友達がツインテールで男誘惑した結果www
黙ってるところを見ると、アラタも肝心な時に人情を持ち出すタイプらしい。
死ぬ前にミハルに言わなくてはならない事がひとつできた。
この凍りついた空気を知ってか知らずか、ミハルはすっと私の隣に腰掛けて、上機嫌そうにニコニコ笑って右手を顔の高さまであげる。
「……さ、坂入ミハルにゃん……よろしくにゃん」
ミハ……………
ミハルうううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!
それは違うぞ!!!!!!!!!!!
絶対違う!!!!!!!!!!!!!!!!!
つーか何軽く握った手首にスナップ効かせてんだよ。
お前セカンドからショートに送球してる動きだよそれ!!!!
「にゃんっ」
猫じゃねーよ、梵に送球する菊池だよそれ!!!!!
「あきな、何で手首をそんなガクガク動かしてるの? 救急車呼ぶ?」
知子さんの冷えた視線が痛い。
っていうか言葉も随分辛辣だなぁ! 救急車ってあれだろ! 黄色いやつだろ!
言っとくけど都市伝説だかんな、あれ!!!
ミハルにそれを送れない分、知子さんのそれには二乗の重圧が掛かっている。
いや、だってミハルだけ梵選手に送球してるのズルいじゃん。
こんな現実耐えられない!!!
妄想の中に逃げて二塁を守っていたいんだ私は!!!!!!
いいよ、……救急車呼ぼうか。
例え救急車だとしても、いっそこの場から私を連れ去って欲しいから!!!!!
「結局のところ出会いってどこから湧き出てくる訳?」
ミハルを横目に見た知子さんの疑問は、まさしく現在絶賛難航中のエッセイのテーマだった。
きっと彼女は純粋に疑問に思ったのだろう。
モテない女の慣れの果てを見てしまったんだ。仕方あるまい。自然の摂理だ。
今回は貴重な男性ゲストが居る訳だし、彼はどう思ってるのだろう。
とりあえず視線を送ってみる。なるべくミハルを目に入れないように。
つーかチラチラピンクのリボンが目に入るんだけど!
なにこの針金で固めたみたいな変なシルエット。
エロゲでしか見たことないんだけど!
「出会い? 忘れた頃にやってくるんだよ。基本的にガツガツしてる時にいいオンナは現れない」
アラタは面白い事を言う。
割りと正論だが、そこまでクールに言うところは、ミハルにとってはさぞかしポイントが高いだろう。
まあ確かに、だからお前はセカンド童貞なんだよ。とは思う。
思うけど、すでにミハルは餌を目の前にしてマヌーサが掛かっている。
ミハルがしつこい位に頷いている。
その度にツインテールが揺れて、黒い髪の先が私の頬に当たる。
髪って当たるとちくちくするけど、親友が頑張ってるんだ。
仕方ない。
知子さんはその哀れな姿を、心から気の毒そうに見つめていた。
彼女は後悔しているのかもしれない。
日頃彼女を信頼し、自由にさせ、ファッションに関しての注意を全くしなかった事に。
自分さえしっかりしていれば、きっとこんな悲劇は怒らなかったのだ、と。
責任感の強い知子さんだ。おそらくそれ位思ってるに違いない。
知子さん、私もだよ。
「待ちの姿勢が過ぎるのもよくないと思うけどなぁ」
と、私は言ってみる。
活動的な女は多少ブスでもモテる場合が多い。
アクティブで健康的なその性格を売っているのだ。
「やだなぁーあきなちゃんったらぁ」
ミハルが振り返る。
バサリ、とツインテールの左が顔に被さった。
安田を呼んでハサミを持ってこさせようと思ったけど寸での所で踏みとどまる。
「ミハルは違う意見? 聞かせてよ」
大人になれ、あきな。私はミハルの髪を暖簾をくぐるように持ち上げて引き攣った笑みを浮かべる。
「出会いは忘れた頃に天使様が運んでくるニャン」
……ミハル。
お前…………。
さりげなくネコミミカチューシャ付けてるんじゃないよ!!!!!!!!!!!
ないないないないないない!!
ツインテールならぎりぎり許せるけどハロウィンとクリスマスと誕生日と夏コミ冬コミ春コミ以外でネコミミカチューシャは絶対にありえない!!!!
っていうか結構あるんだね!!!!
「あんたって意外と草食ね。待ちの姿勢っていうか。ウチの家系ってそういうのばっかじゃない」
知子さんの執拗なまでのミハルスルーに心が痛む。
そうやって守っているのだ。彼女はドが付く程の恋愛音痴のミハルを。
「アンタ、自分からアプローチかけないの?」
姉の熱烈な指導はアラタにとって念仏以外の何でもないらしい。
心底煩わしそうの眉をピクピク引き攣らせながらアラタは口を開いた。
「お前がそれ言う? まあ……最近はいいオンナ自体が減ったからなぁ……」
イイ女ではない私達には手痛い発言だった。
「私なんかどうかな……? にゃんちってぇ」
ミハル、なんていうかもうあんたすごいよ。
でも絶対相手にはしないから。
あの、私とは一切関係がないですから。関わらないで。話しかけないで。スルーされてもこっち見ないで。
私はアラタを小馬鹿にしたように笑いかけ、椅子の背にもたれる。




