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異世界で唯一の男魔法使い  作者: 木林森
異世界のお嬢様学校にまさかの入学
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「なっ!? 君は案外薄情なんだな!?」

 座っている俺よりも低い位置から綾子さんが叫ぶ。俺は顔を覆っていた両手を離し、綾子さんに目を向ける。

「何を失礼な! 俺にとっては死活問題ですよ! どうせこっちにはアニメもパソコンもラノベも無いんでしょう? だったらそれは俺の生き甲斐が無くなったのと同じですよ!」

 綾子さんの言葉に反論する。全く、この人は何を言っているんだ?

「む……そう考えると、私もそんな感じの事をここに来たころに言ってたような気がするな……」

 あ、なんか認めだしたぞ。もしかして、この人もアニメとか好きだったりするんだろうか。ためしにちょっと仕掛けてみるか。

「ところでこの世界の魔法ってどんなものなんですか? 何かの獣に『僕と契約して魔法少女になってよ』とかいって契約を持ちかけられたりするんですか? それとそれって俺にも使えますか? 使えたら、それはとっても嬉しいことだなって」

「それは魔法少女だけだろう。そもそも、あの世界の魔女化のようにリスクはとくにない。心が濁ったらアウトと言う事も無いさ。それと君もこの世界に来たからには、まぁ魔法は使えるだろう。ところでそのセリフはあの国も認めた日本を代表するアニメの中に出てくるものではないかね?」

「やっぱりアニメ好きなんですね」

 俺がアニメネタを交えて呟いた疑問に、綾子さんはそのアニメの話を交えて解説をしてくれた。さらに個人的な質問に混ぜたネタにも突っ込んでくれた。魔法が使えると言うのも嬉しいし、こうして話が通じる人が異世界にいると言うのも嬉しいな。それこそ、それはとっても嬉しいことだなって。

「そうだ。とはいえ深夜アニメの方ばかりだったがね。他にもライトノベルやネット小説にもハマったりしたな」

 綾子さんは完全に同族の様だ。

「趣味には犯罪だったり周りに迷惑をかけない限り貴賤などないはずなのに、このような趣味を持っていると同級生から若干敬遠されたものだ。終いにはメディアまで私たちの趣味を貶め始め、こんな趣味をカミングアウトした途端に評価が下がるほどだ」

 それどころか俺よりも深みに嵌まっていたようだ。

「正直、この世界に来たとき、最初は酷く悲しんだが、その後は大喜びしたものだ。この世界では私が患っていた『中二病』のようなセンスが普通だし、魔法もあるしカッコイイ魔物や装備もある。それどころか私はこの世界の中で頂点に立てるほどだったのだから、正直言ってこの世界の方が過ごしやすいな。あれやこれの続きや結末を見届けられないのが心の底から残念ではあるが、それを妄想するのもまた一興と言うものだ。そもそも物語の結末は与えられるだけでなく、自分で想像するものでもあるのだからこれはこれでいいわけで……」

 そして薄情者のようだ。さっき俺に言った言葉をそのまま返したい。まるで政治家のブーメラン発言だ。しかも自分が投げた時よりもはるかに加速しているタイプの。

「分かった、分かりましたからその話はここで区切りましょう。ね?」

 俺は掲示板が荒れた時にさっそうと現れる某光の戦士のアスキーアートように、両手のひらを相手に向けて前後に振る。

「む、失礼、話がそれたようだな」

 スイッチの切り替えが早いタイプなのか、先ほどまでの暴走が嘘だったかのように止まる。

「コホン。……話を変えるが、一つ提案がある。どうだろう、私がしばらく君の保護者になってもいい。同郷であり同志である君の話も聞きたいし、君自身もこの世界の事を知らないまま身一つで世間に放り出されるのも困るだろう?」

 綾子さんは咳ばらいをしたのち、俺にそう提案をしてきた。

「願ってもいない事です。暫くお世話になりますね」

 俺はその提案を受け入れた。実際、この世界に身一つで放り出されるとゆとり教育の鳥籠で生きてきた俺は数週間も生きられずに死ぬだろう。サバイバルなどの知識も無い。

「ああ、大丈夫だ。それと、私は今学校を経営していてね。丁度君ぐらいの年頃の少女たちを教育しているんだ。そこで君も一緒に学ぶとよい。一般常識といった日本の学校でも習うようなことや、魔法や魔物との戦い方なんかを教えているぞ。言っては何だが、この世界でもトップクラスにいい学校だと思っている」

 綾子さんの言葉に、俺は素直に尊敬した。

 世界最強の魔法使いで、なおかつトップクラスの学校経営者。いい人そうだし、さらに同郷で同志だ。この人に拾われて、俺はなんだかんだで運がいいのだろう。

「何から何までありがとうございます」

「ああ。それに……私側も君を研究できると言うメリットがあるからね」

 俺がお礼を言うと、綾子さんは何か気になることを言い出した。

「研究……ですか? まぁ、確かに魔力の量が多いと言うのなら研究の材料にはなりますかね」

 そう、俺を研究に使うつもりだそうだ。まぁ、危ないことはさせられないだろうし、多分大丈夫だろう。

「ああ、なんせ君は『世界で一人だけの魔法使い』なるだろうからな」

 綾子さんの言い回しはまたもや奇妙なものだった。

「えっと……魔法使いは綾子さんの口ぶりからして世界にたくさんいるんでしょう?」

 綾子さんはこの世界で最強の魔法使いらしい。つまり、それと比べられるだけの普通の魔法使いが沢山いるはずだ。

「ああ、そうだな。私の言い回しが悪かったようだな。訂正しよう」

 綾子さんはやっと気が付いたのか、謝った。


「君は世界で一人だけの『男性の魔法使い』だ」


「……え?」

 綾子さんの言葉に、俺はまたもや思考を停止する。

「ん? ああ、地球ではこんな話はなかったな。……実はこの世界……『貴族の血が流れている女性』だけしか『魔法が使えない』んだ。つまり、貴族の血が流れていない女性や男性は何故だか魔法が使えないのさ。何故だか分からんが、魔力の量が魔法を使えるほど多くないんだよ。けれど君は私と同レベルの魔力を持っている。つまり、君は世界で一人だけの男性の魔法使い、ということさ」

 男は魔法が使えない? 貴族の女性だけしか使えない? へ? ……つまり、俺は綾子さん以上の『異常者イレギュラー』だと?

「え、でも、さっき……学校で魔法を教えているって言いましたよね? その時、男の生徒はどうするんですか?」

 思わず俺は混乱してそんなことを聞く。

「ん? だからさっき言ったろう? 丁度君ぐらいの年頃の『少女たち』を教育している、とね」

 綾子さんはさも普通ですよ、と言わんばかりにそう言うと、

「私が経営している『マギア学園』は『女子校』だ。それも貴族の血が流れている少女たちが集う『お嬢様学校』だよ」

 と説明を締めた。

「……つまり?」

 俺は、この後に続く言葉が予想できた。しかし、わずかな希望にかけて、俺はその続きを促す。

「……つまり、『プライドの高いお嬢様』が集う学校に君は通うことになるね。お嬢様の中に男が一人になる、ということだね。多少肩身は狭いだろうが頑張ってくれ。君の魔力からして魔法の成績は悪くはならないだろう。異世界トリップで思いもよらぬ強力な力ゲット、さらにお嬢様ばかりの学校に男は自分一人……『チーレム』出来るよ、やったねたえちゃん!」

 そんな綾子さんの言葉に、俺は唖然としながらも、条件反射的に突っ込んだ。


「おいやめろ」

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