バカじゃないし、大卒だし!
そしたら、クスクスと笑い声がした。
しかも男の声。
ケータイ泥棒か? と思ったが、南波家に居着く虫の存在を思い出してその可能性を打ち消した。
「あんた、アラタでしょ」
『正解』
少しハスキーでナマイキそうな声だ。
やっぱり。
アラタって、こういう質の悪いいたずら、好きそうだもんなぁ。
外からは車の行き来する音が聞こえる。
眠っている知子さんのケータイを持ちだしているのかもしれない。
ほんと、イタズラ好きにも程がある。なんて奴なんだ。
「どうして知子さんの電話からそんな事したの」
まあ、理由なんてないと思うけど。
知子さんを除いた3人の中で、からかったら面白そうなのって多分私じゃん。
っていうか私の事、リアクション芸人とでも思ってんじゃないの、こいつ。
『だって連絡先知らないし』
「あー、そういや渡してなかったね、連絡先」
そういうの興味なかったし。
それに、赤外線ならまだしも、わざわざ書くなんて面倒じゃん。
だから、ミハルや恋頃ちゃんと違って、私はアラタに連絡先を渡さなかった。
「それにしたって知子さんのケータイ借りるとかないじゃん。私の番号なんか、教えて貰えるんだし、自分のケータイからかけなよ」
『ばーか』
何?
今なんつったコイツ。
バカとか言わなかった?!
「バカじゃないし、大卒だし!」
そうは言っても日東駒専で、宮藤官九郎の出身校でない上に、駅伝も弱いド平凡な大学である。
当然ながら、私の梵英心の出身校でもない。(もちろん誤記ではない)
大学名を聞かれてもいまいち胸を張ることはできない、あの大学。
就活生界隈ではギリギリ人間扱いをされるかされないかレベルのあの大学。
『ちげーし。お前さ、知らない番号から電話掛かってきたら出ないだろ?』
何言ってんだろ、コイツ。さっきからアラタの意図が理解できない。
「当たり前じゃん。こんな時間だったら絶対出ない。アンタは出るの?」
『俺は出るかも。ねーちゃんも出る。仕事が仕事だし』
あー、確かに知子さんは出るかも。だって激務だし。
寝ているところに電話が鳴って飛び起きて、「蕎麦屋の出前だぁ? 間違え電話してんじゃないわよ!」ってブチ切れてガチャ切りしてケータイ床に叩きつけてるイメージ。
「えー、あんたらちょっと頭イっちゃってない?」
『ちげーよ、お前のガードが固いだけだし』
「……はぁ?」
私はアラタの発言に耳を疑った。
「ないない、だって私だよ? 見たでしょ? ホント、マジでないない」
『俺は、そう思う』
友達は皆、私の事を「軽い」って言うのに。
確かに口では「セックスしたいって」言う。
だけど、こんなでも。常識の範囲内で、簡単には他人に心を許さないとは思ってる。
あ、樹さんのゲロ事件はカウントしないでね。
つーか、こう書くと樹さんがゲロしたみたいになるよな。
風評被害も甚だしい。
ごめん、樹さん!
そっか、アラタは、私の事そういう風に見てくれてるんだ。
それって……すごく……嬉しい。
『少し、電話してもいい?』
アラタの声の急に真面目っぽくなる。
何改まってんの、コイツ。
「いいけど何かあった? もしかしてお悩み相談室系? 知子さんがそのダサくて吐き気がする金髪引っ張ってきたとか」
『……ちげーよばーか』
「あ、また大卒の事バカって言った!」
『大卒の癖に無職だろ、お前』
「はぁ!? ラ、ライターやってるし! コラム書いてるし!」
『その給料、月いくらだか言えるんなら撤回してやる』
「……お前も無職じゃん」
『なあ、月いくら?』
「……参りました」
すいません、言えません。
口が避けても言えません。
許してくださいごめんなさい。
『……別に、ただ未知の生き物の生態が気になっただけだし』
なんだそら!
「あ、あぁ!! 出たよロリータ差別! 差別反対! ロリータはファッションの一つですぅー。自己表現の一種なんですぅー!」
『もしかしてお前、自分が一般的なロリータだって思ってんの?』
「当たり前じゃん!」
『その自信は逆にすげぇ。マジでパねぇ』
なんだよそれ。
私ってロリータじゃん。ごく普通のロリータじゃん。
ロリータだって紅茶より焼酎が好きな場合だってあるんだよ!
スコーンも煎餅も同じ炭水化物じゃん!
体内に栄養素として吸収されたら大して変わらないじゃん!
野球が好きだっていいじゃん!
傘は無色透明のビニールだっていいじゃん!
高いんだよ、ロリータの傘は!
人生はマリオのバグみたいに容易く所持金が増える訳じゃねぇんだよ!




