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私の弟姫  作者: 赤井 鈴
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第三話 学校へ行こう

『ん……、あっ。か、母さん……』

『もうちょっとだから我慢しなさい? ほら、母さんに任せて力を抜いて』

『う、うん。……痛っ』

 朝ご飯を食べ終え、お父さんを仕事に送り出した(追い出した)後、千広は服を着替えるからと部屋に戻って行った。その際、まだ自分の身体に慣れてない千広のために、お母さんが付き添っている。

 そして、ここは千広の部屋の前……。

『あと少し、もう少しだから。頑張って』

『でも、ボクもうっ』

『んっ、ほらっ、全部入ったわよ? ……それにしてもキツキツねぇ』

『ひゃっ、まだ触っちゃ駄目っ!!』

 ……一体中で何が起こってるのだろうか?

 隣にいる舞を見てみる。予想通り顔が真っ赤になっていた。たぶん私も同じようになっている筈だ。

 ちなみに優は居間で子供向けのアニメを見ていてここにはいない。

……よかった。本当によかった。教育上、これはよろしくない。

〈かちゃっ〉

「さてと……。あら? 二人ともどうしたの?」

 不意にドアが開き、中からお母さんが出てきた。なんだかお母さんも顔が赤いような気がする。

「お、お母さん……。何をしてたの?」

「んー、見て貰った方が早いかしら?」

「……いいの?」

「うん? いいわよ? むしろ、あなたたちも見てくれた方が好都合ね」

 ……まさかのGOサイン。それならば、行くしかあるまい。

 すーはー、すーはー。よしっ、行こう!!

 いざっ、東の(部屋の方角的に)エデン!!





「……普通?」

「……うん、普通だね」

 冷静に考えてみればありえないことだってわかるのにね。

「「……はぁ」」

 ……軽く自己嫌悪。

「あれ? 姉さんと舞。二人ともどうしたの?」

「な、なんでもないんだよー?」

「そ、そうだよヒロ兄。なんでもないからねー」

「そう? それならいいけど……」

 そこにいたのは、制服に身を包んだ千広。今までに何度も見てきた、黒い学生服姿。

 ……ちょっと息が荒いのが気になるけど。

「どうかしら? 上手に出来たと思わない?」

 そう言うお母さんは満足気だ。だけど――

「う、うん。でもこれ、いつものヒロ兄と同じだよね?」

 舞の言う通り、千広は普段と変わらない格好をしているのだ。さほど驚きはない。

 ……まぁ、相変わらず可愛らしいんだけどね?

「えっと、母さんにも相談したんだけど、とりあえず今日までは男のままでいた方がいいかなって……。幸い今日は土曜日だから学校が終わるのも早いし」

「だから学生服に着替えさせたんだけど……」

「「だけど?」」

 どうしたのだろう? 千広もお母さんも、なんとも微妙な表情を浮かべているのが気になる。

「実は、思ってた以上に胸が大きくて、そのままじゃシャツと制服が着れなかったのよ……」

「「…………」」

 ふぅ、とお母さん。

「それでね、形が崩れたら大変だからあまりやりたくはなかったんだけど、そのままってわけにもいかないでしょう? だから、胸に包帯を巻いてきつく締め付けて、無理矢理抑え込んでから着せたの」

 あぁ、なるほど。つまりさっき千広があげてた声はそれが原因だったのか。

 ホッとしたような残念なような。

 ……うん、実に残念。

「それじゃあ、かなり苦しいんじゃない? 千広、大丈夫?」

「大丈夫だよ、姉さん。ありがとう。でも、やっぱり長時間身に付けておくのはきついかも……」

「そうね、母さんの見た感じでも、結構大きかったものね……。たぶん舞よりは確実に大きいと――」

〈ガタンッ〉



 それは突然のこと。音が鳴った方を向くと、本棚に寄りかかるようにしてなんとか立てているといった様子の舞。

「ま、舞。大丈夫?」

 千広が心配そうに舞に声をかける。自分の苦しさなど忘れたように。

 でも……、届かない。

「ヒ」

「ヒ?」

「ヒロ兄の裏切りものおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

 そう言い残し、部屋から駆け出る舞と――

「ちょ、ちょっと待ってよ!? ねぇ、舞っ!?」

 座っていたベッドから急いで立ち上がり、追い掛ける千広。

「あらあら、家の中を走り回ると危ないわよ」

 続いてお母さんも部屋を後にする。

 そして、ひとり取り残された私。



「……どうしよう」



〈ゴンゴン〉

『ねぇ、舞っ。お願いだから部屋から出てきてよ。舞はまだ中学生だから、これから成長期が来るって……』

『うわーーーん。ヒロ兄の馬鹿あぁぁっ!!』

『舞? お兄ちゃんに馬鹿とか言っちゃ駄目よ?』



「……このやり場のないムラムラ感は、どうやって発散すればいいの?」



 …………本当にどうしよう?



   ◇◆◇



「それじゃあ行ってらっしゃい。気を付けてね」

「うん、行ってきます」

「……行ってきます」

 とりあえず、私と千広は学校に行くことにした。

 『舞のことは、母さんがなんとかしておくわ』とのことなので、そちらの件はお母さんにお任せ。 ちなみに優は、今日はお友達が呼びに来てくれて少し前に家を出ているらしい。なので今は、私と千広の二人だけ……。

 いつもなら舞と優の二人とも途中まで一緒に行くので、家から千広と二人きりというのは新鮮だ。

 二人には悪いけど千広を独占出来てよかったかなとも思う。



 ……そうだ。せっかく二人きりなんだから――



「ねぇ、千広。今日は手を繋いでいこっか?」

「えっ? うん、別にいいけど……」



 ちょっとだけ、雰囲気に浸ってもいいよね?



「千広の手ってすべすべしてて気持ちがいいね」

「あ、ありがとう? でも、なんだか恥ずかしいんだけど……」

「ふふっ」



 繋がる、私の右手と千広の左手。柔らかくて温かい千広の手。

 その手を離さないようにしっかり握りながら、私は心の中でひとつだけお願い事をする。



 これからもずっと、千広と一緒にいられますように。



 叶うと、いいな……。



   ◇◆◇



「……ねぇ、姉さん。そろそろ手を離してくれないかな?」

「んー、もうちょっとだけ……」

「いや、もう学校に着いたし……。ボクの教室はこっちで、姉さんの教室はあっちでしょ? それにそろそろチャイムが――」

〈キーンコーンカーンコーン〉

「…………遅刻だ」



 千広が女の子になって、初めての登校日。私と千広は一緒に仲良く遅刻をした。


「いっそのこと、今日はサボって遊びに行っちゃおっか?」

「……行かない」

「えー」



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