見知らぬ、天井
問 あなたは「H」についてどう思いますか?
――南波 知子・29歳の場合
「仕事には必要ないわ。若い子が男にかまけてサボってるの見るとため息が出ちゃう」
――坂入 ミハル・25歳の場合
「ちょっと……羨ましいです。皆やってるから、私も……したいです……」
――丘崎 商・24歳の場合
「したい!! ヤりたい!! 致したいぃぃぃ!!!!」
――山崎 恋頃・20歳の場合
「…………スケッチ……ワンタッチ……」
―*―
目が覚めた。
白いクロスの貼られた天井。
シンプルで、壁にはシミひとつない。
「見知らぬ……天井?」
少なくともこれだけは分かる。
これはウチじゃない。
あれ? なにこれ。
序とか破とかのリメイク映画が話題の主人公が動け動け言っちゃうあのアニメ?
同世代がこの話するとシンジくんかカヲルくんかで喧嘩しちゃうあのアニメ?
っていうか私ケンスケくん好きだからあの口論入っていけないんだけどね。
って、そんなつまんねー事言ってる場合じゃねええええ!!!!!
ガバアアツ!!!!!!!
なんて効果音じゃ生易しい程勢いをつけて跳ね起きる。
ぬぁああああんだこれえええええええええ!!!
この青山のカフェの如き超絶オシャレ空間は!!!!!!!!!
そして真正面、視界に飛び込んできたのは――
「やあ、おはよう」
イケメンだった。
ガラスのテーブルでお洒落椅子にすらりと腰かけ、これまた洒落たカップでコーヒーをたしなむ黒髪! 黒縁眼鏡! 白ワイシャツ! のスーパー爽やかイケメンだった。
ああ、なんだ、夢か。
「おやすみなさい」
私はもう一度布団を被る。なんかいい匂いがする。
柔らかくてあったかくて、雲に包まれているかのようだ。
あ、石鹸の香り。
うん、石鹸がいい。石鹸は石鹸でもスーパーのじゃなくて百貨店とかで売ってるやつ。高いからプレゼント以外の仕入れ経路ないやつ。
あー気持ちいい。臭くない。いい匂い。
うち、常に醤油の匂いするからね。うん。最高。
何のアロマ炊いてるのかな? それネットで買えるかな?
ん?
――ネットで買えるかな?
いや、そこじゃない。
――シンジくんかカヲルくん。
ちがうちがう。つーか私はケンスケくんだっつってんだろ!!!
あ、でもちょっと近い。
――見知らぬ天井
「それだあああああああああああ!!!!」
えーっと
知らない天井に、知らないお布団に、知らない人。しかもイケメン。
「えぐおわあああああああ!!!!!」
私は勢いをつけてベッドからローリングする。JKローリング。そうです。私、16歳のJKなの、よろしくね! 嘘です。24歳フリーターです。
ドスン、と音を立てて私のお世辞でも軽いとは言えない体が床に叩き付けられた。
いってぇ……腰いてぇ……夢じゃねぇ。
でもそんなの関係ねぇ!!!!!
ハイ、オッパッピー!!
って言ってる場合かクソが!!!!!!
「見知らぬ天井! 見知らぬ間取り! 見知らぬオシャレ植物! 見知らぬ……」
私は華麗なエビ反りジャンプで起き上がり、震える手でひとつひとつを指さし確認する。
今の私は、地下鉄の車掌なんかよりも、ずっと慎重になっていると思う。っていうかいつも思うけどあれって絶対テキトーにやってるよね。
っていうかなにこれ!!
知らない!!
知らない!!!!
I BELIEVE!!!
間違えた。
こんな土壇場で梵英心のブログステマしてどうする、私。っていうか「ぼん」じゃなくて「そよぎ」って読むからこれ。
えーっと、I……I……
I DON’T KNOW!!!!!!
そう、これだ!!!!!!!!
「見知らぬ……イケメン」
イケメンはにっこりと笑う。その笑顔からは隠しきれない知性が滲み出ている。
効果音にするならサラァがいいかな。とにかく爽やかなの、この人。
やばい爽やかなの!
「恐れいります」
イケメンは真っ白なカップに唇を付ける。
うわー、めっちゃ綺麗な色してる!
すげーいい色してる!!!
「なんですか?」
「貴殿は実在するのですか?」
我ながらなんて事を聞いてしまったのだ。
「ふふっ」
イケメンは笑う。
とてつもなく上品に。
少女マンガかよ。
なぁるほどぉ。
よおし、わかった。わかってしまったぞ、こいつの正体。
言っちゃっていい?
これ多分正解だと思うんだよな。
言っちゃうよ。言っちゃう。
お前、もしかして―ー――
風早くんだろ!!!!!!
白状しろよ!
アンタの正体はとくに割れてんだよ。
風早くんなんだろ??
正体隠すためにわざわざ洒落たおしゃれメガネしてんだろ?
二重表記? わかってるよ。
こっちだってフォアグラの上にキャビア乗っけてるつもりで言ってんだよ!!
なぁ、お前さんよぉ。
とっとと正体吐いて楽になっちまえよ、風早さんさぁ!!!!!!!
あ、カツ丼食べる?




