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私がモテないのはお前に言われんでもわかっとる!  作者: 矢御あやせ
第3夜 俺はあきなが好きだ
33/44

必殺・チャラ男バスター

「……」


恋頃は何も言わずに黙っている。

っていうか、紙ナプキンで折り紙をしていた。

つーかドラゴン折ってるんですけど!!!!!

やべーーーそれどうやるの? 

後で教えてよ!!!

いやいや違うよ、反論しようよ恋頃……。

誤解解こう?


「こ、恋頃ちゃん……」


私は恋頃に目線で合図を送る。


「……」


恋頃は安田の方へと顔を上げ、陶器の仮面のような美しい顔立ちで、整ったピンクの唇を開いた。


「……うなぎいぬ」


だめだこりゃ。



そこで今日はお開きになった。

帰り際、恋頃はレジ前で安田に呼び止められた。


「こーころちゃん」


気持ち悪い程のニコニコ顔で、安田が恋頃の背後にぴたりと張り付く。

やっぱりこの男は蛇だ。


「……何?」


恋頃は安定の無表情。ミハルならまず間違いなくテンパるぞ。

本当に慣れてらっしゃる。


「予約表にサインお願いできひんー?」

「来る時間はいつも決まってるわよ」


知子さんがすかさず割り込んだ。

安田の笑顔が凍りつく。

知子さんはまるで害虫に殺虫剤を振りまくかのように、冷たい瞳で安田を見やった。


「ちごうて。来週の今日は団体のお客様が来るからあんたらを通せるか店長に聞かなあかんねん。忘れんうちに名前と連絡先をこのメモに……」


彼は予想外の邪魔に、明らかに焦っていた。


「あなたの言う事……早口でわからないんだけど」


恋頃の代わりに、知子さんがぴしゃりと言った。

アラタが私に向かって肩をすくめる。

ああ、お前も気づいたのか。

安田は恋頃ちゃんと話がしたくて、あわよくば文字を採取したいのだろう。

アラタの肩越しで、ツインテールのミハルが紙切れを持ってわたわたしている。

おいおい、まだ連絡先渡してなかったのかよ……。


「す、すんません。とりあえずこの紙に名前と連絡先を……」

「嫌よ」


チャラ男は、立ちはだかった「壁(知子さん)」によって見るも無残に砕け散った。

壁と言っても「壁(知子さん)」だ。決して「壁(知子さんの胸)」ではない。


「帰りましょ、ね。恋頃ちゃん」


恋頃はコクリと頷き、知子さんに背中を押され、店を後にする。

ミハルとアラタもそれに続いた。


「あ、あの、アラタくん……!」


私の前を歩くミハルがアラタの肩を叩く。

うん、こっちもよく頑張ってるな。


最後尾の私は振り返って安田を見た。

彼はギリィと忌々しげに奥歯を噛みしめ、知子さんの背中を睨みつけていた。

顔が語っている。「あんのババアァァァ……!」って。


だけど安田がキュンと来たのは知子さんの字な訳で。

あーあ……。

これはエライことになってきたぞぉ。


「ドンマイ」


私は安田の肩を小突き、ひらひらと手を降って地上へと続く階段を駆け上った。





恋頃がゴミ箱フォルダ直行の男性を増やしたその後、私は落ち込むミハルと一緒に西武線に乗り込んだ。

ツインテールをやめ、変身の解けたミハルは濁った瞳で虚空を見つめていた。

あー濁ってる。

瞳もソウルジェムもものすごい勢いで濁ってるよ。

魔法少女だけに。

もういいよ、休めよミハル。優先席に座ってゲームやってるバカどかしてやるからお前は座れ。

西武線に沿って流れていく夜闇の前には、いつもの私とミハルが映されていた。

私はロリータ、ミハルは地味。

見事に男ウケしないコンビである。

恋頃と知子さんは見た目だけなら華やかだ。

二人とも、胸は無いが容姿やファッションには定評がある。


私達は緊急反省会。

ミハルは今にも窓から飛び立ちそうな顔で窓を眺めている。

飛ぶなよ?

フリとかじゃなくて飛ぶなよ?


「ツインテールは違うんだよ、ミハル」


ミハルは泣き出しそうな顔で私を見る。


「ツインテールじゃなくてせめて化粧とかさ、最近の雑誌とか読もう?」


ファッション雑誌はいい。読んでるだけで女の子になった気分になれる。

かわいい服を着るのはもっといい。

ロリータ衣装に身を包めば、たちまちお姫様になったような心地がする。


「だって……お金も時間も漫画描く事に使いたいし……」


ミハルはそうだろう。

彼女はいろんなものを犠牲にして萌えにBLに突っ走っている。

それでストレスを晴らしているのだ。

確かにそういう生き方だってある。

だけどミハルが欲しいものを手に入れるには、少し変わる必要もあるのではないだろうか。


「知子さん、前にこう言ってたよ? せっかく女に生まれたんだからオシャレしなきゃダメよぉって」

「ぅう……」


本当は新宿ゴールデン街のオカマが言っていた話だ。

だが、それを言ってしまったらミハルには効かなくなる。

知子さんの衣を借りる事にした。


「うぅ……アラタくん、絶対私を変な女って思ったよ……」

「それは私だって一緒だよ。ずっと口で攻撃してたし」


口では言わなかったがアソコが小さそうだとも思った。


アラタの好感度については、私もミハルも大して変わらないだろう。

っていうか。所詮、私達なんて恋頃とそれ以外だ。

あいつに限れば知子さんとそれ以外かもしれない。

あれはきっとシスコンだ。


「貴重な一回の出会いをああやって棒に振るなんて……」


はあぁ、とミハルは大きなため息を漏らす。

向こう3年のおみくじが大凶になるんじゃないかって程大きいため息だ。


「アラタ、ニートだよ? いいの?」

「一生独りよりマシだよ……」


ミハルは米神を人差し指で押さえ、ぐりぐりとする。

ああ、追い詰められた女ってニートでも選べるんだ。

道理でヒモという言葉が死語にならない訳だ。


「ミハルはアラタを好き?」

「…………そんなに」

「それでいいじゃん」

「…………あんな恥かいただけで死にたい」


ごもっともだ。

つい頷いてしまう。


「……納得しないでよ。死にたいんだから」

「あー。ごめんねー。変じゃないよー。ミハルはかわいいよー」

「棒読みで言うのも逆効果なんだって」


乙女のゴキゲン取りは難しい。

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