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「おうし! 集まったな! じゃあ今日は『多対一』の訓練だ! 五人組ぐらいで組んで、一対四で戦え! 人数が多くなる側は戦力調整して弱い者いじめすんなよ!」
あれから少し経ち、平和(?)な授業の日々が始まった。魔法戦闘の授業だけは平和と言いたくないが、日常は日常だ。
「今回は授業バランスの為にも四人で分かれた方がいいですわね」
「そうだな」
「ん、おっけー」
「了解した。では、また会おうぞ」
クリスタの提案によって、俺たちはバラバラになることになった。
さて、こうなると今の状況では俺はぼっちとなる。自分から声をかけても睨まれるだけなので、余った人と組むことにした。
……はい、女子四人組に入れさせられました。当然俺が一人っと。
「クリスタ様のヒモめ……」
「シエル様の寄生虫……」
「ルナちゃんと馴れ馴れしく話して……」
「気を遣わせて……」
四人とも敵意が表情と態度だけじゃなくて、言葉にまで出てしまっている。ああ、もう。リンチする気満々じゃねぇか。
コートに入り、俺の対面に四人。
作戦は……様子見のために防御主体だな。
「よっしゃ、いいな。……始め!」
アリア先生が勢いよく開始宣言をした。
その瞬間に、俺に対して四人から魔法が降り注いでくるが……物足りない。
数も、密度も、威力も、速さも……何もかもがあの三人に劣る。
こちとら演習で二回もあの三人の洗礼受けてんだぞ。
自分を囲むように魔力を展開して適当に防ぎながら、あたりを見回す。
「まだですわ! 相手が一人なんだから多方向からの攻撃で撹乱なさい!」
別のコートではクリスタが全部の魔法を撃ち落とし、なおかつ指導している。部活動の先輩みたいだ。
「ほら、お互いの位置も確かめないで魔法を撃たない! フレンドアタックがあったら目も当てられないよ?」
クリスタと違ってこちらは力を抜いた指導をするシエル。二人とも指導者として優秀なようだ。
さてと……ルナはっと……お、見つけた。あの赤いポニーテールは見つけやすいな。
ちょっと手前でやっていた試合が派手だったため、体勢を変えて覗き込む。
そこには、ぼろぼろのルナがいた。
「なっ!?」
どんなってんだ!? あのルナがここまでボロボロに……しかもあの制服を傷つけるほどの過剰攻撃だと!? 多人数側がそんなことやったら危険だろうが!
ルナの相手を怒りを込めて覗き込む。そこには、見覚えのある顔ぶれ、そして特徴的な青髪。
ユーリと、その派閥の奴ら。
「…………そういうことかよ」
理解した。その瞬間、腹の底から怒りが込み上げてくるような、あの感覚が蘇ってくる。
確かに、もうあれから一週間は過ぎているから、あいつらが復学していてもおかしくはない。
その復学早々にこれは……絶対に私怨と、復讐のためだ。多分、こっそりルナに話しかけて、挑発かなんかして引きずり込んだのだろう。
よく見れば、あいつらの周りのコートでは派手な試合が行われている。多分……先生の目を盗めるところを選んで、あんなことをしてるのだろう。
いくらルナとは言えど、S班に参加するようなの二人、それに加えて二人を同時に相手するのは難しいだろう。しかも、向こうは遠慮なく攻撃を仕掛けてくるが、こちらはルールを守らなければならない。
結果……あんなにボロボロになっているのだ。
「……ふざけてんじゃねぇぞ」
俺の口から、低く、そんな声が漏れる。
瞬間、俺が相手していた四人は気絶して倒れた。鳩尾に魔力の球をぶつけたのだ。
そのままコートを出て、ルナの元へと向かう。
「さぁ、くたばれ!」
ユーリが息も絶え絶えのルナに対して、渾身の魔法を撃ち込もうと魔法を準備する。
しかし――
「っ!?」
――その魔法は発動せず、ユーリは体調を崩したようにふらりとよろける。
「……ルナ、大丈夫か?」
「…………ヨウスケ?」
それに構わず、俺はルナに近づいて様子を見る。
ルナは俺を見上げ、ぽかんとしている。
ルナはところどころ汚れが付き、怪我や火傷をしていて、制服も破れている。
俺は無言でルナに回復魔法をかける。ごっそりと魔力がもって行かれる感覚がしたが、ルナが顔に負った大きな傷は跡形もなく塞がった。
「よう、てめえら。よくもまあ凝りもせず次から次へと悪さが思いつくもんだな?」
俺はユーリたちに向き直り、低い声で話しかける。
「そ、それよりも……今のは何よ!? 魔法をキャンセルさせるなんて……!」
しかし、向こうは俺との対話に応じるつもりはないみたいだ。
「そんなの単純な話だ。……いや、今は関係ないな」
そんな話をしていると、周りが騒ぎに気付き、こちらを見ながらひそひそ話しているのがわかった。
ルナがぼろぼろで、その相手がユーリ達で、それを俺が庇っている……そんな、傍から見れば奇妙な構図に、注目しないはずがないのだ。
クリスタとシエルも手を止めてこちらを見ている。どうやら見ただけで状況を察したようで、こちらに走り寄ってくる。
「あん? おうお前らどうし……はぁん、そういうねぇ……」
奇妙な様子に気づいた先生がこちらに来て、見る。それで何か理解したのか、顎に手を当てて鋭い目になった。
「こ、この薄汚い男が授業妨害をしてきたのです!」
「そうです! あいつが悪いんです!」
ユーリが俺を指さしてそう言うと、派閥の奴らもそれに続く。
それを受けた先生が、こちらを睨む。
「……明らかに危険かつ過剰な攻撃をしていたため、個人的な判断で中断させました。勝手な判断で授業を妨害したことはお詫びします。ですが、ルナの様子とあいつらを見ればわかる通り、あのまま続いていた場合の結果も予想がつくはずです」
先生の視線に内心怖がりながらも、冷静さを装って、なるべく客観的にそう話した。
「はぁん、平行線かぁ……」
先生はそう言うと――本当はどっちが悪いかわかっているくせに――笑顔を浮かべ、解決策を提示――強制――してきた。
「よっしゃ! これは魔法戦闘の授業だ! 将来冒険者や騎士やるなら覚えとけ! ……いまからこちらには決闘をやって貰う!」
その発言に、俄かに周りがざわめき始めた。
「冒険者の世界では特に顕著だが、こういった場合には決闘で決める場合が多い! ちょうどいい機会だ! お前ら四人とそっち二人で決闘しろ!」
向こうはユーリ含めた四人、こちらは俺とルナの様だ。
クリスタとシエルも参加しようと口を開きかけたが、俺が視線で押さえる。
「……いいですよ。決闘しましょう」
四対二ということで勝ちを確信しているのか、ニヤニヤ笑いながらユーリはそう言った。
「……ルナ、問題ないな?」
「……うん」
俺とルナはそんな会話を交わす。
膝をついているルナに手を差し出し、向こうも受け取ったため、それを引っ張って立ち上がらせる。
「受けて立ちましょう。ルールは?」
俺はそう言って先生に確認を取る。
「私が負けと判断したら負け! 相応の戦意喪失か戦闘不能、または実戦ならば死んでいたと思わせればいい! ……折角だから、よりリアルにするために、殺しアリのルールにするのも考えたが……さすがに私の可愛いマリアに怒られそうだからな」
審判は先生か。アリア先生がシスコンなのは知っているからスルーとしてっと。
「ヨウスケ……ごめん」
「謝るな。これから奴らを潰すんだ」
「違う……違うんだよ……」
ルナは顔を伏せながら、目に涙を溜めてそう言った。俺に迷惑をかけた、とでも思っているのかと思ったが……違うようだ。
「あいつらがね……ヨウスケのことを、クズだっていったんだ。クリスタも、シエルも、新しい友達も皆……馬鹿にされた。……それが悔しくて、相手してやろうと思ったんだけど……このざまなんだ。それが……情けなくてっ……申し訳なくてっ……」
嗚咽を漏らしながら、ルナは懺悔をするようにそう言った。告白した。
「そうか……」
大方そんなことだろうと思ったよ。それにしても……俺だけじゃなくて、クリスタやシエル、それにルナの友達も馬鹿にされたのか……。
………………。
「――――許さねぇぞ」
怒りが込み上げてくる。もうコテンパンにしてやる。今後この学校に恥ずかしくていられないぐらいに。
……そうだな。あれなんかいいかもしれない。そう言えば、演習の時にルナから聞いた話もあるな。……好都合だな。
「――ルナ、『あれ』を使え」
俺は涙を流すルナの耳元でそう囁いた。
「……え? でも……大丈夫なの?」
「行ける行ける。……あいつらはお前の魔法を馬鹿にしたことがあったよな? けれど……俺たちはそう思わん。お前の魔法は素晴らしいものだ。誇ってもいい。……奴らにその素晴らしい魔法の真骨頂を味わわせてやれ」
最初は、ルナは自分に向けられた悪意に憤っていた。そして今は、俺たちに向けられた悪意に憤っている。人思い……とも取れるし、俺自身の事も思ってくれているのは嬉しい。
けれど、自分の事でもっと怒るべきだ。というわけで、大きなお世話かもしれないが……折角だからここで怒りを呼び起こして、一気に復讐を済ませてしまおうかと考えた。
あいつらのプライド的にもそれがベストだしな。
「…………うん、分かった」
ルナは涙をごしごしと袖で拭うと、表情を引き締める。これから戦う顔だ。
「よっしゃ、準備はいいな?」
俺とルナの会話が終わったタイミングで、ユーリ達も作戦会議を終えたようだ。
双方頷き、決闘の始まりに備えて構える。
「――始めっ!」
先生が手を振りおろした瞬間、俺たちに向かって雨霰と魔法が降り注いできた。その中でも、白い炎が威力が高い。
「あんたのけがらわしい黒い火とは違うのよ! 見なさい、この私の美しい白い炎を!」
ユーリがそう叫びながら魔法を撃ち出してくる。
なるほど……事前に聞いてはいたが、ユーリは火属性と光属性の魔法使いの様だ。それも、ルナと同じように、火に別の魔法を混ぜるタイプの。恐らく、光魔法でさらに焼けやすくしているのだろう。
同じ火でも、色と性質は真逆。そんな相手に、ユーリはボコボコにされたのだ。それに加え、相手は、爵位主義の自分からすれば、クズもいいところのルナ。それでいらんプライドが刺激され、いじめを始めたのだろう。
俺はそれらの魔法を、魔力の壁ですべて防ぐ。さっきの四人に比べたら相当威力が高いが……やっぱり、あの三人の一斉攻撃を受けてきたからなぁ……弱く感じる。
けれど、S班に参加していたメンバーが二人いるだけあって……魔法の性質的に防御手段に乏しいルナにとっては厳しい相手だ。ルナは攻撃力でゴリゴリ進むタイプだが、授業のルールに縛られて高位力の魔法も使えなかった。……よく考えられたいじめだよ。
「亀みたいにビビって守っているだけじゃなにも出来ないわよ!」
攻撃を注いでいるのにすべて防がれていることに業を煮やしたのか、ユーリがそう叫ぶ。
瞬間、魔法の気配が変わった。
……来るか。
「食らいなさい! 『光舞う火蝶』!」
ユーリがそう叫ぶと同時……今までとは威力も速さも比べ物にならない白い炎が襲い掛かってきた。
その炎はいくつにも別れ……光の尾を引いて襲い掛かってくる。
その凶悪な威力と速さとは裏腹に……それらの炎は、ひらひらと『舞う』ような印象を受ける。
これこそがユーリの『オリジン』だ。
爵位主義のくせに、侯爵家の出なだけあって魔法技能が高く、こうしたことも出来るのだ。戦闘実技の成績は常にトップ十のどこかにはいるほど。
出来るのだが……拍子抜けだった。
「はぁ……」
強化された動体視力で捉え、それらを一つ一つ魔法の弾丸で撃ち落とす。
なんというか……『雑』だ。確かに学生の域を超えてはいるが、こんなのをオリジンと認めるのはどうかとすら思う。
ユーリは……『俺と同じ』、才能にものを言わせて好成績を納めるいるタイプだ。努力は身分相応にしているだろうが、才能があっただけに昔から慢心していて努力を怠っていたらしい。
そんなのが放つ魔法など……クリスタの本気と真正面から戦った俺からすれば、価値も無ければ脅威も興味もほとんどない。
「……準備はいいか、ルナ?」
「…………うん」
魔法を防ぎ、撃ち落としながらルナに問いかける。するとルナは、覚悟を決めた面持ちで頷いた。
さぁてと……俺が見せるわけではないが、本当のオリジンを『魅せて』やるか。
あ、でも……舞台の上が汚れてるな。見かけだけの雑な魔法で。
俺は無言で腕を降りおろし、解放した力を相手に放つ。
『っ!?』
瞬間、相手の魔法が途切れた。一度撃ち出された魔法はすべて撃ち落とす。
魔法が途中で途切れてしまったユーリ達は動揺で固まっている。
「行け、ルナ! お前の最高にカッコイイ『魔法』を見せてやれ!」
「うん!」
ルナは力強く頷くと大きく息を吸って――
「昏き闇よ! 猛き焔よ! 我に力を与え、今、敵を殲滅せよ! そして我の覇道を開け! ――喰らい尽くせ! 『煉獄の黒焔龍』!」
――長い長い前置きと共に『オリジン』を発動した!
膨大な魔力が解放された瞬間、黒い焔が勢いよく広がる!
きゃっ! 外野の生徒の悲鳴が聞こえるほどの勢いがある焔は、まるでルナの力を表現しているかの如く、逆巻き――暴れる。
ゴオオッ! と空気が渦巻く音とともにさらにそれらは勢いを増し、さらに逆巻く。
その姿は……黒い焔が燃え盛る煉獄に現れた、一体の龍のようだった。
ゴオオッ! と空気が渦巻く音は、まさに龍の咆哮。
ゴオオオオオオオオオッ!
そして一際大きな咆哮があがった途端、そこらじゅうの黒い焔が逆巻き、何体もの龍を形造る。
「は、ひ、へ…………!」
「な、ん…………」
その、一種の地獄とも取れる光景に、ユーリ達は尻餅をつき、引け越しでただ見上げるだけ。
そんな愚かなる獲物を、黒焔龍らは見逃さない。
ゴオオオオオオオオッ!
もう一つ大きな咆哮を、一斉に龍たちがあげた。瞬間、その迫力……覇気は一気に膨れ上がる!
「ひ、あ……」
『――――っ! …………』
その姿を見たユーリ以外の敵は、泡を吹き、地面を濡らして気絶した。
ユーリはかろうじて意識を保っているものの、目からは涙がぼろぼろ零れ、鼻水とまじって酷いことになっている。地面は濡れているし、尻餅をつきながらも後ずさっているし……馬鹿にしていた、実は圧倒的強者の恐怖に包まれた、情けない姿をしていた。
そして、恐怖で冷静でなくとも……本能で感じているはずだ。
――――龍の敵意が自分に向けられていることを。
「い、へ、あ……いやああああああ――――っ!!! …………」
そしてついに、大きな悲鳴を上げ、極限まで情けない姿になったユーリは……泡を吹いて気絶した。
それを見た俺は、もういいだろうと思ってルナの魔法を止めさせる。
黒き焔の龍が暴れる煉獄が晴れ、コートの中が一望出来るようになった。
立っている俺とルナ、そして気絶しているユーリ達四人。
ぐちゃぐちゃの顔、剥かれた白目、痙攣する身体、そして濡れている地面。
そのあまりにも情けない姿を……目覚めた時、ユーリは沢山の生徒に見られていたことを知るだろう。
敗北をはるかに超えた屈辱。
今まで、ソーニャさんたち騎士や、ユーリと同じパーティーだった生徒や、俺や、クリスタや、シエルや……そしてルナが、こいつに与えられた屈辱をこの一回に凝縮して突き返してやる。それが今回の俺の作戦だった。
「――勝者、ヨウスケとルナ!」
先生の裁定が下された瞬間、俺とルナは無言で、けれども歓喜を確かに共有してハイタッチを交わした。
パチン、と乾いた音が、にわかにざわめき出した演習場に、妙に小気味よく鳴り響いた。
冬の童話祭参加作品投稿しました。
題名は『英雄と天使様』です。ぜひご覧ください。




