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異世界で唯一の男魔法使い  作者: 木林森
異世界のお嬢様学校にまさかの入学
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一気に二話投稿しています。

よろしければ前話を先にご覧ください。

「え、えーと……うーん……あー……ど、どうしたの?」

 この学園の授業は週五日で二日間の休日が纏まってある。これは暦が地球とまったく同じであるため、綾子さんがこれ幸いと定めたものだ。

 また、一日の授業数は通常の日ならば、四時間と昼食を挟んで二時間の、計六時間ある。

 今は今日の終わりである六時間目であり、ロングホームルームだった。

 教壇に立っているマリア先生が俺とクリスタ、そして周りの一部の女子を見ながら、困ったように問いかけてくる。

 俺とクリスタの間に漂う険悪な空気。それを助長するかのように俺に敵意を向けてくる男嫌い組とクリスタ派閥の奴ら。

 さきほどの俺とクリスタの言い争いは、魔法実技訓練場にまで聞こえていたみたいだ。魔力が多い女性を好む傾向にあるこの世界の貴族のお嬢様にとって、クリスタは尊敬に値する存在。ましてや、俺はあいつらにとっては男と言う下等生物であり、こうして敵視されるのは当然と言えた。

 当然とはいえ、なんとも理不尽だと思う。こうなるのも仕方がない、とも思うが、やはりどことなく納得いかなかった。

「くそっ……」

 またもやぶり返してきた不快感を振り払うように、俺は小さく悪態をつく。

「え、えーと……な、仲良くしようねー? ほ、ほら、笑顔笑顔! 皆にこにこ笑ったら嫌な気分も吹っ飛んじゃうよ! ほら、にっこにっこにー! ……ううう……誰も先生のいう事を聞いてくれません。新クラス二日目にして学級崩壊です……」

 先生はよよよ……と泣き出してしまった。先生が一生懸命明るくしようとするも、皆険悪な雰囲気を放ったまま無視。途中に放り込まれた俺だけが反応しそうな笑顔のオノマトペも全く効果を発揮しない。皆に笑顔を届けられなかったようだ。

「ふん……」

 俺はそう鼻を鳴らすと、先生に八つ当たりすることも無いだろうと思って態度から険を取る。まだ不機嫌ではあるが、ある程度空気は和らいだはずだ。

「う、うう……もういいもん。ちょっと柔らかくなっただけだけど進めちゃうもん」

 先生は俺の態度を見て、まだ不満げながらも話を進める。

「はい。みなさんご存じのとおり、今週末には希望者による『魔法闘技大会』がありますよ! いえーいパチパチ」

 先生は無理矢理盛り上げようとして拍手をする。クリスタやその派閥もそれで毒気を抜かれ、気はないもののパラパラと拍手をする。

 クリスタと競うことになった魔法闘技大会。

 この闘技大会は、何というかこの学園らしいイベントだ。

 一年の終わり、二年、三年の始めと終わりにそれぞれ学年ごとに日にちをずらして行われるものだ。

 武闘派が多いこの学園はこんなイベントが大好きであり、毎回大盛り上がりするらしい。

 また、毎回様々な来賓やスカウトマンが来るため、アピールにもちょうどいいらしい。上手いことここでいいところを見せられれば、将来の職業がそのまま決まることもある。

 この闘技大会が行われている日程は、全ての授業が休みとなり、闘技大会参加者以外は自由登校となる。見学が推奨されているが、大体の生徒は注目している参加者の試合だけ見て、他は食堂で駄弁っているだけ、というのが多いそうな。

「そう言うわけで、参加者の希望を募りたいと思います。はーい、じゃあ戦いたい人手を挙げて!」

 先生がそう言うと、クラスの半数以上が手を挙げる。

 当然俺とクリスタも挙げる。ふと見ると向こうも同じことを思っていたようで視線が交錯する。

「「…………」」

 競うように真っ直ぐ手を挙げながら、お互いに睨みあう。

「やっぱり希望者は多いですねー。希望者は私が数え終わった後、こちらにルールブックを取りに来て、ついでにエントリー用紙に名前を書きこんで下さいね。……はい数え終わりました。どうぞ」

 先生の目線からして、挙げてない人を数えていたようだ。確かにそれなら数えるのが早いか。

「ヨウスケ君、お互いに頑張ろうね!」

 左隣のシエルも参加するようだ。俺の左腕を抱え込み、豊満な胸を当ててくる。

「お、おう……」

 俺は戸惑いながら返事をしつつも、少し気分が落ち着く。

 胸もかなり嬉しいが、今はこうして普通に話しかけてきてくれるのがとても嬉しい。周りはクリスタに気を遣うか俺を嫌って話しかけてこないし、それどころか敵視さえしてくる。それに比べ、シエルは俺が男であろうと普通に好意的に接してくれるから、こちらも接しやすい。

 二人してルールブックを受け取り、エントリー用紙に名前を書く。俺はうっかり漢字で書きそうになったが、名前は漢字じゃないんだよな。文字は日本語なのに名前だけ漢字じゃないのは少しわかりにくい。

「はーい、それじゃあ今日のホームルームはこれでお終い! 鐘が鳴るまで、参加者はルールブックをよく読んでくださいね。他の人は寝るなり自習するなりしていて結構ですよ~」

 先生はそう言って、教室の隅にある椅子にちょこんと座り、ポケットから手のひらサイズの本を取り出して読み始めた。

「…………」

 チラリと見えた先生が読んでいる本のタイトル『戦の風になって』というのに、心の中でお墓の前で泣いちゃダメな奴か、と突っ込みながら、俺はルールブックに目を通し始める。

 学年ごとに行われる一対一の模擬戦。片方が戦闘不可能な状態になるか降参する、または審判が確実に勝っていると判断したら勝負あり。ルール違反は失格。

 トーナメント方式であり、今回は二年生の始めであるため、一年生最後の魔法闘技大会の成績によってシードが決まる。俺みたいに前回出ていなかったり、成績が上位でない人は普通に一回戦から。クリスタは前回優勝者であるため、当然シードだ。

 場所は学園内にある『コロシアム』で行われる。デザインは当然綾子さん。空想世界のコロシアムをそのまま再現したかのような形をしている。中央に舞台であり、それを囲むようにして観客席がある。白亜の壁と床と柱は、まさにコロシアム、と言った風情だ。やはりコロッセオでも参考にしているのだろうか。

 服は制服、武器の使用は事前に提出して認められたものならありだ。真剣などのガチンコの武器は当然のこと、金属製だったら刃を潰してあってもダメであり、木製かそれ以上に安全な素材しか基本的に認められない。あくまで魔法闘技大会である、ということだ。それでも徒手格闘戦が毎回行われるらしいし、ルール上禁止ではないため、魔法がお互いに打てない至近距離なら運動神経がいい方が勝つこともしばしばあるそうだ。

 戦う場所(フィールド)の周りは完全に透明な結界で覆われており、内部から外部への強い衝撃は通さない。

 この部分をみてよくわからなかったが、要は流れ弾や激しい光や音は外に漏れないようになっている、ということだろう。

 ルール違反は色々ある。制服の未着用、八百長などといったことは当然のこと、この危険な競技ならではのルールも存在する。

 まず、相手を死なせてしまったり、洒落にならない大けがをさせてしまったら失格。また、魔法を暴走させてしまったり、審判がとても危険と判断するような魔法を使っても失格だ。

 なお、審判は試合に介入する権限を持つ。試合を無理やり止めたり、勝敗の判断を下したりするのだ。戦闘が激しくなり、安全上多大な問題があると判断した場合、参加者を無理やり鎮圧して失格にすることも可能だ。

 ちなみに、このルールから分かる通り、審判は試合を正しくなおかつ速く判断できる経験と知識、生徒同士の試合に介入してすぐに止められるぐらいの実力が求められる。この学園の生徒はレベルが高く、生半可な実力では審判は務まらない。今回審判役をやるのは、マリア先生とアリア先生の姉妹だそうだ。確かに安心できるな。

 なにせ、この二人は飛竜とタイマン張って勝てるほどだ。

 飛竜とは、この世界の生物ピラミッドで最上位に位置する『竜種』の一種だ。ファンタジーの世界でお馴染みの強者だが、この世界でもその威厳は健在だ。竜種の中では下位に当たるとはいえ、それでも騎士団が数十人でかかっても勝てるかどうか、ぐらいだからその強さが伺えるだろう。

 ふむ……なるほどな。魔法闘技大会と言うからには魔法を打ち合うだけかと思ったが、身体能力やとっさの判断能力、それに応用力も求められそうだ。中々実戦的ではないだろうか。

 クリスタは前回優勝者。とてつもなく手ごわい相手であり、魔法を使ってきた経験も知識も段違いだ。正直、勝算なんかほとんどない。

 だが、負けるわけにはいかない。

 これはもはや、意地だ。

 ここで負けてしまったら、あまりにも情けないものだ。その後の学園生活が過ごしにくくなる、というのもあるが、あれだけ啖呵切っといて負けると言うのはダメだろう。

 『男としての』名が廃る、というものだ。

 俺は別に、男も女も、どちらが偉いとかそういう事を思っているわけではない。自称ではあるものの、男女平等主義者だ。

「――くん」

 だが今回ばかりは男側として、男の意地をかけて勝負する。

 いつまでも――見下されるのは勘弁してほしいからな。

「――ケくん」

(見てやがれよ……)

 その伸びた鼻を圧し折ってやる。

「ヨウスケ君!」

「おわっ!?」

 いきなり大きな声でシエルに呼ばれ、俺は思わず情けない声を上げてしまう。

「ど、どうしたいきなり?」

「ヨウスケ君が何度呼んでも反応しないからだよ!」

 問いかけると、シエルはぷっ、と頬を膨らませ、腰に手を当てて怒ったようなしぐさをする。

 そ、そうだったのか……。考え事をしていたから気付かなかったのかもな。

「い、いやぁ、それは済まなかったな」

「うん、よし! でね、このルールなんだけど実はね――」

 シエルは俺のルールブックを顔を寄せて覗き込み、ルールの詳細について説明してくれる。

 その柔らかそうな肌の可愛い顔が、息がかかりそうな場所にいる。髪の毛からはクリスタとは違う匂い……これは柑橘系だろうか。そんな感じの匂いが漂ってきて、鼻腔をくすぐる。

「もしもーし、聞いてる?」

「え、う、あ、ああ」

「もう、しっかり聞いててよ! それで、このルールなんかは――」

 顔が寄せられたのと、女の子らしい匂いに翻弄され、せっかく説明してくれていたのに聞いていなかった。これは反省だ。未だにその二つによって心臓は高鳴っているが、説明してくれているのだからしっかり聞かなきゃな。

 それにしても……こんな出来事、前にもあった気がする。

 こんな風にものを可愛い女の子に覗きこまれ、その匂いと端正な顔に戸惑う……あ――

(クリスタか)

 今の状況は、あの時にそっくりだった。

 シエルはこうして俺の世話を焼いている。それは――クリスタの仕事を奪っていくかのように。

 ふと、クリスタを見ると、またもや睨んでくるクリスタと視線が交錯した。今の目は……悔しそうな目だった。責任を背負う性質たちだから、こういった状況が嫌なのだろう。

 だが――

(自業自得だ)

 俺はそうクリスタを切り捨てて、シエルの親切を思い切り受けることにした。

 ただ――

「それで、去年はこの部分が違ってて――」

 ふにふにと、柔らかいものが当たるのはどうかして欲しい。

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