なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
決断力がなくて流されやすい男はしあわせになりました。
オレは初夜のベッドで花嫁に告げた!
「お前を愛することは――」
いや、待て。
『お前を愛することはない!』
言うのは簡単だ。何度も練習もした。
だが本当に断言できるのか?
オレは弱い男だ。この鋼のような意志だと思っていたものも、あっけなく溶けてしまうかもしれない。
レストランで注文を決めても、隣の席の男がうまそうに食っていれば、そっちへと心が流れる。
この絵いい絵だな、と思っていても、新聞で叩かれていれば、悪い絵だったのか、という気がしてくる。
いや、オレの、マーサへの愛は真実の――
真実とはなんだ?
真実の愛というのだから、ちょっと真実の愛とか、ぜんぜん真実じゃない愛とか、偽物とか、別の種類の愛もある……のか?
そもそも、オレは、マーサが好きになる前にも、誰か別の女を好きだったような……シータだ。
いや、あれは気の迷い。真実の愛はやはりマーサ――
まて、まてまてまて。
シータのことだって、のぼせあがったオレは、真実の愛だ、と喚いていたような。
いや、その前には、ソニアのことを……その更に前はランのことを。
黒歴史だ!
というか我ながら薄っぺらい真実の愛だな!
「あの」
ベッドで待っていた女が、頭をだるそうにかきながら上半身を起こし、
「なんだ」
「この格好寒いんだけど」
すっけすけのネグリジェで、見えてはいけないところが全部見えるぞ。
「すごいハレンチな格好だな」
「そっちの家が用意したもんだけど」
「なんと!」
「とりあえず、あなたに既成事実を作らせるつもりだったんでしょう」
「それはすまない。とりあえず、シーツにくるまっていてくれ」
「へい」
女はそそくさとカラダにシーツを撒きつけた。
「……冷静だな」
「そりゃ。貴方に手が切れていない愛人がいることくらい知ってるから」
「う」
「真実の愛なんでしょう?」
「……そもそも真実の愛とはなんだ?」
「知らないわよ」
「……思い出したんだ。以前には別の女に真実の愛、と言っていたことがあることを」
「はぁ」
「見分ける方法はあるのだろうか……?」
「あるわよ」
「あるのか!」
「真実の愛がある人間同士は、お互いの額にハートマークが見えるのよ。ちなみにあなたの額には見えない」
「そ、そうだったのか! 確かにお前の額には見えない!」
「うそ」
「うそつくな!」
「そんなものが見えるなら誰も間違えないでしょう」
「もっともだな。お前頭いいな」
女はベッドの上で、ごそごそと身じろぎすると、あぐらになって、
「というか、なんで突然そんなこと言い出したわけ? こっちもアレを言われるだろうな、とか、白い結婚かな、とか、とりあえずやられるのかな、とか色々覚悟してたわけよ」
「……なんでそこまで覚悟してるんだ」
「だって、このうちに、わたしの実家借金があるから。あたしは借金のカタ」
「マジか!?」
「まじ。もしかして実は好かれてるとか思ってた?」
「……いや、さすがに、そこまでの痛い勘違いは。うちが侯爵家だからだと思ってた」
「まぁそれもあるよね。少なくともわたしの両親は、結婚してる限り、経済的な援助があると思ってるから」
「ん? 思ってるから?」
「だって、娘を金のためにホイホイさしだす実家に、わたしが援助とかするわけないでしょ」
「確かに……ほんと冷静だな」
「そりゃあの親見てるとね。人生にさめるわよ。ちなみに、金があればあるほど使うバカたちだから、援助があったとしても焼け石に水だね」
「うわ」
「で、そのマーサって人はどうするのよ? 真実の愛だと思ってたんでしょ?」
「確信がなくなってしまった」
「うっすぅ! 真実の愛なんでしょ!」
「さっきまでは」
「面倒だから、この先もそう思ってれば?」
「いいのか?」
「いいもなにも、こっちに拒む権利ないから、具体的に言えば実家の借金で。娼館に売り飛ばされるより、形ばかりの奥様のほうがナンボかマシでしょ。しかも実家とも手切れできるし」
「ドライだな」
「愛人つきと有名な男に、それ以外の女が嫁ぐと?」
「嫁がんな。というか有名なのか!? こっそりと秘めた恋のはずなのに!」
「だってあの女にひっかかったのあなたで5人目だし」
「ご、ごにんめぇ!?」
「女の噂ネットワークなめんな! で、男どもをとっかえひっかえしている間に、ずーっとつるんでる愛人が別にいるから」
「それも、うそなんだろ」
「いや、マジ」
「いやいやいくらなんでも……そもそも、それをなぜ知ったんだ?」
「わたしさ、旦那さんになる男の愛人ってどんなのかなぁってお顔を拝みにいったわけよ。そしたら、男と腕を組んでるんるんと歩いてたからさ」
「うそだ!」
と反射的に叫んだものの、そういえばマーサは、妙にオレを冷たい目で見る瞬間があったような……。
「ど、どんな男なんだよ!」
「ええとね。片眼鏡かけて、びしっとスーツ着た、背の高い……あーそうだ。前髪に鎌みたいに特徴的なアホ毛があった!」
「!」
オレは思わずよろめいてしまった。
「あー、心当たりあるんだ」
「……オレの親友」
「うわぁ。ご愁傷様」
「なんか言ってたか?」
「マーサって人が『あなたが言う通り簡単にだませたわ。あのバカ。ほらこの宝石も買わせたのよ!』ダイヤモンドの周りを青いでっかい石が3つとりまいてるやつ」
「うぐ」
心当たりありすぎぃぃぃぃぃぃぃっ!
マーサが強請ったんで、店員に一生懸命まけて貰って手に入れたヤツだ!
まけて貰っても高かったのに!
「そしたら男が『くくく。その宝石も二束三文だろ! 悪い女だな!』」
「うそだ!」
「『あいつ、あたしが買わせたもんがみーんな偽物で、うちの実家が経営してるってことも知らないのよ!』『ばかだなー』『あんたみたいに賢いと金づるにならないもーん』。だって」
オレは死んだ。
「……死んだ」
「だいじょうぶ。そう簡単に死なないから」
「うそだと言ってくれ!」
「うそ」
「なんだうそか……全くお前はタチが悪いな」
「だって言えって言うから」
「……そういう微妙な返答はするな!」
なぜか女は溜息をついた。
「……あのさ」
「なんだよ」
「わたしの言葉で死んだり生きたりする前に、調べてみればいいじゃない。侯爵家の次期当主なんだから」
「おお! なるほど! 真実の愛――だと思っていた相手を調べるなんて考えてもみなかった!」
「貴方ばかでしょう」
「そ、そんなことママにも言われたことなかったのに!」
「じゃあ、調査が終わるまで、初夜は保留ね」
「お前――じゃなくて、君は天使か!? 普通ならこういう展開だったら実家に帰るだろう!」
「借金。娼館。契約。実家と手切れ」
「あ。納得」
「そ。わたしには選択肢ないんでね」
※ ※ ※
一週間後。
「君の言う通りだった!」
「あ、そう」
「マーサとは別れた! 男もあの女も警邏が牢屋に放り込んでくれた! 君は俺の天使だ! 結婚してくれ!」
「もうしてる」
「なんという幸運! しかもそんなそそるネグリジェまで着てくれてるなんて!」
「貴方ばかでしょう」
「君になら言われてもいい! 君こそが真実の愛だ!」
「はいはい」
「ところで、とっても恥ずかしいんだが……君の名前は何て言うんだ?」
「知らなかったんかい!?」
「ごめん。関心がなかったから。だが、真実の愛とわかれば別!」
「わたしの額に、ハートマークが見えるの?」
「見える! 心の目で見える!」
「貴方って、目が悪いのね」
「で、名前は?」
「キャロル」
なんと素晴らしい名前なんだ!
「おーキャロル! オレの真実の愛!」
「で、そういう貴方は?」
「! な、なんでオレの名前を知らないんだ!? 夫婦なのに!?」
「だって、関心なかったし」
「ショック!」
「いや、そこはお互い様でしょ」
「オレは、シュワルツだ!」
オレの真実の愛は、呆れたように溜息をつきながら呟いた。
「シュワルツ。これからよろしく」
※ ※ ※
「というのがママとパパのなれそめなのよ」
「今ではラブラブだけどな!」
「と、パパは思い込んでるみたいだけどね」
「ママは、ちょっと意地悪なんだけど、それがいいんだよ!」
オレの息子は、叫んだ。
「聞きたくなかったよ!」
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




