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私がモテないのはお前に言われんでもわかっとる!  作者: 矢御あやせ
第2夜 デブのくせに人間名乗ってんの?
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処女たちの恐れるそれ

「ありゃぁ元遊び人だね」


「……賢者?」


「いやぁ、恋頃さん。人生はドラクエちゃいまんがな」



本当の人生は簡単に転職できない。


本当の人生はスライムを倒してもレベルアップしない。


そして本当の人生にはククールが居ない。

居てもあんなタンバリンマシーンなんてカラオケにしか使えねーけどな!



「あんたも失礼ね。割と真面目そうな子じゃない」


「チッチッ知子さんはこれだから薄いんですよ」


「ちょ! ちょっと待ちなさい」


「あるぇぇ? どうしたの知子すぁああん」


「ううう薄いって何が薄いのよぉ!! 答えなさい! 答えなさいよぉお!」


「えー? 何って……ねぇ、ミハルぅ」


「え、私!? だ、大丈夫ですよ。知子さんは薄くなんてないですから、安心してください」


なんで私に振るの! って顔をしたミハルの胸に実るたわわな果実がぷるんと揺れたのを、知子さんが見逃すはずなんてなかった。

ああ、すっげー顔してるよ。すっげー顔でギリギリ歯ぎしりしてるよ。怖いよこの人。


「わわわわ、私のどこが薄いのかしらぁ? へへへへ、返答次第ではああぁ、ああアンタのむむむムダ肉ひきちぎるわよぉ?」


知子さんは薄いとか無いとかまな板とか。


条件反射でこれらの言葉に過剰に反応してしまう。

ベージュの色したブラジャーも片手に収まる程度の非常に慎ましいサイズだ。



「思考の話っスよぉ。やだなぁ、知子さんたら」


「ならいいわ。続けて」



いいのかよ。


「思考が薄い」って思いっきり人間性否定してんじゃん。


この人はこと乳の話以外になれば、批判されたところで基本的に寛容なのだ。



「じゃあ……あの男の話に戻すけど。いいっすか? まずはアイツの肌に注目」


私は声を潜め、テーブルの中央に全員を集める。


「少し黒いわね」


「はい。あいつ、おそらく今年3回は海に行ってますよ」


「――――――ぅ、海ィッ?!」



ミハルがバネで弾かれたかのように立ち上がる。



「そう、海。我々とは無縁のリア充スポッツ。海!」


「そそそそそそそんな場所」


「海。波音、潮風、水しぶき、ひと夏の恋、そして口づけ」


「ふしだらだよ! あきなちゃん、ここ飲食店だよ?」



一体ミハルは何を考えてそんなに慌ててるんだろうか。



「とりあえず、あの焼け具合。確実に行ってんな、海」



ほら、見てみろよ。あいつの肌。モンハンのお肉ばりに上手に焼けているじゃんか。



「夏なら海くらい行くでしょ」


「じゃあ知子さんは行ったんですか? 海。う・み!」



知子さんはさっと目を背ける。


その目はしっかりと語っていた。


聞くな、と。



「ままままぁ~。私は? 実家長野だしぃ? ううう海より川派? だけどぉ?」



さすがの知子さんでも「海」という最強の一手を前に動揺は隠せない。



「恋頃は海行った?」


「とったどー」



そんな恋頃さんはイカ一夜に夢中だった。


この子は行ってるかもしれない。


モリを片手にウェットスーツで海へ飛び込んでいるかもしれない。


「更にアイツの指に注目!! 火傷の跡がある!!」


「それは飲食店やってるからよ」


「いやぁ。アイツ、新人でホールですよ?」


「だからって火傷くらいフツーにするわ。ね、恋頃」


「とったどー」



恋頃はさっきから絶対に目を合わせてくれない。


あ。コイツ絶対海行ったわ。裏切り者だわ。


どうするミハル、知子さん。処す? 処す?



「いや。ありゃ間違いなく……」

 

「何よ、かしこまっちゃって」


「何ですか、気になりますよ」


「……いや、こんな事…………言って良いものやら……」


「勿体ぶらないで言いなさいよ。気になるじゃない」


「な、なんかむず痒いよぉ……気になっちゃうもん……」



いやぁ……だって。


こんな事言ったら絶対ただじゃあ済まされないよ。


下手したら極刑さぁ。伊勢丹の屋上からぶん投げられるかもしれないじゃん。



「……べ……ぅっす」


「もっとハッキリ!」


「そうだよ、あきなちゃん」


「言っていい?」


「御託はいいからさっさと言いなさい!」


「いい? ホント責任取らないかんね!」


「じ、焦らさないでよぉ……」


「B B Q っすよ!!!!!!」


私は半ばヤケになって叫んだ。


三人が、目を丸くして動きを止めた。


あぁ、やっぱり止めてしまったか。時を。

すまんな、お前ら。

だから言いたくなかったんだ。



「な、なんだってー!!」



BBQ。その金色に輝く単語に遅れて3つの声が重なった。

何あんたら。打ち合わせでもしてんの?



「海でBBQっす」


「や、野蛮よ!! そんなのは原人の文化だわ!!」



憤慨する知子さん。



「最低です! 網でお肉を焼いたら!! いけないお汁がポタポタしちゃうじゃない!!」



涙を散らすミハル。



「最低だよね!! 恋頃ちゃん!!!」


「……」



ミハルに振られた恋頃の指にはばんそうこうが巻かれている。



「ここっこ恋頃ちゃん!? まさかあなた、反逆者レジスタンスなんですか!!?」


「ひどいじゃない!! 私達を置いてBBQだなんて!!」


「裏切り者には死を! 裏切り者には死を!!!」



やっぱり行ったのか。


お前、やっぱり海に行ってモリを片手にBBQしたのか。


お肉のお汁をぽたぽたさせたのか。



恋頃はゆっくりと形の良い桃色の唇を開く。


戸惑っているように、もったいぶって、彼女は小さくこう言った。



「………グ」


「聞こえないよ恋頃ちゃん」



ミハルが戸惑い気味に言う。


恋頃は声が小さい。


しかもブツブツ呟くみたいに喋るから聞き取りずらい。



二度目は眉ひとつ動かさずハッキリ言った。



「ペヤング」








湯切りだあああああああああ!!!!!!


この子湯切りで失敗してるううううう!!!!



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