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第6話 勇者の説明と依頼受注

「それで、何で俺のベッドに潜り込んでたんだ?国に戻るとか言ってなかったっけ?」



アンジェリーナが目を覚ました後、必死に事情を説明して納得して貰った宗太達は食堂で朝食を取っていた。



正直、リースリットが上手く口裏を合わせてくれて助かった。



「うむ、国には戻ったぞ。侵攻の中止を指示した後そのままオヌシの元に転移したんじゃが、寝床が無くての。」



「後処理を命じられた大臣達は今頃泣いていると思いますが…。それで私達も睡眠を取る為に、ルシフェラ様のご提案でご一緒させて頂きました。」


ルシフェラの説明に一言突っ込んでからリースリットが説明を引き継いだ。



主人に対してツッコミ入れる侍女というのもどうかと思うが、ルシフェラも気にしていない様子なので問題無いのだろう。



これも信頼の表れというものなのだろうか。しかし…。



(やっぱり他の人達も泣かされてるのか…。)



自分の先行きが不安になった宗太だった。



「ところで、夕べ言ってた勇者とか魔王って何なんだ?」



気を取り直して夕べから気になっていた事を質問してみる。



「む?…ああそうか、オヌシはイーヴルニスの森で目覚めたとか言うておったかの。」



どうやらルシフェラもその事を思い出したようだ。



「では、魔王と勇者という関係の成り立ちから説明するとしようかの。もっともこれは魔族に伝わる文献によるモノじゃが…。」



ルシフェラは一言加えると、お茶を一口飲み語り出す。



「嘗てこの世界には闇の魔力属性を持つ魔族ともう一つ、光の魔力属性を持つ神族という存在がおったのじゃ。

魔族と共に上位種族と呼ばれ、魔族と唯一対等な力を持つ種族じゃったらしい。

しかし、何時しか神族はその数を減らし、上位種族は魔族のみとなってしまった。」



ルシフェラは一度言葉を区切り続ける。



「そして時は流れ、繁殖力の旺盛な人間がその数を増やした頃じゃ。

力のある人間達によって国が生まれ、争いが増加した。

魔族は当初これらの争いには非干渉の立場を貫いておったそうじゃが、遂に奴らは魔族の暮らす場所まで侵略してくるようになった。

当然、そんな事は認められる筈も無い。

侵略には抵抗し、何時しか魔族を纏める者を魔王、そして魔族の暮らす地域を魔族の王国、魔王国と呼ばれるようになったのじゃ。」



お茶を飲み、一息つくルシフェラの説明をリースリットが引き継いだ。



「魔王国による抵抗が激しくなると、困るのは人間でした。

領土は欲しいが下位種族である人間では上位種族である魔族にはどう足掻いても適わない。

そこで、魔族に対する手段として当時考えられたのが『どこかに消えた神族を呼ぶ』という事でした。

そうして、光属性を持つ者を無作為に呼ぶ大規模な召喚魔法陣が組まれ、勇者がこの世界へ呼び出されるようになりました。

結果として『神族を呼ぶ』という目論見は失敗したものの、人間は勇者を担ぎ上げ魔族に対抗する力を得たのです。

その後も勇者が死ねば新たな勇者が呼ばれ、召喚陣の改良が行われながら一進一退の攻防戦が繰り広げられ、何時からか『魔族は世界を滅ぼす存在』、『勇者は世界を救う存在』と噂される様になり現在に至ります。

最も、これは当時の王侯貴族達が自分達の侵略を正当化するために流した噂とも言われていますが。」



リースリットはお茶を飲むと口を閉ざす。



神族とか光属性とかは良く解らない。けど…。



「勇者とか良いながら、まるで体の良い使い捨ての道具じゃないか…。」



宗太にはそう言う事しか出来なかった。



「ハハハッ、使い捨ての道具か、言い得て妙じゃの。人間の欲望が生み出した偶像の英雄じゃ。」



ルシフェラは宗太の言い回しが気に入ったのか楽しそうに笑う。



「そして、先代魔王──儂の父上を倒した勇者を儂が倒し、新たな勇者として呼ばれたのがオヌシという訳じゃ。」



「何で俺が勇者だって…。それに入城時に属性を調べられたら風と土だって言われたぞ?」



宗太にとっては当然の疑問だろう。



「オヌシが目覚めたというイーヴルニスの森は大半が魔王国領での、さらに魔物の巣窟とあって殆どの者が近寄らん。更に、国に戻って得た情報じゃが…四日前この国で勇者召喚の儀式が行われたそうじゃ。結果は失敗。それにオヌシからは僅かじゃが光の属性を感じられるのじゃ。」



そういうと側を通ったアンジェリーナにお茶のおかわりを頼む。



お茶を受け取りアンジェリーナが仕事に戻るのを確認してから話を続ける。



「勇者は皆光の魔力属性を持って召喚される。それが元々の力なのか神代の神々の加護なのかは、諸説あってはっきり解ってはおらんのじゃがな。オヌシの属性が間違われたのは、光の属性が覚醒しきって無い所為じゃろう。」



「魔力って覚醒とかで現れるものなの?判別する水晶は?」



「判別の魔導具は要はその者の魔力の表面をチラッと見るだけのモノじゃ。

魔力とは本人の属性と同質、若しくは相反する魔力を流し込み、体内で存在を理解して初めて魔術として使えるようになるのじゃ。

故に魔術師を目指す人間は魔術師ギルドへ加盟して目覚めさせるのじゃよ。

あそこなら基本四属性は揃っておるし、引き続き魔術を学ぶ事も出来るからの。」



魔術師ギルドなるものまであるとは知らなかった。



「じゃあ、俺も魔術師ギルドに入って学べば良いのか?旅に出るなら覚えておきたいし。てか人間以外はどうしてるんだ?」



宗太の質問にルシフェラは手をヒラヒラ振りながら答える。



「あそこに入るのは止めておくがよい。現在光属性を唯一目覚めさせられるのは闇属性だけじゃし、勇者とバレれば王城に強制連行で魔族と戦わされるのは確定じゃ。人間以外は大抵種族内で子供に教えていく事になるの。」



それを聞いてイヤそうな顔をする宗太。



「それは…、勘弁だな。それじゃあ今までの勇者はどうやって覚醒させてたんだ?てか、俺が現れないと新しい勇者が召喚されるんじゃ?」



「大昔に闇属性の魔力を封じ込められた魔力石があるのじゃ。その現存する最後の一つをこの国が保持しているのじゃよ。

複数の勇者については召喚出来ぬようじゃ。世界が存在を許さぬらしい。」



ま、幾ら来ようが物の数ではないがのと言いながら笑う。



「旅に出るなら儂らが魔術を教えてやろう。良い暇つぶしにもなるじゃろうからの。」



「ソータさん旅に出ちゃうんですか!?」



ルシフェラがお茶を飲み干し立ち上がると、話を聞いていたのかアンジェリーナが詰め寄って来た。



「…え?う、うん、何時かはそうなるかな…と。」



宗太が勢いに圧されてそう答えると、アンジェリーナは何事か考え出した。



「そ、その時はあたしも連れてって下さい!」



暫く悩んでいたと思ったら、顔を赤くしながらそうお願いしてきた。



調理場からは皿の割れる音とおかみさんの怒鳴り声が聞こえてきたのだが、聞こえなかった事にする。



「しかし、旅は危険ですよ?何の力も無い子供のお守りをしながら出来るモノではありません。」



宗太がどう説得しようかと悩んでいると、リースリットが助け舟を出してくれた。



「な、ならあたしにも魔術を教えて下さい!」



尚も食い下がるアンジェリーナに対してリースリットが言葉を続けようとした時。



「うむ、良いじゃろう。」


ルシフェラの一言が全てを台無しにした。



思わずテーブルに突っ伏す宗太とリースリットを尻目に、はしゃぐアンジェリーナと得意気に頷くルシフェラ。



宗太は目から汗が流れそうになるのを感じた。



断じて涙では無い。



「ではアンジーの参加も決まった所で早速講義を始めるとするかの。」



「…あ、今からは無理だ。ちょっとギルドで依頼受けて金稼がないと。」



宗太としては思い出したくない現実ではあるが、早急にどうにかしないといけない問題があったのだった。



「…?何故じゃ?」



意気揚々と歩き出したルシフェラだが、宗太の一言で歩みを止め振り返る。



「…壊れたベッドとかの弁償と折れた剣の修理代。」



「「……あ。」」



どうやらルシフェラとリースリットも思い出したようだった。



話し合いの結果、結局魔術はギルドの依頼をこなしながら教えて貰う事になった。



宿泊客ではない二人分の朝食と、四人分の弁当代は宗太が払う事になったのは別の話。



というか、外出許可を出す代わりにアンジェリーナの弁当代も請求する辺りおかみさんもちゃっかりしている。



「先ずは儂らもギルドに登録せねばの。」



「え?登録には都市発行の証明書が必要らしいけど持ってるの?」



何気ない会話をしながらギルドへ向かう四人。



「うむ、ちゃんと城門で審査を通してから都市に入っておったからの。ホレ。」



そう言って滞在許可証を出すルシフェラ。



審査では魔力属性も調べられるんじゃ無かったのだろうか…。



「我々程にもなれば簡易な判別魔導具など簡単にごまかせます。さらに、魔族には角等もご覧の通り隠す魔法も伝わっています。」



リースリットが小声で教えてくれた。



(ざる)過ぎるぞ入城審査。



モーリスさんに教えてあげた方が良いのだろうかとつい考えてしまった。



「儂ら三人ギルドに登録したいのじゃが。」



ギルドに着くとルシフェラが受付に行き登録を始める。



「アンジーも登録するの?」



「はい!ママも昔冒険者だったそうで、話したら市民証を出してくれました。」



そう言って一枚の紙を取り出すと受付に渡した。



元冒険者とは、どうりで怒ったら恐い訳だ。



リースリットもそれに続く。



「ルシフェラ・レストール様、アンジェリーナ・メナード様、リースリット・ノエル様ですね。確認のサインを…。それでは三名様で登録料6000エリーになります。」



「「「ソータ(さん)(様)」」」



何故か三人揃ってソータを見る。



宗太はうなだれながら角金貨を出す。



弁償の前にどんどん金が減っている気がするも、小心者の宗太には言い出せなかった。



ギルドの説明を断ると、カードが発行されるまでの時間に依頼を確認しておく。



「えーと…、南部の森で薬草採取、北部の山脈が薬草と鉱石採取と魔物討伐、商団の護衛依頼とかもあるのか。」



「しかし、これらの依頼はどれも往復で数日はかかってしまいますね。」



リースリットが教えてくれる。



世間知らずな宗太にとってこの優しさはありがたい限りだ。



「うーん、それは困るな…。明日の夕方にはユニスさんとこに行かないといけないし。」


「Bまで受けられるなら、コレなんかどうじゃ?『西の森周辺の草原でマッド・ハウンド10体の討伐』犬っころ10体で4万エリーじゃ。素材も入れれば金貨一枚にはなるぞ。」



ルシフェラが一枚の依頼書を剥がして持ってくる。



「マッド・ハウンドって?」



「大型の犬のような魔獣です。性格は凶暴で単体ではランクC程度ですが群れで行動する為連携して襲ってくるのが特徴ですね。素材として利用出来る部位は皮くらいですが、割と良質の魔素石が回収出来ます。」



魔素石というのは魔獣が体内に魔力を溜めて置く為の、宝石の原石に似た器官だそうだ。


コレを精製した後、魔術を併用して錬成する事で様々な魔術媒体や魔導具として利用出来るらしい。



この依頼を受けようと受付に向かおうとした時だった。



「オイオイ、嬢ちゃん。新米がそんな依頼受けるのかよ。」



「そっちの兄ちゃんなんか折れ曲がった剣背負ってんじゃねぇか。」



「てか、ここはガキの遊び場じゃねえんだぞ?」



「紫髪の姉ちゃんなら俺達が手取り足取りじっくり教えてやろうか?」



「いやいや、銀髪のガキもなかなか…。」



「お前そっちの趣味かよ!」



「ギャハハハハッ!!」



ギルド内の一角、テーブルの一つに陣取った冒険者パーティーらしい一団から冷やかしの声が上がった。



一体どこのヤンキーだ。




二日連続でガラの悪い人達との遭遇である。



治安が良いと言う話は一体どこに行ったのだろうか…。



ルシフェラはそんな冷やかしなどまったく気にする事なく受付に向かう。



宗太も怯えているアンジェリーナの肩に手を置き、落ち着かせるようにしながら受付へと歩き出す。



「オイ、無視すんなっての!」



無視されたのが癇に触ったのか、冒険者の一人が一番後ろを歩いていたリースリットの肩に手をかけた。



瞬間、男はリースリットに腕を掴まれ投げられる。



宙に浮いた後、背中から床に叩きつけられ、更に雷の魔術のオマケまで貰った男は白眼を剥いて気絶していた。



(えげつない…。)



宗太は投げられる前に鳩尾に肘まで入れられていた男に心の中で黙祷を捧げながら、この人は絶対に怒らせてはいけないと本能で理解した。



「て、テメェ…!」



仲間をやられて逆上した冒険者(ヤンキー)達が一斉に襲い掛かるが、実力差など周りから見ても一目瞭然。



瞬殺された男達は部屋の隅に積み重ねられる事になった。



余談であるが、この件を目撃していた一部の冒険者及びギルド職員の間で『紫電の侍女(メイド)』と呼ばれ、本人の知らぬ所で密かに人気を博する事となったのだった。





全体は短いのに説明が長ったらしくてごめんなさい。


次回は魔法の説明になる予定…。



それと次話を投稿したら宗太、ルシフェラ、リースリット、アンジェリーナのキャラ紹介でも投稿する予定です。

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