知子さんの男、登場!
問 あなたの周りに男性はいますか?
――山崎恋頃(20)の場合
「……される」
問 気まずそうに言わないでください。知ってるんで。惨めになるんで
「………………ナン…………ば……」
問 ア? 南波がどうしたって? ァア゛ン? 言ってみろよア゛ア゛ア゛ア゛ン?
「…………ナンパ……される」
問 知ってるよ
――坂入ミハル(25)の場合
「あきなちゃんなんか、嫌い」
問 ええっ?!
「大嫌い」
問 ええー
――南波知子(29)の場合
「居るわよ」
問 そりゃ会社にも男は居るでしょう。
「居るわよ」
問 見栄張らないって前回誓ったじゃないですか。裏切る気っすかぁ?
「居るのよ」
問 またまたぁー
「新大ぁ、もう来ていいわよー」
*
それは突然訪れた。
夏も終わりに近づいてきたいつもの夜。
いつもの店。
いつものテーブル席。
いつもの冴えないメンツ。
ちょっと違うことといえばミハルがメガネをかけている事くらいか。
おそらく寝坊してコンタクトをする余裕がなかったのだろう。
メンバーで唯一のすっぴんであることはいつもと変わらない。
「新大ぁ、来ていいわよー」
知子さんはカウンターに向かって呼びかける。
ふっと一人の男が振り返る。
肩にかかる髪をブリーチした眠たげな顔。
服はパーカーにジーンズ。
オシャレとは大変言い難い。
ぶっちゃければ反吐というかヘドロが出てきそうな程ダサい。
今時ブリーチって。
それでパーカーとジーンズって。
ここにいるくそダッサいミハルを男体化した方がまだマシな格好してるよ、絶対。
私はそいつが知子さんの言う「アラタ」ではない事を心の底から祈っていた。
だが、奴はのっそりと見るも耐えない金髪をサラッと揺らしてこちらへ向かってくる。
アラタじゃありませんように、この激烈ダサくてガソリンくさそうな男がアラタじゃありませんように。
しかし、私の願いは虚しく。
どすっと。
彼は、意外と小さくて華奢な体で知子さんの隣のソファ席に腰かけた。
それでも私は祈る。
アラタじゃありませんように、間違えて席に座っちゃった人でありますように。
そのまま恥ずかしそうに頭下げて立ち去りますように!!!!!
「ども」
彼はふてぶてしい顔でそう呟くと、ぺこりと頭を下げた。
私の淡い期待が打ち砕かれた瞬間であった。
アラタなんだ……これ、アラタなんだ……。
新大っていうかこいつ全然新しくも大きくもないじゃん。
時代に取り残されてたチリじゃん、こいつ。
ケータイに例えるならガラケーだよ。しかもすんごいちっちゃい奴。
従来のガラケーの半分のサイズでドコモから出てて速攻で消えたやつ。
「紹介するわね。この子は新大」
知ってるよ!
鶏じゃないんだから私らだって男の名前くらいちゃんと覚えるよ!! バカにすんな!!!
「はじめまして」
アラタと呼ばれた男はペコリと頭を下げる。
金髪がサラリと肩から落ちた。
あ、男だ。
この掠れた低い声。
ぷっくりと飛び出した喉仏。
すっと通った鼻筋。
背は小さい。だけど男!!!!
例えるならば、原子人の集落に突然ガラケーが降ってきたかのように、私とミハルは唖然として言葉を失っていた。
恋頃はもともと喋らない。
つつつつ、遂にあの知子さんが男を見せびらかす日が来るなんて。
しかもなんだこの男。
金髪とか今時どう考えても流行らないだろ。
きょうびインターネットという文明の利器がある訳だし、金髪が流行らない事ぐらいすぐわかるだろ。
ググレカス。
ほんと、こいつどんな秘境に生きてるんだ。
このご時世に吉幾三の歌みたいな世界なんて群馬以外ありえねぇだろ。
群馬なら許す。
テレビもラジオも車もそれほど走ってねぇことも頷ける。
っていうかタイムトラベルでもしてきたんじゃね?
7年くらい前の田舎から。
「ご出身は」
「? 長野よ」
知子さんは不思議そうに首をかしげる。
やっぱり田舎の出なんだ。
っていうか秘境って群馬以外に存在したんだ。
長野にもこんな田舎があるんだ!
「東京では、どこに住んでるんですか?」
ミハルが豊満な胸を押さえながら言う。
今日の服はいつもの黒いタートルネックだ。
長袖を腕まくりしている。
腕毛は剃っているようだ。
うん、これ以上は何も言うまい。
「私の家」
私がおすぎの如くミハルをファッションチェックしている間に、知子さんがとんでもない事を言った。
私、ミハル、恋頃、そしてカウンターの向こうの安田が同時にグラスを落とした。
「失礼しました」
安田の奴、ずっとこちらの様子を伺っていたのか。
「え? 何、聞こえない。もっかい言って。リピートアフターミー?」
我ながら意味不明な日本語を話している。っていうか英語だけど!




