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念のため書いておきます。
この話の前に、本日全話を投稿しています。もしお読みになっていない場合、そちらをご覧ください。
「あら? 下劣な男の割には授業前に予習とは感心ですわ。まぁ、この私の下僕である以上それぐらいは当然ですわね」
翌朝、遅くまで起きていたせいで今一つさえない頭を無理やり起こして登校すると、ヨウスケが予習をしていました。
これは感心ですわね。他の男と違って、ある程度賢いようですわ。
「よう、おはよう」
「おはようございますわ。ところで、予習はどの辺まで進んでいますの?」
挨拶もそこそこに、私は予習の進み具合を尋ねました。世話係になった以上、ヨウスケがテストで悪い点を取ることは絶対に避けたいことですわね。そうなると、面倒ではありますが勉強の方も世話する必要が出てくるかもしれませんわね。
「んー、まぁ大体この教科書の半分とちょっとぐらいまでだな」
あら、結構進んでいますわね。これが狂言でなかったら、次のテストはとりあえず大丈夫でしょう。
「あらそうですの。まぁ大体その辺まで進んでいれば上出来ですわね。男は馬鹿ばかりと思っていましたが、貴方はそうじゃないですのね」
昨夜、ヨウスケの魔法について調べ物をしながら、考え付いたのですわ。
ヨウスケは、他の男とは違うと。
話していて不快ではない……いや、不快な面もありますが、他の男に比べてそれが圧倒的に少ないのですわ。
ヨウスケの言葉からそれを確信した私は、何故だか嬉しくなてしまいます。
「そう褒めてもらえるなら光栄だよ。ちなみにクリスタはどの辺?」
「とりあえず最初から最後までは。魔法理論と魔法実戦は特に力を入れていますの」
「クリスタさんカッケー……」
まぁこのぐらいは当然ですわね。
「ほほほ、そうでしょう? もっと褒め称えなさい」
何だか妙に嬉しくなり、つい調子に乗ってそんなことを言ってしまいます。
「クリスタ様さすがです!」
「常に学年トップクラスに君臨する頭脳は伊達じゃございませんね!」
「クリスタ様天才!」
いつの間にか話に加わっていたのか、派閥の方が口々に私を褒めそやします。
大体が何かしらの下心ややっかみが混じっていて、ごく少数が真剣に褒めてくださる。ごく少数とはいえ純粋に褒めてくださるのは嬉しいのですが……どうにも、気分がすっきりしませんわね。
「クリスタさんマジ努力の人! こんな人が世話役だなんて学園生活に希望が持てそうだ! いよっ、大将!」
少しくさっていると、ヨウスケが囃し立てるようにそう言ってきました。
どことなくふざけている風でしたが……籠っている感情は本気でした。
「ほ、ほほほほ、まあまあ上出来ですわね」
その感情がとても照れくさくて、くすぐったくて……嬉しくて、私はついついそう高飛車に返してしまいました。
■
魔法理論の授業が終わりました。
「今日は一年生の時の復習で終わっちゃったね。ねぇねぇヨウスケ君、先生が言ってたこと分かった?」
初めての授業の感想を洋介に尋ねようとしたところ、横槍を入れられました。
去年から何かと私に対抗してくるシエルですわね。挑戦してくる以上真っ向から勝負していますが、少々対抗してき過ぎですわね。私に何の恨みがあるのでしょう?
「あー、まぁ一応予習はしてあるからな。分からない事はなかったな」
まぁ、ヨウスケったら! 笑顔を向けられた程度であんなに表情をゆるめてデレデレと! やはり、ヨウスケも所詮は男、ということなのですわね!
そもそも、あんな女にデレデレと……って私は何で怒っているのですの!?
「へぇ! 確かに予習はしてくるよね。そう言えば、さっきクリスタには教科書の半分ぐらいまでは予習しておいたって言ってたよね? 凄いね。ボクはまだ最初の単元が終わるかどうかぐらいだよ!」
ヨウスケの情けない表情に訳が分からない怒りを覚えていると、シエルはさらにヨウスケに詰め寄りました。
ヨウスケの左腕を抱え込み、それに抱きつくようにして……は、はしたない! む、胸を当てておりますわ!
「そ、そう褒められると照れくさいな」
そしてヨウスケも余計に表情を緩めない! 全く、その程度の誘惑に耐えられないなんて――そもそも私を無視しないで欲しいですわ!
「あぐっ!」
怒りのあまりに、ヨウスケのつま先を踵で踏み抜きました。
この革靴は戦闘にも使える一品で、特につま先には『海竜』の鱗、踵には『ユニコーン』の蹄が使われているのですわ。さぞかし痛いでしょう。私を無視したらこんな痛い目に――ってヨウスケに無視されていることに私は怒っていますの!? なんでそんなどうでもいいことで私はこんなに不機嫌になるのでしょう。
「い、いきなり何をするんだよ……」
ヨウスケがつま先を抑えながら、情けない声で抗議してきました。
「そんな女にデレデレする方が悪いんですわ!」
私はそう言って、ヨウスケから目を逸らしました。
そして言った後に気付いたのです。
(い、私の今の発言ってっ!)
ヨウスケがシエルにデレデレして嫉妬しているようにも聞こえますわよね!?
そして少し冷静になり、さすがにユニコーンの蹄で出来た踵部分で踏み抜いたのはやりすぎだと思い、謝ろうと思いましたが……ついさっきの自分の発言が恥ずかしくて、とても謝れませんでした。
■
全く、ヨウスケの優柔不断な態度もそうですが、やはりシエルの対抗心には辟易させられますわ。
さきほどからずっと何かにつけて対抗してきますし、休み時間も私の心中を知ってか知らずか、ヨウスケに構おうとするのですもの。
いったい私が何をしたのでしょう。全く身に覚えがないのですが……とりあえず、売られた挑戦は正面から買うのが務めですわね。
「ヨウスケ、ランチはどちらで食べますの?」
そんなことを考えていると四時間目が終わりましたので、シエルが付け込む隙もない速さでヨウスケに問いかけます。
「学食。……あ、そうだ。せっかくだから案内してくれると嬉しんだけど」
「任せなさいですわ! ちょっとした話もある事ですし、ついでにご一緒させて頂きますわ」
「おう、それじゃあ行くか」
ふむ、私の言外の誘いを断るような無粋な真似はしませんのね。
先ほどまでは次の授業もあるため遠慮しておりましたが……ここでじっくりと、昨日の魔法について問い詰めることにしましょう。
そのためには、まずは私を慕って下さる方たちについてこないように伝える必要がありますわね。魔法と言うのはとても大切な技能。場合によってはあまり人に口外したくないものなのかもしれませんわ。もしそうだったら私も深入りはしませんし、仮に話すとしてもぞろぞろと人を連れていたら邪魔になりますわね。
そう思い、先ほどの会話の間に、私の後ろにいる方に目線で合図を送りました。これでついてくることはないでしょう。
■
ふぅ……昼食と言うのは勉強で疲れた心と体を癒す時間ですのに、やけに疲れましたわ。
それもこれも、ヨウスケの『無属性魔法』とやらが原因ですわ。
全く……それなら私がいくら文献を紐解いてもこれだ、と思わないわけですわ。だってそんなもの、最初から『ない』と考えた方がよっぽど現実味があるものなのですから。ある『かもしれない』、レベルで長い歴史の中ですら確認されていない技術など、『ない』と考える方が常識的ですわ。
ですが……ヨウスケはその常識に正面から喧嘩を売るようなことを言ったのですから驚きですわ。
男の魔法使いで、無属性魔法を使う……アヤコ様も相当歴史と常識に喧嘩を売っておりますが、能力だけ見たらヨウスケも大概ですわね。
しかも、無属性魔法を説明する段階で聞いたのですが、まさかアヤコ様と個人的な知り合いだなんて……。確かに、あの黒髪と黒目、それに黄色い肌は、よく考えれば同じ人種だと分かりますわね。
それにしても……ヨウスケはこんな非常識な説明をしておりましたのに、その内容に誰も耳を傾けなかったのには驚きましたわ。
ヨウスケは男であると言うだけでこの学園では珍しい……を通り越して異常ですわ。そんなのが、自分で言うのもおこがましくはありますが、有名人である私と二人きりで食堂に行き、あまつさえ秘密の話をしているのですもの。注目を浴びないはずはなく、当然その会話の内容を詮索する無粋な輩も少なからずいるはずですが……誰もが少し耳を傾けただけで、興味をなくしたのです。
私は肝を冷やしましたが、ヨウスケは『私だけに教える』と言って次々と大暴露していきました。そんな大暴露の途中に耳を傾けた人ですら、興味をなくして去っていったのです。
そしてこれは……魔法を『直感』で感知しやすい私にはなぜこうなっているのかが分かりました。
それは……『ヨウスケの魔法』だと。
確かに、密談用に、風属性で空気の振動を操って聞こえる音を変えたりなくしたりする魔法もございますし、似たような効果の魔法はそれなりの種類はございますわ。
ですが……ヨウスケの魔法の効果は、はっきり言って『異常』でした。
なんせ、かなり広い食堂で、食事中の時間、学生とはいえあれだけの人数が集まっているのに……常に、完璧な効果を維持し続けたのですから。
これは一体、どれほどの魔力が必要なのでしょう。この後には魔法戦闘が控えておりますのに、その効果だけで私が持っている魔力が半分以上持って行かれかねない魔法を、密談のために使ったのです。
まさに異常。果たして、ヨウスケはどれほどの魔力を持っているのでしょう。
その一方で……ヨウスケのその異常な行動が、私は『嬉し』かったのです。
そんなことをしてまで隠したい秘密を、私に『だけ』教えて、『二人だけの秘密』として『共有』してくださったのですから。
他の男とこんなことやっても気持ち悪いだけですが……何故だか、ヨウスケだと嫌な気分になりませんわね。それどころか、こうして喜んでしまっている私がいるのですから。
それの理由……といえば、ヨウスケが人を評価する『基準』、あたりでしょうか。
ヨウスケもやはり人間であり、人に対する評価は、その人間の性格、成績、容姿の良し悪しにはある程度引っ張られてしまいますわね。
それについては仕方のないことですが……ヨウスケは、人が何かしらで秀でているところがある場合、『努力をしている』と考え、その結果と共に『努力を評価する』考え方を持っていますわね。
人によっては、それは大変失礼にあたるのでしょうが……私の場合、そのように評価されるのが、嬉しくてたまらないのです。
今まで一生懸命、勉強や魔法、一般教養や礼儀作法……様々なことを頑張ってきました。
その努力の結果は、運良く実ることが多く、それを見た人は様々な気持ちを込めて、「優秀だ」「天才だ」「生まれ持っての素質がある」と褒めそやしてきました。
だけど、それはつまり……『才能』でこの結果を残した、と言われているようで、私にはどことなく腹立たしかったのです。普通に考えると、それは思い込みや考えすぎなのですが……気になってしまうものは仕方がありませんわね。
「そうなのか……そんなに深く考えて、お前は努力をしているわけなんだな」
一方、ヨウスケはこうして『努力』を認めるのですわ。
今まで『認めてほしい』と思っていた部分が認められる……こんなに嬉しいことが、はたして今まで何回あったのでしょうか。
努力と、貴族としての誇りを認められた私は――
「ええ、当然ですわ。それでこそ、ハームホーン公爵家長女、クリスタ・ハームホーンの最大の目標なんですもの」
――嬉しさからくる笑みを漏らしながら、その言葉を口にしました。
■
その、あまりにも圧倒的な戦いに……私は審判であることを忘れ、ただ呆然としていました。
ヨウスケはハンナ――茶髪の癖っ毛が特徴ですわ――の喉の前で手刀を寸止めさせた状態で固まっています。
今のヨウスケの戦い方は、まだ荒削りながらも、とても美しかった。
一瞬の隙を見逃さず、そこから一気に畳み掛けるカウンタースタイル。
ハンナは決してこの学園の中ですら劣等生ではありません。突出している、というわけではありませんが、生半可な実力では勝てない相手ですわ。
それなのにあそこまで圧倒的に、余裕を残して戦うなんて……学年でもトップクラス、高ければ私と並ぶほどの強さですわね。
あの戦い方、魔法の使い方、魔力……そのどれをとっても、滅多にない強さでしたわ。こんな強さを手に入れるには、相当の『努力』が必要なはずですわね。
もしかしてヨウスケが努力を評価する理由は……自分自身が努力してきたからこそ、なのでしょうか。
昼食の時、ヨウスケはアヤコ様に拾われるまでの過程を話してくださいました。
その内容はとても壮絶で……正直、反応に困りましたわね。
人里離れたところで教育を受けていて、最近になってこの辺に出てきて、アヤコ様に拾われた、と言っていました。それならば無属性魔法が非常識である、というのを知らなかった理由も納得はいきますわね。恐らく、ヨウスケに教育を施した方は魔法の知識には疎かったのでしょう。
多分、ヨウスケは人里離れたところで生活していたゆえ、魔物や野生動物、盗賊といった危機に常にさらされていたはず。ならば、その生活の中で、あそこまで魔法戦闘が磨かれるのは不思議ではありませんわね。
そんな、生活に結びついた『努力』をヨウスケはしてきたのでしょう。
(男だから……という理由で嫌うのは、やはりダメですわね)
私はそう結論を付け、そろそろ先生に絡まれているヨウスケを助けようとしました。
それにしても先生ったら、相変わらずもの凄い力ですわね。
魔法の仕組みを聞かれたヨウスケは、苦しそうに口を開きました。
「……そればかりは先生でも教えられません。というか、俺でも仕組みが全然分からないんです。なんせ『一ヶ月ちょっと前に急に使えると知った』もので。俺は『魔法に関してはまだ素人』でしかないんです」
……………………え?
一ヶ月ちょっと前に急に使えると知った? 魔法に関してはまだ素人?
じゃあ……早くても一ヶ月前から魔法の練習を始めて、なおかつ魔法についても素人ですって?
つまり……一ヶ月前から魔法の練習を積み始めたのにも関わらず、私に追いつかんばかりの実力があると? たった一ヶ月で? 幼少のころから訓練し続けた私と同じぐらいまで?
それって……ほぼ全部、生まれ持っての『才能』によってこれほど強くなった、ということじゃないですの?
それじゃあ今まで……ヨウスケが『努力』を評価してきたのは……何だったのですの?
「ほう……まぁいい。ならこれからの授業で研究しまくって、お前のそのハチャメチャ魔法を丸裸にしてやろう」
「はぁ~……」
ヨウスケと先生との会話が終わる気配がしました。
ですが、私はそれに構わず、ただ考え込み続けました。
ヨウスケは、努力ではなく『才能』で、たった一ヶ月でここまで強くなり……それでいて、他人の努力を評価した?
まさかヨウスケは……努力を評価する振りをして、心の底ではそれを嘲笑っていたのでは? それで喜ぶ私を見て、ほくそえんでいたのでは?
(クリスタ様、今日の魔法も素晴らしゅうございましたね!)
(その素晴らしい才能はいつみても惚れ惚れしてしまいますな!)
(いやはや、素晴らしい才能をお持ちだ)
ふと、頭の中に……今まで相手にしてきた、私の誇りを踏みにじってきた、愚かな男どもの言葉が蘇ってきました。
(あんだけ魔法ばかり練習して一体何になるつもりだ?)
(貴族の次期当主が戦えるようになって何の意味がある?)
(あのじゃじゃ馬の事だ。威圧外交でもするつもりじゃね?)
貴族が貴族たる理由を分かっていない愚者どもが、私の誇りを踏みにじる。
ヨウスケは、私が勉強で努力していることを褒めてくれた。貴族として、魔法戦闘を頑張っていることも評価してくれた。
けれど……表面的には評価していても、その心の中では……あの男どものように、私を馬鹿にしていたのでは?
考えれば考えるほど……そう思えてきますわ。
だってそうでしょう? 今まで散々、『男』に馬鹿にされ続けてきたのですから。
ヨウスケも『男』。
ならば……今までと同じように、見下していたのでしょう。
「やれやれ、じゃあクリスタ。さっきのアドバイ……ス……」
ヨウスケが何食わぬ顔で振り返り、いつものとぼけた顔で私にそう声をかけました。
その姿に……ついに、心の箍が外れてしまいました。
「クリ……スタ……?」
何もわからない、と言った顔でヨウスケが私の名前を呼びます。
私を馬鹿にしたくせに……私を見下したくせに……私を『裏切った』くせに!
「っ!!!」
「おいっ!?」
悔し涙でにじむ視界も気にせず、全力の憎悪を込めてヨウスケを睨むと、私はその場から駆け出しました。
今はただ、あいつの姿が見たくない。この学園に善人面してノコノコと入り込んだ下等生物の近くに居たくない。
校舎に向かって、走りやすくもなっている革靴を鳴らしながらただひたすら走ってゆきます。
「おいクリスタっ!」
あろうことか、ヨウスケは校舎に入って少し進んだところで、けがらわしい男の手で私の腕を掴みました。
「目障りですわっ!」
そのけがらわしい手を拒絶し、そういって憎い相手を睨みます。
「今までっ……今まで! あんなこと言って! っ――馬鹿にしていたのですわね!」
そして、ただ、ありったけの憎しみを込めて叫びました。
「い、一体何を……?」
「とぼけるのもいい加減になさい! そんなぽっと出の才能に胡坐をかいて……人を見下して!」
ヨウスケはそんなことを問いかけてきますが、それはもうとぼけているようにしか見えませんわ。とぼければ騙せると思っているなんて……っ!
皆、皆そうやって人の事を馬鹿にして、努力を見下してっ――
「やっぱり、男は最低の畜生にも劣る下劣な生物ですわ!」
「なっ……それは今は関係ねぇだろ!? いきなり怒り出して一方的に罵倒して――何のつもりだ!?」
思わず出た叫びに、ついにヨウスケが怒り出しました。
「お前こそ貴族が貴族たるとか偉そうなこと言いやがって! お国から認められて、ただそこに生まれただけの奴が偉そうに見下してんじゃねぇ!」
なっ! ……そこまで馬鹿にしますの!? 私の目標を、私の誇りを!
「人に八つ当たりしてんじゃねぇ! お前の不満に俺の何が関係あるっていうんだ!? 男だから全員クズなのか!? 俺がお前らに何をしたっていうんだ!?」
何をした……ですって!? どこまでもとぼけて、誤魔化して――! あまりにも耳障りですわ!
「うるさい! うるさいですわ! 散々な仕打ちを心の中でしておいて、そんなことを言うのですわね!? 分かりましたわ……なら、週末にある闘技大会! 貴方もエントリーなさい! そこで勝負をつけてやりますわ!」
もはや言葉では、こいつはいつまでも誤魔化し続けるでしょう。なら……この私の努力の結晶を見せつけて……才能に胡坐をかいたツケを味わわせてやりますわ!
「上等だ! その生まれに胡坐かいて伸びきった鼻を圧し折ってやる! 俺に当たるまで負けるんじゃねぇぞ!」
「ええ、そちらこそ途中で負けたからなしなどと負け犬みたいなことは言わない事ですわね!」
そんな言葉の応酬をし、私は鼻を鳴らしてからこのけがらわしい男に背を向け、教室へと向かいます。
週末の闘技大会で……必ずその曲がった性根を叩き潰して差し上げますわ!
■
ついに闘技大会ですわね。
ここまで私もヨウスケも順調に勝ち上がり、準決勝で相対することとなりましたわ。
結局、ここまで歩み寄ることも無く、歩み寄る意志も無く、ずっと仲違いしたままでしたわね。
あの後も、ヨウスケは自分が何をしたのかも分からないでただ怒ってばかり。人の事を裏切っておいて、その実こうして対立されたら怒る。――今まで見てきた、プライドばかり高い小物の典型ですわね。
ああ、それと……シエルに媚びられて、それでデレデレしているのも癪に障りましたわね。
覚悟なさい、ヨウスケ。その腐った性根を、今この場で無理やり直して差し上げますわよ。
そう――
ヨウスケの世話係として。