12
『気配を遮断する』性質を持つ魔力を纏った俺とクリスタは、クリスタの魔法によって身を隠すことで、屋敷の裏手から侵入に成功した。正門と裏門があり、裏門から入ったのだ。
正門にも裏門にも、それなりに厳重な警備が敷かれていた。これほどになったのは本当にここ最近で、シエルを攫うのはそのころから決まっていたんだな、とふと思う。
まず、正門側で隠密部隊の一人が、マギア学園の使いを名乗ってシエルに関して事情聴取を任意の事情聴取を求めに行く。
裏門側では、隠密部隊の一人が遠くにいる別の舞台の人に花火を打ち上げて貰い、門番の気を引く。これで俺たちはわりとやすやすと侵入できた。恐ろしいのは侵入者感知用のトラップだったが、これは古代遺物の中でも滅茶苦茶高い部類に入るため、ハームホーン家でも重要な部分にしか置いていないらしい。つまり、こんな家が持っていることはまずはない。
監視が出入りして後退しやすいようにするためか、屋敷の裏口も鍵が開いていた。警邏の目をかいくぐり中に侵入していく。三階建ての屋敷の内、アルベルトの部屋は三階にあるため、二階に向かおうと階段を上る。広い踊り場に辿りつこうとした――
――その時、
「そこにいるのは誰ヨ!?」
最悪の人物に出くわした。
事前に注意しておけと言われたうちの一人。
「ちょっとねぇダーリン、妙な気配がするワ」
「あたいも感じちゃったわダーリン。これは侵入者よねェ」
否、二人。
街から街をめぐって強盗殺人を繰り返してきた、指名手配犯罪者。
最初に叫んだ方の名前はタカーズ・アーヴェ。黒人特有の肌のゴツゴツした筋肉を持つ体で、革製のタンクトップに長ズボンを履いている、厳つい顔の『男』。
もう一人はマーシャ・キミチーシャ。こちらは白人だが、同じような格好で、同じような体つきをしている。そして見紛う事なき『男』。
この二人の特徴は、何といっても、大阪のおばちゃん顔負けの、原色を使ったゴテゴテのメイク。それは形容するのもおぞましく、ただただ気持ち悪い。
この二人は『ゲイ』のカップルで、どちらも異常なまでに『勘』が鋭い。その鋭さで、今まで生き残ってきたのだ。
俺とクリスタが合わされば潜入もひとかどのものだが……この二人には通用しない。
「容赦はしないわよォ!」
「覚悟しちゃいなさイ!」
二人はニターッ、とおぞましい笑みを浮かべ、『俺たちに向かって』武器を構えて走ってくる!
「ぐっ!?」
「くっ!」
俺とクリスタは、とっさに飛びのけてそれを躱す。派手に動いたせいで、俺とクリスタの魔法の精度が落ち、向こうからも丸見えとなる。
「あらやだワ! ちょっと細いけど可愛い男の子とお人形さんみたいな女の子じゃなイ!」
「あらあらァ。君達、ここは迷子センターじゃないわよォ?」
二人はそうからかうと高笑いする。それはそれはもう甲高い嬌声だ。地声が地鳴りのように渋くて低い癖に、笑いを文字で表現すると「アキャキャキャキャキャ!」になるのはセンスがいいとは言えない。
この高笑いによって、周りからぞろぞろと男たちがやってきた。顔に傷がある奴、ニタニタ笑いを浮かべる奴、階段の下からクリスタのスカートの中を覗く奴と、全員がガラの悪い男だった。
「クリスタ、どうする?」
「ここは……魔法が使えない集団の様ですし、立ち居振る舞いからして……あの気持ち悪い奴らを含め、B班からA班ぐらいと考えられますわ」
クリスタが言った区分けは、野外演習の時の班分けだ。俺たちがSで、SとAには結構な……それこそ相当努力しないと追いつけないような開きがあるらしい。その中でも俺たちはトップ集団のはずだから……く、クリスタ、お前、まさか……!?
「このまま包囲を突き破って前進しますわ!」
クリスタはそう言って、水の弾丸を上階にいる連中に向けて撃ち出しまくった。ゲイ二人組は避けたものの、ほとんどの奴らがこれで倒れる。
それにしても……さすがにクリスタを凶暴に見過ぎたか。あの勢いだと「全員蹴散らす」とか言いかねなかったからな。どうやら冷静の様だ。
「小娘とガキがっ! 小娘の方はとっ捕まえて慰み物にしてやる!」
「ガキの方は奴隷だ!」
「いやん、男の子の方はあたいが頂くわァ」
「あらやだ、浮気はいけないわよダーリン? 二人で頂きましょウ!」
「あ、ダーリン。普通に食べちゃうのも『ゲイ』がないからちょっと人様に言えな様なプレイをしちゃわないィ?」
「ど、どいつもこいつも!」
クリスタは顔を真っ赤にして水と光の弾幕を撃ち出す。俺は階下から襲い掛かってくるやつらを、魔法で強化した体術で、近づいてくるたびに撃退する。あの二人には近づきたくない。どことは言わないがやけに痛くなる。それにしても、『ゲイ』がないとは……洒落のつもりだろうか。
「線が細いのに強いのね坊ヤ! ますます好きになっちゃうワ!」
「そこらじゅうに男どもが沢山いるだろうが!」
『――――っ!?』
アーヴェの言葉にとっさに叫び返す。その内容が相当嫌だったようで、周りの男たちは吐き気を我慢しているかのような真っ青な顔で尻のあたりを押さえだした。どうやらもの凄い精神攻撃になっていたようだ。
「今だ!」
俺は床に敷かれているふわふわのレッドカーペットを魔法によって半ばで切り取り、その端の部分を思い切り引っ張る!
『あべしっ!』
『ひでぶっ!』
『モルスァ!』
多数の男たちは失敗したテーブルクロス引きの食器の末路みたいに倒れ、折り重なりながら階段を転がり落ちていく。悲鳴が個性的なのか典型的なのか判断に困る。
アーヴェだけは勘の良さでとっさにジャンプして回避したみたいだが、それでも他の男たちに巻き込まれて倒れ、頭を強打して気絶した。
「クリスタ!」
「こっちもそろそろですわ!」
後ろ――俺たちが進むべき方向を向いてクリスタの名前を呼ぶ。すると、そこには足とか肩を的確に打ち抜かれて行動不能になっている男たちの集団を背景に、見目麗しい天使のような美少女とゴツゴツ筋肉で醜悪メイクのオカマが戦っていた。
「この女の子も強いわねェ! ていうか、その制服ってあのお嬢様学校じゃないィ?」
キミチーシャは醜悪メイクで彩った顔をニタニタと歪めながらそう言った。体術としてはクリスタとどっこいどっこいと言ったところだが、持ち前の勘の良さでクリスタの攻撃を予め分かっているかのようにいなす。
「けど女の子には興味ないのよねェ! さァ、その坊や頂きィィィイ!」
キミチーシャはそう言うと、欲望に歪んだ顔でクリスタに襲い掛かる。だがその眼は、明らかに俺の下半身を捉えていた。思わず全身に怖気が駆け抜ける。
「させませんわ!」
クリスタは目を鋭く光らせてそう言うと、キミチーシャの足に粘性がある水の塊をまとわりつかせて速度を落とす。
「これぐらいが何よォ!」
キミチーシャは鬱陶しそうにしながらも、余裕の表情でゴツイナイフをクリスタの胸に突きつけようとする。
対するクリスタはそれを――――しなやかに、柔らかい体をスケート選手のように『反らし』て回避する。
こ、これは――――!!!
「ひっ!?」
クリスタの足が、腰を軸にしてものすごい速さで浮き上がる。それを見たキミチーシャは、恐怖の表情を浮かべて悲鳴を上げた。持ち前の勘があろうと――トリモチのように纏わりつく水の塊によって動きを制限され、回避できない!
そのまま、クリスタの足は、クリスタのつま先は――飛竜の鱗に覆われたつま先は――!
「アギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
キミチーシャの『股間』に突き刺さる! それに加えてクリスタは、抜群の運動神経で『ひねり』を加え、
グリグリグリッ!
と追い打ちをかける! キミチーシャの野太い悲鳴が屋敷中に響き渡り、空気を震わす!
そして、キミチーシャの身体はドウッ、と地面に落ちて……ビクンッ、と大きく痙攣したのち……動かなくなった――。
今のは、闘技大会でクリスタと戦った時に極められかけた業、股間蹴り上げだ。喰らってたらこうなっていたのか……恐ろしい限りだ……。とはいえ、同情の念は不思議と浮かび上がってこない。
「さ、次行きますわよ」
クリスタはそのキミチーシャの亡骸(多分死んでいない)をしばし見ると、平然とそういって先に進み始めた。気絶している男たちが彩る、悪趣味な階段の先へと。
クリスタに続いて階段を上り、そのまま上りきる。そしてふと、ちらりと後ろを見る。
行動不能のガラの悪い男たちの山、白目を向いて倒れている醜悪メイクゴリマッチョ、多数の男に巻き込まれ、痛そうにしながらもどことなく幸せそうな顔で気絶している醜悪ゴリマッチョ。その他もろもろ哀れな男たち。
……。
…………。
………………。
「……俺、自分が男であることが嫌になってきた」
「ヨウスケは大丈夫、特別ですわよ」
俺の浮かび上がってきた呟きを、クリスタは直後に顔を真っ赤にしながらも否定してくれた。
■
そのまま三階に上がり、部屋をしらみつぶしに探していく。学園と違って部屋ごとになんの部屋か書いていないから探すのが大変だ。
「そっちはどうだ?」
「全然ダメですわ」
クリスタに問いかけるも、ヒントすら見つからない。
どうしたものか、と思案に暮れているとき――
「さっきの騒ぎは貴様らだな?」
――暗くて先が見えない廊下の闇の向こうから……低く、威圧感のある声が問いかけてきた。
「「っ!」」
途端、寒気が襲い掛かってくる! これは……マズいぞ……『本物』だ……っ!
「年端もゆかぬ子供二人に壊滅させられるとは……所詮は犯罪者どまりのごろつきだ」
闇の向こうから、カスッ、カスッ、と音が規則的なリズムを刻みながら近づいてくるのが分かる。これは多分、硬い靴底でこのふかふかの絨毯の上を歩いているからだろう。
「犯罪者を集める様な情けない依頼人だが……これでも依頼人である以上は護らなければならない。……刀の錆になりたくなければ、逃げるといい」
静かな、闇に揺蕩う水のような声で警告を発してくる。その後、シュルリ、と金属を撫で合わせたような硬質な音が聞こえてきた。
その後、闇の中にキラ、キラ、と断続的に、怜悧に輝く青い光が見えるようになる。
そして、その光は、『長い刃物』の反射だと分かる。そして、闇の中から……一人の、身長が高い男が姿を現した。
着流した硬めの生地の群青色の剣道着に、紺色の袴。裸足に下駄を履き、腰に差してあるのは木製の鞘、そして手に持つのは……見紛う事なき『刀』だった。薄く、それでいて鋭い怜悧な光を放つ刃は、それがいかに業物であるかを物語る。
その喋り方も相まって……それはいかにも、『侍』に見える。
ただし……男の見た目は完全に西洋風だった。
白人特有の肌に青い瞳、薄い青の短く切った髪の毛、彫の深い精悍な顔立ち、百八十を超えるであろう身長。これは……何と言うか……最近のアニメでありがちな、女性向けにアレンジされた、どこか勘違いしているんじゃないかと疑うようなイケメン侍みたいな感じだ。
「ほう……その制服……『あの人』の学校のものだな」
姿を現した侍は、クリスタが着ている制服を見て、懐かしむように……嬉しそうにそう呟く。
「『あの人』自体はあまり教えていないらしいが――『あの人』の学校の生徒がこれほど強いだなんてな……」
あの人……口ぶりからして、綾子さんのことだろう。
「綾子さんの知り合いか?」
俺は相手の情報を探るために問いかける。
「ああ、まぁ向こうは覚えていないだろうがな。こっちが一方的に知っている、と言った方が正解かもしれん」
その侍は、存外いい反応を返してくれた。
「昔、魔物に襲われたところを助けられたんだ。それ以来、ずっとあの人は憧れだ。……あの人の故郷に住んでいたという、サムライと呼ばれる武人の生きざまをこうして真似る程度にはな。……一体、あの人はどんなところで生まれ育ったのだろうか。……これほど立派な武人がいた地域だ、さぞかしいいところだっただろうな」
「……………………」
綾子さん……また余計な事をしているよ……。
あの人の事だ。どうせ異世界に来てふとした拍子に『侍』の存在を広めたに違いない。
何だか最初の緊張感が途切れたが……それでも、目の前にいる男が強敵なのは変わりないだろう。その佇まいからして、すでに風格が漂っている。
「……それで、引き返す気はあるのか?」
男は、刀を下して問いかけてくる。
「ありませんわ。絶対に果たさなければならない目的がございますの」
クリスタは男を挑戦的に睨み返し、そう言い放つ。
「そうか……若さゆえの愚直さもあるが、いい目だ。こんないい若人も……斬らなければならぬのか」
男がそう、どことなく嘆くように呟いた瞬間……男が放つ、怜悧なオーラが増した。これは、まさに強者が放つ覇気だ。
「クリスタ、あれはなんだ?」
「……知りませんの? このあたりでは冒険者の中でも五本指に入るといわれる猛者ですのよ。名はガルード・アズライト。『その道』を選んだサムライの中では、最強と謳われる方ですわ」
クリスタは侍……ガルードの方を睨みながらもそう答える。
冒険者か。冒険者でも当然、男性が強くなっているのはそれなりに珍しい。恐らくハミルトン家の誰かに雇われたのだろう。
世知辛いことに、冒険者は相手が重犯罪者でなければ、依頼を一度受けてしまったら、断るには多額の違約金が発生してしまう。日本生まれの俺からすれば考えられない事だが、この世界に置いて犯罪者をかくまうのは重犯罪にあたらないのだ。
そもそもこの違約金の制度もかなり歪だが、これは冒険者ギルドが昔はごろつきの集まりだったころの名残らしい。近いうちに綾子さんのメスが入るそうだが。
「その腕、技術もさることながら……恐ろしいのは、その『カタナ』と呼ばれる一振りの剣ですわ。少し反っていて、細身で薄く、切れ味を重視したそのシンプルながらも洗練されたデザインの、かなり珍しいタイプの剣ですわ」
クリスタの解説を聞いたガルードは、少し感心したように目を細める。
「ああ、やっぱり広まっているようだな。そう……これは世界に数本しかないといわれる、ひたすら切れ味の身に特化したカタナだ。ある古代遺跡で見つけた古代遺物でね。入っていた箱には『ムラマサ』と書かれていた。このカタナの銘は……『ムラマサ』だ」
変なところで日本とマッチする。確か日本にも『村正』と呼ばれる刀がいくつかあったはずだ。
それにしても……あれは古代遺物の武器か。となると……場合によらなくとも相当厄介だろう。古代遺物の武器は、そのすべてが恐ろしい効果や性能を持っている。
「さて、無駄話はここまでだ。……貴様らを相手にするには骨が折れそうだ」
ガルードはそう言って……ムラマサを構える。
瞬間、ガルードからものすごい闘気が放たれる。
気圧されそうになるも、俺とクリスタもそれに対抗するように構え、対峙する。俺が前衛で、クリスタは後衛だ。
一瞬の沈黙――。
それは――
「勝負!」
ガルードの覇気の籠った声によって破られた! 瞬間向こうは動き出すが、それに合わせて俺は相手の懐に入り込むべく突撃し、クリスタも魔法を一斉に発射して援護してくれる。
「そっちから間合いに入ってくるなど――愚か!」
魔法によって強化した脚力で飛び込んだものの、ガルードは恐ろしい速さで俺に反応して刀を横なぎに振る。俺は急ブレーキをかけてバックジャンプして回避する。危なかった……今のまま突っ込んでいたら確実に斬られていた。
「男は体術で、女は魔法か。……どちらも将来いい武人になれそうだな」
俺に攻撃を加え、さらにクリスタの広範囲にわたる攻撃を無駄なく回避して見せたガルードは、口角を少し上げて笑う。
(ちっ、隙がないな……)
特に力が入っているというわけではないが……その構えは、これといった隙が見つからなかった。剣道のように正面に構える割とよくあるスタイルだが、ここまで隙をなくせるものなのか。
さっきの攻撃は大した溜めもせず動いたため、体に巡らせる魔力が不十分だった。なら次は……もっと身体能力を強化してやる。
「っ!」
息を止め、今度は少しフェイントを入れながら向かっていく。
刀の欠点として、懐に入り込まれたら弱いと聞いたことがある。インファイトに持ち込めれば……っ!
「むっ!」
いきなり上がった俺のスピードに驚きつつも、ガルードはムラマサを俺に合わせて横なぎに振ってくる。
だが――その動きは計算通りだ!
俺がそれを気にせず、身を低くして前に進む。俺に迫ってくる刀は――
バシンッ!
――クリスタの魔法に弾かれて軌道がずれる!
軌道がずれた刀は、そのまま身を低くした俺の頭の上を通り過ぎる。
そして、ガルードに一瞬の隙が生まれる――!
「ぐっ!」
開いた腹に掌底を食らわせる。大して効いていないものの、俺に懐に入り込まれたことを悔しがっている様子だ。
相手はバックステップで距離を取ろうとするものの、即座に間を詰めて襲い掛かる。一番の脅威であった刀の刃の部分もここまで入り込めばあまり効果を発揮せず、自然向こうも体術と、せいぜい刀の柄の部分で戦うしかない。
「かっ! がはっ!」
腹に、胸に、脇腹に――次々と攻撃を加えていく。向こうも体術は恐ろしほどの手練れ――クリスタ以上だ――だったが、魔法で強化した俺の身体能力には追いつけない。ここ数カ月にわたる授業によって、元々素人だったこともあり、俺の戦闘技術はそれなりに上達した。後は技術が伴っていなくとも――身体能力でゴリ押せる!
「くっ、ぐううっ!」
ガルードが苦しそうな声を漏らす。これで俺だけだったらとっくに距離を取られていただろうが――クリスタが中距離からの魔法で巧みに援護してくれるおかげで、このいい距離を保てる。
懐からは俺が魔法で強化した体術で、中距離からはクリスタが魔法で、それぞれ攻撃する。
これがまた――恐ろしいほどに上手く『ハマる』。俺が距離を取られそうになったら、即座にクリスタが相手の進路を阻むように攻撃を加える。クリスタが攻撃をしようとしたら、俺はそれを勘で感じ取り、クリスタの攻撃が見えにくくなるように視界を遮るような動きをする。
俺とクリスタは、まるで一つの意志で固まっているかのように動きが繋がっていた。この、自分たちでも驚くほどのコンビネーションに――ガルードは終始押され気味だ。
「がふっ!」
そしてついに、俺の攻撃が初めて直撃する! 掌底が鳩尾に上手く入り、苦しげな声を上げながらガルードは体をくの字に折る。
その決定的な隙が生まれた瞬間、俺はその下がった顎に向かって膝蹴りを食らわせる!
「ごあっ!」
ガルードは苦しそうな声を上げ、そのまま後ろに派手に吹っ飛び――後頭部から地面に落ちた。ふかふかの絨毯だったから落下ダメージは少ないが、顎に入った膝蹴りによって脳震盪を起こしているはずだ。
「俺たちの勝ちです。……命は奪わないので、アルベルトがいる場所を教えてください」
俺は焦点が合わないのか目をせわしなく動かし、苦しそうに頭を押さえて蹲るガルードにそう語りかける。
「ぐっ! くそっ……このままだったら確かに負けていただろうな。……だがな――」
ガルードはそう言って、悔しげに唇を噛むと――
「――こっちは依頼で、冒険者として護衛をしているんだ! 性質の悪い依頼人だろうと――守らなければならなんだ!」
――そう叫び、懐に手を突っ込んだ!
俺たちは何かをされると感じ、即座に身構えて攻撃に備える。
ジリッ……と焦げるような緊張感が俺とクリスタの間に走る。
そのまま……三秒、四秒、五秒……何も起こらない。
「はぁ……こんな情けないものは使いたくなかったが……仕方ないだろうな」
かなりひどく顎に食らわせたのに、もう立てるほどまで回復したガルードは、悔しげにそう呟きながら刀を構える。
ガルードは何かをした様子だが……俺たちに特に変化はない。まさかハッタリか? とも疑ったが、どうにもそんなことをする性格にも見えないし、あの様子だと何かしたのだろう。
「悪く思わないでくれ……これも仕事だ!」
こっちが警戒する中、ガルードはそう言うと――刀を構えて飛び込んでくる!
「このっ!」
俺はそのスピードにギリギリで反応し、サイドステップでその振り下ろしを躱し、逆に足を横に突き出して足払いをかける。
それは余裕を持ってガルーダに躱されたが――これだけの時間があれば、クリスタが魔法攻撃を出来る!
今度こそ止め――と思ったが……魔法は飛んでこなかった。
「クリスタ!?」
何が起こったのか、と思ってクリスタを見る。
「くっ、何が起こっているのですの!?」
怒りのにじんだ表情で、焦ったように叫んでいるクリスタがいた。
「隙を見せるとは――愚かな!」
そのクリスタの様子に動揺した俺は、さっきにお返しとばかりに、刀の柄で胸を殴られる。
瞬間、肺の中の空気が痛みと共に口から吐き出され、胃の中のものも出そうになるが――なんとか実体化させた魔力を纏うことが出来たので、致命傷にはならなかった。
だがしかし、今の俺はそれを喜ぶ余裕がない。
「クリスタ、どうした!?」
俺は即座にガルードから距離を取ってクリスタの隣に並ぶ。
クリスタは困惑と焦りが混ざったような表情で――若干涙目になりながら、俺に状況を教えてくれた。
「魔法が――使えないのですわ!」




