泣かない理由、涙の理由1
ここから三章です。
あの騒動の終結から一ヶ月経った。
最終的な俺の立ち位置としては、『強いヒモ』となっている。
相変わらずヒモ扱いは変わらないが、俺の実力については加味してくれたらしい。
まぁ、この実力も棚から牡丹餅で手に入れたようなものなため、複雑な心境なんだが……チートでもてはやされるのって憧れるよね! なんだかんだでちょっと嬉しいのだ。
まず、この間行われた学力テストでは総合五位だった。また、クリスタ、ルナ、シエルの三人はトップスリーを独占しており、教科ごとの順位も全部のトップスリーがこの三人だ。ありえねぇ。
俺の結果もかなり凄いものだったと自負しているが、この三人を見ると喜びも自信も油断も慢心もどこかへ吹っ飛ぶ。おっかしいなー? 地球ではこんなに好成績取ったことないのにほとんど嬉しくないぞー?
俺の結果にクリスタはご満悦。なんせテスト前の追い込みでは自分自身も忙しいはずなのに、わざわざ俺が住んでいる小屋まで来て勉強を教えてくれたのだ。それで俺がこれくらいの成績を取ったため、
「世話役冥利に尽きますわ!」
とか高笑いして言っていた。……もう入学して二カ月過ぎているからとっくに世話役の任は解かれているはずなのに、未だに俺の世話役でいるつもりらしい。人の上に立つの好きすぎでしょう。
また、魔法戦闘の実技テストでも俺たちは好成績を収めた。
テストの方法は、アリア先生とのタイマンという恐ろしいもだった。
闘技場をわざわざ使って行われるそれは、どうやらここ毎回の伝統らしい。
三ラウンドに分かれていて、一ラウンド目は先生が防御に専念する代わりに、生徒は攻撃をし続ける。
二ラウンド目は逆で、先生が少しずつ威力を上げながら攻撃するので、生徒側はそれを防ぐのだ。
そして三ラウンド目は普通に戦う。先生は手加減モードだが、生徒たちはガチンコで挑みに行く。
この三つの戦いを経て、先生が評価をつけるのだ。
ちなみに、全てに万全の状態で挑めるように、一ラウンドにつき一日かけて行われる。
さて、ここで一つ大きな事件があった。
その事件の中心人物はルナ。
能力が高く、中でも目を見張るのはその魔法の威力だが、それが今回は災いした。
先生は事前に『全力で攻撃するように』と指示してくるため、生徒は本当に全力で先生に挑む。先生も生徒ごときに危険な目に遭う事もないため、今まではこれが成り立っていたのだ。
だが、侮るなかれ。
くじ引きによって決められた順番。その日最後に試験を受けるのは偶然にもルナだった。
ルナは第一ラウンド開始直後、全く攻撃をしなかった。
そのことで先生は大層怒り、怒鳴ったがルナは不敵な笑みを浮かべるだけ。
そして、攻撃しないと決めていたはずの先生が動き出そうとしたとき――ルナの口は開かれた。
「昏き闇よ! 猛き焔よ! 我に力を与え、今、敵を殲滅せよ! そして我の覇道を開け! ――喰らい尽くせ! 『煉獄の黒焔龍』!」
なんと、ただでさえ単純な攻撃力と破壊力では学年一位にいるルナが、その粋を集めたオリジン『煉獄の黒焔龍』を、無抵抗の先生に容赦なく使ったのだ。
何体もの黒焔龍が先生に襲い掛かり、さしもの先生もただでは済まない。
黒焔龍に包まれた先生は悲鳴を上げる。そんな状態が数秒続いた時――突然、怒気とも覇気ともとれるオーラが爆発した。
瞬間、黒焔龍と煉獄は、すべて血のように真っ赤な、苛烈で、激烈で、強烈な炎に包まれ、消え去ったのだ。
ルナはそのあまりの凄さに驚き、フィールドの端まで後ずさる。それはまるで、熊に睨まれ、逃げる一般人のように。
だが、もう遅かった。
「――死ぬかと思ったぞボケがああああああ!!!」
『灼熱女王』の逆鱗に触れてしまったのだ。
その瞬間、翌日になるはずの第二ラウンドを告げるゴングが先生の中で鳴り渡る。
煉獄を吹き飛ばし、自らの怒りの『灼熱』で塗りつぶしたアリア先生は、もはや炎に住まう魔人そのもの。
そのまま先生は罵詈雑言を吐きながらルナをタコ殴りにした。それはもうボコボコにした。言っておくが、この前多人数に授業でいじめられていたルナの比ではない。そのときのルナは、まさにサンドバックそのものだった。
結果的に、介入してきた複数人の先生に取り押さえられ、アリア先生は連行された。
そして、一時間後に戻ってきたアリア先生は……完全に意気消沈していた。
後で聞いた話だが……どうやら、自分で全力を出せと言ったのにそれをやられてマジギレ、さらに幼気な生徒をフルボッコにしたということで……アリア先生の愛しの妹、マリア先生から長い長いお説教を受けた挙句、
「お姉ちゃんなんか……いや、アリアさんなんか嫌いです!」
と言われ、その後は無視され続けたらしい。
アリアさんって……貴方は他人ですって意志の表れの様だ。これは相当アリア先生に効き、一週間はどよーんとしていた。
その後はトラブルもなく進み……実技では、俺が一位、クリスタが二位、シエルが三位でルナが四位となった。しかも俺を含めたこの四人、点数はほんの少ししか変わらない。
第一ラウンドの時点ではルナは圧倒的一位だったが(攻撃までの時間の長さと無駄な口上のせいで減点されたが、威力の高さが認められて二十五点貰ってた。満点は二十点なのに)、第二ラウンドでは防御手段がほぼないルナはボロボロで、第三ラウンドもあまり振るわなかった。
対する俺たちはバランスよく点数を取れた。
しかも、俺は第二ラウンド、クリスタは第三ラウンド、シエルは第一ラウンドで満点を貰っており、それ以外でも満点に近かった。
そんな激動のテストも終わり、成績が発表されたところで、俺の能力面での評価が上方修正されたのだ。
とはいえ、あくまで『ヒモ』。今ではこの学年において人気トップスリーを独占する三人と一緒に行動しており、ことあるごとに三人からフォローを受けている。はたから見ればヒモだが……俺が受けているフォローの大半が周りの誤解が原因だ。あの三人が解いてくれようとする度に誤解が生じるのである。
あの三人にも今更やめてくれとか言いづらいしな……まぁ、いいか。口で言われるだけならどうってことないや。勝手にヒモだと思っとけ。
■
今日は久しぶりに朝礼で綾子さんが喋る。最後に声を聞いたのは三週間ぐらい前だったかな? なんでも、ここ最近国の方から依頼が入ったみたいで、それの打ち合わせのための王都に出向き、さらに今日ここで喋るのも半ば「仕事に行ってきます」という挨拶みたいなものらしい。セナさんが言ってたから多分そうなのだろう。
「諸君、テストはどうだったかね? 私も学生時代は全部のテストが終わると同時に『終わったよ……何もかも……』と絶望したものだが、君たちがそうなっていないことを祈ろう」
しょっぱなから無駄話だなおい。そもそも本人の話を聞く限り綾子さんは学生時代も超優秀だったはずだ。これはあれだ、クラスに一人はいる「やべーわー、あの問題出来なかったわー」とか言ってそれ以外はほとんどあっているパターンの奴だ。
「さて、こうして週一度の朝礼や行事の度に前で喋るのが大方学校の長の仕事なわけだが」
偏見強すぎだろこら。学生時代の恨みが声ににじみ出てるぞ。
「私はちょいと『副業』が入ってしまってね。今度はまた随分長いことここを空ける予定だ」
綾子さんは様々な仕事を持っている。
本人いわくメインは『学園長』。副業として、魔法研究家、国家特別魔法使い、冒険者、お花屋さんのアルバイト(!?)などがある。
中でも(というかメインよりも圧倒的に)忙しいのが国家特別魔法使いという仕事。綾子さんは強すぎて騎士の枠にはめるのもおこがましいレベルであるため、国がそんな仕事につけたのだ。
騎士や国、冒険者では対応が難しい危険な事件や仕事が発生した場合、これを颯爽と登場して解決するのが仕事だ。
もう全部この人が出ろよ、と思わなくもないが、そんなことしたら綾子さんへの報酬だけで国が潰れてしまう。意外とシビアなのだ。
「今回がまた厄介な事例でねえ。何でも、原因不明なんだが『巨人の峡谷』の巨人種たちが、集団で狂乱状態になっているそうだ。あいつらは異常に強いし、数も多いし、狂乱状態だから危険だしで、結局私が出ることになったのだよ」
た、『巨人の峡谷』で巨人種が集団狂乱状態? そんなイカれたことになているのかよ。
さすがに今の言葉は生徒も衝撃だったみたいで、俄かに行動がざわめき出す。
『巨人の峡谷』とは、名前の通り巨人種の住処になっている峡谷だ。一体いれば小国家ならば滅ぶレベルの巨人種がうようよいる場所である。
まず一番多いのがタイタン。ベビータイタンよりも大きい十メートルほどの奴ら。顔つきは様々だが、肌の色は黄色人種っぽいし、体つきは大体同じだ。決して奇行種とかはいない。項もとくに弱点ではない。
そしてそれより大きいのが二十五~五十メートルと大きさがまちまちのビッグタイタン。日本語で『大きな巨人』になるがそれはスルーしよう。もう何もかもが別次元で、魔法まで使ってくる。いきなり壁を壊して人類に支配されていた恐怖を思い出させるきっかけ……にはなるかもしれないな。
そしてさらに恐ろしい……一体いれば小国家どころか中堅国でも滅びかねない奴らがいる。そのすべてが五十メートルを超え、下手をすればキロメートル単位までとどく奴もいる。
百本の腕と五十の頭を持つ『ヘカトンケイル』、知能を持ち光輝く強力な防具に身を包む巨人の騎士『ギガンテス』、青白い肌をしていて氷系を中心とした水属性魔法を使う霜の巨人『ヨートゥーン』、火属性魔法を操る黒い肌の炎の巨人『スルト』……といった、伝説や絵本の世界の巨人種までいるのだ。
綾子さんが続ける話を聞く限り、調査の結果そいつらまで一部は狂乱状態にかかっているらしい。幸いこの伝説級の奴らは賢いため少ないが、それでも何体かは狂乱状態であり、またタイタンやビッグタイタンはほとんどが狂乱状態ということだ。
魔物が集団でパンデミックのごとく狂乱状態になるのは、そう多くはないが珍しくも無い。狂乱状態は、より本能に近い思考で動いている魔物はかかりやすく、また、病気のように伝染するのだ。
問題はそれが『巨人の峡谷』で大規模に起こったと言う事だ。
魔物が集団で狂乱状態になった場合……何故か、その縄張りを離れて暴れはじめる。つまりそれは……周辺の生態系が狂い、もしかしたら人里にすら辿りつかれる可能性もあるということだ。
……マジで壁の中で暮らす羽目になるかもな。
「とまぁ、こんな具合だ。こんな感じの話を本で読んだこともあったが……まぁ、諸君も万が一の時のために気をつけてくれ。大分離れてはいるが、どんな影響が出るかは正直未知数だからな」
おっと、綾子さんも同じことを考えていたようだな。
「そんなわけで、私ははるーか遠くの『巨人の峡谷』まで赴かねばならない。そんなわけで……結構ここを長く空けてしまうだろう。悪く思わないでくれ」
綾子さんはそう言うと、得意げににやりと笑って、『俺に』流し目を送ってきた。
瞬間、俺の背中に電流が走る。気づいてしまったのだ。この後綾子さんが何をするか。
「では、最後に決め台詞でも一発言っておくか」
おーけいおーけい。やっぱりそうだ。
「巨人どもを……駆逐してやる!!!」
頂きました! 駆逐系女子(と言うほどの年齢でもな……こほん)の誕生です! さすがに一匹残らずとはいかないみたいではあるが、中々突っ込んでくるところは突っ込んでくる。
さすが綾子さんだ! 俺たちに出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる憧れるぅ!
――みたいなテンションで講堂中から拍手と称賛の声、黄色い歓声に愛の告白が飛び交った。
それらに対して綾子さんは手を振って応え(目があって笑いかけられた最前列の一年生が気絶しているのが見えた)、舞台の上を離れた。
綾子さんが出ると、不思議と文章が生き生きとしています。




