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異世界で唯一の男魔法使い  作者: 木林森
異世界のお嬢様学校にまさかの入学
17/58

16

たくさんの感想ありがとうございます。

スマホからだとまともな文章がかけないので、感想返しは夕方になります。

 いきなり魔法の応酬となった。

 俺は実体化させた高密度の魔力の球を、クリスタは水の針と光の剣を。

「ちっ、やっぱりクリスタは今までとは違うようだな……」

 お互いの間で相殺され、派手に水や光や衝撃波を散らす空間を睨みながら、俺はそう呟いた。

 強化された反射神経と動体視力によって、クリスタの魔法の軌道はすべて認識できる。斜め、前、真っ直ぐ、変化……様々な軌道で迫りくる魔法を撃ち落としつつ、こちらも反撃を加えていく。

「さすがにやりますわねっ……!」

 魔法の相殺による爆音の向こう側から、クリスタがそんなことを呟くのが聞こえた。

 そして、クリスタの魔力の『感覚』が変わるのを感じる。

「やべっ!」

 俺は即座に、自分の前に実体化させた魔力による透明な壁を展開する。

 その直後、その透明な壁に大量の光の線が襲い掛かってくるのが見えた。

「くっ、中々しぶといですわね」

 クリスタの悔しげな呟きが聞こえる。

 今クリスタがやったのは、空中に撃ち出した大量の水の針を通して、光の剣を乱反射によって、大量の光の線にしたのだ。

 あ、危なかった……。この世界の謎の魔法法則には感謝しなければな。

 光属性の攻撃は、魔力で出来ていれば『透明なもの』でも防げる。普通に考えたら光を通すからそのまま攻撃を食らうだろうが、光属性の攻撃魔法に限っては、それに対抗するほどの魔力が壁にこもっていたら防げるのだ。

 今回の場合は実体化するほどの高密度の魔力の壁を展開したために防げたのである。

 無属性魔法は、とにかく魔力消費が多い。その分使い勝手は悪くはないが、体内魔力が異常である俺じゃなかったら大体の人が使いこなせないだろう。

 さて、それじゃあ俺もそろそろ反撃に出るか。

「それっ!」

 俺は魔法戦闘の授業の時に相手した茶髪の女の子――ハンナというらしい――にやったみたいに、吹き飛ばす性質を持たせた魔力をクリスタに放射する。

「きゃっ!」

 クリスタはそれに対する対策は考えてあったのか、俺の動作から即座に先を読んで水の壁を展開する。

 だが、今回は前回の二倍ほどの魔力を使った。

 思いのほか威力が出た魔法によって、クリスタは防御もむなしく吹き飛ばされる。

 俺はそれを追いかけるようにして、魔法で強化した脚力に任せて一気に詰め寄る。

「その手は……見飽きましたわ!」

 クリスタは吹き飛ばされたにも関わらず、驚異の運動神経とバランス能力で着地した。

 そして、詰め寄る俺の腕を掴み――

「ぐっ!」

 ――そのまま俺の進行方向へと引っ張る!

 自身の力を利用されて勢いよく壁にぶつかった俺は、そう悲鳴を上げる。

 合気道みたいに、向かってくる相手の力を利用する体術の様だ。クリスタは、魔法や運動神経もかなりのものだと思っていたが、武術も使えるようだ。

「それっ!」

 隙を見逃さずに水の鞭を仕掛けてきたので、俺はそれを迎撃しながら、魔力の球を地面にいくつも叩きつける。

「くっ! またですの!?」

 それによって舞い上がる土煙によって、クリスタの視界は妨げられる。一方、俺は壁際に追い詰められていた状況から逃げ出すことに成功した。

「……どこまでも人をコケにして」

 俺が脱出できたタイミングで、クリスタがその土煙を晴らした。

 細かい水の粒を振らせ、土を地面に落としたのだ。これによって地面が湿り、土煙を使った戦法は出来なくなった。

 クリスタは怒気を孕ませながら、俺に水の針をいくつも飛ばしてくる。

「勘弁してくれっ!」

 その水の針は、クリスタからだけでなく、俺の後ろからも襲い掛かってきた!

 魔法と言うのはイメージが大事だ。

 他人にものを飛ばす、と言う場合、どうしても人間の場合は『投げる』、またはそれに近い動作を自分でやらなければならない。つまり、『自分から対象に飛ばす』というのが、どうしてもイメージしやすいわけだ。

 だがクリスタは、自分から相手に飛ばすだけでなく、好きなところから相手に飛ばすことも出来るのだ!

 俺はイメージを強化するために、両腕を抱え込むようにして体を縮め、自分を『包む』ように魔力を展開し、それを防ぐ。

 そして――

「はぁっ!」

 縮めていた体を一気に解放し、両腕も柔道の受け身のように、下へと思い切り広げて振り下ろす。

「くっ!」

 それとともに、俺の体を覆っていた魔力も周りへと解放された。

 実体を持つ魔力が勢いよく解放されることで、クリスタにもその衝撃は及ぶ。

 クリスタは悔しそうに声を漏らすと、深追いするようなことをせず俺から離れ、仕切り直した。

 先ほどまでの激動が嘘みたいな沈黙の中、二人で睨みあう。

「二人とも凄いですねー」

 審判のマリア先生がのほほんとした声でそう言った。

「「…………」」

 緊張感のある沈黙が破れ、俺とクリスタは同時にガクン、と力が抜けた。

 ……マリア先生……もうちょっと空気読みましょうよ……。

 さて、何はともあれこれで振出……いや、地面が使えなくなったから若干不利になったか。

 それにしても、お互い決定打に欠けるな。クリスタは純然たる能力で、俺は魔法で補って、それぞれ攻撃への対処はそれなりだ。

 このままだと進まないな……よし。

(一つ手札を切るか)

 俺はそう決定し、全身の身体能力を魔力でさらに強化する。

「っ!」

 俺の魔力に気付いたのか、クリスタが水の弾丸による弾幕で牽制しながらバックステップをするが、俺はそれを、自分の前に魔力の壁を展開しながら進むことで突き破りながら進む!

「接近戦ですのね!」

 クリスタはそう言うと、即座に何かの武道の構えらしきものを取った。半身にして、左手を少し前に出している。どちらかといえば柔道に近いだろうか。

「女の子を殴るのは気が引けるがな!」

 対する、軽口を叩きながら向かっていく俺は完全な我流。強化した身体能力に任せた雑な戦い方だ。休暇の間にアヤコさんのメイドさんから魔法と一緒に体術も教わったが、『躱し方』中心だったため、攻め方はあまり習っていない。その攻め方も、(綾子さん曰く)メイドさんが捻くれているため、搦め手ばかりだった。

 俺は右こぶしを握り締め、その整った顔に下にある顎を狙って右アッパーを繰り出す。

 それをクリスタは、上体を『反らす』ことで回避する。フィギュアスケートのポーズのように、ほとんど顔面が上を向くほどだ。

 クリスタはそんな体勢のまま、アッパーで開き切った俺の腹を狙って拳を繰り出す。

「おっと!」

 ギリギリのところで腹のあたりを実体化させた魔力で守る。踏ん張れない体勢だったためかそこまで威力はない。そんな攻撃でクリスタの手が終わるはずがない。つまりこれは『次への布石』だ!

「油断大敵ですわ!」

 クリスタは上体をさらに反らし、足を地面から離れさせ、サッカーのオーバーヘッドキックのような動作をする。その足は――

「恐ろしい奴だなっ!?」

 ――真っ直ぐに俺の股間へと向かってきていた!

 瞬間、俺の脳裏にここ数日で何回も踏まれたつま先と、蹴られた脛の痛みが蘇ってきた。

 クリスタの革靴は踵部分、それとつま先部分も硬い。どうやら特別製の様で、その硬さから繰り出される攻撃は毎回涙がにじむほどの痛さだった。

 その革靴を……今もクリスタは履いている。

 つまり……この勢いのまま、俺の股間をあの『硬いつま先』で蹴り上げる?

「嫌だああああっ!」

 俺は恐怖で涙をにじませ、情けない声を上げながらも股間部分を全力で実体化させた魔力を出すことで守る。この反応速度はまさに火事場の馬鹿力ってやつだ。動体視力や反射神経は強化しているが、これほど早く対応できるほどではない。

 男が生まれ持って抱えた生理的ハンデを潰されることなく、俺は体勢を立て直した。

 クリスタも勝ち誇った笑みを浮かべながら、綺麗に回転して、ふわりとスカートに風を孕ませながら着地する。回転の際にちらりとペールトーンの布が、輝くような肌色の隙間に見えた気がした。うん、あくまで気がしたというだけだ。

 ああ、ダメだ、変な煩悩に振り回されるな……よし、落ち着いた。

 さて、体力面で有利な分接近戦に持ち込んだが……さすがクリスタ。運動神経では今の俺の方が圧倒的に上なのに、技術でむしろ押してくる。いや、俺がど素人だというのもあるけどさ。

「さて、その拙い技術で接近戦を続けますの?」

 クリスタは自信たっぷり、という笑みでそう挑発してくる。

 少しイラッと来たが……これは確かに分が悪いな。

「反省するよ! 教えてくれてありがとさん!」

 せめてもの抵抗として、負け惜しみ気味の軽口を言いながらバックステップで距離を取る。クリスタは即座に距離を詰めてこようとしたが、二回戦の決め手で使った『ランダム振動』の魔力を放射して牽制した。

 クリスタはそれが何なのか察知し、見えないはずのその魔力を避けながら、水の球を数発撃ち出してくる。

 そこまで攻撃する意志が籠っていないその攻撃は、当然避けた。

 さてと……そろそろ大きく動かないとヤバい頃だよな。

 クリスタが何発も撃ってくる水の弾丸や球を相殺しながら、俺は次の一手を考え――

「――っ!?」

 攻撃を相殺して水しぶきが散って陽光をキラキラと反射して輝く向こう側で……クリスタが、口角を上げ、勝ち誇ったように笑った気がした!

 何か攻撃が来ると思い、俺は即座に自分の前に魔力の壁を展開する。

 クリスタはそんな笑顔のまま目を瞑り、右の手のひらをこちらに向けて――

「おわっ!」

 そこから激しい光を生み出した!

 俺は反射的に顔をそらして目を瞑り、さらに上から腕で覆う事で視界を守る。だが、少し遅かったみたいで、目を瞑って視界は暗いはずなのにチカチカと光が瞬いているように感じた。

 それでもこの状態を長く保つべきではないと思い、無理矢理目を開けると――

「嘘だろ……?」

 キラキラとした輝きを全身から放つクリスタが『四人』いた。

 それぞれが違う動作をしているものの、クリスタそのものだ。

 神々しいまでに輝く金髪はさらに輝きをまし、顔には満足げな笑み。

「おっほっほっほっ! どうかしら? これが私の切り札である『オリジン』ですわよ!」

「『オリジン』だと!?」

 クリスタの言葉に、俺は思わず反問してしまった。

 そんな馬鹿な……いくらなんでもそれは規格外だろ……。

 『オリジン』とは、魔法使いの憧れとなっている魔法だ。

 優れた技術と魔法力によって生まれる『オリジナル魔法』。その効果が世間的に認められ、その魔法使いの代名詞ともなる魔法……それこそがオリジンなのだ。

 戦闘のプロである冒険者や騎士ですら認められるのは一握りだと言うのに……それを学生にして覚えていると言うのか? そんなのチートやチーターや! と叫びたいところだが、恐らくクリスタは、これを弛まない努力によって習得したのだろう。それはチートでも何でもない……正しい手段で身に着けた強さだ。

「オリジンか……これほどになるまで、一体どれだけの努力を積んだんだ……?」

 凄すぎる。まさかこれほどまでだったなんて……。学生の域を超えていると思ったが、それすらも過小評価だったようだ。

「……またそうやって……誤魔化して……裏切るのですわねっ……!」

 俺の言葉を受けて、何故かクリスタが怒り出した。

 四人のクリスタが怒りに端正な顔を歪める。

「努力を褒める、努力を素晴らしいものと扱う……そんなふりして、馬鹿にしてきた癖に! 自分は才能に胡坐をかいて、人の事を見下して!」

 クリスタは顔を真っ赤にし、拳を握りしめながらそう叫んだ。

 俺が、クリスタを、馬鹿にした? クリスタを、見下した?

 もしかして、それがクリスタが怒っている原因なのか?

「な、何を言って……?」

「またそうやって誤魔化しますの!?」

 問いかけようとすると、クリスタはそう叫んで俺に水の弾丸を撃ち込んできた。

 それを躱して、とりあえず正面にいるクリスタに向き直る。


「散々人の事を褒めておいて、自分は才能に胡坐をかいて! そうやって、褒める振りして、努力をあざ笑っていたのでしょう!? 今までの男みたいに! 私は聞き逃しませんわよ! アリア先生に貴方が言った言葉! 一ヶ月前に魔法が使えると知って、魔法に関しては素人ですってね! さぞかしたった一ヶ月でそこまで強くなれて、努力している私の姿は滑稽だったでしょうね!」


 クリスタはそう叫び、俺のことをキッ! と睨む。

 ……そうか……そういうことだったのか……。

 俺の発言がクリスタを傷つけてしまっていたんだ。

 クリスタは、多分、ずっと、ずっと努力を積んできたのだろう。

 今から考えると……その結果は褒められるものの、『天才』とか『才能がある』とか……ある意味、努力をないがしろにする言葉が多かったかもしれない。

 そんな中、俺は努力で結果を残したであろうクリスタが眩しくて、それを何回も褒めた気がする。

 けれど……そこで俺がアリア先生に言った言葉だ。

 実際、俺はほとんど努力もせず、こんな力を手にいれた。

 知らず知らずのうちに……クリスタを傷つけてしまうぐらい、慢心していたのかもしれない。気を緩めず、発言に気をつけていればこんなことにもならなかっただろう。

 完全に俺が悪い、というわけではない。クリスタの被害妄想な部分も大きいが……そのきっかけを作ってしまったのは間違いなく俺だ。

「はぁ……」

 あまりの自分の情けなさに、俺はため息をついた。

「クリスタ……俺の言葉は信じられないかもしれない。けれど、聞いてくれ。俺はクリスタの努力を馬鹿にしたりもしないし、見下したりもしない。そう取られる発言をしてしまったのは謝る。けれど、今までの態度に、そんな気持ちは一切ないんだ」

 むしろ……その努力をできるひたむきさが、羨ましくもあった。

「言い訳にしか聞こえないかもしれない。けれど、俺がクリスタを尊敬しているのは本気だ。クリスタの努力を、俺は心の底から尊敬していた」

 俺はそう言いながら、構えを取る。

 クリスタは驚いたような、泣きそうな顔をして、俺の事を睨む。

「そんなこと言って……またっ……!」

「そんなことはない。俺はクリスタの努力をないがしろになんてしないさ。……これで証明になるかわからないけど、今から俺は本気を出す」

 俺は最後の言葉にありったけの想いをこめて、低くそういった。

「今からの本気は、俺がこの一ヶ月で身に着けた、お前が積み重ねてきたものに比べれば全然凄くないものだ。付け焼刃と罵ってくれてもいい。実際、とてつもなく力づくだからな」

 反射神経、動体視力、筋力を魔力で強化し、戦闘再開に備える。


「……お前の全力に、俺も全力で応える」


 俺はそう言って、正面のクリスタを睨んだ。

「……いいですわ。その言葉はどうやら本気の様ですわね」

 クリスタも、先ほどまでの無秩序な怒りや動揺を収め、戦う意思が籠った目になる。


「その言葉、全力で示してみなさい!」


 クリスタはそう言って、一気に光の剣を十本撃ち出す!

「上等だ!」

 俺はそう言いかえしながら、それらを躱して一番近くにいたクリスタへと蹴りを入れる。しかし、なんの手ごたえも無く、俺の足はすり抜けていった。

「ぐっ!」

 そしてその隙に向かってくる光の剣を、俺は上体を反らして避ける。

 しかし――

「なっ!」

 ――その光の剣は、何もないところで唐突に『軌道を変えた』! 隙だらけの俺の腹に、その光の剣が向かってくる!

 俺はそれを体勢を崩したまま転がることで回避する。しかし、そこにはまた別の光の剣が二本、唐突に軌道を変えながらランダムに向かってくる!

「何なんだこれは!」

 俺はそう叫びながら、別のクリスタに魔力の弾丸をマシンガンのように撃ち込む。しかし、それもすり抜けるだけだった。

 このクリスタは幻覚か? ならば本物はどこにいて、どうやって生み出している? それにこの光の剣のあまりにも唐突な軌道変更もそうだ。普通の魔法と違って、あまりにもランダムすぎる。そのせいで、全く持って先が読めないのだ。

「おほっほっほっほっ! 中々苦戦しているようですわねぇ!」

 四人のクリスタが高笑いしながら、さらに光の剣を撃ち出してくる!

「このオリジンの名は 『水と光の幻想舞曲(ミラージュ・ロンド)』と言いますのよ! 空中に配置した大小さまざまな水の粒に光を反射させ、幻覚を見せますのよ! これこそまさしく、水と光の舞曲ロンドですわ!」

 どんどん数が増え、ランダムな軌道を描く光の剣を紙一重で躱す。それどころか一発食らっていて、俺の頬には一筋の傷跡が付いている。ついには魔法による相殺や防御を織り交ぜないと厳しくなってきた。それでいて、こちらの攻撃は外れてばかりになっている。

 なんて恐ろしい魔法だ……これほどの精度で、しかもたくさんの反射まで使って、それを維持し続けるなんて……どれほどの想像力、魔力、操作力を持っているのだろう。

 俺みたいに感覚を魔法で強化できない以上、これは慣れ……つまり、積み重ねた努力で成り立っている。

 一体、どれほど積み重ねればこれほどになるのだろう。

 光の剣を食らい、手の甲に一筋の傷がつく。さらには制服で守られた部分も、少しずつダメージが積み重なっていく。制服で守られていても、衝撃自体はその下まで伝わってくるのだ。

 対するクリスタにはまだ一撃も与えられていない。向こうもこれほどの魔法である以上、かなり消費しているから、時間が経てばこちらの勝ちだ。

 だが……

「目の前の相手が真正面からぶつかってくるんだ……こちらも真正面からぶつかってやる!」

 俺は光の剣の攻撃にさらされながら、あらん限りの体内魔力をある性質に変換する。先ほどから、少しずつ時間をかけてやってきたことだ。

「いくぞクリスタ! 舞曲ロンド終曲おわりを見せてやる!」

 そう叫んで俺は、その魔力を解放した!

『きゃっ!』

 クリスタと先生の短い悲鳴が聞こえる。

 魔力を解放した瞬間、ゴウッ、と空気が唸る音が聞こえた。

 体から明確に減っていく魔力を感じながら、俺は結果を見る。

 クリスタは『一人』になり、光の剣もすべて消えていた。

 そう……


『元に戻った』のだ!


「クリスタッ!」

 俺は叫びながら、クリスタに一歩で近づき――


 ――その喉元で、手刀を寸止めした。


 しん、と沈黙が訪れる。

 観客も、先生も、俺も、クリスタも……その瞬間に限り、その張りつめた緊張感を味わった。

「――――勝者、ヨウスケ!」

 マリア先生が沈黙から慌てて復帰し、判定を告げる。

 その瞬間、観客席からため息と気のない拍手、そしてすすり泣きが聞こえてきた。

「ふぅ……」

 そういえば、今更になってアウェーだということを思い出した。

 やれやれ、と思いながら、俺は手刀を下して身体の力を抜く

「あらあら、嫌われていますわね」

 クリスタが俺の様子を見て、からかうように言ってきた。

「いや、俺も確かに嫌われているが……それ以上に、お前が好かれているんだよ」

 そういいながら、俺はポケットからハンカチを取り出して血を拭う。

「そう……ですわね」

 クリスタはそう言いながらも、俯き加減で微妙な表情だ。

 さっきも気づいたけど……慕ってくれるのは嬉しいけど、褒められ方が気に食わない、という悩みだろうな。

「確かに、周りは天才だなんだと言ってはいるが……前向きに考えろ」

 俯いていたクリスタが、俺の言葉にはっ、と顔を上げる。

「確かに努力の『過程』をないがしろにする、一種の嫌な言葉だが……その実、お前の努力の『結果』はとても評価されている、ということだ」

 クリスタは目を丸くして、俺の事をきょとんと見つめる。

「まぁ、その……それに、周りがどんなに過程を大事にしなくとも……俺だけは、お前が積み重ねてきたものは否定しないさ」

 俺はそう言って、恥ずかしくなってクリスタから顔を逸らす。

 思いつきで言ったことだが……滅茶苦茶恥ずかしい! ちょっとこんなセリフは言うもんじゃないな。アニメの主人公は空想の世界で十分!

「そう、ですの……ありがとうございますわ」

 だが、空想の世界的な『クサい』センスが割と世間に浸透している世界の住人であるクリスタは、嬉しそうに微笑んだ。

 そして、クリスタはそう言いながら、俺に右手を差し出してきた。

 なんだ? と一瞬思ったが、その動作が意味することを思い出し、こちらも右手を出す。

 そして――

「決勝ではあの女の鼻を明かしてやりなさい、ヨウスケ」

「せっかくだからもぎ取ってくるさ。しっかり祝ってくれよ、クリスタ」

 ――どちらからともなく、がっちりと握手をした。

 柔らかく、運動した後のせいか熱を帯びている感触を感じる。

 一度は拒絶された手を……今は受け入れられていた。

 数瞬の握手の後、どちらからともなく手を離す。

 さてと、じゃあ控室に戻ろ――


「キャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 ――うとしたとき、世界を斬り裂く、恐怖に震えた甲高い悲鳴が、観客席から闘技場に響き渡った。

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