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第5話 続・買い物と魔王襲来!!

ルシフェラと別れた宗太とアンジェリーナは本来の目的である服飾店への道中を歩いていた。



「──やっぱり暫くは裏道を通るのは止めといた方が良いと思うよ。」



宗太は先程の騒動を思い出しながらアンジェリーナに忠告する。



「いつもならあんな事は滅多に無いんですよ…?」



対するアンジェリーナは若干俯きながらも反論する。



「滅多に無いと言っても絶対じゃあないだろう?それに魔族が此処を狙ってるって情報があるんだし、ああいったならず者がこれからも増えると思うんだ。」



戦場を求めて傭兵が押し寄せれば、ああいった手合いもまだまだ増えてくるだろう。



「今回のルシフェラがアンジーだったらどうなる?俺だって何時も護れる訳じゃない。多少遠回りするだけで危険が回避出来るならそっちの方が良いじゃないか。」



「そう…ですね。分かりました、暫く裏通りには近付かないようにします。」



どうやらアンジェリーナも理解してくれたようだ。



笑顔で応じてくれた。



残念ながら「出来れば、お使いの時とかもソータさんと一緒にお出かけしたりとか…。」というアンジェリーナの呟きは宗太の耳には届いていなかった…。



目当ての服飾店は大通りから少し中に入った場所に建っていた。



看板には針と糸にシャツ、それにネックレスと思われる絵が描かれている。



どうやらこれが服飾店の印のようだ。



「いらっしゃい!…おや、アンジーかい。」



「今日はユニスさん。」



店内に入ると20代くらいの若い女性店員が笑顔で迎えてくれた。



どうやらこの店もアンジェリーナの馴染みであるらしい。



「…と、後ろの男はアンタのコレかい?」



そう言って親指を示すユニス。



ここでも親指は“男”を表すのだろうか。



アンジェリーナは一瞬で顔を真っ赤に染め上げる。



「ち、違います!ソータさんはウチのお客さんで…!!」



「ほほーう?そうかいそうかい。」



顔を真っ赤に染めながらあたふたと反論するアンジェリーナをニヤニヤ笑いながらからかうユニス。



若いのに随分とオッサン臭い言動だ。



「それで、今日は何の用事で来たんだい?」



一頻りアンジェリーナをからかった後、宗太に訊ねてくるユニス。



アンジェリーナは漸く解放されてホッと息を吐く。



赤くなりながら瞳を潤ませている顔が何とも可愛い。



このままアンジェリーナを眺めていたらイケない性癖に目覚めてしまいそうだったので、慌てて本題に移る。



「えと、実は替えの服が無いのでそれらを買いに…。」



「ん、もしかして早急な入り用かい?」



途端に困ったような顔をするユニス。



「何か問題でもあるんですか?」



「確かユニスさんって普段からフリーサイズの作り置き用意してませんでしたっけ?」



宗太とアンジェリーナがそれぞれ疑問を述べると、ユニスが申し訳無さそうに言う。



「…それ何だけどねぇー。実は昨日新規の客が来て買ってっちまったんだよ…。」



「そんな…。」



ユニスの店ならすぐに手に入ると思っていたのだが当てが外れた。



宗太に無駄足を踏ませてしまった事に落ち込む。



「何着必要だったんだい?」



「そうですね…、上下と下着で三着ずつくらいでしょうか。」



この街に長居するとも限らない。



旅を考えるならその辺りが妥当だろう。



「今から採寸して縫うとなると上下と下着の二組で…出来上がりは二日後かな?」



「そんなに早いんですか?」



そんなに早く作れるものなのだろうか。



もっと時間がかかるものだと思っていた。



「ま、アンジーのオトコなら特別さ。超特急で仕上げてやるよ。」



そう言って豪快に笑う。



ヤバい、姉御と呼びたくなってきた。



「か、かかかか彼氏じゃ無いですよ!?そんな、あたしなんてソータさんにはとても…!!で、でもソータさんさえ良ければ…、その…。キャッ!」



落ち込んだ様子から一転、わたわたと手を振りながら騒ぐアンジェリーナ。



もう先の失敗は頭に無いようだ。



こうなる事を狙ったのだろう。



ユニスは優しげな微笑みを浮かべながらアンジェリーナを見ている。



(仲良いんだなぁ…。)



そんな二人のやり取りを見て、宗太もつられて笑みを浮かべるのだった。



「さて、それじゃ採寸しようか。コッチに来てくれ。下着は丁度一組あるから、今日の所は古着屋で買って貰えるかい?」



そう言いながら店の奥に向かうユニスに付いていく。



店の奥が作業部屋となっているようだ。



壁際の棚には色とりどりの布、作業台の上には作りかけの衣服や裁縫道具等が置かれている。



「上着は脱いでおくれ。」



そう言いながら道具入れからメジャーの代わりなのだろう細長い紐を持ってくる。



宗太は言われた通り詰め襟を脱ぐとユニスに手渡す。



「ほう、コレは…。…なるほど。」



ユニスは受け取った詰め襟を一頻り観察し終えると、入り口脇のコートハンガーに掛けて宗太の採寸に移る。



「ユニスさんってアンジーと仲良いんですね。」



黙っているのも何なのでユニスの指示通りに紐を摘んだりと、採寸の補助をしながら思った事を聞いてみた。



「ああ、あの()の家は服から寝具までウチで買ってくれてるからね、それなりに長い付き合いなんだよ。あの娘も小さい時から知ってるから、まぁ妹みたいなもんだね。」



言って笑う。



「あの娘が今日着てる服もねぇ、アタシがこの前の十歳の誕生日に贈った物なんだよ。大事にするって言ってたんだが、まさかオトコ連れでお披露目に来るとは思わなんだ。まだ子供だと思ってたんだがやっぱり女の子なんだねー。」



「ははは…。」



意地の悪い笑みを浮かべて見上げてくるユニスに、宗太は苦笑で返す事しか出来なかった。



採寸も終わり店内に戻ると、アンジェリーナは暇つぶしに見ていたのだろう商品のカタログから顔を上げた。



「ソータさん、採寸終わったんですね。お疲れ様でした!」



「うん、お待たせ。」



そう返すと、顔を赤くしてまたカタログに視線を落としてしまう。



「はいよ、下着だ。この後特に予定が無いなら二人で公園に散歩にでも行ってきたらどうだい?」



そんなアンジェリーナの様子をニヤニヤと笑いながら見ていたユニスが下着の入った紙袋を渡しながら不意に提案してきた。



「公園?」



「この街には北区と東西区画の境に遊歩道と公園があるんですよ。それと中央広場を合わせた三カ所が市民の憩いの場となってるんです。」



宗太の疑問にはアンジェリーナが答えてくれた。



「じゃあ、古着屋を見た後にでも行ってみようか。」



「は、ひゃい!!」



勢い良く答えたアンジェリーナだが、声が裏返ってしまい顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。



「はっはっは!それじゃあ服は明後日の夕方にでも取りに来てくれ。下着の代金もその時に纏めてで良いよ。」



「ありがとうございます。」



宗太はユニスに礼を言い、アンジェリーナと一緒に店を出て行った。



「まったく、あの娘も初心(うぶ)なんだから…。」



そう呟くとユニスは穏やかな笑みを浮かべて二人を見送るのだった。





「あたしが選んでも良いですか!?」



ユニスの店の近く、大通りに面した古着屋に入るやアンジェリーナが期待に満ちた声で聞いてくる。



ユニスに散々煽られたためか、最早アンジェリーナの中では「買い物の付き添い」から「デート」に替わってしまっているらしい。



「そうだね、お願いするよ。」



もっとも、普段から服装に無頓着だった宗太としてはこの申し出を断る理由もない。



好意をありがたく受け取ることにする。



宗太の言葉を聞いたアンジェリーナは、嬉しそうにして店内に所狭しと並んだ衣服を漁りだした。



次々と宗太に似合いそうな服を掲げては小首を傾げている姿はまるで小動物のようで可愛らしい。



「コレなんてどうですか?」



小一時間ほど悩み続けるアンジェリーナを眺めて和んでいると、選び終わった服を差し出してきた。



詰め襟姿から決めたのだろうか、麻製と思われる白いワイシャツに黒のベスト、同じく黒のズボンの三着だった。



「うん、いいね。コレを買おうか。」



アンジェリーナから服を受け取ると代金を支払い店を後にする。



「お昼はどうしようか?」



腕時計で時間を確認すると一時半を少し過ぎた頃。



昼食を取るには少し遅い時間だろうか。



「中央広場に屋台があると思いますから、そこで買って公園に行きましょう!」



アンジェリーナに促されるまま大通りを歩いて行くと、街の中心部である中央広場に出た。



周りは屋台や露天商が店を広げ、中央にある噴水の辺りでは穏やかな日差しと広場を包む喧騒の中沢山の人々が寛いでいる。



「この広場から北西と北東に続いている道が遊歩道で、その中頃に大きな公園があるんですよ。」



アンジェリーナの説明を聞きながら屋台で軽食を購入し、西部の公園へと向かう事にする。



買ったのはナンのような平焼きパンで角煮と野菜を包んだ物で、一つ銅貨五枚だった。



飲み物も一緒に買おうとしたが、公園の屋台で買うべきだと止められた。



何でも、使い捨てのコップというのは無いようで、飲み終わったら返却しなければならないらしい。



飲み物を諦め遊歩道を歩くこと凡そ三十分、目的の公園に到着する。



公園の中央には池があり、その周りを石畳の歩道が囲み、至る所に草木が茂っている。



公園は割と広く、中央広場ほどの賑わいは無いが親子連れや恋人同士が思い思いのひと時を過ごしていた。



二人は歩道脇の屋台で飲み物を買うと、近くのベンチに腰を下ろす。



「今日は買い物に付き合って貰ってありがとね。」



買った軽食をかじりながらお礼を言う。



「い、いえそんな…。あたしもソータさんとお買い物出来て楽しかったですし…!それにソータさんのお願いなら何時でも…。」



頬を染めて俯きながら答えるアンジェリーナを見て微笑む。



この健気さは本当に癒される。



残念ながら最後の方は宗太の耳には届かなかったのだが。



「じゃあ、今度はアンジーの用事に付き合うよ。人手が必要なら何時でも声掛けて。」



「え、良いんですか…!?」



「うん、今日のお礼も込めてね。」



やはり自分に付き合わせて一日潰してしまったのだ、それなりの礼はするべきだろうと考えた上での提案だった。



(神様ありがとう…!!)



アンジェリーナとしては嬉しい事この上ない提案だ。



心の中で神に感謝した。



「あ、そろそろ帰らないと…。」



たわいも無い話をしながら一時間ほど過ぎたころ、アンジェリーナが呟いた。



「ん、もう時間?」



「そろそろお店の仕込みを手伝いに戻らないといけないんです。」



そう言うアンジェリーナは酷く残念そうだ。



「アンジーさえ良ければおかみさんに許可貰ってまた来ようか。」



こんな小さな娘ならまだまだ遊びたい盛りだろうに、それを我慢して親の手伝いを頑張ってる。



その健気さに何かしてあげたい──そう思ったら自然と口から言葉が出ていた。



「ホントですか!?約束ですよ!」



途端に満面の笑みを浮かべて喜ぶアンジェリーナだった。



宿に戻るとアンジェリーナと別れ、部屋に戻る。



服の入った紙袋を窓際、ベッドの反対に置かれた机の上に放り、大剣をベッド脇の壁に立て掛けるとベッドに寝転がる。



今日はなかなかに濃い一日だった。



リードには驚かれユニスにはからかわれ…、そして叩きのめした傭兵達にルシフェラと名乗った少女。



(あの娘は無事に連れの人と合流してあの場を離れられたんだろうか…。傭兵の仲間が敵討ちとか来たらイヤだなぁ。)



そんな事を考えているとふと思い出される言葉。




『すぐにまた逢うことになるじゃろう…。』



「どういう意味なんだろ…。また遭うのを確信してるみたいな言い方だったけど。」



解らないなら考えても仕方の無い事か。



そう思い目を瞑った。



「ソータさん、夕飯にしませんか?」



ノックの音と共にアンジェリーナの声が聞こえ、目を覚ます。



時計を見ると六時を回った所だった。



「今行くよ。」



そう言ってベッドから起き上がり伸びをする。



「用意しておきますね!」



扉の向こうからは元気な声が聞こえ、続いてパタパタと廊下を走る音が遠ざかっていった。



宗太も食堂に向かう事にする。



「アンジー、今日はヤケに機嫌が良いじゃねえか!」



「あれか?ついにオトコが出来たんだな?」



「オレァさっき言ってた『ソータさん』ってのが怪しいと見たね!」



「かーっ、オヤジさんも遂に泣く日が来たんだねぇ!」



階段を降りるとアンジェリーナが酔った常連客に揉みくちゃにされている光景が飛び込んできた。



「あ、ソータさん、カウンター席にどうぞ!」



宗太を見つけたアンジェリーナは酔っ払い達を軽くあしらいながら宗太を席に案内する。



「何か…大変そうだね。」



「もう、皆酔っぱらっちゃって困っちゃいます。」



そう言って笑う。



すると、調理場から四十代くらいの男性──この宿屋の店主が出てくる。



何時も調理場に居る為宗太は会うのは初めてだった。



「あ、初めま…。」



宗太の挨拶は包丁がカウンターに突き立てられた音によって遮られた。



「パ、パパ…!?」



「娘は…、娘は絶対にやらんぞ…。」



驚愕の声を上げるアンジェリーナに構わず、親父さんは低い声で威嚇する。



「何やってんだい、アンタはっ!」



おかみさんにお盆で頭を叩かれる親父さん。



スパコーン!という小気味よい音が響いた。



「ぐぉぉ…、し、しかしアンジーがこの男に…。」



「ソータさんにヒドい事するパパは嫌い…。」



頭を抑えながらも抗議の声を上げる親父さんに止めの一撃が突き刺さった。



「パパが変な事してごめんなさい…。」



「いや、気にしてないよ。」



俯き謝罪するアンジェリーナにそう返す。



力尽きた親父さんはというと、おかみさんに引き摺られ調理場へと消えて行った。



いつの世も女は強いと実感させられる。



食事を終えるとアンジェリーナにタオルを借り、裏の井戸で身体を拭う。



高級宿や金持ちの家ならともかく、一般的な宿や家庭では湯を沸かす手間などの理由から風呂が無いのだとか。



湯を沸かす為に熱を発する道具もあるそうだがやはり高級品だとのこと。



普段は濡れたタオルで身体を拭くか、商業区の公衆浴場──と言っても蒸し風呂らしい──に行くのだとか。



お湯を用意すると言われたが、手間をかけさせるのも気が引けるので断った。



(鉄砲風呂くらいなら作れそうなものなんだがなぁ…。金銭的に無理なのか?)



部屋に戻り着替えを済ませると、ベッドに潜り込みそんな事を考えるのだった。






────────




──ガチャン



どこの酒場も店仕舞いし、街中がひっそりと寝静まったころ、宗太はそんな音で目が覚めた。



続いてコツ、コツ、コツと何者かが床を歩く音。



音は宗太の横で止まった。



途端に感じる背筋が寒くなるような殺気。



反射的に身を起こすとドゴッ!っという破砕音と共にベッドが砕かれた。



「──…流石にバレるか。」



その声に振り向くと、そこには漆黒のドレスに身を包み月明かりに輝く銀の髪を持つ少女──ルシフェラが漆黒の大剣を振り下ろしたままの体勢でこちらを見ていた。



「ル、ルシフェラ!?何で此処に…。」



「言ったじゃろ?『すぐにまた逢うことになる』と…。」



混乱する宗太を余所に再び大剣を振り下ろすルシフェラ。



かろうじて躱した宗太は、壁に立て掛けていた大剣を掴み窓から飛び降りた。



背後からは三度目の破砕音。



(二階で良かった…。)



無事着地し、ホッと胸を撫で下ろすと走り出す。



暫く走りつづけると見覚えのある場所、昼間アンジェリーナと来た公園へと辿り着いた。



背後から追ってくる気配が無いのを確認して漸く足を止める。



「傭兵ならまだ解るが、何でルシフェラに襲われたんだ?もしかして昼間置いてった事根に持ってたとか…?」



「戯け、そんな訳あるまい。それに傭兵共なら始末しておいた故安心するがよい。」



宗太の誰に言うでもないボヤきに対し、そんな返答が前から(・・・)聞こえて来た。



驚いて前を見ると、いつの間に回りこんだのかルシフェラが涼しい顔で佇んでいた。



「いつの間に!?ってか、昼間の事が関係ないなら一体何で…?」



「昼間の事がまったく関係ない無いという訳では無いが…。まだ解らぬのか?」



そう言ったルシフェラが何事か呟くと、側頭部から角が、背中から黒い羽、腰からは黒い槍のような尻尾が生えた。



「コレで解ったじゃろう!」



そう言いながら手にした大剣で切りかかる。



「え、角?羽?ってうわぁ!?」



咄嗟に背中の大剣を掴み防御するも、ルシフェラの小さな身体から繰り出されたとは思えない斬撃の威力の前に吹き飛ばされる。



地面を転がり体勢を整えるも、先程の一撃で剣は曲がってしまっていた。



「ほう…、まさか只の剣でこの朔夜(サクヤ)の一撃を受けて無事とは驚いた。」



宗太はルシフェラの斬撃の威力に驚いていたのだが、ルシフェラは別の事に驚いている様子だ。



「只のって…、その剣は普通と違うのか?」



「左様、この剣は魔剣月夜(ツキヨ)

歴代の魔王(・・)に受け継がれし魔王剣じゃ。」



「魔剣?魔王?」



ルシフェラの説明も予備知識の無い宗太には全く理解出来なかった。



「そう、そしてこの剣を持つ者こそオヌシの倒すべき相手じゃ!それくらいは理解しておろう?のう、勇者(・・)よ!」


言葉と同時、大きな踏み込みと共に繰り出される斬撃の嵐を避け続ける。



漆黒の刃が夜の闇に溶け込んで見え難い。



感で何とか回避に成功している状態だ。



「ふむ、良く避ける。ならばコレならどうじゃ?魔剣月夜・繊月(センゲツ)!」



ルシフェラの叫びと共に漆黒の大剣がその姿を変じる。



そして漆黒の大鎌(・・・・・)が姿を現した。



「形が変わった!?」



「これこそが魔剣月夜、複数の武器に形や能力すら変じる魔の剣じゃ!!」



大鎌の斬撃を大剣で防ぐも、急な間合いの変化と刃の形状の為か刃先が頬を掠める。



たまらずバックステップで距離を取るが、ルシフェラは追う事はせずにその場で鎌を振るう。



アレ(・・は拙い…!!)



本能が警鐘を鳴らす。



考えるより先に横へ回避する。



直後、石畳が幾本もの線を引き抉れていた。



「どうした、避けてばかりだと儂は倒せぬぞ!?」



「コッチにゃ闘う理由が無いっての!」



あまりの理不尽さに思わず怒鳴ってしまった。



「オヌシを召喚した王から説明されたじゃろう?魔王、即ちこの儂を倒せと。その為にこの都市に来たんじゃろうが。」



「王なんか知るか!俺が目覚めたのは西の森でこの街に来たのも偶然だ!それに可愛い女の子に傷なんかつけられるか!!」



一気にまくし立て肩で息をする。



ルシフェラはというとポカンと口を開けていた。



「──ク、ククク…ハハハハハッ!召喚された先がイーヴルニスの森じゃと!?しかも歴代最強と言われ魔族からも恐れられるこの儂に『可愛い』などと申すか…。ククッ、オヌシは想像以上に面白い男じゃのう。」



ルシフェラは楽しそうに続ける。



「しかし、オヌシが儂を倒さねば人類が危機に立たされるのじゃぞ?」



「それも嫌だな…。」



若干悩む様子で答える宗太。



「じゃろう?ならば儂を倒して…。」



「だからそれは嫌だって。」



ルシフェラは続けるも、これには言葉を遮り即答する。



「オヌシ、我が儘な奴じゃのう…。」



呆れた表情で言葉を吐き出すルシフェラ。



「しかし、ふむ…。……うむ、決めた!」



続けて何事か考え込む仕草をしたと思うと徐に顔を上げて言い放つ。



「オヌシ、儂のモノになれ!!」



「……はぁ!?」



ルシフェラの突拍子もない言葉に今度は宗太が呆然となる。



「儂はオヌシの願いを聞き届けよう。今後の人間共の国への侵攻は中止する。そうなれば人間共も脅かされずに済むし、オヌシも儂と戦わずに済むじゃろう?代わりにオヌシも儂の願いを聞け、という事じゃ。」



説明を続けるルシフェラに混乱しながらもそれを聞いている宗太。



「で、その願いってのが…。」



「儂のモノになり儂を楽しませろ、という事じゃ。」



「……はぁ。」



満面の笑みを浮かべるルシフェラに対し、宗太は溜め息しか出なかった。



「…また勝手にその様な事を決めて宜しいのですか?」



どこか呆れと諦めが入り混じったような声と共に、薄紫の髪の少女がルシフェラの横に現れる。



ルシフェラと同じく二本の角と羽、尻尾が生えており、清楚な侍女服にその身を包んでいる。



「うおっ!?」



突如現れたメイドさんに驚愕の声を上げる宗太。



「紹介しよう、こ奴が昼間言っておった連れ、儂の侍女のリースじゃ。」



「お初にお目にかかります。ルシフェラ様に仕えておりますリースリット・ノエルと申します。リースとお呼び下さい。以後お見知り置きを。」



優雅な仕草で挨拶をするリースリット。



「あ、どうもご丁寧に。ソウタ・アカツキと言います…って、そうじゃなくて!」



つられて挨拶を返すが思い出したかの様にツッコミを入れる。



ルシフェラとリースリットは揃って小首を傾げていた。



「俺には突然現れたように見えたんだけど、どうなってるの?」



「あれは『シャドウ・ムービング』といって、影から影へと移動出来る闇の上級転移術じゃ。儂がオヌシの後を追ってこの公園に来たのもこの魔術を使ってじゃの。」



「影から影へって、壁とか障害物は…?」



ルシフェラの説明を聞いて浮かんだ疑問を訊ねる。



「光があろうと無かろうと、闇があるなら行けぬ所は無い。無論結界の中でもじゃ。但し、色々と発動が難しく扱える者は少ないがの。」



「それじゃあ窓を破って侵入する必要は無かったんじゃあ…。」



「何を言う、賊は窓を破って侵入するモノと相場が決まっておろう?」



さも当然と言わんばかりのルシフェラにガックリと膝を着く。



その様子をリースリットが同情を多分に含んだ表情で見ていた。



(ああ、この人も苦労してるんだろうなぁ…。)



リースリットに親近感を覚えた宗太だった。



「さて、儂等は少し国に戻るかの。」



そんな宗太を余所にルシフェラが言う。



「何か予定があったのか?」



「うむ、侵攻準備の取り止めなどをせねばならんのでな。では、また後程会おう。」



その言葉と共に二人は影に溶けて消えていった。



一人取り残された宗太は溜め息を吐き宿に戻る事にする。



夜中に叩き起こされてそのまま戦闘。



折れ曲がった大剣の修理には一体幾らかかるのだろうか…。



「お帰り。」



足取りも重く宿に戻った宗太をおかみさんが笑顔で迎え入れた。



「アンタの部屋から大きな物音がしたと思って部屋に行ったら、アンタは居ないし部屋は滅茶苦茶だし…。どこに行ってたんだい?」



身体からはもの凄いプレッシャーを撒き散らしている。



正直、魔王のルシフェラより恐い。



「…えっと、寝てたら賊らしい人に襲われまして…。」



ルシフェラな訳だが正直に言う訳にもいかず、ボカして答える。



「で、賊は?」



「…逃げられました。」



折れ曲がった大剣や頬の切り傷などから納得してくれたのだろう。




「…ハァ、仕方ないね。でも壊れた備品なんかは弁償してもらうよ?」



「…幾ら程でしょう?」



恐る恐る訊ねると、おかみさんは少し悩む。



「うーん、職人に聞かなきゃ判んないけど、ベッドに机、窓と壁、床で…大体4万エリーくらいになっちまうかねぇ。」



現在全財産が26,360エリー。



「…後払いでも良いですか?」



ガックリと膝を着きながら提案する。



「それで良いよ、後で依頼でもこなして返しておくれ。とりあえず別の部屋を用意しといたからそっちに移って休みな。」



おかみさんも金が無いのを理解してくれたのだろう。



苦笑しながら部屋の鍵を渡すと、自分の部屋へと戻っていった。



宗太は礼を述べてから荷物を新しい部屋に移し、再び眠りにつくのだった。






────────



「──…ん。」



窓から差し込む朝の日差しを受けて意識が浮上する。



「んー、まだ眠いや…。」



昨夜は夜遅くに一騒動起きたため、疲れが抜けきっていない。



傍らの抱き枕を抱いて二度寝する事にする。



人肌の温もりが気持ち良い。



(…ん、抱き枕(・・・)?)



ふと脳裏に浮かぶ疑問。



ここに来たのは着の身着のまま、買い物も服と剣しか買っていない。



当然、宿に抱き枕なんて置かれてなかった筈…。



意識が急激に覚醒していく。



「のわぁぁぁぁぁっ!!」



抱き枕だと思ったのはいつの間にかベッドに潜り込んでいたルシフェラだった。



「…んむ、何じゃ朝っぱらから騒々しい。」



目が覚めたルシフェラが瞼を擦りながら不満そうに言う。



「ど、どどどどうして…!」



「ソータ様、寝起きはお静かに願えますか?」



宗太の疑問の声は背後から聞こえた声によって止められる。



恐る恐る視線を背後に移すと宗太に寄り添うように横になるリースリットが居た。



「リ、リース!?何故ここに!?」



「それは…。」



リースが答えようとしたとき、ドタドタと廊下を走る音と共に勢い良く扉が開け放たれた。



「ソータさん、どうかしましたか!?…ってルシフェラさん?」



宗太の叫びを聞きつけて来たのであろうアンジェリーナだった。



「ア、アンジー?これはその…。」



「おお、オヌシは昨日の…。」



「ソータさんが、ルシフェラさんと美人のお姉さんと…。…きゅう。」



宗太とベッドに寝ていたルシフェラとリースリットの二人を認めたアンジェリーナが顔を真っ赤にして倒れてしまった。



「ちょっ!アンジー!」



慌てて駆け寄り抱き起こす宗太。



アンジェリーナは目を回して気絶していた。





5話目でやっとタイトルの内容を出せました。

さてこれからどうしよう。

実はこの小説、あらすじ文だけ思い付いた状態で書き始めたのでプロットとか無かったりしますorz

設定とかも書きながらその都度…(森とか街、公園、人物その他諸々)。


とりあえずアンジェリーナをヒロインに格上げしてハーレム目指すか…。

その場合、このまま初心でちょっと積極的なのと、ユニスに煽られてかなり積極的になるのとどちらが良いのでしょう?



こんな行き当たりばったりな小説ですが、お気に入り登録して下さる方もいて嬉しい限りです。

これを励みにこれからも続きを書いていこうと思いますので、どうか宜しくお願いします。

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