短編 クリスタさんの受難 クリスタさんのおしごと 侍さんの受難
番外編
三つ纏まってます。
クリスタさんの受難と侍さんの受難は、下ネタがありますのでご注意下さい。
『クリスタさんの受難』
洋介と一緒にシエル救出の戦いを始める数日前の休日。クリスタは実家に呼ばれて、わざわざハームホーン家の別荘の一つまで赴いた。
学園から一番近い別荘に呼び出してくれたのは嬉しいのだが、この呼び出しは非常に面倒くさい。
(いや、家族が嫌というわけでもございませ……ん?)
ほとんど揺れない馬車の中でクリスタは頭をひねらせる。
母親は力を持つ領主として超優秀だし、父親も母親と愛し合いながらしっかりサポートしている。むしろ、頭を使う場面では父親の方が活躍しているといえよう。二カ月ほど前に『特例の男性』として洋介が加わったが、その数少ない一人に父親がいる。
呼び出しの理由はおおむねわかっていた。別に呼ばれて赴くのも吝かではないし、多少時間はかかるが仕方のないことと片づけられる。
だが、どうしても一つ、憂鬱な事があった。
「…………」
クリスタは寒気を感じ、黙ってよそゆきの私服の胸元を閉めた。
家族に悪い人はいない。だが……面倒くさいのは、一人いるのだ。
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「只今帰りま「ク・リ・ス・タ・ちゅわぁああああん!」ああもう! はしたないからおやめになって!」
別荘のドアから中に入って早々、自分とそっくりだが、やや身長が高くて大人びている女性が、嬌声と共に飛びついてきた。クリスタはそれを躱そうとするものの、その女性は恐ろしい反応速度で軌道を変え、しっかりクリスタに抱きつく。
「あああんもう会いたかったわあああ! ねぇ、元気してた? いじめられてない? 伸び悩んでいたりしない? あ、身長伸びたかしら。それとこおおこおおもおおお!」
「ちょ、ま、やめ! ああん!」
その女性は目に危ない輝きを宿し、どさくさにまぎれてクリスタの胸元に手を突っ込み、揉みしだく。服の中どころか下着の中にまで手を突っ込まれているため、直に感触が伝わってくる。
彼女の名はシエスタ・ハームホーン。クリスタの年上の従姉で、クリスタを溺愛している。
どれくらいかというと、毎月クリスタに手紙を書き、クリスタが家族の元に着くとなれば、たとえそれがどうでもいい用事であろうと駆けつけるほど。
クリスタは直に胸部を揉まれ、妖しい喘ぎ声をあげる。抵抗はするものの、恐ろしい力でホールドされてしまっているのだ。
シエスタはこの地域ではガルードを越す実力を持つ冒険者の一人でもあり、体術に置いてはクリスタは足元にも及ばない。それは体力や筋力もそうであり、クリスタは毎回全身をもてあそばれるのだ。
「ああ、そういえば、そろそろ生えてきたかしらああああ!?」
「ちょっ、そこはさすがに勘弁してほしいですわ!!!」
そしてついに、その魔の手はスカートの中にまで伸びてくる。いやらしく内腿をなぞり、パステルカラーの下着へと、悪魔の触手は進撃していた。
クリスタは、怖気と形容しがたい感触によって鳥肌を立て、男が聞いたら前かがみになるような喘ぎ声をあげてしまう。
「いい加減にしなさい!」
「アンリッ!?」
救世主が現れた。
アンリ・ハームホーン。現ハームホーン家の当主であり、クリスタの母親。
アンリはシエスタの頭を魔法で作り出した硬い氷で殴り、気絶させる。シエスタが挙げた妙な悲鳴は、小さいころからアンリをからかっていて、彼女の名前を悲鳴にしていたことからそのまま癖になってしまったものだ。余談ではあるが、竜種の尻尾に吹き飛ばされても『アンリッ!』、巨人種の攻撃を直撃されても『アンリッ!』と悲鳴を上げるため、緊張感に欠ける。
「はぁ、はぁ……た、助かりましたわ、お母様……」
クリスタは乱れた着衣を直し、わずかに頬を赤らめ、荒れた息を整えながら母親に感謝する。
彼女が恐れていたのは……変態な従姉の存在だった。
「しばらく休憩したら執務室に来てね、クリスタ」
「分かりましたわ」
母娘はそんな簡潔な会話を交わし、その場を後にした。
備考として、今回クリスタが呼び出された理由は、ユーリの一件で新たに加えた子飼い貴族家の確認だった。その用事はすぐに終わり、今度は母親にいじくり倒される羽目になった。クリスタ本人は無意識だが……彼女が家族にあてる手紙は、洋介に関する内容が多いのだ。
「……あれを無事と表現するのにはものすごい躊躇が付きまといますが……まあ、怪我がないという意味では無事ですわね、ええ」
彼女が後の洋介との会話で口にした言葉である。怪我はなかったが……母親に散々いじくり倒され、従姉に至っては貞操の危機にさらされた。
彼女の渇いた笑いの意味を、思い人である洋介が分かるのは、もう少し先である。
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『クリスタさんのおしごと』
「おっはなさんっ♪今日もカっラフっルかっわいっいな♪お水をのーんでげんきになっあれ!」
……お分かりいただけただろうか。
「「――――っっっ!!!(ガチガチガチガチ!)」」
あの大争乱から数日。夏服に移行して、本格的に夏らしくなってきたある日。校舎一階の窓からふと外をのぞいてみると、恐ろしいものが見えた。
そこにあるのは、広い広い花壇。色とりどり、大小さまざまな草花が植えられていて、文字通り、学校に華を添える。
その花壇は個人の持ち回り制で水をあげることになっているのだが……今日の担当はクリスタ。
で、当の本人はというと、
「あー今日も色とりどりでかぁわいいーっ! ほーらお水をあげちゃうよ~ららら~♪」
夏服のスカートとブラウスの袖を朝日を反射して輝く金髪と一緒になびかせてくるくる回りながら、上機嫌に如雨露を使って水やりをしていた。満面の笑みで。楽しそうに。
その姿は一つの絵のように美しく、クリスタの高貴な可愛らしさと美しさもあいまって、くらっとくるほど魅力的だ。
だがしかし……俺たちが感じているのは別の感情。
「「――――っっっ!!!(ガチガチガチガチ!)」」
暑い日にも関わらず、シエルとルナは壁際で身を寄せ合って抱き付き合い、潤んだ目を見開いて、震えながらガチガチと歯を鳴らしている。当然、寒いからではない。
そして俺も、なんとか耐えているが……この別の感情に支配され、いつあのようになってもおかしくはない。
そうこれは――恐怖だった。
普段はよく暴力振るってくるし、プライドも高いクリスタが、あんな朗らかに歌って踊りながら、まるで子供みたいに水やりをしている様は……微笑ましさとか、可愛らしさとかを通り越して、恐怖を感じる。
「あっさがっおさーんにスっミレっさんっ♪風のリズムにのってふっわふっわ踊る♪ほーらチューリップさんもご一緒に♪」
なんか花の名前に『さん』とかつけているし。子供か。
しかも酷いことに、恐ろしく音痴だ。本人は明るい歌のつもりだろうか、生憎ながら『ニ短調』にしか聞こえない。音楽に詳しいわけではないが、確か……『怒り』とか『修羅場』とか『恐怖』を表す調だった気がする。実際、俺たちには、死者に手向ける献花の広場で踊り狂う死神の狂気の歌か、これから戦場になるであろう花畑で荒れ狂う悪鬼羅刹の軍歌にしか聞こえない。さらにリズムもバラッバラだし、語呂も悪すぎる。拍子も思いっきり変拍子だ。
「は、八分の十三拍子……? クリスタはなんで朗らかな踊りの歌でこんな拍子で歌えるの……? しかもこの調……」
「や、闇の支配者である我でも恐怖せざるを得ない……。なぜそんな捻くれた拍子でひたすら変拍子がでるのだ……」
シエルとルナは音楽に詳しいようだ。恐怖に震えながら突っ込んでいる。
「それにしてもクリスタ……。『あの時』の話は本当だったのか……」
俺が思い出すのは、まだクリスタと仲良くなる前……いや、皆と仲良くなる前の話。
初日の自己紹介の後、世話係を決める際の、クリスタとマリア先生のやり取り。
クリスタは――花が好きなようだ。
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「ウサギちゅわぁ~ん! お元気してまちたか~?」
その後、死者に手向けられた献花の広場から離れたクリスタは、そのままウサギ小屋へと向かった。
ウサギもまた、生徒たちが持ち回りで世話をしている。先の一件でもこのあたりは大きな被害も無く、全員生きていたらしい。
「この前は怖かったでちゅね~? でももう大丈夫でちゅよ~。無属性のお兄ちゃんがこわぁい飛龍を倒してくれまちたからね~」
そのウサギ小屋の中、満面の笑みでウサギを抱きかかえて、ふわふわの身体に頬ずりをして、猫なで声で語りかけているのは、当然クリスタ。
俺たちは、もはや興味本位で後をつけていた。ここまで来たら、毒を食らわば皿まで、という奴である。
このウサギは、地球のとなんぼも変わらない。サイズも普通、見た目もウサギ、毛の色も白か茶色で、とても柔らかそうだ。
まぁ、確かにあの見た目は、すれてしまった現代の男子高生である俺からしてもきゅんと来るものがあるが……クリスタはやり過ぎだ。
「……いつもの勇猛果敢なクリスタはどこ?」
「わ、悪いわけじゃあないんだけどなぁ……」
シエルとルナも困り顔である。いつもとのギャップが激しすぎるのだ。
ウサギに関しても、あの日のことは本当っぽい。まぁ、クリスタが最初の印象程悪い奴ではない事は分かっているが……ここまではっちゃけてるとはな。
クリスタはウサギを一匹一匹持ち上げ、猫なで声で話しかけながら頬ずりしている。綺麗な髪の毛にウサギの毛が絡み付くのも気にせずにだ。
そんなクリスタの元に――一匹のウサギが、ゆっくりと姿を現した。
それは、大きさも見た目も、他のウサギと変わらない。ただ――毛の色が、まるでサファイアのように蒼かった。
「か、かわいいっ……!」
「何あれ抱き上げて頬ずりしたい!」
シエルとルナも、小声ながらも興奮している。かくいう俺もそのウサギに目を奪われているが……心に浮かぶのは、確かな動揺。
ウサギ小屋の扉をよく見ると、小さく新しいウサギがきましたという内容の貼り紙があった。どうやらあのウサギは、魔物の中でももっとも大人しいといわれている『サファイアラビット』らしい。まんまじゃねえかよ。
このサファイアラビットは、どうやらミーシャ先生が森をぶらついていた時に近づいてきたらしい。普段は臆病で、なおかつ逃げ足も速いため見つけにくいのだが、なぜかそのままミーシャ先生に懐いたらしい。
やっぱり、あの生物教師は規格外のようだ。さすが元綾子さんの助手だな。
「くううううぁあわいいいい! 何この子可愛い! こっちおいで~ナデナデしてあげまちゅよ~」
クリスタはもう絶好調。滅茶苦茶ゆるんだ顔で、猫なで声でサファイアラビットを誘っている。頬を染め、涎を垂らして、目がハートマークだ。危ない。あまりにも危ない見た目だ。
だがしかし、サファイアラビットは、そのクリスタの様子を感じ取ったのか、一目散に逃げてしまった。
「そんなぁ~待ってよ~」
クリスタの悲しげな声が響く。サファイアラビットを抱く気満々だったその腕は空気を掴み、虚しく震えている。手持無沙汰になった腕はとてもさみしそうに、何回も、サファイアラビットぐらいの大きさに形作られる。しかし、そのさみしさ全開の腕に、サファイアラビットは戻る事はない。
「淋しすぎて死んでしまいそうだな……」
頭の中に、まんまあのフレーズが蘇ってきた。
――ちなみにそれから数日後、今度は俺が担当となったが、その時はサファイアラビットの方から俺の腕に飛び込んできた。……癒されるわぁ……。
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『侍さんの受難』
「そこのあなたァ」
「ワ・タ・シ・タ・チ・と」
『やらないか?』
「近づくな変態!」
青い袴を着て帯刀した、精悍な顔つきで長身の男が叫ぶ。
彼の名はガルード。この一帯で名をはせる、刀使いの侍だ。
洋介たちが第二渾沌でベビータイタンと奮闘している頃、彼は二人のオカマに絡まれていた。
青いツナギを着た、ゴリマッチョで長身の男二人。ただ、厳つい顔にはごてごてとメイクが施されており、本人たちは蝶をイメージしてるが、ガルードから見れば蛾よりも酷い。ありていに言ってしまえば、気持ち悪い、気色悪い、気分悪い、の三連撃だ。
そんな二人が、科をつくって(本人たちはそのつもりだ)筋肉もりもりの腕をセクシーに(本人たちはそのつもりだ)魅せ(本人たちは以下略)、ごてごて色をつけた長いまつげをパチンと誘うように瞬かせ(本人以下略)、ガルードを誘っている(本以下略)のだ。気持ち悪くないわけがない。気持ち悪い。
この二人は凶悪犯罪者として知られるゲイのカップルだ。タカーズ・アーヴェとマーシャ・キミチーシャ。ガルードは今、依頼としてハミルトン伯爵家の屋敷に呼ばれていた。しばらく待たされ、廊下をふらふら歩いている途中に彼らに遭ったのだ(ガルードの意識ではこの字で遭って……いや、合っている)。
そして、ガルードは二人に誘われた。当然彼はノンケであり、さらにこの二人の見た目は醜悪。「ウホッ」とも思わないし、ホイホイついていったりもしない。
だがこの二人は凶悪犯罪者。他人の事情など無視して、ノンケだってかまわず食っちまう人間なんだぜ、と言わんばかりの積極性を持つ。ガルードに突っ込まれた(嫌らしい意味はない。決して)ところで、その『たてた』目標(どこをたてながらかはあえて言わないでおこう)を覆したりはしない。なにせ、目の前には正真正銘いい男がいるのだ。二人は「ウホッ」としたとき、そのターゲットを逃がすことはあまりない。
「んもゥ、い・け・ずゥ」
「ワタシたちと漢の楽園にイっちゃわなイ?」
「……………………」
ガルードは頭痛がしてきて、思わず黙った。このままでは、どことは言わないが、掘られかねない。
シャラン、と、ガルードは無言で愛刀の『ムラマサ』を抜いた。この一か月後ぐらいには洋介とクリスタを苦しめる、魔力を込めたら刀身が伸びる刀だ。
「あらん、立派なイチモツ持っているじゃなイ」
「もしかして、アナタは攻めて掘るほうがお好みかしらァ?」
戦意がそがれるが油断してはならない。彼らの実力は本物だ。ガルードですら、気を抜けばヤられる(双方の意識的にこの字は間違っていない)。
「おいこら貴様ら何を――ガルード逃げろ!」
そこに、ガラガラ声が響いた。
曲がり角から出てきたのは、アルベルト・ハミルトン。醜悪な見た目と脂ぎった体。思い切り悪役であり、実際この一か月後ぐらいにはシエルを攫った挙句ボコボコにされる。
そんなアルベルトの叫びにオカマカップルが気を取られている隙に、ガルードはバックステップのみで陸上選手並みの速さでその場から逃げだした。後ろを見せると危険だから、バックステップで逃げたのである。
なおこの後、ガルードが掘れないと思ったオカマは、他のごろつきをターゲットにして襲いまくった。
だが、それでも、異性とすら一切経験がない、ちょっぴり抜けた愛すべき侍の貞操は、確かに守られたのだ。
アルベルト・ハミルトンの人生の中では、数少ない善行である。
よいお年を




