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幕間1 とある者達のお話

宗太達が犬退治をしている辺りのお話です。

「遅れてしまいましたかな?」



そう言いながら一人の壮年の男性が室内へと入ってくる。



その部屋は華美な装飾が、しかし派手とは感じさせない絶妙さで施され、床には毛足の長い立派な赤い絨毯が敷き詰められていた。



天井には豪華なシャンデリアが吊され、室内を明るく照らしている。



そこはローディアス魔王国王城の一室である会議室だった。



その室内、中央に据え置かれた黒く重厚な木製の長机には老若男女、十数名の人物が着席していた。



男性が室内へと足を踏み入れると、彼の背後、廊下に立っている二名の兵士が恭しく室内に一礼し、扉を閉める。



「いえ、まだ時間までは余裕がありますわ。どうぞ、お席にお着き下さい。」



長机の左右九つづつ置かれた立派な木製の椅子、入り口から向かって右手の一番奥に着席していた少女が来訪者に向かって良く通る澄んだ声を掛ける。



上座に座るその少女は、腰まで伸びた青みがかった銀髪に同色の瞳を持ち、歳は15程だろうか。



まだ幼い顔立ちをしている。



「それは良かったです。皆様お早いお着きでしたな。」



男性はホッと息を吐くと、失礼しますと言って自分の定位置、向かって左手の中ほどにある空席へと着く。



「皆様お着きになられた様ですので、少々早いですが本題に入りたいと思います。」



右手最奥に座る少女、が皆の着席を確認するとそう切り出す。



「本日のお話は、他でもないお姉様──魔王陛下直々のご命令をお伝えするものです。」



そう言うと、少女──ローディアス魔王国第二王女ミリア・エメイン・レスト・ローディアスは右斜めに置かれた椅子に視線を向ける。



長机の最奥、一同を見回せる位置に置かれた一際立派な造りの椅子には、主の姿は無い。



他の出席者は皆一様に姿勢を正し、真剣な顔付きになると、妹姫の次の言葉を待つ。



ミリアは視線を一同に戻すと、今朝方のルシフェラの言葉を伝える。



「──魔族軍は、現在進めている侵攻準備を即刻中止、先の戦で我が国の領土となった地域の復興に務めよ。尚、今後は命あるまで他国への侵略はその一切を認めぬ。…以上です。」



言葉が終わると同時に室内はざわめきに包まれる。



そんな中でも、ミリアとその向かいに座る宰相、左に座る魔王国軍総大将の三人は落ち着いた様子で座っている。



この三人は早朝にもかかわらずルシフェラに叩き起こされ、説明を受けていたためこの命令には納得済みなのであった。



その後他の貴族達への説明を丸投げされ、三人で頭を悩ませたのではあるが。



結局命令をそのまま伝え、質問や異議があればその都度説明しようという事に決まって現在に至るのであった。



「私の領地には人間も暮らしております。もし他国への侵攻が中止されるというのであれば、今後の統治もし易くなりこの決定は大変ありがたい事です。その様に領民へとお触れを出しても宜しいのですな?」



最後に入室した壮年の男性が確認の為に質問をする。



元々領民に人間も抱える彼は、他国への侵攻には消極的だったのだ。



今回時間ギリギリにやって来たのもその意思表示の様なものであった。



「ええ、ファルスト卿。尤も、終戦宣言を受けて他国がどう出るかにもよると思いますが、陛下の方針としては決定事項のようです。」



ミリアの答えに男性と、その他の戦争消極派の面々はホッと息を吐く。



元々魔王国に暮らす人間はともかく、先の侵攻で得た領土に暮らすのは殆ど人間なのだ。



そこを与えられた貴族にとっても、これ以上の戦争の継続はありがたくない事であった。



しかし、戦争の終わりを喜ぶ者がいる一方で、それを認められない者達も当然ながら存在した。



「ミリア王女!陛下が即位されてから我が国は連戦連勝を重ねております。何故この様な時に…!」



下座に近い席に座る一人の男性が立ち上がると、声を荒げてミリアに意見する。



「陛下が即位されてから早三年。以前の領土を奪い返した他にも、度重なる侵攻で周辺国の領土をも吸収し以前にも増して国土は広がった。それでは不満かね?」



その声を途中で遮る様にして魔王国軍総大将アーハム・ウィクト・イベルト公爵が発言を被せる。



白髪が混ざり始めた薄緑の長髪を後ろに撫でつけ、歳による衰えを微塵も窺わせない初老の偉丈夫は、口元に蓄えた髭を撫でながら眼光鋭く発言者を睨め付ける。



「し、しかし、国を富ますには…。」



睨み付けられた男性は顔を青くしヒッと短く悲鳴を上げるが、尚も食い下がろうと発言を続けようとする。



今まで大した活躍が出来なかった彼は、領地を増やす事が出来なかったのだ。



ここで戦争が終わってしまえば最早領地を増やすのは絶望的だろう。



「戦をすれば人的、金銭的問わず莫大な損害が出るのだよ。当然、戦場となった領地の復興にもな。復興を遅らせれば治安が悪化し都市の生産性が落ちるばかりか、元人間領であれば反乱すら起きかねん。鎮圧に更に損害を重ねるのかね?一切の損害を出さず、領地を治め、更に他国を侵略出来るという案があるならば考えぬでもないが…。卿が単騎で進軍でもするかね?」



続く言葉は今度は宰相ディラン・ロット・マグナクト公爵に遮られる。



濃紺の髪と同色の瞳を持つこの壮年の宰相は、しかし文官とは思えぬ引き締まった体躯を持っている。



『健全な精神は健全な肉体に宿る』が持論のディランは、心身を鍛える為と政務の合間に武術の鍛錬にも励み、彼を知らぬ者が見れば武官と間違えてしまうだろう。



政治手腕にも優れ、文武両道を地で行く故にアーハムと仲も良く、ルシフェラやミリアにも信頼を置かれている魔王国の重鎮である。



「し、しかしですな!今回は召喚に失敗したようですが、この後万が一にもエルトリア王国が勇者を召喚しようものなら、我が国の被害は甚大なものになるのですぞ!」



二人の重鎮に言葉を封じられた男は、顔を赤くしながらも続ける。



しかし、その言葉はその場の人物にも不安を与えたようで、室内が再びざわめきに包まれる。



それを見た男はニヤリと口の端を歪ませ話しを続ける。



「そうならぬ為にも一刻も早く攻め滅ぼすべきです!」



得意気になって言う男にミリアは小さく溜め息を吐くと、ルシフェラからもたらされた情報を伝える。



「陛下からもたらされた情報によると勇者の召喚なら成功しているそうですよ。何でも、陛下に並ぶ力量を有しているとか。」



そのミリアの言葉に室内は騒然となる。



「やはり早々に攻め入るべきだ!」や、「いやここは様子を見るべきだ!」等の意見が聞こえてくる。



「静粛に!」



騒がしくなった室内を一声で黙らせると、ディランは説明を始める。



「先日、陛下が訪れた都市で召喚に失敗したと噂された勇者と出会われたそうだ。しかし勇者は魔族と事を荒立てるを良しとせず、魔族が人間へ害を加えぬ代わりに魔族に対しても害を加えぬ事を陛下と約定されたそうである。陛下自らされた約定を臣下が破るは陛下、ひいては魔族の誇りに泥を塗ることぞ。」



室内に集められた一同は皆困惑の表情を隠せないでいる。



先程の男も言葉を失っていた。



無理も無い、とミリアは内心溜め息を吐く。



何しろルシフェラから直接説明された時は、不敬と思いつつも三人共俄には信じられなかったのだ。



その誠実さから三人からも信頼を置かれているルシフェラの侍女、リースリットもそれを認めた為に何とか事実であると理解出来たのだ。



主君であるルシフェラより侍女のリースリットの言葉の方が信用されるというのもどうかと思うが。



男は次の言葉を告げられず、顔を歪ませながら席に着く。



「この約定により人間や勇者に危害を加える事はなりません。複数の勇者を召喚出来ない状況で、もし魔族に理解ある現勇者が亡くなればどうなるか。事の重大さはお分かりですね?他に意見はございますか?」



男が席に着くのを確認し、ミリアが話を進める。



しかし、侵攻派もここまで言われてしまっては反論を述べる事は出来なかった。



消極派は口には出さずとも、この約定については歓迎だ。



勇者の脅威に晒される事も無く、侵攻も無ければ領地での(まつりごと)に一層専念出来る。



「意見が無い様ですのでこれにて解散とします。お疲れ様でした。」



ミリアがそう言うと、皆挨拶を述べて席を立ち部屋を後にする。



後にはミリア、ディラン、アーハムの三人が残された。



「…さて、これからどうなるのでしょうかね。」



他の面々が退室するのを待ってミリアが口を開く。



これから、今回の会議の様子から今後の予定を考えなければいけない。



「侵攻消極派の貴族はほぼ全てがこの決定に従うと考えて良いでしょう。誰も進んで領内に火種など抱え込みたくは無いでしょうからな。」



ミリアの言葉にアーハムが答える。



ならば侵攻推進派をどうするべきか、なのだが。



「推進派の連中の動向は私の部下に探らせましょう。情報収集に長けた人材がおりますのでな。」



推進派の動向調査にはディランが名乗り出る。



優れた施政者でもあるディランは情報収集力に長けた人材も密かに育てている。



その事実を知っているのはルシフェラ、ミリア、アーハム、リースリットのみなのだが。



「ではディラン、よろしくお願いします。集めた情報は纏めつつ、逐一お姉様に報告という事に致しましょう。幸いリースリットお姉様はこまめに戻って下さるそうですので。」



幼い頃からルシフェラの侍女として教育され仕えているリースリットは、ミリアにとって友人であり姉のような存在なのだった。



こうして、ルシフェラの急な決定による会議は終わりを告げた。







────────



「準備は出来たか!」



エルトリア王国王城にある玉座の間で、国王ユーリスは目の前で片膝を付いている魔術師団長レイファスに確認をする。



ユーリスは端から見ても判るほど焦っていた。



魔族の侵攻が近いと報告されているのに、三日前の召喚の失敗。



それだけならまだ良かった。



攻められて領土を僅か奪われても、次の侵攻までの間が出来る。



失敗した当初はその間に再度召喚の準備を整えるつもりであった。



しかし、今では事情が変わってしまっている。



箝口令を敷いていたにも関わらず、周辺国にまで情報が回ってしまっていた。



この事が魔族にまで知られればこれ幸いと一気に攻め込まれかねない。



現魔王ならばそれ位余裕を持ってやってくれるだろう。



「ハッ、仰せの通りに。魔術師も先代勇者様を召喚した当時の人員と魔術師団でも屈指の者達を揃えました。」



レイファスは片膝を付いたままユーリスへと報告をする。



ユーリスの懸念はレイファスも考えていた事であるため、人員の選別も必死に考えた。



魔術師団長の名にかけても今度こそは失敗してなるものかという意気込みもあった。



「良し、今度こそ儀式を成功させるのだ!」



ユーリスの命令を受け、最後の確認をする為に儀式の間に向かうレイファス。



ユーリスも儀式を見る為に玉座の間を後にする。



「今回は万全を期す為、意識を統一する為の訓練をし魔力量も先代勇者様を召喚した時と同量と致します。」



レイファスは儀式の間に現れたユーリスにそう説明をすると、儀式の最終確認に入る。



呪文の確認に始まり各自の魔力量、立ち位置に至るまで慎重に確認をする。



全ての確認を終えると、ユーリスに儀式の開始を告げる。



「始めよ!」



ユーリスの命令と共に呪文の詠唱が始まる。



魔法陣に魔力が流し込まれ、魔法陣が輝き出す。



儀式が進み流し込まれる魔力が増えると、魔力が魔法陣を中心に渦を巻き魔力の嵐が再び広間を襲う。



間近で魔力の激流にあてられた魔術師達の顔色が蒼白になり、額には脂汗を浮かべているが今回は倒れる者は居なさそうである。




儀式が進むにつれ、魔法陣は一層輝きを増し、魔力の嵐は室内を蹂躙する。



そして、最後の呪文が唱えられると溢れていた魔力が魔法陣に収束し、魔法陣の光が爆発する。



(こ、今度こそやったぞ…!!)



目を瞑っても防ぎきれない圧倒的な光量に包まれながら、レイファスは今度こそ儀式の成功を確信した。



やがて光は収まり、視力を回復させたユーリスと魔術師達は恐る恐る魔法陣を確認する。



そして、魔法陣の中心には───








───またしても誰も居なかった。



「何故だ!?一体何がいけない!」



思わず叫んでしまうレイファス。



今回は完璧だったはずだ。



人員は先代勇者召喚に関わった経験者と、足りない分は大規模魔術の行使にも慣れた熟練者で補った。



呪文の確認や意識の統一も二日間とは言えみっちりと訓練を繰り返した。



魔力量も許容量は超えていないはずなのだ。



失敗する理由が見当たらなかった。



周りを見回すと、他の魔術師達も呆然と魔法陣を眺めている。



「失敗…、なのか…?」



声のした方を向くと、ユーリスが呆けた顔で魔法陣を眺めていた。



そこには以前の精悍さは微塵も感じられなかった。



「も、申し訳ございません!我々の力不足で…!」



レイファスを初めとした魔術師達は膝を付いて謝罪をするが、ユーリスは聞こえなかったかのように反応せず、ふらふらと儀式の間を後にする。



儀式の間は沈黙だけが支配した。




「お父様…、どうしたのかしら?…あっ!」



王城の最上階にある一室で、窓際に置いた椅子に座った少女が呟いた。



ピンクの髪をサイドアップで纏め、大きな眼は城下の街並みを移している。



フリルがふんだんに付けられた薄ピンクの可愛らしいドレスを着た少女──エルトリア王国第二王女イリス・ユーリア・イヴァリア・エルトリアは、先程すれ違った父王ユーリスの変わり果てた姿を見て疑問に思うも、直ぐに原因に思い至った。



「…ああ、勇者様の召喚にまた失敗したのか…。『今度こそ…!』って意気込んでたものね。」



イリスは苦笑しながらそう呟く。



しかし、イリスとしては内心ホッとした事だった。



姉が先代勇者に嫁ぎ、先代勇者亡き後、次代の勇者に嫁ぐべく教育を施されて来たが、イリスはまだ14だ。



自分でも結婚はまだ早いだろうと思う。



しかも会ったことも無い人物との結婚なんて認めたくは無いのが乙女心と言うものではないか。



そんな夢見る乙女な王女様は。



「…さて、いい天気だし|城下をお散歩(お城を脱走)してこようかな!」



にこやかに笑いながら脱走宣言するのだった。






────────



フォートリア大陸西にあるギロード山脈は、大陸を南北に走る巨大な山脈である。



その山脈の一部にある巨大な洞窟の中、これまた巨大な石造りの玉座に、小柄な少女が座していた。



見た目十歳程度の少女の真紅の髪には蒼、緑、黄色が混じったような不思議な色合いをしており、瞳の色は黄金だった。



「ほう、エルトリア王国が再び勇者の召喚をしようと…?ククッ、先日失敗したばかりと言うに懲りぬのう。」



少女は目の前にいる配下の報告に苦笑をする。



「はっ、如何なさいますか?神龍様(・・・)。」



配下は片膝を付いたまま()に訊ねる。



「ククッ、何時も通り放っておけ。どうせ失敗じゃろうしの。」



「は…、失敗と申しますと?」



配下の男は長の言葉の意味が今一理解出来ていないようだ。



「まぁ、気にせずとも良い。直に判るじゃろう。下がって良いぞ。」



長が話しは終わりとばかりに手を振ると、男は意味を理解しようと頭を捻りながらも一礼し、退室する。



「魔王国のじゃじゃ馬王女──いや、魔王に即位したんじゃったな。あ奴も面白い動きをしとるようじゃのう…、ククッ。」



少女は東の方角に視線を向けながら今度は楽しそうに笑うのだった。





後々登場するかも知れない人物達が出てきました。


どう話に絡んで来るかは作者にも不明ですが。

キャラとかこの話考えたの今日なんで…。



しかしユーリス王の道化(ピエロ)っぷりがとんでも無い事に…。



そして神龍様が妖怪キャラ被り…。

主に喋り方。



因みにロリが多いのは作者の趣味です。

お姉様系が欲しい方は言って下さい。

頑張って考えますんで。


それではまた次回の更新で。

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