発見、セカンド童貞
アラタは何事もないように次の話題を探そうと目を泳がせている。
上から見下ろす事が大好きなおちびさんがうろたえるって、要するにそういう事なのだろう。
「え、やっぱいないの?」
アラタは曖昧に首を動かす。
断定が確定に変わった。
アラタは今、彼女がいない。
「何年?」
彼は小さく指を動かし、これまた曖昧に指を開き、数字で「5」を示す。
推定年齢22歳だし、17歳以来ご無沙汰ってこと?
ってさぁ。
もしかしてセカンド童貞ってやつ?!
ありうる。
っていうかマジでセカンド童貞?
やっべー肉眼で見るの初めてだよ、セカンド童貞!
都市伝説だと思ってたよセカンド童貞!!
そしてふと、私の胸にある感情がポッと灯る。
「…………ゴメン!!!」
両手を合わせて頭を下げていた。
そう、その感情の正体とは申し訳なさ。
ごめん、あんま笑えないわ、セカンド童貞。
5年できなかった苦難の道のりを考えるといたたまれなくなる。
ご馳走の味を知ってるやつの方が飢饉に弱いのは、バカな私でも想像は容易い。
いわゆる、本当にデブの人にデブと言えない心理だ。
ちなみに私もあまり人にデブと言われないのだがそれはどういう事なのだろうか?
「言うと思ったよ! お前みたいなタイプは肝心な時に人情を持ち出すんだよ!!!」
アラタがパーカーのポケットに手を突っ込んでソファ席に凭れ、大口を開けて言った。
「ゆーて童貞力たったの5でしょ? サイヤ人が相手ならゴミ認定されるっしょ」
私はブンブンと手を振ってその5という数字を払いのける。
「そもそもサイヤ人とヤるってどんな状況だよ! ハゲとハゲしかいねぇじゃん! 願い下げだよ! ゴミでいいし!」
「アラタ、下品な話はやめなさい!」
知子さんがピシャリと言い放つ。
「うるせーよ処女力29万!」
知子さんは沸騰したみたいに顔を真っ赤に染め、般若のような形相でアラタの口を塞ごうとしている。
私は、移動中の安田と目が合った。
彼は気まずそうに目をそらす。
聞こえたな。きっと。
「……王子の悪口は……許さない」
あ、恋頃ちゃん、ベジータ派なんだ!
私はヤムチャがすきだよ。誰とは言わないけど、とある赤いチームのイケメン選手を思い出すからね!
ここで会話は途切れ、私達は黙々と出された食べ物を食べ、酒を飲んでいた。
「戻りました」
と、凛とした声が聞こえた。
ようやくミハルが戻ってきたようだ。
歩く度に揺れる大きいおっぱいにタートルネックは変わらない。
「遅いよミハ……」
私は振り返り、片手を挙げて絶句した。
あれれー、毛利のおじちゃーん。あのミハルって人のシルエットがおかしくなーい?
女の子の頭部ってあんな触覚みたいに広がったりしないよねー?
ミハルは――長い髪をふたつに分けて高い位置に留め、それをリボンで巻いていた。
ツインテールになっていた。
街に歩いてる女の子は普通アウトラインが上底と下底を足して高さを掛けて2で割るみたいにならないよねー?
何なの、アンタ面積求めて欲しいの?
っていうかメイクアップしろとは思ったけど誰もセーラームーンみたいになれとは言ってねーよ!!!
つーか何ですっぴんのままんだんだよ!!!!!!!!
肝心な場所はいじらねーのかよ!!!!!
変身ってそういう変身じゃねーんだよ!!!
何キュアミハルンになってんだよ!!!!!
私達は彼女からサッと目を逸らし、それを見なかった事にして食事やアルコールを摂取する。
酔おう。
心からそう思った。




