幼なじみとして
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「ねぇ、あそこにいるのディートハルト様じゃない?」
「え?どこどこ?本当だわ!今日もなんて麗しいのかしら」
ご令嬢たちがディートハルトを見てうっとりしている。
私たちは12歳となり、親に連れられてガーデンパーティに参加することが増えた。
そこで同じ年代のご令嬢達が、良くディートハルトの噂をしている。
一応婚約者だが、貧乏男爵家の令嬢の私と、王都の伯爵家のディートハルトでは釣り合っていないので、皆私を気にする様子がなかった。
12歳になったディートハルトは更に美しさに磨きがかかり、背も高く少し大人っぽくもあり、ご令嬢の黄色い声援を集めていた。
今も5人ほどのご令嬢に囲まれている。
私は立食スタイルの小皿の食事を食べており、遠くのディートハルトと目があった。
2人でいる時は生き生きした瞳なのだが、今は完全に生気を失った目をしている。
ヤレヤレ……。
私はドレスのポケットから、小型の箱を取り出した。その箱を二回トントンと叩くと中からガサゴソと何かが動く音がした。
私はその箱をそっと地面に置き、蓋を開けた。
すると中から5㎝ほどの黒い虫が10匹飛び出し、ディートハルト達がいる方向に走っていった。
「キャー!なんですの!この気持ち悪い虫は!」
案の定、ディートハルトに群がっていたご令嬢たちは魔道具の虫によってちりじりに消えていった。
私は再び箱を二回たたくと、虫たちが戻ってきた。何事もなかったように箱の蓋を閉じ、ポケットにしまった。
「アーシュ、今日もありがとう」
キッシュを口にほうばった時に、ディートハルトが声をかけてきた。最近は愛称呼びをしてくる。
「いえいえ、我が婚約者殿はおモテになりますから」
そういうとディートハルトは深いため息をつき「女の子は苦手……」ともらした。一応私も女の子だよ……とでかかったが、ひっこめた。
「今日の魔道具も最高だったね。あとで見せてよ」
ディートハルトは黄色い声援から解放されて、穏やかな笑顔を向けてきた。
私は完全に婚約者というか、もはや護衛になっている気がする。
そして、他のご令嬢の視線が背中に突き刺るのであった。
そんなことばかりしているので、同世代のご令嬢と親しくなることもなく、家ではひたすら魔道具の研究に没頭した。
そして、翌年祖父が他界した。
『私が亡くなったら、この部屋はお前が使いなさい』と祖父が言ってくれていたので、そのまま私が使う事となった。
実の両親や弟よりも多くの時間を共にした祖父がいなくなり、心に大きな穴が開いてしまった。
訃報を聞きつけ、翌日にはディートハルトが訪問してくれた。
私はディートハルトと祖父の部屋で声が枯れるまで泣いた。
ディートハルトは私が悲しい時、辛い時いつも傍にいてくれた。本当に心優しい友人だった。
――そして翌年、私たちは王立学園に入学した。
うちは王都から少し距離があり、近くにも学園はあったのだがどうしてもこの学園に入りたかった。
この学園にには魔道具研究部があるからだ。その研究部は代々王宮にある魔道具課に就職しており、魔道具師を目指すものにとっては登竜門といえるのだ。うちの祖父もこの道を辿った。
そしてディートハルトも、ここの騎士課に入った。ディートハルトの女性嫌いが本格化しているが、外を歩けば女性に囲まれている。モテる男も大変である。
ここは全寮制で、通学に時間が取られず私は授業が終わると、魔道具研究部に入り浸った。
そして、私にとって女性で初めての友人であるイヴェッタと出会ったのだった。
ピンクのみつあみを両方からたらし、スパゲッティを頬張りながらイヴェッタは言った。
「あなたの婚約者、今日も目立ってるわね」
「あ……、そうね」
食堂は全校生徒が集まる唯一の場なので、ディートハルトともよく食堂であった。
騎士課に入ったディートハルトはさらに身長が伸び、体つきも逞しくなった。フェイスラインもシャープになり、美しさとカッコよさが丁度良く両立していた。
食堂には騎士課の友人といつも三人で来ている。とても楽しそうに笑いあっていて、クラスに女性がいなくて良かったねとおもった。
そうディートハルトを観察していると、ディートハルトと目があった。
美しい翡翠の瞳が柔らかく細められ「アーシュ」と手を振ってきた。
私も軽く手を挙げた。これもいつもの事だ。
食事をもった三人はなぜか私たちの隣に座った。
ディートハルトの友人もなかなかイケメンなのだ。三人とも高身長でガタイが良く、立ち上がるともはや壁だった。
「イヴェッタちゃんとアーシュちゃん、今日も元気そうだね」
チャラく声をかけてくるのは、水色の短髪でさわやかなイケメンのグレン。
「おい、お前にアーシュ呼びを許可した覚えはないぞ」ディートハルトが冷たく言い放った。
「ははは。何やきもちか?ディートハルト」そう言ったのは、長い黒髪が美しいサイラスだった。
私とイヴェッタは乾いた笑いをした。
騎士課は学園の女子からも人気があり、さらにこの三人は容姿端麗で特に人気を集めていた。
その三人が毎回私たちの所でご飯を食べるため、他の女子生徒から鋭い視線を向けられるのは日常茶飯事だった。
最近では、男を惑わす悪女なんて名前も賜った。
まぁ、私としては魔道具の研究が出来ればそれでいいんだけそね。友人もイヴェッタがいるし。
イヴェッタは貴族女性にしては珍しく、つるまない。
わりとサバサバしていて、つかず離れずがお互いに丁度良い距離間だった。
魔力量も私より格段に多く、大型の魔道具も製作出来た。私は魔力量が少ないので、創意工夫と小型のものを多く作っていた。
イヴェッタは学生時代にすでに製作した魔道具が王家が発行する特許を取得し、一年生では異例の王宮の魔道具課に内定が決まっていた。
私も負けじと、研究を重ねて3年の終わりに特許を取得し、なんとか王宮の魔道具課に内定をもらう事ができた。
――カキーン!カキーン!荒々しく剣がぶつかる音がこだましている。
騎士課の訓練所の前で、私はラッピングした小さな小箱を持ちウロウロしていた。
「アーシュ?」
私は声の主にかけよった。訓練が終わったディートハルトが首からかけたタオルで汗を拭いている。
首からしたたる汗がなんとも艶っぽく、ご令嬢がキャアキャアいうのも仕方がないなと思った。
「ディートハルト、訓練お疲れ様!今ちょっといいかな?」
「うん、いいけど……。ちゃん愛称で読んでくれたら時間作るよ」
最近ディートハルトが意地悪を言うようになった。
「うっ……。わかったわ、ディー……」
私にまで愛称呼びを強制してくるのだ。
ディートハルトは満足そうにきれいな唇に弧を描いた。
私たちは近くのベンチに腰掛けた。
「あ、ちょっと待ってね」と言って、私はスカートから小さな小瓶を取り出した。蓋を開けるとラベンダーの良い香りがする。
「ディー、目をつむっててね」と言うと、美しい瞳が閉じられた。
私はディートハルトの頭上から、その小瓶のいはいっている粉を振りかけた。
一瞬ディートハルトの体が光、すぐに消えた。
「どう?さっぱりした?」
「うん、ありがとう。すごくさっぱりしたし、いい香りだね」
これは魔道具という程じゃないが、濡れているものを瞬時に乾かしてくれるものだ。
「今日はね、これを渡したかったの……」
私はずっと持っていた、長方形の小箱をディートハルトに手渡した。
「ディー、騎士団に入団が決まったでしょ?そのお祝いと報告と相談があって……」
あはは、盛りだくさんだねとディートハルトが笑った。すましているとクールな印象だが、笑うと印象が変わってかわいいのだ。
「まずプレゼント開けてもいい?」
「うん、もちろん」
ディートハルト小箱を開けて、名前入りの万年筆と手に取った。
「私ね、この万年筆で特許取れて、魔道具課に内定もらえたんだ!」
「これ、ずっと研究してたよね!すごいよアーシュ!!自慢の婚約者だよ」
そういって、力強い腕に抱きしめられた。厚い胸板が頬にあたり、ラベンダーが香った。
いつの間にか、こんなに逞しくなって……。私は優しく胸を押して、距離をとった。
「これね、半永久的にインクがもつから。就職してからもつかってね」
「うん、ありがとう。本当にうれしいよ」
ディートハルトが喜んでくれて、私の胸も温かくなった。
「それでね、相談なんだけど……。お互い就職も決まったし、これからどんどん忙しくなるでしょ?」
「うん、そうだね。でも、王宮勤めだからまた会えそうだね」
ディートハルトが優しく微笑んだ。この空気に負けてはダメだ。もうこれ以上引き延ばしたら、ディートハルトの為にならない。
「私たち、婚約解消しましょ……」
私は思い切って切り出した。そして、なぜかディートハルトの顔から笑顔が消えた。
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