表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/20

9 祖父との思い出

ご訪問ありがとうございます!

楽しんで頂けたらうれしいです!

 

「ずっと忙しくて来れなかっただろう?」


「うん……」


 馬車を降りると、従者が花束を渡してくれた。


「ありがとう」私は従者にお礼を言った。


「行ってらっしゃいませ」


 従者が一礼した。



 私はディートハルトのエスコートで、目的の場所まで行った。



 そこは広々でした大きな公園のような所で、見晴らしが良かった。木々も生い茂っているがきちんと手入れされている。



 わたしは目の前の墓石に花束を置いた。墓石にはおじい様とおばあ様の名前が刻まれていた。おばあ様は私が生まれて間もなくなくなり、私の記憶はないがおじい様はおばあ様の事をとても愛していた。おじい様の作業台にはいつもおばあ様の写真と、大好きなお花が飾られていた。



「おじい様、おばあ様、ご無沙汰しております。ご報告が遅くなりましたが、私ディートハルトと結婚しました。喜んでくれるかな?私、伯爵邸で大事にされてるわ。お祖父様の務めていた、王宮の魔道具課にも入れたの。毎日忙しいけど、とっても充実しているわ」


 ディートハルトが墓石の前に跪いた。


「アーシュレイを一生大事にします。そして、お祖父様との約束も果たします」


「約束……?」


 ディートハルトが立ち上がり、わたしに向き直った。


「お祖父様と約束したろ?だから、アーシュも魔道具課に入ったんだろ?」


「あっ……」



 思い出した……。



 ――あれはおじい様が亡くなる一年前。私たちが12歳の時の事。



 コンコン……。


「アーシュレイか?入りなさい」


 キィ……。


「おじい様!」


 私は椅子に座ったおじい様に抱き着いた。


 おじい様が目元にシワをつきりながら微笑んで、頭をなでてくれた。


「ディートハルトもよく来たね」


「はい、おじい様」


 ディートハルトも照れ笑いしている。


 おじい様の作業机を見ると、何か小さな丸いものが置かれていた。


「おじい様、今度は何を作っているの?」


「あぁ、これかい?こうやって使いうんだ」


 おじい様は手のひらくらい大きな鉄の塊に、先ほどの丸いものをくっつけた。


「さぁ、持ってみて」


 かなり重そうだなと思いながら、その鉄を受け取った。


「えっ……」


 重たいはずの鉄の塊がまるで羽毛のように軽かった。


「おじい様!全然重くない!」


 ディートハルトも前のめりになり翡翠の瞳を輝かせて「僕も持ってみたいです!」と言ってきた。


 私はディートハルトにその鉄の塊を手渡した。


「本当に重さがない!すごい!」


 私達は興奮しながらその鉄をひっくる返したり、色んな方向から見た。


「ほっほっほっ。気に入ってくれた様じゃな。これは重さを軽減する魔道具じゃ」


「重さを軽減……?何に使うの?あんまり普段使わなそうだけど……」


 私は疑問をおじい様にぶつけてみた。


「そんじゃな、わしら貴族はあまり使わないかもしれん。これは市井で働く市民の為のものじゃ。毎日厳しい労働を強いられている。重たいものも持ち、足腰を痛めていると聞いてな。それでこれをつくたんじゃ」


「そうなんだ……。おじい様はいつも貴族より、平民の為の魔道具を作るのは何で?」


 仕事を引退してからのおじい様は、貴族からの依頼をほとんど受けず、平民の為の安価や儲けのでない魔道具ばかり作っている。


「そうじゃな。確かに貴族の要望をかなえれば、報酬はたくさんもらえる。でも、貴族は弱いものを守る義務があるんじゃ。私が出来るのは魔道具で彼らの生活を助けること。だから、彼らの為に魔道具を作るんじゃ」


「そうなの?」


 おじい様がまた頭をなでてくれた。


「平民の彼らが税を納めてくれなかったら、私らは生活も出来ないし、領地を守ることも出来ない。彼らあっての私らなんだ。でも、そんなことを忘れてしまっている貴族が多い。だから、アーシュレイとディートハルトには、そのことを忘れないでほしいんだ。どんな時も弱きものを助けてほしい」


 急にディートハルトが敬礼した。私が驚いていると「おじい様に約束します!僕は騎士団に入って、必ず弱き人々を守ってみせます!」と宣言した。


 私も負けてられないという気持ちになった。


「わ、私もおじい様にまけない魔道具師になって、市民の人々を助けるわ!」


「はっはっは!これは心強いな!よろしく頼むよ」


 おじい様は更にシワを深くし、笑った。そして、私たちの頭を大きな手で撫でてくれた。


 わたしはおじい様のゴツゴツした大きな手が大好きだった。






 さわやかな風が通り過ぎ、緑の香りが鼻をくすぐった。


「ディートハルト……、今日は連れてきてくれてありがとう」


「うん」


「なんか忙しくて、大切な事を忘れてたわ」


「アーシュは頑張り屋だからね」


「そんなことない。ディートハルトだって騎士団の厳しい訓練に耐えて、すごいと思っているわ」


「ありがとう」


 ディートハルトは照れくさそうに、頭をかいた。


「さあ、そろそろ夕食の時間だ……。帰ろうか……」


 ディートハルトが手を差し出してくれた。


 私はその手を取り、指を絡めた。ディートハルトの体温が心地よくて、いやな気持はどこかに行ってしまった。


 


 ◇◇◇



 朝仕事に向かう為、身支度を整えていると部屋をノックされた。


 ディートハルトはもう出勤していなかった。


「アーシュレイ、忙しい所悪いけど、ちょっとだけいいかしら?」


 お義母様の声だった。


「はい、お義母様どうぞお入りください」


 お義母様が訪ねてくるなんて、初めてだった。


「おはよう、アーシュレイ」


「おはようございます、お義母様」


 私はお義母様に一礼した。


「手短に話すわね。仕事帰りにここによってほしいの」


 お義母様から一枚の封筒を渡された。


「ここは王宮と我が家の丁度中間地点だから、通いやすいはずよ。話は通してあるから……。では、忙しい時に悪かったわね」


 そういってお義母様は部屋を出て行った。


 なにかしら……。私は封筒を開けた。


 するとそこには不妊専門病院『カメリア治療院』と書かれた文字が目に飛び込んできた。


「不妊治療……」


 不妊も何も、一度もいたしてませんが!と私は心の中で叫んだ。





 

「アーシュレイ様ですね、お待ちしておりました。こちらにどうぞ」


 今日は定時に上がり、お義母様に言われた通りにカメリア治療院にやってきた。


 外観は治療院の看板もなく、ピンク色の可愛い建物だった。


 伯爵家の馬車で連れて行って貰えなかったら、まず見つけられないだろう。


 建物の内装も、白やピンクを基調てしていて家具や調度品は落ち着いた物が多い。とても居心地が良い。


 完全個室で、この時間は他の患者さんはいないようだ。もしや、貸切りなのだろうか……。さすが、お義母様……。


 確かに嫡男の嫁が不妊症なんて、噂がたったら良くないもんね。


 待合室で待っていると、診察室のドアが開き優しそうな50代位の女医さんが迎えてくれた。


「はじめまして、私はノエルと言います。今日は不妊のお悩みとお義母様には聞いていますが……」


 どうしよう……、なんて説明すれば良いのやら。


 ノエル先生は柔らかな笑みを浮かべた。


「こういった事って、言いにくいですよね。うちは完全個室で、この時間はアーシュレイ様しかおりません。秘密も守りますので、どうぞ悩んでることがあったら打ち明けてください。わたしで力になれることがあったら、お手伝い致します」


 先生がここまで言ってくれるなら……、正直に話しても良いよね。


「実は……、お義母様には言えなかったのですが。その……、子作りを一度もしてないんです……」


 わたしは膝の上の拳をギュッと握った。


「夫にはそれとなく言ってみたのですが、いつもはぐらかされてしまって……。ここに来る以前の問題ですよね」


 私は、はははと乾いた笑いをした。


 ノエル先生が私の手を両手で包み込んでくれた。


「私、子供が欲しいとかよくわからないんです。ただ、結婚するときにお義母様と約束してしまったのもあって。夫とは長い間幼馴染の友人だったんです。だから、そんな雰囲気になかなかなれなくて……気持ちは焦るばかりで、空回りしてしまって」


「義弟夫婦にも子供が出来て、ますます焦ってしまって……。喜ばなきゃいけないのに、心から祝福出来なくて……。こんな自分が嫌で嫌で……。赤ちゃんの泣き声もなんだか辛くて……。可愛いはずなのに……」


「夫もきっと義務で結婚してくれたから、その気になれないのかもしれない。私を今更女性として見れないのかもしれない……。もしかしたら、本当は他に好きな人がいるかもしれない……」


 男爵家の援助をしてくれる事を私が望んで、それを察した優しいディートハルトが婚姻届けにサインしてくれた。


 気がついたら、頬に何か温かいものが流れていた。


 私は嗚咽をもらして泣いていた。


 自分にこんな感情があったなんて、知らなかった。言い出したら、滝のように感情が流れ出した。


 ――私、ディートハルトが好きなんだ。


 その時初めて、幼馴染に対する自分の気持ちに気が付いた。

最後までお読み頂きありがとうございます!

ブックマークや評価をして頂けると励みになります。

次回も読んで頂けたらうれしいです(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ