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そこそこ綺麗な朝

作者: kar777
掲載日:2026/05/12

早朝、いつも通りの散歩道。

スマホ片手に、俺は中々進まない飼い犬、ノワールのリードを引いていた。

それでも、進まない。またかよ。

…寒いし、もう帰ろうか。ノワールも多分、散歩を嫌がってるんだ。

「お前、めんどくさがってるだけだろ」

昨日の父の会話を思い出す。

まるで俺がノワールとの散歩がめんどくさいから早々に切り上げたかのような言い方。

曰く、散歩のルートを変えるという選択肢もあるのにそれをやらないのは、めんどくさがっているのだと。

俺は誰もいない道の真ん中で、大きくため息をついた。

「違う道…行くか」


スマホの画面にはショート動画。

海外の絶景が映り、スライドするとまた違う絶景。

「あ~こんな綺麗な所に行きたいなぁ…」

ぼやきながら、ノワールのリードを引く。

やっぱり、違う道を歩いてもノワールの歩みは依然として遅いだけだ。

また、スライドする。その時だった。

ノワールが、吠えた。

思わずスマホを落としそうになる。またノワールのしっぽでも踏んでしまったか?

ノワールを見るとある一点を見つめている。

その視線の先を見上げると、そこには、鯉のぼりがあった。

家と家の間に糸のようなものが張られていてそこに鯉のぼりがかかっている。

今は、冬なのに。

その光景が、季節外れという一つの独自性で、すこし変な感じだった。

俺は、スマホを消した。目を移すと、それ以外にも色んな光景が目に入る。

ノワールの歩みがはやく、リードを引っ張られながら歩く。

見たことのない鮮やかな花。修理中の紙が貼られた公園の時計。今どき珍しい駄菓子屋さん。心地のいい風。そして、雲がいい塩梅に浮かんでいる空。

それらすべてが、そこそこ――

綺麗だった。

その”そこそこ”が、心地よかった。

「もう少し…歩こうか」

まだ乗り気そうなノワールにそう声を掛けて、俺は歩き出した。



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