人が恋に落ちる瞬間!
「アンタわがままだなぁ。でも、あたしに言わせりゃアンタ、追われるより追いかけたいタイプに見えるね」
「このロリータ、どんだけエライの?」
文豪なめんなよ。こちとて文字で飯食ってるんだかんな。
実家のおばあちゃん相手に平成の林真理子を名乗ってるんだかんな。
「私コラムニストだしぃ」
「私、実は魔法少女なの! クラスの皆には秘密だよっ」
ミハル、もう頑張るな。
アラタがスルーしてくれるうちに去ってしまえ。
他の皆にバレないように電車賃をポケットに忍ばせてやってもいい。
「あきなってコラムニストなの?」
アラタのだるそうで眠たげな目がパッと開いた。
「そ、結構人気ある雑誌で連載してんの。名前出せば皆知ってるんじゃないかな?」
私はエヘンと胸を張る。
「嘘だから気にしないで。それとも私が知らないだけなのかしら。ねえアラタ、月刊西東京って知ってる?」
知子さんのキアリーはよく効いた。アラタは目を点にして首を左右に振る。
「……そ、そのうちもっといい仕事するし!」
「どーだかなぁー」
アラタはケラケラと笑う。
とか言ってたらミハルが私をもの凄い形相で睨んできた。
親の仇みたいな。
いや、坂入一族の未来を考えれば1秒でも子種との接触を奪う存在は敵なのかもしれない。
そんな。取り合いじゃないんだし。
私はこういうの、興味なんてないんだけどなぁ。
しかし親友、ミハルの一世一代の頑張りには代えられない。私は口をつむぐ。
「す、好きなタイプとかどうにゃん? お、おとなしい子は好きにゃん?」
ミハルは顔を真赤にして口ごもりながら必死にしゃべっている。
それを私達は生暖かく見守るだけのお仕事だ。
ねえアラタ。ツインテールとかどうかな。
あれでも大分頑張ってるんだよ?
「……、それはご想像にお任せしますわ」
案外、アラタはいいやつなのかもしれない。
「あ、あのアラタくん、あの、えーと、れれ、連絡先教えて貰っていいですか?」
ミハルが噛み噛みになりながら言う。
アンタは、どんだけテンパるのさ。
志望動機話してるんじゃないんだからさ。
「あ、ごめん。ケータイ忘れたわ」
ミハル、どんまい。涙拭けよ。
「……書く」
おっとおおおお!?
まさかの恋頃さんからの助け舟とな!?
いいね、友情って素晴らしいね!
「じゃあ貰うわ」
アラタが言う。
ミハルは黙ってA4の入る黒いバッグを探り始めた。
だからさ、ツインテール当たるんですけど。
「……番号……アドレス……忘れた」
恋頃さん……。恋頃さん!!
立てて、ミハル立ててあげて!!!
「しょうがないわねぇ。私が書いてあげるから」
知子さんが大きめのブランドバッグからメモ帳を取り出し、さらさらと文字を書き始める。
私と恋頃ちゃんはそれに釘付けになった。
「すごいなー、知子さん、恋頃ちゃんの電話番号覚えてるんだ」
「あんたのも覚えてるわよ。もちろんミハルも、会社や水道局、東京電力、鍵屋も覚えてるわね」
凄いけど、普段ガラケー使いの私をバカにしてる割に、感覚が黒電話時代だな。
干物というより化石だ。これじゃあ。
メモに早い上に綺麗な文字がすらりと並べられていく。
私はほほぉと感心した。
数字ってこんなに美しく書けるんだ。
そして、字フェチの安田の事を思い出した。
「はい、アラタ」
彼女は、ぽいとそのメモをアラタに手渡した。
「ありがと。山崎さんね。後でメールする」
アラタはメモをひらひらとさせる。
「……こころって読む。こころでいい」
恋頃ちゃんは表情を変えないまま言う。
「何なにー? アドレス交換会?」
そこで安田がぬっとやってくる。
彼は、アラタの持つメモを見て生唾を飲んだ。
「綺麗やな」
安田の少し震えた声。
唇が半開きになり、目がメモに釘付けになっていて。
人が、恋に落ちる瞬間をはじめて――
「恋頃ちゃんの字」
うそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
「えぇ、これ知子さんの……」
「冗談きついっすわ、こけし!」
えぇぇぇ、こけしって私?!
「でしょー、恋頃ちゃんって字がうまいの」
と、知子さん!?
こ、こいつやりやがった。
本能的に危険を察知しやがった!!




