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異世界で唯一の男魔法使い  作者: 木林森
異世界のお嬢様学校にまさかの入学
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 多少入り組んだ話をしているうちに魔法実技訓練場についた。訓練場とは言えど、要はステージごとにラインが引かれた校庭のようなものだ。地面は土で、そこに白線でバスケットコート半面くらいの広さのコートがいくつも作られているのだ。

 俺たちに続いてぞろぞろと生徒が入ってくる。俺たちは比較的ここの近くに元々いたので早めに着いたのだ。

 ちなみに全員制服のままである。魔法戦闘と言うからには、魔法を使う模擬戦もあるはずだ。なのに何故制服のままなのかと言うと、しっかりとした理由がある。

 この学園は綾子さんが作った以上、魔法の面に関しては色々規格外だ。それは制服も同じことだったりする。

 ここの制服はそのデザインも人気だが、他にも『性能』が人気だ。この制服、なんとそこらの防具よりよっぽど動きやすく、丈夫であり、なおかつ魔法に対する耐性が強いのだ。

 魔物の中には、魔法によるダメージが異常に通りにくいものもいる。その仕組みを綾子さんが解明し、それを制服へと応用したのだ。

 この制服は、冒険者や騎士としてその服を着ていっても笑われないどころか羨ましがられるほどの代物だったりする。

 よって、魔法戦闘のような危険が付きまとう授業でも、これを着たまま受けるのである。

 そんなことを考えているうちに、二クラス分の魔法戦闘を選択した生徒たちがほぼ全員そろった。

 余談だが、この学校は一クラス三十人ちょっとで、一学年にニクラスある。つまり、入学試験を通るのは一世代につき六十人ちょっとである。この学園の入学希望者はそこそこ多いが、やはり超名門なだけあって入学試験はかなり厳しい。

「よっしゃ! お前ら全員そろったな!」

 目の前に並ぶ生徒たちを見回して、短く切りそろえたピンク色の髪が特徴的な、身長が――俺よりも――高い先生が満足げに叫んだ。

「私はこれから一年お前らを担当するアリア・マイネルスだ! 去年も魔法戦闘を取った奴らは知ってるかもしれんがな!」

 この軍隊の上司のような喋り方をする先生も、かなり有名な魔法使いだ。『灼熱女帝』アリア・マイネルスというのは、火属性を持つ魔法使いたちの憧れの的なのだ。

 ちなみにこの先生、苗字を見ればわかると思うが、マリア先生の家族、それも双子の姉と言う近しい存在だ。双子の姉妹揃ってトップクラスの魔法使いであり、どちらも同じ学園で教鞭をとっていると言うのは中々恐ろしいものがある。この二人の先生に教えを乞うのが目当てで入学希望する生徒もそれなりにいる。

「さて、初めて受ける奴らのために授業の概要だけ説明しておこう。名前の通り、この教科では魔法を使った戦闘技術を学んで貰おう。それぞれの属性に対する戦い方、自身の属性の活かし方、体の動かし方……それらを学んでいくのだ。第一に、安全には気をつけることが重要だ。とはいえそれは本気を出してはいけない、ということでは決してないぞ! 本気を出しながらも安全に気を付ける……つまり、『魔法の制御』を覚えることが重要だ!」

 先生はそう言うと、地面に置いていた名簿を拾う。

「とりあえず今日はお前らの実力判断と肩慣らしのために、適当にばらけて模擬戦をして貰う! では今からぱぱっと三人組を組め! そんで組めたところは固まって座れ!」

 先生はそう言い切ると、そのまま名簿のチェックに入りだした。それとともに生徒たちも動き出し、三人組を組んでいく。

「ヨウスケ、こっちに来なさいな」

「へいへい」

「…………」

 クリスタに呼ばれてそちらに向かうと、クリスタの隣には派閥の中にいる一人がこちらを鋭い目つきで睨んでいた。茶色い癖っ毛が可愛らしいのにいろいろ残念だ。

 どうやら、俺はクリスタやこの子と三人組を組むらしい。

「あー、知ってると思うけど俺の名前はヨウスケだ。よろしく」

「……ちっ、クリスタ様と対等に話す礼儀知らずの愚者め……」

 敵意たっぷりの視線で睨んできているその子に自己紹介をしたところ、悪意しか籠っていない罵倒を浴びせられた。

 クリスタはそれを見て、やれやれと首を振っている。その後俺に目を向け、しぐさだけで謝って見せる。

 まぁつまり、クリスタ派閥の中でも過激派の一人だと。うん、納得。この言葉が通じなさそうなのはいかにもクリスタ派閥の子っぽい。周りを見てみると、他の子も何人か俺の事を睨んでいる。中には声を潜めながら陰口を叩いていたり……いじめかっこ悪い。

「ようし組んだか! じゃあ適当に分かれて模擬戦! 一人は審判だ! 二年生だから今週末には闘技大会もあるぞ! 気合入れていけ! それじゃあ……散れ!」

 先生は全員が座ったのを確認すると、そう言って腕を横に振る。その合図によって全員がグループごとに分かれ、適当なコートへと入っていく。

「さてと……それでは去年の魔法戦闘主席であるこの私が最近魔法が使えるようになった貴方に高度な技術をお見せしますわ。精々一つのコツでも掴んで御覧なさい」

 クリスタはそう言うとコートの中に入っていく。それの対面にはクリスタを熱狂的なまなざしで見ているさっきの子。

 魔法戦闘主席……つまり、去年のクリスタの学年の中で、魔法戦闘の成績が一番良かった、ということだ。凄い奴とは聞いていたが、いくらなんでも凄すぎないだろうか。

「お胸をお借りします、クリスタ様」

「さぁ、かかってらっしゃい」

 二人は対峙し、それぞれいつ始まってもいいように準備をする。

「うん、良さそうだな。じゃあ……はじめ!」

 審判役である俺がそう言って腕を降りおろすと同時、クリスタの相手の子が体の周りに野球ボール大の炎の球を三つ出現させ、同時に放った。

「中々いい攻撃ですわよ!」

 クリスタはそれに対し、右腕を勢いよく横に振る。

 すると、クリスタの前に水の壁が出現し、炎の球を全て鎮火させた。

「こちらの番ですわ!」

 クリスタがそう言うと、その水の壁はそのまま形を変え、何本もの水の鞭となり、相手へと襲い掛かる!

「くぅっ……!」

 その数をしのぎ切れないと思ったのか、相手の子は炎の球でそれらをけん制しながらクリスタの横へと走って回り込み、側面からの攻撃をしようとする。

「甘いですわ!」

 クリスタはそれを読んでいたようで、そう叫びながら、相手の足元を指さす。

 すると、いきなり水が出現して動きだし、相手の足を包み込んだ!

 足を取られた相手はそのまま尻餅をついて転び、クリスタに決定的な隙をさらす。

「勝負ありましたわね?」

「……降参します。……さすがクリスタ様です!」

 クリスタはその隙を見逃さず、自身の足の裏から水を思い切り射出して急発進。倒れている相手の近くにつくと進行方向に向かって水を射出してブレーキをかけ、いつのまにか手に握っていた『光のナイフ』を首筋に当てていた。

「……勝負あり」

 俺はそう審判として言ってから、先ほどの戦いを振り返る。

 最初に思ったことは……さすが名門校だ、だった。

 まず、学生のレベルで魔法の複数同時使用が出来るのは、案外中々いなかったりする。

 相手の子が使っていた複数の炎の球。炎の球は火属性の基本的な攻撃の一種だが、あれだけ素早く三つ同時に使用するのは、学生としてはかなり高水準だ。

 だが、クリスタはもっと凄かった。

 そんな相手を短い間で降参させたのだ。

 最初に作り出した水の壁は、普通の焚火よりそれなりに高温である炎の球を一瞬で鎮火させるほどのものだった。火に対して水は相性がいいことは確かなのだが、何よりも『込められた魔力』が凄かった。

 魔法に対して魔法で防御する場合、普通の物理法則以外にも、その魔法に込められた魔力が結果を左右する。

 普通の水だったらあの炎の球をあんなに速く鎮火することは不可能だ。

 だが、クリスタの水の壁は、このいわば魔法のエリートが集まる学園の中でも、頭一つ抜き出ていた。

 魔力が大量に込められている分、より『属性の性質が強くなる』、という法則が魔法にはある。

 クリスタは水の壁に魔力を大量に込めることで炎の球を一瞬で鎮火させたのだ。

 また、その後に水の壁を利用したいくつもの鞭も凄かった。

 ざっと数えただけでも十本。実際はそれより少し多いぐらいだろう。これだけの数を操れる魔法使いは騎士の中にもそうそういない。

 そして驚いたのが、相手の動きを先読みした『幻覚』だ。

 水の鞭にひきつけているうちに、こっそり相手が動くだろう場所に水を配置。そして、相手に見えないように『光属性魔法で幻覚を見せた』のだ。

 人間の目は光を捉えて視覚として認識している。その光を魔法によって曲げ、あたかもその地点には『水がないように見せて』いたのだ。

 光属性魔法では、光を曲げて幻覚を見せるのは割とポピュラーだ。

 だが、大体は何か違和感あるな、程度であり、あそこまでの……よく見ないと違和感がないレベルでの精度は、もはや学生の領域を超えている。

 他にも、最後の水を使った急発進やブレーキも結構な精度だし、それを使っている途中で光のナイフを魔法で生み出すと言う技術も素晴らしい。

 まさに、魔法戦闘の主席の名に恥じない戦いぶりだった。

「おっほっほっほっ! どうでした、この私の戦いぶりは?」

 クリスタは相手の健闘を称えると(相手は感激で涙を流し、周りの奴らはそれを羨ましそうに見ていた)、俺に向かってそう問いかけてくる。

「ああ……とんでもない強さだな。すでに学生のレベルを超えてるぞ……」

 俺はそう言いながら、何となく次の展開を予想できたので屈伸をしたり、伸びをしたりと準備運動をする。

「まぁ当然ですわ。少しでも学べることがあったらそれを吸収して自分の糧としなさいな。さぁ、次は貴方の番ですわよ。……貴方の無属性魔法とやら、しっかりとこの目で見させていただきますわよ」

 クリスタはそう言って、口角を上げて笑った。

 俺はこうなることを予想して準備運動をしていたのだ。まぁ、当然の流れだろう。

「あいよ。さてと……一丁頑張ってみますかね」

 俺はそう言って、視線だけで殺せそうなほど鋭く睨んでくる相手が待ち受けているコートの中へと足を踏み入れた。

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