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私の弟姫  作者: 赤井 鈴
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第一話 ある日の朝の出来事

 時刻は午前六時三十分。息を殺し、足音をたてないように気を付けながら私は可愛い可愛い弟の部屋に向かう。そう、起こさないように……。

 無事ドアの前に到着。ここからは今まで以上に慎重にことを運ばなければならない。

〈トン……トン……〉

「……千広? 起きてる?」

 軽くノックをし、小さな声でまだ寝ている筈の弟に尋ねてみる。返事がないところをみると、予想通り寝ているようだ。

 まずは第一関門の突破に成功。

「……入るね?」

 私はそっとドアを空け、部屋の中に身体を滑りこませた。

 千広の部屋は非常にシンプルで勉強机とベッド、そして本棚がひとつだけで、あとはクローゼットがあるくらいだ。ごちゃごちゃした私の部屋とは対称的である。だが、それ故に薄暗い早朝でも歩きやすくて助かるのだ。

「寝てる……よね?」

 ここで起こしてしまっては全てが台無しになってしまうので、私は慎重にベッドに近付いていく。そして……到着。ミッションコンプリート。

 そこには、すーすーと穏やかな寝息をたてて眠る千広の顔。今日も可愛いらしい寝顔を見せてくれる私の愛しい弟。

 これは私の日課であり、至福の時間だった。





 二十分程過ぎただろうか。名残惜しいがそろそろ起こさないと目覚まし時計が鳴ってしまう。それは駄目。だって、この子を起こすのは私の役目だから。

 私はいつものようにそっと千広の身体を揺すって起こす――

「千広、朝だよ? 起き――」

 筈だったのに。

〈むにっ〉

「あれ?」

 なんだか変な感触が?

 違和感を感じ、そっと掛け布団をめくってみる。と、見慣れたチェックのパジャマと見慣れない胸元の膨らみが目についた。

「…………」

 えーと、これは何だろう? スズが潜り込んだのだろうか? だとしたらなんて羨ましい……

 ちなみに、スズというのはうちでペットとして飼っている子猫のことだ。

 私は確認のために軽くその部分をつついてみることにした。

「うぅ……ん」

「っ!?」

 千広の口からなまめかしい声が漏れる。……もう一回。

「んっ……」

 ……ごくり。

 あ、いや、これは確認のためだから。そう、あくまでこれは確認に必要だからやっているだけ。大事なことなので二回言わせて貰いました。



 ……ところで私は誰に言い訳してるのだろうか?



「スズじゃないみたいだけど……」

 ならば何なのか? それには開けてみないとわからない……よね?

 千広のパジャマのボタンをひとつひとつ外していき、胸元にかかっているだけになった布を横にずらす。そして、現れる白い肌。

 つまり、何も入っていなかったことになるわけで……。



「千広に胸がある?」



 …………えっ?



「ええええぇぇぇぇぇっ!?」



 気が付くと私は大きな声で叫んでいた。





 目の前の光景が信じられなかった。

 昨日までは確かになかった筈だ。

 何度も見て、何度も触れてきた私が言うのだ。間違いはない。千広の胸にあんな脂肪の塊は絶対になかった。

 それなら今、私の目に映っているこれは何なのだろうか?

「……女の子の胸よね? 本物?」

「何が本物なの? 姉さん。というか、朝早くから人の部屋で騒がないでほしいんだけど……」

 ごめんね、千広。朝からうるさかったよね。

 ……あ、ついでにご近所の皆さまもすみませんでした(棒読み)。

 私の声で目を覚ましたらしい千広は、眠たげな目を擦りながら身体を起こし、こちらを見てくる。

 あぁ、そのとろんとした目で見られたらお姉ちゃんもうっ……。

「……姉さん?」

「ひゃいっ!? な、何でもないから、何でも。……じゃないわ! 千広、胸、胸!!」

「胸? ……姉さん、何でボクのパジャマがはだけてるの?」

「そこはいいから、胸を見て!!」

 そこは気にしなくていいの。えぇ、本当に。

「えっと、なんか腫れてるね。女の子みたい」

 そう言って自分の胸を揉みだした千広。その度に、その柔らかそうな胸が形を変えていく。

 ……見てたら鼻血が出てきた。

 やがてその手の動きが止まると千広は何やら考え始める。そして――

「……お休みなさい」

 再び布団の中に潜り込んだのだった。

「千広!? 大丈夫!? しっかりしてっ!!」

「ん〜、大丈夫だよ姉さん。ここはまだ夢の中だから起きたらきっと元通り」

「…………なるほど」

 そうか、ここは夢の中だったのか。それなら千広に胸があっても仕方がない。仕方がないったら仕方がないのだ。

 ならば、私がこの後することはただひとつ。

「ねぇ、私も一緒に寝ていいかな?」

「うん、いいよ。どうせ夢だから……」

 よっしゃっ!! 言ってみるものだ。夢の中とはいえ、千広と一緒に寝るのはずいぶんと久しぶり。というか、もうこのまま夢から覚めないでほしい。

「お邪魔しまーす」

 目覚まし時計を鳴らないようにして、意気揚々と布団に潜り込む私。夢の中の筈なのに、千広の温もりが不思議と感じられた。





 まぁ、結局夢じゃなかったんですが……。



 朝御飯と呼びにきた妹の舞によって、私の幸せな時間は僅か三分で幕を閉じられたのだった。

 …………くすん。



 ちなみに、鼻血で枕を汚してしまったのは秘密。



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