知子と愉快なウキウキウォッチング
そして恋頃は首を傾げる。
ふぁさり、と長くサラサラな髪が肩から垂れた。
アーモンド形の目をぱちくりさせる。
お人形さんみたいにかわいい。超かわいい。
そして形の良い唇を僅かに開き、言う。
「……合わない」
ですよね。
ですよねーー。
もうね、しゃーないや。恋頃先生が言うんなら間違いねーよ。
後ろに控える女のなりそこないどもとは訳が違うもんな。女子力たったの5のゴミどもと一緒にされちまったら恋頃さんだってかわいそうってもんだ。ハッハー!!!
「六甲おろしと」
ったりめぇだろうがああああああああああああああああ!!!!!!
六甲おろしと合う服なんて白と黒のしましま縦模様か黄色と黒のしましまTシャツ位だろうが!!!!!
「恋頃ちゃん、大根おろしだよ」
ミハルもうるさいよねぇ!!! 知ってるから、私も、読者も!
「とりあえずコレ、あきなのじゃなさそうね」
知子さんはTシャツを床に置いて腕を組む。
「でしょ? でしょでしょ?」
ようやく知子さんはわかってくれたようだ。
流石知子さん!!
我らが知子閣下!!
「アンタ、盗みだけはするなってずっと言ってきたのにどうして……」
彼女は、ずーんと。
暗い表情で呟いた。
「どうしてアンタらは一番至りそうな結論スルーすんの」
だめだこりゃ。
この処女どもじゃぁ経験不足だ。
埒があかん。
全員アソコから生まれるトコからやり直したまえ。
つーか、さっきから恋頃さんが私にまとわりついてるんですけど。
「クンククン」
クンクンしてるんですけど。
脇の辺りを嗅いでるんですけど!!!!!
何してんだよコイツ。
恋頃ちゃんはサラサラの髪をかきあげ、触れたら壊れてしまいそうな砂糖細工の如き長い睫を伏せ、こう言った。
「臭い」
「うるせぇ!!!」
知子さんは眠たそうに首をコキコキと動かす。
肩までの茶髪がふぁさりと揺れた。だけど胸は何事もないように動かない。いつ見ても見事すぎる不動のエースだなぁ。壮観だよ、ここまで来ると!! ヨ、エース! 日本一! 流石エース!!!(サイズ的な意味で)
「っていうか仮に何かあったとしても、その男がイケメンって事自体怪しいわよね」
なんだとぉ!?
私の事はいくら侮辱してもケツバット程度で許してやるが風早くんの悪口は許さねぇかんな!
もう一回言ってみろ、この貧乳! 不動のエース!!
「ですよねぇ」
同調するミハル。知子さんははぁ、とため息して続ける。
「だってアンタのタイプってあれでしょ? えーっと、ぼん、えいしん」
カッチーン。おっとぉ? 知子さぁん?
それ言っちゃう。
それ言っちゃうのぉ。
「お前、次に梵さんのこと”ぼん”って言ったらテメェの貧相なブラジャー物干し竿に括りつけてアルタ前の人だかりにウキウキウォッチングさせてやっかんな!!!!!!!」
「それ、あきなちゃんもかなり恥ずかしいと思うよ」
いいんだミハル。構わないでくれ。刺し違えてでもこいつだけは殺る。殺らねばならぬ。
「とにかく風早くんは普通にかっこよかったもん!! 向井理みたいだったもん!!!」
「やっぱしょうゆ顔なのね。もこみちだったわ、私の中で」
「すいません、歌プリのトキヤくんイメージしてました」
え、何?
こいつら贅沢すぎじゃね!?!?
ファミレスでキャビア頼んじゃう系の人たち??
ねーよそんなもん!!
テメェらなんぞサイゼのミラノ風ドリアすらもったいないわ!!!
「とりあえず、これあげるからどうにかしなさい」
知子さんは一枚の紙をドロー。そして私に渡す。
「ハッ、これが……愉悦!!」
「諭吉よ」
「ある意味正解だね」
ミハルもなかなかうまいことを言う。
そして知子さんは軽く私の頭を小突いた。
「殴ったな!! 親父にもぶたれた事は結構あるけど!」
「ぶたれる方が悪い!!」
「このジャイアン!! ジャイアンツ!! むしろ阪神は新井返せ!!」
「ジャイアンは受です!!」
ミハル、うるさい。
「あーらごめんなさいねぇ、これあげるから許してぇ」
知子さん、ドロー。
「ハッ……これぞ愉悦!!」
「一葉よ」
「とりあえず、これあげるから家のカギ替えてきなさい」
「ありがとう知子さんマジで!!」
ごめんね知子さん、ウキウキウォッチングはブラジャーじゃなくてパンツにするね!!
ベージュのやつ!!
「トイチね」
「申し訳ございませんでした」
からの土下座である。
「さぁ解散、解散しましょ。ほんとバカバカしくてやんなっちゃうわ」
「おつかれー。まあなんとかなりそうだわー。ありがとね、知子さん。マジで」
「……とっとと帰んな、ベイビーちゃん」
「あの……恋頃ちゃんも帰ってね」
そんな訳で処女騒動は『ありがとう知子さんマジで』(略してATM)の1万5千円により、うやむやに揉み消されたのだった。
処女も非処女も関係ない。
結局世の中は金だ。
金で動いているのだ。
よーく考えようね、
お金は大事だよ!!
(第一夜・完)
……という訳にもいかず。
話は翌日に続くのです――――




