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第12話 今後の予定と面倒事じゃ!

「次は服飾店じゃったかの?」



リードの武器屋を出た所でルシフェラが確認してくる。



「ああ、でも約束は夕方だったからまだ時間があるな。」



それまでどこかで時間を潰そうか。



しかし、宗太にはこの街の事は良く分からない。



「それじゃあ時間まで中央広場でゆっくりしませんか?」



宗太が悩んでいるのを見て、アンジェリーナが代わりに提案してくれる。



気配りの出来る良い娘だ。



「そうじゃの。今後の旅の予定も立てねばならんしのう。」



ルシフェラもアンジェリーナの案に乗る。



リースリットも文句は無いようだ。



ルシフェラが「旅の予定」と言った時、アンジェリーナがピクリと僅かに肩を震わせる。



「やっぱり旅に出ちゃうんですよね…。」



「うむ、一所に長く留まる訳にもいくまいて。」



ルシフェラの答えに寂しそうに肩を落とすアンジェリーナ。



しかし、直ぐに顔を上げると何かを決心したような表情となった。



宗太はそれを別れる決心を付けたという風に捉えたのだが、それは全くの間違いだったと後になって知るのだった。




中央広場は今日も沢山の人が溢れかえり、二日前と変わらぬ喧騒に包まれていた。



宗太達は売店で果汁飲料を購入すると、噴水前に丁度空いていた四人掛けのベンチに腰を下ろす。



午後の陽気の中、噴水の水音が耳に心地良く届く。



「…さて、では今後の予定について決めてしまうとするかの。」



ベンチに座ると、早速ルシフェラがそう切り出した。



席順はアンジェリーナ、宗太、ルシフェラ、リースリットの順だ。



三人の美少女に囲まれて正に両手に花状態。



さっきから通りすがりの野郎共の嫉妬の視線が宗太に突き刺さっている。



アンジェリーナはヤケに真剣な表情で話しを聞く体勢になっていた。



「…そうですね、私としては王都に赴き召喚魔法陣の破壊をすべきかと思います。」



「ふむ。しかし、まだ我が国からの終戦の使者は出ておらん。今破壊工作をするというのはちと骨じゃぞ?」



ルシフェラは難しい顔をする。



魔王国との戦争真っ最中である現状、王都は特に魔族に対する警戒が厳しいのだろう。



下手をすると、王城どころか王都自体に入るのすら難しいかも知れない。



「勇者が居らぬ今、終戦の申し入れは問題なく受け入れられるじゃろう。しかし、現段階で向かい入城審査でソータの存在が知られれば厄介な事になるやもしれぬ。」



「ッ!…申し訳ありません、浅慮でした。」



今勇者の存在が知られれば宗太は確実に拘束されるだろう。



追い詰められた人間がどの様な手段に出るかも分からない。



下手をするとその場で一国と事を構えることにもなりかねない。



そうなれば一番危険に晒されるのは、現在一番力の無いアンジェリーナだろう。



そこまでに考えが至ったのか、リースリットはルシフェラに頭を下げる。



「良い、確かに重要な問題じゃからのう。しかし、急いては事を仕損ずるということじゃ。」



「…はい。」



「…なあ、ルーベックって何処にあるんだ?」



若干重くなった雰囲気に後込みしつつ、宗太は気になっていた事を訊ねてみることにする。



「…む?ルーベックならここから北東に馬で五日程向かった所じゃが、それがどうかしたのかの?」



難しい顔で何やら考えていたルシフェラが、顔を上げて教えてくれる。



「そんなにかかるのか…。なら一度ルーベックに寄らないか?そっち経由なら王都に着くまでに使者も着いてるかなって思ったんだけど。それに剣も直しといた方が良いかもしれないし。」



「…それなら、王都に着くまで二、三週間といった所か。…うむ、良いやもしれぬの。」



「そうですね。それなら時間としても充分でしょう。」



宗太の提案にルシフェラは少し考えるような仕草をすると、賛成してくれる。



難しい顔で悩んでいたリースリットも表情を緩める。



「いつ頃出発するんですか?」



出発日はアンジェリーナにとって最も気になる事だった。



予定によっては早急に両親を説得せねばなるまい。



(お家の手伝いは…、お兄ちゃんに任せよう!)



一方、ロイドはアンジェリーナがそんな事を考えているとは露知らず、今日も今日とて西門の見張りに勤しむのであった。



「そうじゃのう、あまり長居はせんつもりじゃが…。」



そう言ってルシフェラはチラリと宗太を見やる。



元々ルシフェラ達がこの街に来た目的は都市の保有戦力や防衛の穴を探し出すためだったのだ。



侵攻を中止すると決めたからには最早その必要もない。



出発予定日は宗太の予定によって決めるつもりであった。



「俺は壊した部屋の弁償さえ済めばいつでも良いよ。」



「ふむ、ならば明日にでも旅の準備を整えて、ソータの用事が済み次第出発という事にするかの。」



こうして出発予定日が決められる事となった。



「それじゃ、そろそろユニスさんの店に行こうか。」



宗太は立ち上がり、三人のコップを受け取ると屋台へと返しに行く。



「君たち暇?俺らと遊ばない?」



宗太がベンチを離れると、程なくルシフェラ達にそう声がかけられる。



何事かと三人が声のした方を見やると、そこには二人の若者が笑みを浮かべながら立っていた。



二人共、腰に片手長剣を佩き、軽装の革鎧を着込んでいる所を見ると冒険者なのだろう。



しかし、剣と鎧はどちらも素人目に見ても安価と判るような物で、そこから察するにランクは高くは無さそうである。



ルシフェラは、男達の笑顔に下心が混ざっているのを見て取り、げんなりとした表情を浮かべる。



「残念でも無いが、儂等にはオヌシ等に構っている暇なぞ無い。」



「まぁまぁ、そう言わないでさ。見たところ君たちも冒険者でしょ?ランクは幾つ?」



ルシフェラの気のない返答にも構わず男達は話を続ける。



自分達のどこを見て冒険者だと思ったと言うのだろうか、とルシフェラは思う。



見える場所に武器を持っているのはリースリットだけ。



ルシフェラは魔剣を影に仕舞っているし、アンジェリーナの魔導書はカバンの様なブックホルダーに入れられていて外からでは分からないだろう。



そこまで考えて、ルシフェラは答えに行き着き呆れる。



(コヤツ等、ソータが居るのを見てたのじゃな…。)



わざわざ宗太が離れるのを待って声をかけてくるとは。



「え、えっと…、Dランクですけど。」



「アンジー、斯様な奴らにわざわざ答えてやる必要は無いのじゃぞ?」



困った様に眉根を下げ、身体も若干引きながらも律儀に答えるアンジェリーナに、ルシフェラは苦笑しながらも助言してやる。



「へー、まだ小さいのにやるじゃん。俺らCだからさ、もっと色々と教えてあげちゃうよ?」



「必要ありません。それに、ランクでしたらあなた方も見ていた(・・・・・・・・・)私達の連れ合いはBランクですので。」



リースリットも男達が観察していた事に気付いたのだろう。



男達の下心の見え透いた提案に、全くの無表情でそう答えた。



男達の表情に僅かに動揺が走る。



「ただいま、…ってどうかしたの?」



そんな時、タイミングが良いのか悪いのか宗太が返却を済ませて戻ってきた。



「…ッ!…何でも()ぇよ、テメェはすっこんでろ!」



宗太の声に男達は一瞬ビクリと肩を震わせる。



しかし、冴えない宗太を間近で見てリースリットの言葉をはったりと思ったのか、脅すように怒鳴りつける。



「…は?何なんだいきなり?」



戻ってきて早々見知らぬ男達に怒鳴りつけられ、宗太は困惑が隠せないでいた。



いつの間にか、宗太達の周りには怒鳴り声を聞いた通行人達の人だかりが出来てしまっている。



「…やれやれ、リース。」



「畏まりました。」



しつこい男達に辟易し、溜め息を一つ吐くとルシフェラはリースの名を呼ぶ。



それだけで主の言わんとしている事を察したリースリットは、一言だけ返すと徐に立ち上がり男達に向き直る。



「…それではこう致しましょう。あなた方と私が闘い、あなた方が勝つことが出来た暁にはあなた方にお付き合い致します。武器を抜いても構いませんよ。」



「…へっへっ、後でやっぱり状態でしたってのは無しだからな。」



それを聞いた男達は宗太を威圧するような表情から一転、笑みを浮かべると腰に佩いた片手長剣を引き抜く。



宗太だけは展開に着いて行けず、困惑を強めるばかりだ。



そんな宗太を余所に、男の一人がリースリットに切りかかる。



上段から袈裟懸けに振るわれたそれを、しかしリースリットは半身を引く事で難無くかわす。



リースリットは両拳に紫電を纏わせると、剣を振り切り無防備になった男の脇腹に左拳でボディブローを当てる。



すると紫電が弾け、男は二メートル程吹き飛ぶと地面を転がり痙攣する。



リースリットは殴り飛ばした男に一瞥もくれずに、もう一人に向き直る。



顔を青ざめされている男の横に一瞬で移動すると、右足を男の足の後ろに引っ掛け右手で胸を押す。



バランスを崩した男はそのまま地面に倒れ込むが、その瞬間やはり雷撃をその身に受け気絶する。



白目を剥き、口から泡を吹きながら痙攣、失禁までする様は見ていて同情したくなる。



「…紫電の、侍女(メイド)。」



圧倒的な力で二人の男を瞬殺するリースリットを見て、あまりの光景に呆然としていた野次馬。



その中から、ポツリとそんな事を呟いた者が居た。



その瞬間、野次馬の中の冒険者や一部の市民からどよめきが起きる。



「紫電の侍女って……。」



「…あのギルドの……。」



「…Fランクで数人のCランク冒険者を瞬殺……。」



「あんなに若い……。」



「可愛い顔して……。」



「ハァハァ、萌え…。」



ざわめきは一気に広がり、野次馬達の間でその様な会話が繰り広げられる。



一番最後のは聞かなかった事にしよう、うん。



「…紫電の侍女とは何じゃ、リースの二つ名か!?」



突然の出来事と、意味の分からない野次馬の会話に四人はただ困惑するばかりだ。



そうこうしている内にも野次馬の数は増えていき、それに連れざわめきも大きくなっていく。



「…と、とりあえず逃げよう!」



一種異様な空気に若干引きながらも、四人は野次馬の輪を突破する事にする。



幸いにも、宗太達が近付くと人混みが割れていった為、午前中の事を思い出しながらも抜け出すのは簡単だった。



「…何だったんじゃ、一体?」



「…さあ?」



人混みを抜け出し南区を暫く走った後、四人はようやく立ち止まり一息吐く。



ちなみに足の遅いアンジェリーナはリースリットが抱えて走っていた。



驚き、畏敬、崇拝、様々な感情の籠もった大量の視線はある意味恐怖だ。



宗太達は揃って頭を振り、思い出さないようにする。



「ユニスさんの店の近くまで走って来たんだな。」



広場での騒動があった為、走っても丁度良い時間のようだった。



「あれ?閉まってる。」



ユニスの店の前に着くと、扉に『閉店』と書かれた板が掛けられていた。



「…お出掛けしてるんですかね?ユニスさーん!」



アンジェリーナが扉を叩き、声を掛ける。



暫く待つと、人の近付いてくる気配の後に鍵を開ける音がし、扉がゆっくりと開く。



「待ってたよ…。」



目の下に隈を作り、疲れ切った表情でふらふらとしているユニスは、さながらガンシューティングゲームに出てくるゾンビの様で宗太は若干引いてしまった。



「ゆ、ユニスさん!?どうしたんですか?」



普段の快活な彼女からは想像も出来ない様子のユニスに、アンジェリーナは戸惑いの声を掛ける。



「いや、思わず二日間も不眠不休で作業しちゃってね。とりあえず入りなよ。」



そう言ってユニスはふらふらと店の奥に歩いて行く。




宗太達も店に入ると、店内でユニスを待つ。



すると、ユニスは直ぐに数着の衣服を持って戻ってきた。



「ほら、上下と下着二着ずつだ。アンタの服を参考に作らせて貰ったよ。」



そう言って差し出された服を広げてみると、白いワイシャツに黒の詰め襟、スラックスだった。



詰め襟は厚手で、スラックスと共に肌触りの良い生地が使われている。



襟前のホックは紐になり、ボタンは木製の丸ボタンになっているという変更点はあったが、少し見ただけでここまで再現出来る事に驚きを隠せない。



「ふぅむ、良い腕じゃのう。」



服を見たルシフェラが感心したように言う。



「時間が無くてボタンにまで手を回せなかったんだけどね。それに金でボタンを作るとなると金がかかるからね。余裕が出来たら細工師にでも頼んでおくれ。」



「いえ、ありがとうございます。お幾らですか…?」



宗太は礼を言うと、恐る恐る金額を訊ねる。



ボタンが普通の物でも、ここまでの物となるとそれなりの代金になってしまうのではないだろうか。



「そうだね、全部で9000エリーってとこかね。」



9000エリー…日本円換算で7万円程度だろうか。



ここまで上質な服ならもっと高いと思ったのだが。



「どうぞ。とても良い服だったので正直もっと高いものだと思ってました。」



宗太はユニスに代金を支払うと、素直な感想を述べる。



「はははっ、アンジーのオトコには少しサービスだよ!」



ユニスは楽しげに笑うと宗太の背中をバシバシ叩きながら言う。



アンジェリーナは例の如く頬を染めていた。



「で、他に用はあるのかい?」



「いえ、ありがとうございました。」



服は四着もあれば充分だ。



しかし、詰め襟四着はかさばる。



リースリットに保管を頼めるだろうかなどと考えてしまった。



「はいよ、それじゃアタシはもう寝るとするよ。」



ようやく休めるー、とボヤくユニスに苦笑しながら最後にもう一度礼を言うと、ユニスの店を後にする。



宿に戻る前にもう一度リードの店に寄ると、早くも柄紐の調整は終わっていたようだった。



何度か握りを確認していたアンジェリーナも気に入ったようで、細いベルトも一緒に購入すると早速腰に吊していた。



「普通のナイフと違い、ソレは細い剣なら根元の櫛で絡めてへし折る事も出来る。扱い方ならリースに教わると良いじゃろう。」



「はい、よろしくお願いします!」



宿への帰り道、ルシフェラがアンジェリーナにそう提案する。



持っているだけで使いこなせなければ、護身用の武器としても意味は無い。



アンジェリーナは勢い良く返事をするとリースリットに深々と頭を下げる。



「それでは、暇を見て訓練を致しましょうか。」



リースリットも快諾し、微笑みを返す。



「でも、ナイフの扱いってそんなに簡単なものじゃ無いんじゃ…?」



「当然じゃろう。練習あるのみじゃな。さて、宿に着いたし食事を取ったら今日は早めに休むとしようかの。」



そこまで訓練する時間はあるのだろうか?



宗太の疑問にルシフェラは簡単な答えを返すと話題を変える。



宿に戻ると直ぐに夕食を取る事にした。



おかみさんが言った通り、テーブルの上には普段の宿の食事よりも豪華な料理が所狭しと並んでいる。



だが、残念ながらせっかくの豪華な料理の数々も、調理場から飛んでくる恨みの籠もった視線が気になりゆっくりと味わう事は出来なかった宗太だった。



四人での食事を終え、一服した後は部屋に戻ってそれぞれ休む事になった。



宗太も疲れを癒やす為──主に夕食時の気疲れだが──、部屋に戻ると倒れ込むようにベッドに横になり眠りにつくのだった。






────────



皆が寝静まった深夜、宿屋の一室に突如人影が現れる。



「戻ったか。…で、どうなのじゃ?」



「はい、終戦の使者は明日には送り出すようです。」



部屋に居たルシフェラが現れた影──リースリットに訊ねると、リースリットがそう報告する。



リースリットは夕食後から先ほどまで、連絡役として王城まで戻っていたのだった。



「ふむ、ならば使者がエルトリアの王城に着くまで二週間と少しといったところかのう。」



ルシフェラは魔王国からの使者が着く時間を計算し、安堵の吐息を漏らす。



それだけあれば、ルーベック経由での道程なら余裕を持って行けるだろう。



「…それと、昨日エルトリアは再度勇者召喚の儀式を行ったそうです。そして、侵攻推進派の面々で此度の侵攻中止を快く思っていない者が居るという事です。それに関してはディラン様の配下の者が探り、逐一報告致しますとの事です。」



「…うむ、召喚の儀式は直に解決するとして、推進派の問題も対策を考えておかねばならぬかのう。」



ルシフェラはそう言って溜め息を吐く。



次から次へと、面倒事はなかなかに無くなってはくれないようだ。



ルシフェラは窓から見える欠けた月を眺めながら考えを巡らせるのだった。





やっと更新分書けた…。


もしかしてなんですが、話のテンポ悪いですか?

今回の12話目で漸く宗太が召喚された時から五日間が終わった所なんですよね。


そこの所はご意見、ご感想お待ちしております。



そして、前々回更新時からかなりお気に入り件数が増えてて嬉しいやら驚いたやら。

どうもありがとうございます!



それではまた次回の更新で。

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