何イケメンと恋ちゃうモード入ってんだよ!!
翌、夜。
私は、あの悪夢の歩道橋からぼんやりと車の行き来する道路を眺めていた。
片手にはガラケー。仕方がないからなけなしの貯金を下ろして新しく買った。
画面を振って開き、メールボックスに飛ぶ。
相変わらず、最新数件を見事に占拠するのは、例のバイト先のアレ。
「『キミはぼくのどこが好きなの? どうして好きになったの? 教えてよ』 かぁ」
相変わらずハリセンボンの角野卓三じゃねーよじゃない方からのメール攻撃は続く。
「はぁ。強いて言うならそのポジティブシンキングでしょうか」
もう、負けだ負け。
仕方ない。
「ふ、『1回くらいならデートしてもいいよ』っと」
何を上から目線で。
我ながらイヤになる。
歳が増すごとにプライドばかりが高くなるのだ。
男は顔なんかじゃない。
年収だってさほど大事じゃない。
もちろん、自分を愛してくれるかも関係ない。
いかに自信を持っているかが大事なのだ。
その半歩後ろを歩くのがオンナとして生まれた幸せではなかろうか。
恋愛したっていいじゃない。
ロミオだってジュリエットしてもいいじゃない。
恋愛は悪じゃなくてもいいじゃない。
別にもうどっちでもいい。
愛こそ正義なんじゃない?
「大人だなぁ、私」
やっぱり非処女は違うわ。
「おっと、返信。やけに早いな……」
『信じられない……やっぱり神様は本当に居たんだ。』
「なんだ、結局アンタも自信が無かったんだね」
なんか親近感が沸く。
あばたも笑顔とはよく言うものだ。
更にスクロールする。
『信じててよかった
神様を』
あれ?
流れおかしくね?
『【○○教入信説明会のおしらせ】
8月△日13:30~K市市民ホールやすらぎにて』
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
どゆことぉ!!!
バクバクする心臓を押さえ、もう一度メールを見る。
夢であれ、夢であれ、夢であれ、夢であれ、夢であれ、夢であれ!!!!!!!!
『【○○教入信説明会のおしらせ】
8月△日13:30~K市市民ホールやすらぎにて』
私は衝動的に自分の頬にグーパンチを浴びせる。
ってぇええええ! 何すんだこのやろー!!!!
ってことはあれか!?!?!
あれなのかああああああああああああああ!?
ぬおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
まじか、まじかああああああああああああああああ!!!!
「ふぬおおおおおおおおおおおををををををををををををを!!!!!!!!!!!」
つ
つつつつつ、
つつ
「釣られたクマアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
結局ハリセンボンの角野卓三じゃないではない方は、私目当てでも、私の一見ユルそうなおまた目当てでもなく。
私の信仰を目当てにしていたのだ。
「なんだそりゃ」
ケータイをバックに放り込み、歩道橋を降りていく。
やっぱり男なんてもう信じない。
時代は女だ。
女が家庭も社会も経済も引っ張ってればいい。
恋愛は悪だ。
災厄だ。
地震、雷、火事、恋愛だ。
でも野球選手とはセックスしたい。
――その時
「丘崎さん」
そよ風のような囁き声。
扇風機みたいな。
いやいや、ダイソンの羽のない扇風機みたいな。
とにかく凄い、CV中村悠一みたいな。
「こんな男いねーよ」って散々バカにした乙ゲーでしか聞いた事のないとんでもない優しい囁き声が聞こえた。
風に乗って、鼻孔いっぱいにオーガニックな香りが広がる。
清潔感あふれる香り。
石鹸なんてもんじゃない。
上質でプレミアムな、なんかロクシタンっぽい香り。
私は顔を上げる。
「良かった。また君に会えて」
そこには、昨夜出会ったあのイケメンの満面の笑みがあった。
瞬間、いきなり風が吹いた。
イケメンの黒髪がそよぐ。
纏った白いYシャツがなびく。
さわやか!
超さわやか!
さわやかと噂される3組を凌ぐさわやか!!
さすがはイケメン!
噂には聞いていたが本当に風を自在に操る力を持っているのか!
だが私の心は
私の心は!
なびいたりなどせぬうううううううううう!!!!!!
貴様が風ならば私は岩だあああああああ!!!
24年処女だった不動の力を見せてやるううううううううう!!!
「ここでなら、君にまた会えるって。そう思って待ってたんだ」
「……昨日も、ここに来たんですか?」
ってえええええええええ!!!
何聞いてんだ私。
何期待してんだ私。
私なんてヤリ捨てされるに決まってんだろ。
さっきなびいたりしないって言っただろ!
不動の力はどうした私!
岩はどうした私!
24年どうした私!!!
何イケメンと恋しちゃうモード入ってんだよ私いいいいいいいいいいいいいいい!!!
「ごめんね、気持ち悪いよね」
なんて苦笑いするイケメン。
ふぬお!!!!!!!!!!!
ぬおおおおおおをををををお?!!!!
なんだこの展開!!!
これは乗っていいのか?!
いいのかあああああ?!
恋の特別快速、銀河エクスプレス代々木上原行きにいいいいいううううひいいいいいい!!!!
私もついに幸せ勝ち組の仲間入りってことおおおおお!?!?
「バック、返して下さい」
いやいやいやいや、何私ツンとしちゃってんの?
何手のひら出してんのだ。
どうしてパーなんか出してんの?
本当は嬉しいよね!
気持ちはグーだよね!!
内心はグリコのポーズだよね私ィ!!!!!
「丘崎さん。僕は君に惹かれて。ココに来てしまった」
当 選 確 実
ありがとうございます!!!!
マジありがとうございます!!!!!
鹿児島のじーちゃんばーちゃん、俺、やったよーーーーー!!!!
あーあ、嬉しさのあまり松山竜平出てきちゃったよ。誰もしらねぇネタ出しちゃったよ。つーかじいちゃんばあちゃんは母方父方両方茨城だわ!!!!
鹿児島なんかどこにあるかすらしらねぇし!!!!
まあ人生のお立ち台に立つ瞬間は誰しも鹿児島のじいちゃんばあちゃんに快挙を伝えるっていうしね。
いわねぇよ!!!!!!
しっかしまぁこいつぁ大変な事ですぞえ!!!!!!!!
ノーベル賞もんの快挙じゃないでっか!!!!
「えっ? 今なんて」
すいません、聞こえてます。超聞こえました。
「丘崎さん。僕は君に惹かれて。ココに来てしまった」
「えっ?」
もう1回、もう1回だけ!!!!
ハイどうぞ




