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17話 召喚魔術と召喚魔法です

『ちょっとソータ、放置はヒドいんじゃない!?』



宗太がリリスに怒られたのは、食事も終わり出発の準備に入った時だった。



食器やらの片付けはリースリットに任せ、天幕を仕舞う時になってようやくリリスを中に忘れていた事に気付いたのだった。



「ごめんごめん…。」



宗太は両手の平を顔の前で合わせて謝罪する。



魔導書に対し謝罪する男の図というのも、端から見るとシュールな光景だった。



「何じゃ、オヌシの世界ではそういう風に謝罪するのか?」



ルシフェラは宗太の謝り方を不思議そうに見ている。



「え?…えっと、単純にお辞儀だったり、片手だったり、あとは土下座…かなあ?」



宗太は謝罪の仕草を思い出しながら言う。



「ドゲザ…?何じゃそれは?」



「えっと、こういう姿勢なんだけど…。」



宗太は土下座をして見せる。



「う…む、コレは、なかなか…。」



土下座を見て軽い優越感と嗜虐心を覚え、ちょっと自国でも取り入れようかと考えてしまうルシフェラだった。



(…って、いかんいかん!儂はそこまで鬼畜では無いぞ!)



だが、ふと我に返ると頭を振って考えを追い出す。



「…確か東方の群島国家ヤマトではその様な謝罪があったと書物にありましたね。」



食器の片付けを終えたリースリットが土下座を見ながらそう言う。



「あるんだ、土下座…。ていうか、ヤマトって…。」



あまりに捻りが無さ過ぎて突っ込む気すら起きない。



「そういえば、こっちの世界で一般的な謝罪の仕方ってどんなの?」



ふと疑問に思った事を尋ねてみる。



「む?こちらではお辞儀か、目上の者に対しては右腕を胸の前で折り曲げてのお辞儀が一般的じゃのう。騎士の敬礼は、王に対して以外は直立で右腕を胸の前で曲げるのじゃ。王に対しても例外はあるがの。」



ルシフェラはそう言ってお辞儀をして見せる。



握った右拳が左胸の前にくる形だ。



「へぇ、その礼の仕方は初めてみたよ。どういう……うわっ!」



『ちょっと、ソータ!!謝罪の仕方なんて今はどうでもいいの!』



謝罪談義へと話が脱線している事に痺れを切らしたリリスのツッコミが入る。



「あ、ああ、ごめん…。」



『まったく…、せっかく召喚魔術が完成したっていうのに…。』



リリスはブツブツと文句を言っている。



その中で、宗太には気になる単語があった。



「待った!召喚魔術が完成したって、勇者召喚のか?」



宗太の言葉にルシフェラはピクリと僅かに反応するが、気付いた者は居ないようだった。



『何で私がそんなの作らなくちゃいけないのよ。前に話したでしょ?私が実体化するための召喚魔術。』



言われてみれば、確かにそんな話をしていた気がする。



この一週間程度で完成させてしまったということだろうか。



『じゃあ、詠唱と魔力の変換よろしく!』



(よろしくったって、俺呪文とか知らないぞ?)



流石に適当な呪文で発動するモノでは無いだろう。



『大丈夫、私の後に続いて詠唱して。魔力も必要量を満たしたら合図するから。因みに光属性ね。』



(ん、分かった。)



それなら何とかなるだろう。



宗太は了承すると、魔力を変換し始める。



思えば聖剣以外では初めての光属性魔術だ。



深呼吸をして気分を落ち着ける。



『じゃあ、いくよ。

世界の根源 天上の光よ』



「──世界の根源 天上の光よ」



リリスの後に続いて詠唱をしながら、前方に出現した白い魔術陣にどんどん魔力を流し込む。



周囲の木に止まっていた鳥達が、いち早く異変を察知して一斉に飛び立つ。



『──我、光を以て変革を望まん』



「──我、光を以て変革を望まん」



突如詠唱を始めた宗太に、ルシフェラ達は驚きの表情で見ている。



『──我が魔力(ちから)を以て世界に新たな(ことわり)を』



「──我が魔力を以て世界に新たな理を」



先ほどから馬鹿みたいに魔力を注ぎ込んでいるのだが、一向に合図が無い。



右手から溢れては魔術陣へと吸い込まれる魔力の奔流により、周囲の空気までもが魔術へと向かって渦巻く。



ゴクリ、と誰かが息を呑んだ音が微かに聞こえる。



あまりの魔力量に、リースリットは無意識に一歩後ずさっていた。



『──我が魔力(ちから)を糧に彼の者をここに顕現させん

──召喚(サモン)!』



「──我が魔力を糧に彼の者をここに顕現させん

──召喚!」



詠唱の終わりと共に、さらに魔力を流し込む。



普段使う魔術とは文字通り桁違いの魔力量に、宗太が不安を覚え始めた頃。



『魔力オッケー!』



ようやく出されたリリスの合図と共に魔力の供給を止める。



結局全魔力の五分の一ほどの魔力を使ってしまった。



魔術陣が一層その輝きを増し、光が弾けると同時。



空気が弾けたかのような風の奔流が吹き荒れ、周囲の木々を激しく揺らす。



突然の光と風の奔流に、堪らず宗太達は顔を腕で覆い隠す。



目を瞑り、腕で顔を覆っていても尚瞼の裏まで届く光と、辺りの物を吹き飛ばさんとする突風に何とか耐える。



「きゃぁぁぁぁぁっ!?」



「アンジー!?」



吹き荒れる風の音の中、微かにアンジェリーナの悲鳴が聞こえてくる。



やがて光と風が止み、アンジェリーナの方を見ると、どうやら吹き飛ばされはしなかったようでその場にへたり込んでいた。



「うん、成功成功!」



宗太がホッと息を吐いた時、すぐ側から最近になって聞き慣れた声が聞こえてきた。



宗太達は揃って声のした方を向く。



そこには足首にまで届く白い髪に金色の瞳、色白の肌を白いドレスで包み背からはこれまた純白の天使のような羽を生やした美少女──ホワイトグレイルの魔導書に宿る意識、リリス・ホワイトグレイルが立っていた。



「何者じゃっ!」



ルシフェラは一瞬で影から魔剣月夜・朔夜を抜くと、突如現れた少女に警戒を向けながら構える。



リースリットも剣を抜きこそしないものの、腰の双剣の柄を握りながら半身に構えている。



「ちょ、ちょっと待ってよ!私は敵じゃないってば!」



いきなり臨戦態勢の二人に、リリスは慌てた様子でわたわたと手を振る。



「リリス!」



「…リリス?もしや、魔導書の意識体か!?」



宗太の言葉に、ルシフェラは魔剣を構えたまま驚愕の表情を浮かべる。



「そうそう、さっきのソータの召喚魔術で実体化したの!だから神剣を向けないで!」



若干涙目になりつつ、説明をするリリス。



「実体化すると斬られたら死ぬのか?」



宗太はふと浮かんだ疑問を聞いてみる。



「え?いや、別に死なないけど斬られるってイヤでしょ?せっかくの魔力も無駄に消費しちゃうしね。」



小首を傾げながら答えるリリスに、ガックリと力が抜ける気がした宗太だった。



「…それにしても、召喚魔術って服とかも一緒に召喚されるんだな。」



「なになに、裸の方が良かった?ソータのエッチ。」



気疲れしてつい漏らしてしまった宗太の呟きに対し、リリスは手を後ろで組み、少し前屈みになった態勢で宗太の顔を覗き込んでくる。



顔にはニヤニヤと笑みを浮かべている。



「…ち、違う違う!そういう意味じゃなくて…!!」



とんでもない勘違いに、宗太は顔を真っ赤にしながら慌てて否定する。



背中に突き刺さるルシフェラ達の冷ややかな視線が心に痛い。



「あはは!冗談冗談。精神体の実体化っていうのは、要はそのモノのイメージだからね。服をイメージして魔力で一緒に実体化させてるんだよ。勿論翼も隠せるよ。」



ホラ、と言って背中の羽を消して見せるリリス。



イメージ次第で姿、格好を自由に変える事が出来るということだろうか。



あまりの便利さに思わず感心してしまう。



「あ、イメージ次第って言っても、その存在からかけ離れた姿は取れないよ?精密なイメージにも限界があるからね。」



宗太の考えを読んだかのように訂正を加えられた。



何でも思いのままとはいかないようだ。



「それにしても、召喚魔法とは…のう。」



「そういえば、魔法と魔術って同じ意味なのか?」



ルシフェラの呟きに、以前から疑問に思っていた事を聞いてみる。



魔法だったり魔術だったりと、人によって言い方が異なるのが気になっていたのだ。



「む?…ああ、宗太は違いを知らんのじゃったな。アンジーもかのう。」



「はい。」



「私も知らないなぁ…。私が生きていた頃は魔術で統一されていた筈だから。」



リリスも首を傾げている。



魔術の知識に長けているリリスまで知らないということに、内心驚く宗太。



「他の魔術師と契約していなかったリリス殿が知らぬのも無理は無い。魔法というのは神族が滅びてから出来上がったモノだからのう。」



「ということは、魔術より新しいモノってことか?」



疑問が解ける前に新たな疑問が浮かんでしまう。



「いや、そういう訳では無いのじゃ。まあ、詳しい話は馬車の中でするとしよう。」



そう言ってルシフェラは馬車の方へと歩いて行く。



気にはなるが、確かにこの場で話していては時間が勿体無い。



宗太達も荷物のチェックをしてから馬車に乗り込む。



「さて、魔法についてじゃったのう。」



馬車が進み始めてから、ルシフェラは先ほどの話の続きと口を開く。



「ああ、魔術と何が違うんだ?」



「違いは無い、魔法とは魔術の事じゃ。」



「「……は?」」



意味の不明さに思わず口をポカンと開ける宗太とリリス。



「…どういうことなんですか?」



アンジェリーナも首を傾げながら質問する。



「つまり、魔法とは現在純粋な使い手の居らぬ魔術の事を言うのじゃ。厳密には無属性──純粋な魔力を使う魔術と光属性の魔術の二つを指す。」



「無属性魔術と言うと、魔術妨害とか?光属性の使い手はソータみたいな勇者が居たらしいけど、それでも魔法に分類されたの?」



「うむ、それで合っておる。それと、逆に言えば光属性を持つ者は一人だけ。それも魔力量の低さと、教える者が居らぬ為に未だかつて使いこなせた者は居らぬ。故の『魔法』じゃ。まったく、宝の持ち腐れじゃの。」



ルシフェラが呆れた様に溜め息を吐く。



「…えっと、魔術妨害って何?」



ルシフェラとリリスの魔術談義について行けない宗太が、恐る恐る手を挙げ質問する。



「魔術は大量の魔力、魔素が混ざると構成を保てなくなるの。魔術妨害っていうのは、簡単に説明すると大量の魔力をバラまいて相手の魔術の構成を崩す力業よ。相手の数倍の魔力を使ったりするから、魔力量の多い存在じゃないと使えないのがネックなんだけどね。詠唱で指向性を持たせる事も出来るよ。」



「なんとまぁ…。」



詠唱で指向性を持たせる事が出来るから魔術という括りなのだろうか。



あまりのごり押し技に呆れるばかりだ。



「他に聞きたい事はあるのかの?」



「私は今の所無いわね。」



リリスは既に理解したようで、首を横に振る。



宗太はふと疑問に思った事を訊ねてみることにする。



「あー…、闇属性も光属性と同じ事が出来るんじゃなかったっけ?闇属性も魔法になるのか?」



「闇属性は魔族が居るじゃろうが。それに、似ているが少し違うのじゃ。例えば儂やリースが収納に使っておる空間魔術があるじゃろ?闇属性は魔力の消費が少ない代わりに、扉は『影』と限定されるのじゃ。光属性は魔力の消費量が多い代わりに、そういった制限は無く何処でも行使出来る。」



言われて思い返してみれば、確かに魔剣や道具の出し入れは全て影からだった。



「他の同系統の魔術もそう。闇属性は魔力の消費量の少なさに対し範囲、又は効果が限定されるのじゃ。戦闘に生かせるかは使い手のセンス次第じゃのう。」



それは光属性も同じじゃがの、と言って笑う。




リリスの召喚にはかなりの魔力を使ってしまった。



光属性は便利だと使いまくっていては、直ぐに魔力切れを起こしてしまうのだろう。



もしそれが戦闘中だったとしたら、それは致命的なミスにもなりうる。



「…人間って魔力量少ないんだろ?よく召喚魔術なんて出来たよな。」



「うむ、数百人、もしくは大量の魔晶石を使った大儀式だそうじゃ。因みに、魔晶石とは魔力を内に溜めておける特殊な石の事じゃ。以前説明した魔素石を精製して造る事が出来る。」



宗太が知らないことを見越して魔晶石の説明を付け加える。



そこまでして勇者を喚ぶ執念に軽い恐怖すら覚える。



出来る事なら関わりたくは無い。



兎にも角にも、疑問は無事解消されたのである。



勇者召喚の事はなるべく考えないようにして、通常の雑談へと移るのであった。





今回はリリスの実体化と、所々『魔法』となっていたり『魔術』となっていた事の理由の説明となりました。



前話など、どんどん増える設定に、友人には「ちゃんと纏めきれるのか?」と言われたり…。

…頑張ります。



話は変わりますが、今回の大地震。

皆様ご無事でしたでしょうか?

我が家は棚の上の物や鬼瓦、瓦が落ちた程度の被害で済みました。

津波も家の近くまでで止まったようですし…。


余震もまだまだ起きていますし、どうかお気をつけてお過ごし下さい。



それではまた次回の投稿で。

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