坂入ミハルの秘密
「ミハルう……」
ただ、今のあきなは捨てられた汚い猫のように見える。
アニメとかでよく見る、路地裏でゴミ箱から魚の骨を漁ってかじるあれだ。
こんな物、外に置いてなんていられない。
ご近所迷惑だ!
「すううう……」
ミハルは一大決心して、深呼吸をした。
「山といえば?」
「川」
「正解、壁に耳あり?」
「障子に目あり」
「正解」
秘密の先に生まれるのは秘密。
秘密を秘密でプロテクトして、はじめて完全無欠の金庫や要塞が出来上がる。
ミハルの家に入るには、原則、その秘密を知る者でないといけない。
「すうううう……」
ミハルはもう一度深呼吸をする。ここまでは完璧だ。だがここからが大事なのだ。
「攻」
「またアレやるの? はいはい、受ですね」
ウンザリという様子ながらも、とりあえずという感じで、あきなはあっさり問を解く。流石はあきな。その辺りは分かっている。
「アメリカ!!」
「攻」
アメリカと言ってもあのアメリカではない。ミハルにとっての「アメリカ」とは、おおよそ平均的なアメリカ人を模したそういう世界のアメリカなのだ。
「正解、聖徳大子!!」
「リバ」
聖徳太子もあの聖徳太子ではない。そういう世界の聖徳太子なのだ。
「正解、リヴァイ兵長!!」
「総受け!」
「正解、遥!!」
「受け!!」
「正解! じゃあいくよ。最後の質問。俺の美技に?」
「ブギウギ!!!!」
原則的に、「俺様の美技」と言えば「酔いな」なのだが、ここは引っ掛け問題で「ブギウギ」としている。
ミハルは原作よりもミュージカル派なのだ。当然ながら氷帝学園が好きで好きでたまらない。
「そういうわかんない解説はいいからさ。さっさと入れてよ。もう暑くてしにそ」
「いいよ、入って」
ミハルは扉にカギを刺した。
「オーマイ、ミハル様。心の友よ」
「し、しずかに。ここから先は危険だから」
「ハイハイ」
部屋に入る。基本は整理整頓された地味な部屋だ。部屋の隅には5個のカラーボックスと3個の衣装ケースが置かれている。
その中にずらりと並ぶのは――
「相変わらず本が薄いねぇ」
感心したように、あきなは言う。
坂入家の本棚に格納される本の90%は薄っぺらい。薄くてしかもいかがわしい。
大体が美男子と美男子が熱く燃えるような恋をする。恋をしなければ奴隷になる。
どこぞの有名戦国ゲームのキャラも坂入家内では合戦ではない合戦をする。
しかし、たまに厚い本がある。だが、それもいかがわしい。いかがわしい短編がおもちゃばこのようにパンパンに詰め込まれている。
そう――坂入ミハルは
腐女子なのだ。
―*―
ここからは私、丘崎あきなの提供でお送りします。
いやぁ~容易に視点変更なんかしちゃったもんだからきっと辛口レビューアーに怒られちゃうね! こらぁ。
さてさて、そんな薔薇園(意味深)・坂入宅内にて。
「それで、バッグはどうするの?」
「……いやぁ」
「取りに行くんでしょ?」
「……うう」
「あきなちゃん!」
私は目を逸らす。人には聞いて欲しくない時位ある。
ミハルだって好きなキャラクターに女の恋人ができたら鬼の形相で私を睨む癖に。
いつもの彼女は現実ではなく液晶を眺めている。
だのに、こいつ、今日はいやに現実を見せつけてくるのな。
やっぱり自分が可愛いのか、この女は。ちぇっ。
「無理なものは無理だよぉ! 取りになんていけないし!!」
「でもウチにずっといれないでしょ?」
「え、ダメなの!?」
「当たり前でしょ!」
ああ、むり。
ミハルの刺すような視線がちょー痛いわ。
「頼むわミハル。また新刊のアシスタントするから。主張をはじめた怒張にモザイク入れますから」
あ、今一瞬ミハルの目が泳いだ。そうだよなぁ。夏コミだってそろそろな訳だし。
「あきなちゃん!!」
ミハルはハッと我に返り、目を三角にする。
チ、理性が勝ったか。
私は視線をそらし、ぽそぽそとつぶやく。
「……絶対無理」
「今日の事、知子さんに言うから」
「げ」
それだけは無理だ。
次の飲み会が説教大会になるなんて堪えられない。
肉槍に延々モザイクを入れる作業(時給801円、キリはいいが労働基準法違反である。)よりもずっとキツい。
「……そ、それはぁ」
ミハルは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
右手には携帯電話。っていうかi Phone。当然SoftBank。ワイルドタイガーのSoftBank。
「あ、き、な、ちゃん」
鬼神・お局ご降臨。
つまり、カタくて長くて、そして無駄に熱い、怒張よりも怒張の表現の似合う、あのお説教がやってくるというのか。
ダダンダンダダダン、なんて某州知事映画のテーマソングが頭の中で流れる。
南波知子、アイルビーバァァッァァック!!!!!!!!
いやだ。
絶対に
い や だ 。
「すいません、話します」
気弱なようでやる時はやる。それがミハルだ。
私は正座になり、渋々口を開いた。
「えーっと……まぁ……いたひてひまったかもしれぬ」
「ちゃんと言ってよ」
「えー……」
「とーもーこーさー」
「致してしまったかもしれぬ」
「武士?! どういう意味!?」
「ヤッた。ヤッたよ。私」
「何か嬉しいの?」
「誰が葉っぱ隊だ!!!!!」
ミハルはまるでわかっていなかった。




