちのはっきりしたイケメンだった。しかも背が高い。
「落としましたよ」
これぞ理想の出会いじゃないか。
ミハルは胸の鼓動の高鳴りを感じる。
「あ、あの……」
ここから恋人になり、あわよくば結婚へ。
頑張れ、やれるよミハル!
ミハルは自分を鼓舞し、振り絞った勇気を声に乗せる。
「ありがとうございます」
ごにょごにょと口の中で転がすような声。
どうしようもなく恥ずかしくなってミハルは顔を伏せた。
どうしよう、男の人ってだけで苦手なのに、カッコイイ人を前にしたらやっぱり何も考えられない!
あ、でもちょっと肌が汚い。それにシャツの襟がヨレてる。
だが、この際多少の粗は気にしない。理想の男性は液晶の中にいるのだから。
出会って、恋に落ちて、キスして、結婚して、子供が生まれて……!!
心の中で理想の恋をシュミレーションしていくうちに、自然と鼻息が荒くなっていく。
しかし、イケメンはミハルにペットボトルを手渡し、何も言わずにレジへと去って行った。
「あ……」
ミハルはしょんぼりと肩を落とす。
勇気が足りなかったんだ、きっと。
だが、イケメンが一度振り返った。思わぬチャンス到来にミハルは次の一手を探る。
「あ、アドレス教えてくだ……」
「キミ、鏡見た方がいいよ」
へ?
「行こう、たっくん」
店の扉の前には、イケメンを待つ女がいた。
「誰と話してたの?」
「ん、ヘンな女。暗そうな」
鏡?
ミハルは慌ててトイレに駆け込む。
そして声にならない叫びをあげた。
目の周りがパンダのようにぐちゃぐちゃになっている。
そうか、化粧をした目をこすったからだ。
すっぴんの時と同様に!!!
そしてあきなの顔を思い浮かべた。
あの女……よくも私に余計な事を……!!!
化粧なんて金輪際するもんか!!
ミハルはそう心で強く誓ったのだった。




