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異世界で唯一の男魔法使い  作者: 木林森
最終章 夏の夜の狂乱
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夏の夜の狂乱1

ここから最終章です。

累計ポイント7000突破しました。ありがとうございます。

「そうそうヨウスケ、今度の休日、一緒にエフルテで買い物に付き合ってほしいのですわ」

「ヨウスケ! そういえば街の博物館が新しい展示を始めたらしいから一緒に見に行かない?」

「ヨウスケ君、そういえば、まだこの前出かけた時に紹介しきれなかった場所があるから、今度また一緒にどう?」

「お、おう……」

 三人はほぼ声を揃えて俺に話しかけてきた。とっさに聴覚を魔法で強化して聞き取れたものの、普段の俺だったら間違いなく「え? なんだって?」と返していたはずだ。

「「「…………!」」」

 そして無言のにらみ合いを始める三人。一体何があったのか知りたいところだが……踏み込んだら怖そうだな。

「つーか三人とも出かけたいなら、お前ら三人で行けばいいんじゃないか? あ、でもお前ら三人が集まるなら楽しそうだから……やっぱ俺も入れてくれよ。みんなで行くんなら楽しそうだな」

 うん、それがいいだろう。たまには仲良く四人で遊びに行くのもいいかもしれないな。少人数でマイペースに、というのもいいが、これぐらいの人数で行ったらまた別の面白さがあるかもしれないし。

「「「…………」」」

「え、えっと……?」

 一人で盛り上がっていたら、空気の温度が下がっているのに気付いた。物理的ではなく、気分的に。

 気づけば、三人は睨みあいを止め、ジトーッ、と俺を冷たい視線で睨んでいた。

 な、なんなんだ一体? このメンバーで遊びに行くのが嫌だというわけでもないだろうし……。

「あー、もしかして、皆少人数でマイペースにフラフラと遊ぶのが好きな感じなのか? いやはや、だったら確かに俺の言葉は気に入らないだろうな。撤回するよ」

 なるほどね。クリスタは多分俺を荷物持ちに使うつもりだろう。シエルはただの厚意で、ルナは……多分、中二病を理解するのが俺しかいないからだろう。俺は知っているぞ。博物館の新しい展示コーナーが『闇属性の宵』って名前なのをな!

 だとしたら、それぞれの目的にそう場合は他の人を連れていっちゃいけないよな。ようやく理解できた。

「……まぁ、ヨウスケだからこうなるのは薄々予想できましたわ……」

「うん、そうだね……ヨウスケだもんね……」

「はぁ……ボクは授業の準備するね」

 三人は、なぜかげんなりとした、疲れたような表情でその場を離れていった。

「……これも失敗だったか?」

 俺の疑問を乗せた呟きは、朝ホームルーム開始を告げる鐘によってかき消された。


                  ■


 あの、シエルが誘拐された事件からもう二週間が経った。あの騒ぎが嘘だったかのように、俺たちの生活には平穏が戻っている。

 もう地球だったら初夏が終わって夏日や真夏日が襲い掛かってくるころだが……この世界は温室効果ガスの排出量は当然少なく、この星が熱くなる周期でもないため、まだマシだ。

 それでも、未だに制服が標準服――俗にいう冬服――なのは頂けない。もう少し……具体的に言うとあと一週間ほどで夏服が解放されるのだが、この格好はとにかく暑い。学ランも酷いが、ブレザーもこっちはこっちで暑いのだ。

 とはいえ、俺たちマギア学園の生徒は恵まれている。

 さすがに廊下やトイレなどはムリだが……全部の教室や施設には冷暖房が完備されている。この冷暖房は、今の技術でも製作できる魔道具だ。さすがに地球レベルは求められないが、それなりに効果を発揮している。

 ただこの冷暖房。効果が効果な上に、製作にとても手間がかかるため、お値段は古代遺物(アンティーク)にも匹敵するほど高い。この学園の施設や部屋はかなり多く、その全部についているのだから……人が何年遊んで暮らせる額になるだろうか……。

 設備がいいマギア学園でも、やはりこの冷暖房は特筆すべき点だ。では、なぜこんなことになったのか。

 理由は……予想を裏切らない女、綾子さんの個人的事情によるものだ。

 あの冷暖房は、全部綾子さんが作った。詳しい事情は知らないが、どうせあの人のことだから

「地球の夏ではクーラーがついていたのに……。くそっ、甘やかされた現代っ子にこれはキツイぞ! ……そうだ、自分で作ろう」

 みたいなノリだったに違いない。そんなちょっと古都へ旅行に行こう的なテンションでやりかねないのがあの人だ。まぁ……その恩恵にがっつりあずかっているから文句はないが。

 魔道具と言えば、この前の事件についてあることが発覚した。

 ガルードが持っていたマギディストラクション。あれはアルベルトから支給されたものだ。

 では、アルベルトはそんなのをどこから手に入れたのか。それが取り調べによって明らかになったのだ。

 曰く、『男性の権利を訴える互助会』を名乗る黒い衣装に身を包んだ男からいくつか譲って貰ったそうだ。

 あまりにも怪しい話だが、ちょうど婚約破棄を伝えられていたアルベルトはそれに飛びつき、シエル誘拐を実行したらしい。

 この、『男性の権利を訴える』というのは……この世界では昔からあった事だ。

 ある時代では、女性ならば魔法が使えなくとも、使える可能性があると言う事で優遇され、男のほとんどは奴隷だった。結果、その時代の男たちは決起し、魔法によって傷つきながらも、権利を取得した。

 また別の時代では、戦争が活発になった故に、戦場で最も役に立つ魔法使い……つまり貴族の女性の立場が優遇された時期があった。まぁ、優遇されるぐらいならいいのだが……その優遇が行き過ぎ、当時の王子や高位貴族の男たちが立ち上がり、それを撤廃させた。

 とまぁ……男が魔法を使えないと言うのは、客観的に見て、女性が優遇される大きな要因となる。それによって行き過ぎた差別をなくすべく、時代の転換点でこのようなことが起こってきた。

 では今はどうか。確かに、未だに男性の扱いは悪いが……そこまで酷くはない。平民の間では男女平等だし、貴族社会でこそ男の価値は低いが、国の要職――宰相や大臣等――は今は男の方が多いし、昔ほど酷くはない。クリスタの家であるハームホーン公爵家の当主はクリスタの父親……つまり男性であることから、今の様子は分かるだろう。

 そんな時代に『男性の権利を訴える』運動が、こんな危険な古代遺物(アンティーク)が出回るほど活発化しているとは……俄かには信じられない。

 強いていうなれば……予想できることとすれば、最初の決起人は貴族、と言ったところだろうか。

 さっきも言った通り、平民はとくに男女差別に対する不満はない。正確に言えばあるにはあるが、日本とそう変わらないレベルだろう。

 対する貴族はまぁ、これもさっき説明したとおりだ。女性に鬱憤を溜めたり、動き出すほどストレスをためているのは男性の貴族だろう。貴族ならば、あんな古代遺物(アンティーク)を出回らせるほどの財力とコネを持っていてもおかしくないしな。

 さて、なぜこんなことを急に考え出したかというと……今やっている歴史の授業が、まさにそのあたりをやっているからだ。

(き、気まずい……っ!)

 先生が読み上げている内容は、『昔に起きた男性の権利を主張するクーデターとその顛末』について。これは、男性側を煽ったのは実は戦争中の敵国で、このクーデターによって優勢だった国が一気に攻められ敗北した。という内容だ。

 この場にいるのは、『俺以外』皆女子。そしてこの年頃の女子というのは男性に対して不思議な嫌悪感を抱くお年頃。そして、それが男嫌いのお嬢様たちが多いわけだ。しかも、ただでさえ、俺は最近悪目立ち気味。一部を除いてお嬢様たちの反感を買っている。

 必然……この授業は大変気まずかった。

(はぁ……)

 小さく、ため息を吐く。

 さっきまで考えていたことは、現実逃避に長々と考えてみただけのとりとめのないことだ。

 今の心境を、周りに聞こえないように、極力小さな声で呟く。


「お嬢様学校……まだまだ馴染むのは難しそうだ」

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